ドコモ、重なる通信障害への対策最新状況を説明


説明を行ったドコモ山田社長

 NTTドコモは、12月下旬のspモード障害や1月下旬の首都圏パケット通信障害など、度重なるネットワーク障害への対策について、最新の状況を紹介する説明会を開催した。

 同社では2月19日までに、spモードの信頼性向上に向けた対策、パケット交換機の処理能力の総点検を実施。その結果として、spモードでは、12月に発生した事象が今後起こらない仕組みにするなど、どちらも安定して運用できる状態であると説明している。

 プレゼンテーションは、前回の会見からこれまでに実施した内容が説明され、設備関連の対策の説明に重きを置く格好となった。同社代表取締役社長の山田隆持氏は、「通信はやはりインフラが重要で、しっかり繋がなければならないと認識している。ドコモは安心・安心と評価いただいているところで故障を起こした。今回の取り組みで大きく損なった信頼の回復に向けて第一歩を踏み出せたのではないか」とコメント。

 質疑で「安全宣言か?」「いつユーザーは安心して利用できるのか」と問われると、「同じ原因の通信障害が発生することはもうない。NTTグループからも熟練のIP関連技術者に来てもらうことになっている。現状のユーザー数であれば安定的に運用できるようになったが、やることはまだある。そうした今後の対策を実行した上で信頼性の回復に努めたい」と述べ、ひとまず体制を整えたものの、今後さらなる信頼向上に向けた取り組みに注力する方針を示した。

 さらにドコモのスマートフォンが5000万台規模になるという2015年~2016年に向け、に耐えられるネットワークの高度化に取り組むと語った同氏は、スマートフォンを含め、今後の端末販売目標は変更しないことをあらためて説明した。

安定した運用ができる体制になった、との見解が示された障害対策の全体増

spモード対策を実施、システムは今後も利用

 ドコモが進める通信障害対策は、大きく分けて「spモード関連の対策」と「パケット交換機の対策」になる。spモードについては、2011年8月16日に繋がりにくくなる通信障害(約110万人に影響)、同12月20日にspモードメールアドレスが他人のものと置き換わる事故(約2万人に影響)、今年1月1日にspモードメール関連の障害(約260万人に影響)が発生している。

 これまでにネットワーク認証サーバーの性能向上や設備増強、ユーザー管理サーバーの性能向上などが行われてきたが、1月下旬の会見以降、新たに「接続手順の変更」「新規メール情報サーバーの導入」が完了したほか、さらに「MAPS(マップス)」というspモードを支えるシステムについての検証が済み、“スマートフォン5000万台時代”に向けてシステムを拡張できる、と確認できた。MAPSの検証が済んだことで、今後のドコモのスマートフォンを支えるシステムとして用いられる方針が示されたことになる。

spモードシステムへの対策スケジュール昨年から今年にかけて発生したspモード関連障害の概要
これまでに3つの対策を実施

 新対策の1つ「接続手順の変更」とは、昨年12月の「他人のメールアドレスになる事故」を受けて実施された対策のこと。spモードでは、IPアドレスとユーザーの電話番号を紐付けているが、12月の障害でサーバーの輻輳(通信が滞る状態)が発生した際、ユーザー(Aさん)に割り当てられたIPアドレスをいったん解放せよ、と処理が行われたことにサーバーが対応できず、同じIPアドレスが違うユーザー(Bさん)に割り当てられてしまった。今回の改善は、IPアドレスの割り当てを行う際のタイミングを見直し、12月の障害のようなIPアドレスのミスマッチ(不一致)が発生しないようにした。

 処理する項目が増えたことで、従来より処理時間はわずかにかかることになるが、ユーザーが体感できるほどではないとのこと。このほか、新たなメール情報サーバー4台が導入され、既存のメールサーバー204台が新たに導入されたメール情報サーバーへ接続する形となっている。

