「AtermWM3500R」レビュー
最長8時間の連続通信をうたうモバイルWiMAXルーター
NECアクセステクニカからモバイルWiMAXに対応したモバイルルーターの新製品として、「AtermWM3500R」が発売された。モバイルWiMAXに限ってみても各社からモバイルルーターが多数登場する中で、WM3500Rは最長8時間の連続通信をうたった製品だ。
■デザイン一新で薄型化。モバイル用途以外に宅内利用も可能に
AtermWM3500R |
モバイルWiMAXに対応する、NECアクセステクニカのルーターは今回が3製品目。WM3500Rと同様にバッテリーを内蔵したモバイルルーター「AtermWM3300R」と、ACアダプター駆動の据え置き型モデル「AtermWM3400RN」がすでに発売されている。
このうち、WM3500Rを同じモバイルルーターであるWM3300Rと比較すると、まず第一に冒頭触れた連続通信時間が大幅に強化された点が挙げられる。WM3300Rでは最大2.5時間(バッテリー容量は1880mAh)だったが、WM3500Rでは最大8時間(同2500mAh)となった。なお、バッテリー交換はオプション品が用意されていたWM3300Rと異なり、本体内蔵型に変更されたため、消耗時にユーザー自身で交換することはできなくなった。
本体サイズは、幅と奥行きがWM3300Rの94×67mmから105×70mmと若干大きくなったものの、薄さはWM3300Rの22mmと比べて14.8mmと薄型化。重量も、WM3300Rの約145gから、WM3500Rでは約120gに軽量化している。筆者はWM3300Rを普段利用しているため、最初は幅と奥行きが大きくなった点が気になったが、実際にバッグに入れたりして持ち運んでみると、薄型化による嵩張りがなくなった点に満足感を覚えるようになった。また、本体稼動時の発熱もWM3300Rと比べて、抑えられているように感じた。
本体筐体は光沢仕上げによるデザインを採用するとともに、電源やWiMAXの接続状態を確認できるアイコン型のLEDを配置。ランプの照度もWM3300Rと比べて控えめだ。本体色はマーズレッド、シルキーホワイト、プラチナブラックの3種類をラインナップし、WM3300Rと比べて、PC周辺機器感を思わせるデザインから大きく変化した。
本体底面。ボカシの部分にはSSIDや暗号化キーなどが記されている | 上面には電源ボタンや設定ボタン、リセットスイッチがある |
左側面にはUSBポートとクレードルポート | 右側面にはストラップホールがある |
ACアダプターやUSBケーブル、つなぎかたガイドなどが付属 | WM3300R(写真右)と比べ、ランプの明るさは控えめになった印象だ |
仕様面を見ると、無線LAN機はWM3300RがサポートするIEEE 802.11b/gに加え、「11nテクノロジー」にも対応したことで、理論値で最大150Mbpsの無線LAN通信が可能になった(無線LAN周波数帯はともに2.4GHz帯)。ただし、モバイルWiMAXの通信速度は下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsとなり、無線LAN側の通信速度向上がそのままモバイルWiMAXの速度向上につながるわけではない点には注意したい。
このほか、オプション機器としてクレードル「PA-WM02C」も用意。クレードル装着時には本体の充電が可能な点に加え、背面には有線LANポート(100BASE-TX)を備えており、自宅にある有線LAN接続のパソコンやデジタル家電などのインターネット接続も可能になる。筆者が試した範囲では、スイッチングハブを使って複数台の有線LAN機器のインターネット接続も可能だった。
なお、WM3500Rでは一部機能が後日対応と告知されている点もお伝えしておく。まず、SSIDステルス機能への対応、WiMAXおよび無線LANが一定時間無通信だった場合に電源をオフにする「自動省電力機能」の無効化設定は、12月下旬のバージョンアップでサポートを予定する。その際、設定画面(クイック設定Web)で確認できる電池残量表示で、残量が非常に低くされる場合がある問題も対処される。
また、来春をめどに個別の暗号化設定を施した2つのSSIDを設定できる「マルチSSID」機能をはじめ、「ネットワーク分離」機能、無線LAN設定システム「Wi-Fi Protected Setup(WPS)」にも対応する予定だ。なお、無線LAN設定に関しては、NECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」はすでに実装されている。
別売オプションのクレードルに装着したところ。本体をロックする機構は特にない | 背面。試用した範囲ではスイッチングハブを利用して複数台の機器を接続できた |
