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ソフトバンク、8期連続最高益

ソフトバンクモバイル 代表取締役社長 孫正義氏と、買収した米SupercellのCEO イルッカ・パーナネン氏

 ソフトバンクは31日、2013年度上期の連結業績を発表した。売上高は前年同期比73%増の2.6兆円、営業利益は8期連続最高益となる同67%増の7151億円で、純利益は同84%増の3949億円。いずれの数値も初めてNTTドコモを上回った。同社代表取締役社長の孫正義氏は、「ボーダフォンを買収した時に、10年以内に必ずNo.1のドコモさんを抜くんだと公言したが、ついに1番になった」と語った。

増益率世界3位、モバイルEBITDAは世界1位に

 過去最高となる売上高の2.6兆円のうち、国内事業が1.8兆円、米Sprint分が0.8兆円。EBITDAは10期連続最高益となる前年同期比39%増の8160億円で、うち国内事業が7041億円、米Sprint分が1119億円。また、7151億円の営業利益のうちソフトバンクとしては4884億円で、ガンホーやウィルコムの子会社化に伴う一時益として2490億円が計上されている。米Sprint分はマイナス223億円だった。営業キャッシュフローは、これも5期連続過去最高の4512億円とのこと。

 営業利益は国内全体を見てもトヨタ自動車に次ぐ2位。子会社化による一時益となった「飛び道具」を除いても、ドコモの4732億円に迫る数字だ。世界ランキングでは営業利益が24位、増益率がトヨタ自動車、サムスンに続く3位。また、モバイルEBITDAマージンは米Verizonを超える52%で世界1位だとし、世界レベルの企業になっていることをアピール。純利益については、ドコモやKDDIが横ばいを続ける中、ソフトバンクだけが急激に拡大しているとし、2005年上期のマイナスからドコモを超える規模になったのは、「おそらく日本の経済史の中でも非常に珍しい存在ではないか」と述べた。

 ARPUは4520円。ドコモの4590円には及ばないものの、他社のARPUが下げ止まっていない中、同社はARPUをほぼ一定に保ち「順調に推移」。MNPによる転出・転入の差し引きは昨年同期の倍増となるプラス28万件。上期の契約純増数はソフトバンク分が159万台で他社を大きく上回り、さらにイー・モバイルとウィルコムの分も加えると191万台で、「圧倒的No.1」になっているとした。

 米Sprintの買収に関しては、かつてボーダフォンを買収した時には当時のEBITDAの6.2倍の「無謀な、危険な借り入れ」だったが、今回の米Sprint買収における借り入れはEBITDAの約3.2倍。調達資金の金利も1.4%と抑えられているとして、株主への理解を求めた。

 9月に発売を開始したiPhone 5s/5cは、他社調査によると、10月20日までの累計販売シェアでソフトバンクが40%を占め1位。月次の端末契約純増数もここ最近は他社を抑えトップを続けているが、実はiPhoneを販売し始める1年以上前から純増No.1を続けていたこと、KDDIがiPhoneを扱い始めてからも変わらずトップであることを強調し、ドコモの取り扱いがスタートした今期の不安を一蹴した。

ネットワーク品質が今後のカギになる

 こうした中、孫氏が今後の方向性として打ち出したのは、「スマホ時代のネットワークNo.1へ」というコンセプト。「端末は各社が同じものを売ることになるのだとすれば、ネットワークを売るのが我々サービスの本業」であるとし、「スマホのつながりやすさNo.1」と「高速通信の速度No.1」の2つを目指すことを明らかにした。

 「つながりやすさ」に関しては、プラチナバンドの基地局が10月現在で2.8万局にまで増加していることを示し、独自調査によるスマートフォンのパケット接続率は98.3%、通話接続率が98.6%、iPhone 5s/5cのパケット接続率も98.5%でいずれも他社を超え、これまで弱点と見られていたゴルフ場、海水浴場、スキー場などあらゆるセグメントで接続率1位を達成したことも合わせて紹介した。総務省に報告義務が発生する重大事故も889日間起こっておらず、「我々が知っている限り最長記録を更新状況」であることに自負を見せた。

 一方、「高速通信」では、10月現在で4.2万局と2.9万局に達したTDD-LTEおよびFDD-LTEの基地局の増加推移を示すとともに、2.1GHz帯と1.7GHz帯の各75Mbpsの通信帯域を束ねた「倍速ダブルLTE」がスタートしたことを引き合いに出した。これらの活動により、第三者の調べでAndroidスマートフォンにおける平均スループットが15.3Mbpsと、ドコモの8.1Mbps、KDDIの14.8Mbpsを上回る数値を叩き出しているという。

