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マイクロソフト、会話プラットフォームの開発環境などを発表
今夏、Windows 10 Anniversary Update提供
(2016/4/1 06:00)
マイクロソフトは3月30日(現地時間)、米国サンフランシスコで開発者向けイベント「Build 2016」を開催した。会期初日の基調講演では、Windowsプラットフォームの新たなイノベーションなどについての説明とデモが行われた。
基調講演の冒頭、マイクロソフト・コーポレーションCEOのサティア・ナデラ氏、Windows&デバイス担当エグゼクティブバイスプレジデントのテリー・マイヤーソン氏が壇上に立ち、昨年7月に提供が開始されたWindows 10が全世界で2億7000万を超えるデバイスで動作していて、Windows 7を145%も上回るペースで展開されていることなどが紹介された。
また、今年7月にWindows 10 Anniversary Updateを提供することを明らかにし、これへ向けた新しい機能やプラットフォーム、開発キットなどのデモが行われた。
今回のアップデートではパーソナルアシスタントの「Cortana」、ペン入力の「Windows Ink」、ゲームプラットフォームの「Xbox one」などの強化が図られる。同時に、昨年から開発中であることを明らかにしていたヘッドマウントディスプレイ「Hololens(ホロレンズ)」の「Development Edition」が北米向けに発売されることも明らかにされた。
ちなみに、Hololensについてはすでに契約した法人各社にも提供が開始されており、そのうちの1社として、日本のJALのロゴもスクリーンに映し出された。詳細は明らかにされていないが、乗客向けではなく、従業員や作業スタッフなどが利用するために開発が進められているようだ。
今回のWindows 10のアップデートで、もっとも注目されるのが「Conversation as a Service」と題された「会話プラットフォーム」で、「会話」や「対話」を利用したプラットフォームを機能として搭載する。
現在のWindows 10では昨年秋からパーソナルアシスタントの「Cortana」が搭載され、ユーザーが話しかけると、あらかじめ設定した情報に基づき、天気などやニュースなどを調べることができるが、このCortanaが大幅に強化される。たとえば、Cortanaと対話しながら、スケジュールを登録したり、過去に送られてきたメールの添付ファイルを探したりできるようになる。
これまではパーソナルアシスタントとして「Cortana」が利用されてきたが、今後は複数の対応アプリケーションを連携させることで、さらに多様な使い方を可能にする。Cortanaそのものの起動もWindows 10を起動した状態だけでなく、サインイン前のロック画面から操作することが可能だ。
しかもこれらのCortanaに対する入力操作は、キーボードや音声などの入力だけでなく、ペン入力から内容を認識させることができる。たとえば、ペン入力でスケジュールやメールの返信などのリマインダーに登録することが可能になる。
ペン入力についてはすでにSurfaceシリーズなどでも利用されているが、「Windows Ink」として、OSレベルで実装され、よりインテリジェントな操作や連携が可能になる。地図アプリでは地図上にペンで手書きで線を引き、おおよその距離を算出したり、Wordで作成中の文書の段落を手書きで消去、PowerPointでは図形などのオブジェクトを画面に定規を表示して斜めに整列させるといった操作も可能だ。
OSレベルで実装されることで、ハードウェアとアプリケーションが対応していれば、どのアプリケーションでも同じように利用できるようになる。
また、現在のWindows 10ではサインイン時に生体認証をサポートする「Windows Hello」という機能が搭載されているが、これがWindows 10の標準ブラウザであるMicrosoft Edgeでもサポートされることになり、さまざまなサイトのログインにも利用できることになる。
Windows 10ではパソコンでもタブレットでもスマートフォンでも同じアプリが利用できる「UWP(Universal Windows Platform)」アプリが採用されているが、同社のゲームコンソール「Xbox」のUWPアプリへの対応も明らかにされた。既存の開発環境に加え、Xbox oneを開発ツールとして利用できるようにすることで、さらに開発者の裾野や開発環境を拡大しようという構えだ。
