ウィルコム「PORTUS」レビュー

PHS+3G Wi-Fiルーター端末の使い勝手


 ウィルコムが3G Wi-Fiルーター機能を搭載したPHS端末「WX02S PORTUS(ポータス)」を発表した。ウィルコムの音声通話やメール機能に加えて、3G回線を利用したWi-Fiルーターとしても利用できる点が特徴だ。発売前の試作機で、その使用感をレポートする。

WX02S PORTUS

PHSの通話とメールに3GのWi-Fiルーターがセットになった端末

 「WX02S PORTUS」は、音声通話とメールというPHSの基本機能に、3G回線を利用したWi-Fiルーター機能が加わったセイコーインスツル(SII)製のストレート型PHS端末。「PORTUS」はラテン語で「港」という意味で、モバイルルーターとして多くの無線LAN機器が集う端末、そしてPHS・3G・無線LANとさまざまな通信規格が集う端末としての意味が込められているという。

 PHSと3G、そして無線LANという3つの通信方式はそれぞれ役割が異なり、PHSは音声とメールなどPHS端末としての一般機能、3GはWi-Fiルーター利用時の接続回線、無線LANは同じくWi-Fiルーター利用時のアクセスポイントとして利用する。3G回線を利用した音声通話やメールは利用できず、PHS回線によるモバイルルーターも利用できない。また、ブラウザ機能は搭載していないため、PHSと3Gともに端末でWebサイトを閲覧することはできない。PORTUSが打ち出すコンセプト通り「PHS通話とWi-Fiルーターが1つになった端末」という理解がわかりやすいだろう。

本体前面

 本体は同じセイコーインスツルの「WX01S SOCIUS(ソキウス)」のデザインを踏襲しており、ボタン配置や基本機能はほぼ同じ。「割り勘電卓」「奢り割電卓」「デカ文字」といったツールや、発話ボタン長押しで着信を偽装できる「セルフコール」といった機能もSOCIUSと同様に搭載されている。

 本体左側には、充電端子を兼ねたmicroUSB端子とヘッドフォン用の専用端子を備える。一方、右側にはキーロックとWi-Fiルーターのオンオフを設定できるスイッチが配されており、スイッチを下げるとキーロック、上げるとWi-Fiルーターという機能が割り当てられている。前モデルのSOCIUS同様、音声とメールのみのシンプルモデルのためにカメラ機能は搭載していない。

右側面にキーロックとWi-Fiルーター機能のオンオフを兼ねたスイッチ左側面にmicroUSB端子とイヤフォン接続端子
本体上部に赤外線通信ポートとストラップホール本体背面。カメラは非搭載
本体底面にマイクキー配置

 3G回線は、ソフトバンクモバイルが提供する下り最大42Mbpsの「ULTRA SPEED」に対応。無線LANはIEEE 802.11b/g/nに対応し、最大10台までの無線LAN機器を接続できるほか、パソコンにUSB接続することでモデムとして利用することもできる。1700mAhの大容量バッテリーを搭載し、待受時間はPHSの場合で約1200時間、モバイルルーター利用時で連続通信が約4時間となっている。

スイッチ1つで手軽にWi-Fiルーター化、起動時間は4時間以上

 まずはPORTUSの特徴ともいえるWi-Fiルーター機能を見てみよう。Wi-Fiルーター関連の設定はメニューから「Wi-Fi ROUTER」を選択するか、方向決定キーの右下に割り当てられた専用ボタンから設定できる。

Wi-Fiルーター設定画面基本設定

 設定は手動のほかにWPSにも対応し、暗号化方式はWEP/WPA/WPAS2をサポート。また、チャネルやIEEE 802.11モードの切り替え、送信出力の調整やSSIDステルス機能、PORTUSのIPアドレス変更など細かな設定もPORTUSのみで利用できる。

セキュリティ設定Wi-Fiルーター機能の詳細設定
SSIDや暗号化キーは画面で確認できるIPアドレスをカスタマイズ可能
Wi-Fiルーター機能起動中の画面

 右側面のスイッチを1秒以上、上に押すとWi-Fiルーター機能が起動し、同じ操作を行うことで同機能を停止できる。スイッチの時間は短押し、1秒、2秒から選択することも可能だ。3G回線がスタンバイ状態であればスイッチを入れて「Wi-Fiルーターを起動します」と表示されてから5秒程度、3G回線がオフの場合は10秒程度でモバイルルーター機能が利用可能になる。本体がキーロック中でもWi-Fiルーター機能のスイッチ操作は有効なため、わざわざキーロックを外さずにWi-Fiルーターを起動できるのが便利。

 Wi-Fiルーター機能を利用している最中は画面右上に3G回線の電波状況を知らせるアイコンと3G回線の接続状態が表示されるほか、LEDランプでも3G回線の接続状況を把握できる。PHSの機能はWi-Fiルーター機能を起動中も併用でき、音声通話やメールの送受信も可能。Wi-Fiルーター起動中にSSIDや暗号化キーをメニューから確認することもできる。

Wi-Fiルーター機能を起動中は右上に3G回線の電波アイコンが表示されるほか、ランプの点滅で接続状況を把握できるWi-Fiルーター機能を利用中も音声通話やメールは利用可能

 Wi-Fiルーター機能をオンにし、スマートフォンを常に接続した状態で利用したところ、4時間経過後も電池アイコンは最後の1つで残っており、公称の4時間は十分使えそうだ。また、PORTUSの省電力設定を使うと、無線LAN機器の接続が一定時間ない場合にモバイルルーターをオフにする、あるいはモバイルルーターオフの際に3G回線もオフにするといったカスタマイズが可能。こうした機能を組み合わせれば実際に利用できる時間はもっと伸びそうだ。