パケット交換機の点検が完了、新型機導入で工事も

 今年1月25日には、ドコモが首都圏に新型パケット交換機を導入するにあたり、実際のトラフィックの想定を読み違え、せっかく導入した新型パケット交換機がトラフィックを処理しきれず、パケット通信が繋がりにくくなる、という通信障害が発生した。この件の対策も1月27日までに発表されていたが、今回の会見までに全国201万台のパケット交換機の処理能力があらためて点検され、現時点でのトラフィックに対して安定して運用できることがわかった。その際、パケット交換機のソフトウェアを更新し、1月25日の通信障害の原因となった“制御信号”を計測できる機能も全国的に導入された。

パケット交換機関連対策のスケジュール1月25日に発生した障害の概要
容量80%に達したら設備を増強する4月末までに全国で40台の新型パケット交換機を導入する

 点検を受けて、ドコモでは今後パケット交換機の設備を更改する基準として「制御信号、同時接続の容量の80%」を挙げることになった。この基準は、今後の運用次第で見直す可能性はあるものの、まずは1つの目安として運用される。また全国のパケット交換機の点検により、トラフィックが現行機材の80%に達している地域が明らかとなり、4月までに全国で計40台の新型パケット交換機が導入される。工事が行われる際には、場所によって5分~10分程度、繋がらない可能性もあるが、都市部では周囲の基地局の電波でカバーされることもある。新型パケット交換機導入工事はまず2月25日に東京23区の一部(新型パケット交換機2台)で行われ、その後3月3日に愛知県の一部(名古屋市含む)、3月10日に兵庫県の一部(神戸市含む)など都市圏を中心に進められる。

2月25日の工事の概要。こちらは実施前の構成2月25日の工事実施後の構成。基地局を管理する無線制御装置の一部が新型パケット交換機に切り替わる
2月25日のパケット交換機工事では赤いエリアが新型に切り替わる

 ドコモではこれまでも工事情報をWebサイトで開示してきたが、今後、ユーザーへの情報伝達の在り方を見直すとともに、工事対象地域の情報は「~の一部」という表記に加えて地図でも確認できるようにする。

 ちなみに新型パケット交換機は既に6台が稼働している。このうち3台は首都圏での障害発生直前に導入されたもの。もう3台はそれ以前に他の地域で導入されたもの。以前の会見(1月26日開催)では「1月20日に先行的に首都圏で3台が導入され、4日間運用された後、そこに新たな基地局を繋げたところ障害が発生した」という説明だったが、今回の会見で、首都圏での導入前に別のエリアで新型パケット交換機が導入され、性能を確認していたことが明らかにされた、つまり新型パケット交換機は、“ぶっつけ本番”で東京に導入されたわけではないという。

 新型パケット交換機は徐々に全国で導入されることになり、一時的に現行型と組み合わせて運用されることもあるが、原則的には「新型機のみ」「現行機のみ」と分けた形でネットワークを構成する。

今後行われる対策

 ドコモでは今後、「バーストトラフィック対策」を実施する。これは以前の会見でも発表されているもので、スマートフォンの普及で表面化した、瞬間的な通信量の増大への対策のこと。スマートフォンは常時接続を求める傾向があり、もし何らかの通信障害でネットワークから切り離されてしまい、その後復旧すると、一斉にネットワークへ再接続しようとする。このとき何万台、何十万台という規模での再接続要求となればシステムに大きな負荷がかかる。

 スマートフォンが一斉に発する再接続要求を抑えるべく、4月下旬にも、通信経路故障時の対策として、そのとき通信しようとしているユーザーのスマートフォンのみ再接続する仕組みに変更する。つまりそのとき使われていないスマートフォンは、すぐに再接続しないようになり、再接続要求の数を抑える。再接続をすぐ行わなくても、Androidは28分に一度、ネットワークへ繋がるようになっているため、最長で28分経つと必ずネットワークに繋がる。そして8月上旬には、ユーザー管理装置(IPSCP)という機器が故障して予備機に切り替わった場合の対策も導入される。定期的に位置情報をネットワークへ通知する携帯電話だが、IPSCPが予備機へ切り替わる際の位置情報更新処理を変更して、再接続要求を抑える。

