ニュース

「KDDI∞Labo」応援企業にセブン&アイやテレ朝、コクヨなど

第6期最優秀チームはWebRTC活用の「MistCDN」

 KDDIは、スタートアップ育成プログラム「KDDI∞Labo」で、新たに「パートナー連合プログラム」を開始する。セブン&アイ・ホールディングスやコクヨ、テレビ朝日など13社が参画する。また投資ファンドでは既存のものに続いて、新たなファンドを創出する。

第6期プログラムの結果発表

 14日には、第6期プログラムの最優秀チームとして、WebRTCという技術を活用して、低コストかつ高品質なコンテンツ配信を実現するという「MistCDN」(Mist Technologies株式会社)が選出された。そして第7期プログラムの募集も開始された。

 第6期最優秀賞のMistCDNは、ユーザーの端末を配信元にしてしまう、というアイデアに基づいた、ブラウザ間コンテンツ配信プラットフォーム。従来のコンテンツ配信は、地域ごとにサーバーが用意され、1カ所で集中してユーザーからのリクエストに応えて、Webコンテンツを提供する。ただ、そのリクエスト数がサーバーの処理能力を超えた場合は閲覧しづらくなるなど、対応しづらい。強力なサーバーを数多く用意すれば処理できるかもしれないが、その分コストがかさむ、といった課題がある。一方、MistCDNはユーザーがWebコンテンツを見たい場合、サーバーが混雑していれば、近くのユーザーから横に流す、という形で負荷を分散させる。導入もシンプルとのことで従来の仕組みと比べて、配信元のサーバーからのデータ通信量を最大80%削減できるという。

「MistCDN」のプレゼンテーション

 第6期に参加したチームとして、最優秀賞こそ逃したものの、たとえば若年層の女性をターゲットに、ファッションやスキンケアなどの情報をまとめるキュレーションサービス「macaron(マカロン)」、スマホアプリの開発においてユーザーの操作履歴やタップ情報などを可視化する「Repro(レプロ)」などが存在感を放っていた。

第7期の応募要項を説明するKDDIの江幡氏

パートナーとして大手企業が参画

 今回、KDDI∞Laboに協力するのは計13社。このうち、コクヨ、セブン&アイ、テレビアサヒ、プラス、三井物産の5社は、第7期に参加するチームの相談に乗り、アドバイスを提供して成長を目指すメンタリングまで行う。それぞれ自社の強みを活かしていく方針で、たとえばコクヨはものづくり、空間づくりのノウハウ、セブン&アイはコンビニ~百貨店まで流通チャネルのサポートなどが行われる。

 このほか、サポート企業として、近畿日本ツーリスト、ソフトフロント、大日本印刷、東急電鉄、凸版印刷、パルコ、バンダイナムコゲームス、三井不動産が名を連ねる。

 KDDI代表取締役執行役員専務で新規事業統括本部長の高橋誠氏は、「ネットの日常化でスタートアップの活動がリアル領域に活動してきた」と分析。日本政府としてもスタートアップを支援する方向を示している、とした上で、現在の課題として、スタートアップには人材や資金の不足、既存企業には新事業のシーズ発掘や経営資源の活用不足があり、スピード感が求められている、と指摘する。両者のコラボを勧めることで活性化するのでは、と高橋氏は述べて、50億円の1号ファンドに続いて、同じく50億円の2号ファンドを立ち上げること、そしてパートナー連合プログラムを指導させることを発表した。

KDDIの高橋氏
リアルとの関わりが強まってきたと説明

 特に企業プログラムに参加する企業は、収益面に繋がる結果を短期的に求めるのではなく、スタートアップの支援だけを行う形。ただ、長期的には、自社にない力を持つ企業を育成して、連携できるようにしていく、というのもメリットの1つとされている。

コクヨからは「ものづくり」「空間づくり」
流通チャネルとの関係をサポート、とセブン&アイ
テレビ朝日はテレビのノウハウを提供
流通事業を手助けできるとしたプラス
商社らしいサポートをする三井物産
パネルディスカッション形式で各社の考えが紹介された

高橋氏、新たな取り組みを語る

 プレゼンテーションの後、高橋氏は報道陣の質問に応えた。囲み取材での主な質疑を紹介する。

――あらためてパートナー連合プログラム発足の経緯を教えて欲しい。

 これまでKDDI∞Laboをやってきた中でマンネリ感もある、ドコモも同じことをやってきた、ということで、(第5期の結果を発表した)3カ月前、ここで新しいことをやる、と述べた。その後、動きだしたところ、結構簡単に名乗り出ていただいた。通常ならKDDI∞Laboには100社くらいの応募がある。そこから、5社選び、KDDIからとパートナーからのメンター(助言者)を入れてみたらどうかなと思っている。どんなところが応募してくれるかわからないので、それによって柔軟に対応したい。

――2号ファンドとは別の話か? パートナーとして参画する企業が資金を拠出することは?