サイズ比較。左からiPhone 4、WM3500R、WM3300R | 厚さはiPhone 4が9.3mm、WM3500Rが14.8mm、WM3300Rが22mm |
■気になる連続通信時間をチェック
Radikoを聴取しながら連続通信時間を調べた |
それでは実際に製品の試用感をレポートしていこう。まず、最大8時間をうたう連続通信時間を確認してみた。確認にあたっては、初期設定状態と比較して、電波状態などを確認するため「LED自動消灯機能」を無効に、「自動省電力機能」の時間を10分から60分に変更している。
WM3500Rでは最大8台の無線LAN機器が同時接続できるが、ここでは「iPhone 4」1台のみを接続した。iPhone 4側では、地上波ラジオのIPサイマル配信サービス「radiko」を聴取できる公式アプリケーションを起動してラジオ番組を聴取しながら、合間にTwitterやRSSリーダーといったアプリケーション、それにSafariを使ったWebブラウジングも行った。
本体は午前11時に起動し、主に筆者宅内で固定設置した状態で稼働させたが、途中、90分ほど昼食や買い物に行くため、屋外にも持ち出した。そして、本体起動から6時間半ほど経過した17時40分頃に本体前面にあるバッテリーランプに変化があらわれ、それまでの常灯から電池残量が約5%以上10%未満を示す1秒間隔の点滅に移行。さらに、18時過ぎに5%未満を示す0.5%秒間隔の点滅になり、18時30分頃に電源が落ちた。
今回使用した範囲では公称値の8時間に及ばなかったものの、7時間30分程度の連続通信が可能であること確認できた。初期設定であるLED自動消灯機能の無効化を行えば、さらに連続通信時間を延ばせるかもしれない。
WM3500Rではまた、三洋電機のUSB出力付きの充電器「eneloop mobile booster」の利用が公式にうたわれるようになった。バッテリーが消耗していない現時点ではあまり必要はないと感じたが、長期利用で消耗が気になり始めた際に「eneloop mobile booster」を合わせて持ち運ぶようにすると、いざというときに助かるかもしれない。
ちなみに、初期状態では無効になっているが、バッテリー充電量が約70%に到達すると充電を停止して、満充電による電池劣化を防ぐ「ロングライフ充電機能」も用意されているので、必要に応じて有効にしてみるのも良いだろう。なお、バッテリーが尽きた状態からフル充電までに要する時間は約3.5時間だとしている。
■通信速度を確認してみる
工学院大学エステック広場(写真は日中に撮影したもの) |
続いて、通信速度に関してみていきたい。こちらの計測にあたっては、WM3500Rの連続通信時間で設定した点に加えて、無線LANの送信出力を12.5%から100%に変更している。利用回線は、ニフティの「@nifty WiMAX」。通信速度の測定サイトには、RBB TODAYの「speed.rbbtoday.com(http://speed.rbbtoday.com/)」を利用し、5回測定した平均値を示している。ただし、測定中に明らかに異常とみられる数値が計測された場合は除外している。
また、測定時に利用したノートPCは、レノボの「ThinkPad X201i」。OSは「Windows 7 Professional(64bit版)」で、CPUは「Core i3-330M(2.13GHz)」、メモリーは4GB、HDDは250GB(5400rpm)、無線LANチップは「Centrion Advanced-N+WiMAX 6250(試用時はWiMAX機能を無効化)」、Webブラウザーは「Chrome(8.0.552.215)」になる。
まず、新宿駅周辺の屋外2カ所で、無線LANモードと、USBケーブルでWM3500RとPCを有線接続したUSB接続モードの速度を計測した。1カ所目は西新宿地区にある工学院大学エステック広場(WiMAXの電波レベル強度は「強」)で、15時前後に計測。結果を見ると無線LAN接続時は下り平均1.59Mbps、上り平均663kbps。USB接続時は下り平均12.2Mbps、上り平均1.08Mbpsだった。
続いて、新宿サザンテラスにあるクリスピー・クリーム・ドーナツの店舗周辺で16時前後に計測した(電波レベル「中」)。無線LAN接続時の速度は下り平均1.77Mbps、上り平均610kbpsで、USB接続時は下り平均9.79Mbps、上り平均1.18Mbpsだった。
どちらもUSB接続時と比べて、無線LAN接続時の速度が下回っている。新宿で計測した2カ所では、ノートPC上から確認しただけでも公衆無線LANサービスや他のモバイルルーターなど10を超えるアクセスポイントが見つかり、それらと利用する無線チャネルが重複するなどで干渉を受けたのかもしれない。
■WM3300Rとの速度差は?