 このように、国内は売り上げや利益、実際の事業展開についても順調だが、買収した米Sprintは現在のところ契約純増数がマイナスとなっている。ただし、2013年第2四半期はマイナス52万であるところ、第3四半期はマイナス9.5万と「反転傾向」にあり、さらにARPUが着実に上がってきているほか、EBITDAも反転の兆しがある。850MHzのプラチナバンドや、120MHzという広帯域幅を「世界最高の戦う武器として手に入れられた」とし、年間2000億円規模の経費効率化や端末調達コストの削減のめどが立ったとのことで、「1年かけて反転させたい」とした。

 モバイル以外については、「eコマース事業で世界No.1を目指す」と語り、Yahoo! JAPANのeコマース事業の強化を挙げた。10月7日にEC店舗の出店料やオークションの出品手数料などを無料化する戦略を発表したばかりだが、10年間以上にわたって楽天のはるか後塵を拝してきた出店数が、発表後わずか2週間で申込数を含め7万5000店舗に激増し、4万店舗の楽天の2倍に迫る数になったことを公表した。孫氏は「2020年になる前に商品数、EC流通総額でNo.1になることを目指し、そうなると確信している」と述べ、eコマース事業の今後の急成長についても自信を見せた。

来期は営業利益1兆円超、ゲームの世界展開も目指す

 スマートフォン市場では、アプリの売り上げのおよそ8割がゲームという調査結果から、今後「ゲームを制するものがスマホコンテンツを制する」と見ており、子会社であるガンホー・オンライン・エンターテイメントの世界展開に期待感を示した。しかしながら、ガンホー自体は国内では強いものの、海外展開はまだスタートしたばかり。海外に向けた拡販のノウハウが不足していることから、10月15日に買収を発表したフィンランドのゲーム会社Supercellの協力を仰ぐ。

米Supercell CEO イルッカ・パーナネン氏

 Supercellは、iOS版ゲームを2タイトルとAndroid版ゲームを1タイトルリリースしただけのまだ小さな会社ではあるが、その2つのうち「Clash of Clans」は世界139カ国でNo.1のセールスを記録し、「Hay Day」というゲームも上位に食い込んでいる。孫氏に招かれ登壇した同社CEOのイルッカ・パーナネン氏は、ソフトバンクによる買収を「千載一遇のチャンスだと思っている」と話し、長期的な視野をもってSupercellの事業を拡大していきたいと力説した。

 孫氏はまた、10月19日に発表した米Brightstarの買収にも言及し、これによりAT&Tの2~3倍、ドコモの5~6倍、KDDIの10倍にもなるという端末の仕入れボリュームを活かし、プラットフォームにおいても世界一を目指せる状況に来ていることを解説。通期は「米Sprintのマイナスを取り込んでも営業利益1兆円は確実に行けそうだと見えてきた」と話し、来年度は売上高7兆円、EBITDA 2兆円、子会社化などによる一時益を含めずに営業利益1兆円を目指したいとした。

 今回の発表会では、一言目に「虹の根っこはどこにあるかご存じですか」と神妙な面持ちで問いかけた孫氏。米Sprintや米Brightstarの買収で世界に立ち向かう現状になぞらえ、虹の根元を見つけに仲間と一緒に山を越える「夢を追いかけていくのが楽しくてしようがなかった」という小学生時代の思い出話を切り出した。去る10月21日、福岡ソフトバンクホークス社長兼オーナー代行でソフトバンクの取締役でもある笠井和彦氏が急逝したことに触れ、一緒に夢を追いかけてきた仲間の死を悼みつつ、発表会の最後には、「我々の虹はまだ山の向こうにある。その虹を追いかけるのが我々ソフトバンクの原動力。世界中全ての人々に虹を届けたい、笑顔を届けたい。大人だけでなく貧しい子供たちにも笑顔を届けたいというのが願いです」と結んだ。

 なお、同会見では、報道陣からの質問に答える形で、10月1日に明らかになった割賦払いユーザーの信用情報の誤登録に関して、孫氏が説明を行った。発生した経緯については「システムのバージョンアップの時に人為的な入力ミスがあった。気がついてすぐに信用調査の会社には正しい情報を送り返した」と述べ、対象ユーザーにはすべて個別に連絡済みだとした。また、対策状況については「継続して問題が起こっているわけではない。その後の問い合わせは収まっている。人為的ミスを起こさないように二重三重のチェックシステムを構築した」と話すに止まり、具体的な対策方法については明らかにせず、あくまでも同社としては問題は解決しているとの認識を示した。

日沼諭史