 パートナー連合プログラムとはまったく別の話だ。1号ファンドはパフォーマンス良く進んでおり、50億のうち30億以上いった(投資した)ため、そろそろ次を考えなければ投資が続かない。今のうちから、ということで2号ファンドを作った。これはKDDIの取り組みであり、KDDI∞Laboから投資に値する企業が出てくれば1号ファンドでも2号ファンドでも、投資する可能性はある。パートナー連合プログラムから投資しようとする企業が出てくるかもしれないが、それは全くの自由。

――パートナー連合プログラム参加企業は今後増えるのか。

 あっても良いと思っている。日本の既存企業がスタートアップを何か支援できる仕組みができればいいということで作った。第7期をみて、メンターを出すかどうか考えているところもある。

――特定の分野から参加して欲しいということはあるか。

 今のところ、うまくばらけた感じ。でも1分野1企業と考えているわけではない。今日も(文房具を扱う)コクヨさん、プラスさんが居るけれど、話してみれば色あいが違う企業だった。どの業種でこの企業、といった考えは今のところない。

――声がけのとき多様性を持たせるようにしたのか?

 自分たちの中でポートフォリオを持ちながらバラしたようにも思うけれど、あんまり作為的にやったわけではない。

囲み取材に応えるKDDIの高橋氏(左)とKDDI∞Labo Labo長の江幡氏

――最優秀賞のMistCDNは通信事業者のようなサービスだ。

 2号ファンドをやるときにもポートフォリオをよく見たいと思っているが、シリコンバレーを観ていると、B2C(消費者向けサービスの企業)の時期は超えて、今、B2B2Cのスタートアップがすごくもてはやされている。スマートフォンの世界でB2C型としてユーザーから収益を得るのは難しいのではないか。ファンドのほうでは、リアルとの連携という点に加えて、B2B2Cを加えたらどうか、と思っていた。そうした中、第6期を始めたところ、MistCDNもそうだし、(アプリテストツールの)Reproも世界を見ながら進めている企業であり、そういった企業が出てきているのはKDDI∞Laboをやってきた成果なのかなと思う。

――ハードウェア方面はどうか。

 最近いくつか出ている分野で、車いすを手がける企業もあれば、ソフトバンクさんもロボットを始めた。ハードウェアも視野に入れてはいいのかなと思うが、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、いやInternet of Everythingを意識したハードウェアベンダーがあってもいいのかなと思う。

――第7期からか。

 KDDI∞Laboが対象にするのはスタートアップのため、結構、ハードウェアに手を出しているところは少ないと思う。もしそういうところから応募があったら、当然、選考対象に加えたい。

――第1期~第6期を続けて、すぐ収益が見込めるような、Webサービス一辺倒ではない形になってきたように思える。第7期の選考のあり方、あるいは今回発表されたパートナー連合プログラムの構築など、考え方が変わってきたところはあるか?

 僕らがかえって教えられたところもあると思う。最初の頃は、今になってみると、ちょっとしょぼかったですよね(笑)。スマートフォンの1アプリくらいで、こんなのでどう儲けるのか、と記者からコメントがあったことは覚えている。スタートアップ自体がスマートフォンというものに慣れてきたこと、どうすればビジネスに繋がるか、ちょっとずつ学んで分かってきたところはあると思う。だけど、本当のスタートアップなので、すぐビジネス、というレベルになればベストだが、3カ月で卒業してすぐ、というのは正直、垣根が高い。

――技術を持つチームを発掘するためにどうすればいいか、考えはあるのか。

 今回、MistCDNのようなチームがちょっと有名になると思うが、そうやって活躍できるようになれば、ちょっとずつ技術力の高いところも集まってくるのではないか。MistCDN自体は、モノになるかどうか、まだわからない。KDDIとしてもコンテンツ配信プラットフォーム企業を買収したが、MistCDNはM2Mでもコンテンツ配信を考えており、なかなか面白い。ただそうした考え方は、コンテンツ配信プラットフォーム事業者であればどこでも一度は考えたことがあるのではないか。でもハードルがあったのだろう。そうした中で、MistCDNのアイデアがこの時期にあらためて登場した。MistCDNは技術面でのパートナーがシリコンバレーにいる。MistCDNが1つの道しるべになって、次のチームが出てくるのであれば、我々もやり甲斐がある。

関口 聖