UWPアプリはまだ数が少ないとされているが、既存のアプリからの移植環境をはじめ、AndroidプラットフォームやiOSプラットフォームと共通のコードで実装できる環境を整えるなど、さらにUWPアプリを充実させようとしている。
開発環境については、新たにUbuntu上の「bash」と呼ばれるshellがWindowsストアから入手できるようになる。一般ユーザーにはあまり縁がない話題だが、開発者にはコマンドラインでの操作に根強い人気があり、今回の「bash」のサポートにより、そうした開発者の声にも応えていくようだ。
デモではBashのコマンドプロンプトから、フォルダ内を参照する「ls」コマンドで内容を表示したり、テキストエディアの「Emacs」を起動して、プログラミングのコード画面を表示すると、参加する開発者から、この日一番の喝采が起きていた。
さらに、会話プラットフォームを活かしたユニークな取り組みとして、Skypeによる「Skype Bot Platoform」を提供することが発表された。ボットはいわゆるエージェント機能のようなものをイメージするとわかりやすいが、デモではユーザーがCortanaでメールを検索し、その内容から出張のスケジュールを立て、出張先のホテルを探し、ホテルのボットと対話型コミュニケーションをすることで、予約までを完了するという流れが紹介された。
ボットというと、Twitterなどで勝手につぶやく、言わば“人工無能”的なものを連想してしまうが、Skype Botsはインタラクティブなコミュニケーションを実現するエージェント的なものであり、利用者がどのような言葉で話しかけてくるのかを想定したボットをプログラミングしておくことで、対話型のコミュニケーションを実現する。
そして、こうした環境に自然言語によるコミュニケーションのユーザーインターフェイスを組み合わせ、実現を目指しているのが「Cognitive Service」だ。「Cognitive」は「認知」や「認識」を意味するもので、目の前にあるもの、映し出したもの、写真などを認識し、それがなんであるのかをユーザーに伝えるという取り組みだ。
最も基本的な取り組みとして、マイクロソフトでは「CaptionBot」というサイトを実際に公開しており、写真をアップロードすることで、それが何なのかを認識して表示するデモを公開している。Cognitive Serviceでは顔や音声、文字、知識、検索、ビデオなど、22のAPIが無償で提供され、これを利用することで、自然な会話を実現するという。
Cognitive Serviceの将来的な展開として、ロンドンに住む同社の視覚にハンディキャップを持つ実在の社員の生活をイメージした動画が公開された。ハンディキャップを持つ社員が杖を持ち、街中を歩いているとき、周囲の状況を知るために、メガネの横をシュッとスワイプすると、「スケートボードで遊ぶ若者がいるようです」と説明したり、公園で椅子に座ったちときは「女の子がオレンジ色のフリスビーで遊んでいる」と知らせてくれ、レストランでメニューを渡されたとき、スマートフォンをかざすと、メニューを読み取って、その内容を読み上げる様子が紹介された。
ミーティングなどでも目の前にいる相手がいくつくらいのどんな人なのかを認識して、知らせるといったことを可能にするという。つまり、さまざまな対象物を認識し、自然な言語でユーザーに知らせたり、インタラクティブなコンピューティングの環境を実現しようとしているわけだ。
今回の基調講演ではデバイスに関する話題が前述のHololensなどに限られ、Windows 10 Mobileについて、個別に触れられることはなかった。ただ、マイクロソフトはWindows 10をパソコンでもタブレットでもスマートフォンでも利用できる統一プラットフォームとして捉えており、今回の基調講演で紹介された数多くの機能は、将来的にWindows 10 Mobileの環境でも利用できるようになる見込みだ。
特に、会話プラットフォームについては、スマートフォンなどのモバイルデバイスでこそ、威力を発揮すると予想されるものであり、今後、Windows 10 Mobile搭載スマートフォンがさらなる進化を遂げることが期待できそうだ。