spモード関連で今後実施する対策パケット交換機関連で今後実施する対策

 さらに12月末までにサーバーソフトを見直して処理能力の向上を図り、設備増設などを行う。ドコモでも制御信号を抑えられる仕組みとして、無線接続手順などを検討する。

 また1月27日に会見を行った夜、東北で通信障害(45分ほど発着信しづらい障害)が発生した原因として、ルーターの設定データにミスがあったことが明らかにされた。説明を行ったドコモ取締役常務執行役員の岩崎文夫氏は「設定したデータが数時間後に反映されるという特性があったが、そうしたルーターの動作を十分理解できていなかった」と述べる。こうした事象が発生した際、ドコモ内の警報が鳴り続ければすぐ回復に着手できた可能性があるものの、警報は鳴ったり止んだりといった状態で時間がかかったと釈明し、今後は検証環境の充実化を図る考えも示された。また2月7日に関西で繋がりにくい状況になったことについては、ネットワーク機器の切り替えで故障が発生したとのことで、詳細は調査中とした。

無線に優しいアプリを

 パケット交換機関連の障害の原因について、前回の会見に続き、今回も山田社長が「反省点は制御信号の見積もりの甘さ」と述べた。この背景には、スマートフォンの急増が、トラフィックの増加のみならず、“制御信号”を増加させることがある。

 制御信号とは、通信の確立や切断、維持のために発せられる信号とのことだが、ドコモ自身の解析もまだ完了していない。今回の会見でも“(VoIPなど)リアルタイム系のアプリ”がそうした制御信号を増やすとの見解が示された。また「iモードでは、携帯電話を操作するときだけ制御信号が発されるものだが、スマートフォンはユーザーが就寝中でも通信して制御信号が発生する」と説明し、携帯電話事業者にとって、スマートフォンの増加がもたらす影響は、これまでの携帯電話の常識が当てはまらないと言えるが、ドコモ自身、今年1月に制御信号の計測機能を導入済であり、制御信号を把握する必要性自体は認識していた。海外、あるいは国内の競合他社が既に対策に取り組んでいるかどうか尋ねられた山田氏は「他社も分かっていないと私は思っている。だからこそ韓国などで故障したという例があったと聞いている。ドコモだけ遅れたわけではない」と述べる。

 また会見に同席した副社長の辻村清行氏は、2月15日に同社が開催したコンテンツプロバイダ向けの社内イベントにおいて、約700社に対して、通信障害の状況を説明し、今後のアプリ開発において無線通信という状況を考慮したアプリ開発の協力を依頼したと説明。会見後の囲み取材でも辻村氏は、スマートフォンアプリを提供する事業者は、これまで有線インターネットでサービスを開発してきた事業者が多く、モバイル向けサービスでは制御信号の増加という状況をもたらすことが今まで理解されていなかった、との認識を示し、まずは必要以上に制御信号を発するようなアプリのみ改善を要望する姿勢であるとした。

 こうした状況については、国内の競合他社との情報交換も行うとのことで、さらに海外の通信事業者とは従来よりも拡充し、約10社で情報交換をしていくと表明した。さらに海外のアプリ提供者に対してもメッセージを出し、無線通信に適したアプリの開発について何らかのガイドラインが提示できれば、としている。2月27日よりスペインで携帯関連の世界最大級の展示会「Mobile World Congress 2012」が開催されるが、山田社長と辻村副社長は、先述したとおりパケット交換機の工事が2月25日、3月3日に予定されていることから、同イベントへの出席を見合わせ、ドコモの鈴木 正俊副社長が出席する。

 このほか、今後の対策にかかる費用については、1月27日の会見で示されたものと大きな違いがないとされたほか、今後、人為的なミスが発生しない組織体制および運用体制にする方針が示された。ユーザーへの周知方法についても、Webサイトに加えて、ドコモショップへスムーズに情報が渡るようになったほか、今後その他の手段も検討することが示された。




(関口 聖)

2012/2/21 15:15