京王線調布駅南口(写真は日中に撮影したもの) |
とは言え、速度差が気になったので、WM3500RとともにWM3300Rを合わせて持ち出して、それぞれの速度を計測してみることにした。なお、WM3500Rは無線LANとUSB接続モードの同時利用が可能だが、WM3300Rでは排他利用となる。このため、WM3500RをUSB接続した際に無線LANモードをオフにする設定を有効にした。
1カ所目は、京王線調布駅の南口広場で19時前後に計測した(電波レベル「強」)。こちらは新宿で計測した際と同様に10前後のアクセスポイントを確認できた。周囲は、電飾の多いパチンコ店があり、それに京王線の地下化作業のための工事が行われている状況だ。
結果を見ると、WM3500Rの無線LAN接続は下り平均485kbps、上り平均635kbpsで、USB接続は下り平均15.46Mbps、上り平均1.21Mbps。一方、WM3300Rの無線LAN接続は下り平均2.33Mbps、上り平均693kbpsで、USB接続時は下り平均14.7Mbps、上り平均1.53Mbpsだった。
2カ所目は屋内で、三鷹市にあるガスト店内で窓ガラスから5mほど離れた座席から23時前後に計測した(電波レベル「弱」)。こちらで確認できたアクセスポイント数は3個だった。結果は、WM3500Rの無線LAN接続は下り平均1.35Mbps、上り平均337kbps、USB接続時は下り平均6Mbps、上り平均414kbps。WM3300Rの無線LAN接続は下り平均2.48Mbps、上り平均127kbpsで、USB接続時は下り平均3.09Mbps、上り平均270kbpsだった。
結果を見ると、無線LANとUSB接続時の計測結果の差はWM3300Rも同様の傾向だとわかった。次に2製品の速度をモード別に比べてみると、上記2カ所の結果に限って言えば、無線LAN接続の下り平均速度はWM3300Rのほうが良い結果が得られ、上り平均速度は屋外の調布駅南口はWM3300Rが、屋内のガストがWM3500Rの計測値が良かった。また、USB接続に関しては、調布駅の南口の上り速度を除けば、WM3500Rの計測値が良い結果を得られた。
それでは、無線LAN接続における下り平均速度はWM3300Rが常に良いかと言えば、必ずしもそうではなく、調布市にある筆者宅で正午前後に計測したところ(電波レベル「中」、周囲のアクセスポイントは3個)、WM3500Rは下り平均18.83Mbps、上り平均1.27Mbpsで、WM3300Rの下り平均7.88Mbps、上り平均1.32Mbpsだった。どちらも他の地点と比べて速い計測値となったが、特にWM3500Rの下り平均速度はWM3300Rの倍以上で、今回テストした中でもっとも速い値を計測できた。
このことから筆者が試用した環境および範囲に限って言えば、計測する場所や時間帯、それに周囲にある無線LANアクセスポイントなどの要因によって、無線LAN接続の場合はWM3300Rと比べて電波干渉を受けやすいのではと感じている。もちろん、利用する機器によっては今回のようなケースが発生しない場合もあるが、今後のバージョンアップ時に無線LAN接続時の速度が安定化するようであれば、そうしたアップデートにも期待したい。
なお、試しに11nテクノロジーの機能をオフにして、IEEE 802.11b/gのみで筆者宅と屋外2カ所(工学院大学エステック広場、調布駅南口)で速度を測定してみたが、特に計測値に変化はなかった。
■長時間駆動はモバイルルーターの何よりの魅力と再確認
WM3300Rと異なり、無線LANとUSB接続モードが併用できる点も魅力の1つ |
以上、短い時間ではあるがWM3500Rを試用してきたが、やはり長時間駆動することはモバイルルーターに求められる何よりの魅力だと改めて感じた。WM3300Rも設定や通信状況によっては3時間弱の動作が可能で、個人的には満足できるレベルだと感じていた。しかし、WM3500Rで実時間で7時間を超える動作を体験してしまうと、それまで都度電源をオンオフしていたWM3300Rとは異なり、少なくとも筆者の外出スタイルでは電源を入れたままで利用し続けてもバッテリーが切れることはないと感じている。
また、細かいところかもしれないが、WM3300Rとは異なり、無線LAN接続とUSB接続の両モードを同時利用できることも気に入った点の1つだ。例えば、外出先で無線LAN接続からUSB接続に切り替えたい場合、WM3300Rではモードを切り替えるために電源をいったんオフにする必要があったが、WM3500Rでは稼働した状態でノートPCにUSB接続できる。今回の試用範囲では、USB接続がより高速に通信できたので、大容量のファイルをやり取りする際にはUSBケーブルでPCと接続してみるのも良いと感じた。
その際は、WM3500R側のバッテリーを充電しながら利用できるので、それまでに消耗した分を多少なりとも回復できる。また、同時利用であるため、スマートフォンや他の端末からも引き続き無線LAN接続できる点は有り難いところだ。
WM3500Rは店頭で確認すると2万円弱で販売されているが、モバイルWiMAXサービスをMVNOで提供する量販店やプロバイダーによっては、新規加入など一定条件を満たした場合に数千円台の割り引き価格で販売している例もある。そうした中で、長時間の連続通信時間をうたうWM3500Rを選択する価値はあると感じた。
なお、1年間の継続利用を条件に月額料金を割り引くプラン「年間パスポート」の場合では、割り引き幅が大きくなる場合もあるが、他のプランを含めてサービスを変更・解除する際には手数料が発生する場合もある。契約の際には条件や利用場所がサービスエリアに入っているかどうかをよく確認した上で、自分に合ったプランを選択して欲しい。
2010/12/14 06:00