 またパソコンとUSBで接続することで、Wi-Fiルーターではなく3Gモデムとして利用することもできる。ゼロインストールに対応しており、パソコンに繋ぐだけでユーティリティソフトをインストールできる。USB接続は専用ケーブルではなく、最近のスマートフォンでは標準的になりつつあるmicroUSBのため、モデム接続や充電のためにのためにケーブルを持ち歩かなくて済むのはありがたい。

省電力設定。「Wi-Fiルーター優先」「バランス」「PHS優先」のほか、オリジナル設定を2つまで作成できる接続端末がない場合に自動で回線を切断するといったカスタマイズが可能
地下鉄駅構内では3Gの電波が入らない

 通信速度についてはエリア内であれば数Mbpsは確保でき、速い時は10Mbps以上を計測することもあった。ただし、1.5GHz帯のULTRA SPEEDは現在エリアを拡大中ということもあり、地下鉄の駅構内などいくつかのスポットで電波が届かなかったほか、渋谷などの繁華街では1Mbpsを切る速度を計測するなど、ばらつきがあった。ソフトバンクはエリアを急速にカバー中とのことで、今後のさらなるエリア拡大を期待したい。

 

赤字はその場所での最高値
  1回目2回目3回目4回目5回目平均値
秋葉原下り3.07 Mbps2.86 Mbps2.24 Mbps2.03 Mbps3.63 Mbps2.77 Mbps
上り409 kbps277 kbps291 kbps208 kbps502 kbsp337 kbps
渋谷下り4.47 Mbps3.27 Mbps346 kbps456 kbps1.37 Mbps1.98 Mbps
上り379 kbps1 kbps96 kbps139 kbps679 kbps259 kbps
池袋下り12.91 Mbps14.45 Mbps11.97 Mbps5.98 Mbps8.17 Mbps10.64 Mbps
上り856 kbps938 kbps789 kbps875 kbps1.47 Mbps986 kbps

PHSとしての基本機能、「だれとでも定額」で音声もメールも使い放題

メニュー画面

 モバイルルーター以外の機能は、音声通話とメールが中心となったシンプルなPHS音声端末だ。音声通話はウィルコムの「だれとでも定額」が利用可能で、月額980円の追加料金を支払うことで、相手先を問わず10分以内の通話を月に500回まで利用できる。

メニュー画面は4種類のデザインから選択できる電話帳機能
メール機能基本機能の設定画面

 メールは、Eメールのほかにウィルコム端末間で送受信できるライトメールも対応。日本語入力はWnnをサポートしており、予測変換機能も搭載。本体は小型ながらもキー部分が段状になっているためボタンは操作しやすく、文字入力もさほど苦にならない。モバイルルーター機能を使わなければ待受時間は1200時間と、携帯電話やスマートフォンとは比較にならない待受時間を実現できるのもありがたいところだ。

Wnnによる予測変換機能をサポートボタンが段状になっており本体サイズは小さいながらも文字入力は快適

 赤外線通信もサポートしており、電話帳データの送受信が可能。また、SOCIUSから引き続き搭載する「割り勘電卓」「奢り割電卓」は、地味なツールながらも飲み会などで会費を集める時などに重宝しそうだ。カレンダーによるスケジュール管理機能も搭載しており、ビジネスユースでの機能は一通り揃えている。

赤外線通信機能。電話帳やプロフィールデータを送受信できる便利機能
おごり割電卓

PHSとWi-Fiルーターの組み合わせが新しいジャンルに

 スマートフォンやモバイルブロードバンドの流行により、通信機能を持つモバイル機器には大きく3つの要素が求められている。1つは従来の携帯電話が担っていた音声通話やメールといった機能、2つめはスマートフォンのようなアプリで機能を拡充できる機能、そしてデータ通信を複数の端末でシェアできるモバイルルーターの機能だ。

 スペックで見れば最新のスマートフォンはこの要素をすべて満たすものの、そのぶん消費するバッテリーも多く、3つの機能を活用しようとすると、別途バッテリーを用意しない限り、1台での運用は難しい。音声通話やメールは携帯電話を持ち、スマートフォンでアプリやモバイルルーター機能を使う、もしくはスマートフォンとモバイルルーターを別途併用する、といった使い分けをしているユーザーも多いだろう。

 今回のPORTUSは、通話もモバイルルーター機能も使えるスマートフォンとして考えればさほど珍しくはないものの、これまでスマートフォンが担っていたモバイルルーターの要素を音声通話やメールを行う端末が引き受ける、という点では地味ながらもおもしろい組み合わせだ。携帯電話やスマートフォンと比べて待受時間の長いPHSと消費電力の高いモバイルルーターの組み合わせは、消費電力の高いスマートフォンよりも相性が良いと感じる。

 また、どの電話番号に発信しても定額というウィルコムならではの「だれとでも定額」をモバイルルーターと併用できる点も利便性が高い。ソーシャルメディアやインターネットの普及によって電話の必然性は以前より低くなってはいるものの、それでも生活の中でまだまだ電話は欠かせない存在。特に日中に電話することの多いビジネスユースで考えると、だれとでも定額に加えてモバイルルーターが使えるPORTUSは相性がよさそうだ。

 課題はやはり利用エリア。ULTRA SPEEDは現在もエリア拡大中とのことだが、繁華街や地下鉄などでつながらない場所が多々あったのが気になった。せっかくのPHS端末ということもあり、ULTRA SPEEDでつながらないエリアは速度が遅くともPHSで補完する仕組みであれば、一切つながらないということは避けられるだろう。今後のエリア拡大はもちろん、PHS端末ならではの3G活用にも期待したい。




(甲斐祐樹)

2012/4/12 15:32