ケータイで街の動きを観察――ドコモと東大が共同研究


 NTTドコモと東京大学は、携帯電話を利用して収集した「モバイル空間統計」の活用について、2010年11月1日~2011年3月31日まで共同研究を行う。東京大学柏キャンパスのある千葉県柏市を舞台に、公共分野におけるデータ活用を目指す。

モバイル空間統計とは

 ドコモでは、“ユーザーが携帯電話を持ち運ぶ”という性質を背景に、その携帯電話の動きを記録・分析する「モバイル空間統計」に取り組んでいる。携帯電話は、いつでもどこでも電話やメールを受信できるよう、一定周期で基地局とやり取りし、おおよその位置がわかるようになっている。この仕組みをもとに、契約者情報を持つドコモでは携帯電話が日々、どのように移動しているか記録している。

モバイル空間統計のデータ処理について全国でデータを採っている

 当然のことながら、個々のユーザーのプライバシーを保護するため、電話番号や生年月日が紐付けられたデータから個人を識別する情報が取り除かれ(非識別化処理)、「○日○時、男性、40代」というデータにしてから、市場シェア約5割となるドコモの普及率を加えて人口全体を推計する。これにより、国勢調査と同じく、500m四方における人口が推定できるようになるが、ある部分での人口が「6人」しかいない場合など、極端に少ない場合は、「秘匿処理」を行う。これは隣の地域と混ぜたり、平日13時~14時のデータではなく、平日13時~17時にするなど集計対象の時間を長くしたりするというもので、国勢調査でも行われている手法という。ドコモでは、「モバイル空間統計」の共同研究を行うため、遵守するべきガイドラインを策定、公開している。

 ドコモのエリアカバー率は、全国の市町村役場の所在地で見れば100%となる。集計対象とエリアにおける密度(空間解像度)は、FOMA基地局の設置間隔に依存することから、東京23区では500m間隔程度、郊外では数km単位になる。基地局側で携帯電話の場所を確認する周期は1時間ごとで24時間365日行われる。

 こうして集められた「モバイル空間統計」を日本国内の地図にあてはめると、平日の朝は、郊外→都市部へ人口が移動し、夕方から夜にかけて郊外へ戻る、つまり帰宅することがわかる。ドコモが示した東京都心のグラフを見ると、平日10時は東京中心部に人が密集しているが夜になると徐々に人が減る。23時になると新宿や池袋には多くの人がいる一方、周辺にまんべんなく人が存在し、帰宅している様子がわかる。また、年齢・性別で新宿と巣鴨を見比べると、平日昼間の新宿の人口構成(20代~70代)は若い年齢のユーザーが多い一方、巣鴨は高齢者の女性が多いことがわかる。新宿と巣鴨は、人口数そのもので見ると新宿のほうが圧倒的に多いため単純な比較は難しいように思えるが、比率で見比べると、年齢層や性別によって街の性格が浮き彫りになる。

新宿と巣鴨のデータ(平日3時)新宿と巣鴨のデータ(平日14時)

 「人が常に携帯電話を持つ」ことからはじき出されたデータをどう活用するか、今回、ドコモと東大が研究を行うことになった。

共同研究でデータの精度を高める

 千葉県柏市を舞台に行われる今回の研究は、ドコモと、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻の清家 剛准教授(建築・都市計画研究)が共同して行う。柏市の人口構成や人口流入出から、関係性を分析し、今後の街づくりに活かすことを目指す。

ドコモ先進技術研究所の岡島氏

 ただ、「モバイル空間統計」で示されたデータ、すなわち“人の移動”を示すデータは他に例がなく、正確性を裏打ちするものがない状況だ。舞台となる柏市は、人口40万人、東京の北東約27km(東京駅から柏駅の直線距離)に位置し、東京のベッドタウンとして発展したエリアや、近年開通した鉄道路線による新興エリア、大企業の事業所、東京大学のキャンパスなどが存在する。今回の研究で得られるデータについて、NTTドコモ先進技術研究所主幹研究員の岡島一郎氏は「柏市に依存する部分もあれば、その他のエリアに適用できる部分もあるだろう。研究を通じていろいろ出せると思う」と語る。

 また、高齢者や子供などでは、携帯電話を持っていない、あるいは契約者名と実際の利用者が異なる(親名義で子供が使うなど)こともあり得る。こうしたユーザーによる誤差がどの程度になるかも確認する項目となる。ドコモと東大では、今回の研究を通じて、データそのものが十分なレベルに達しているか検証し、場合によっては精度向上も図る考え。

 現時点ではまだ基礎的な段階とあって、ユーザーの移動データを用いるという点などを含め、社会に受け入れられるか、あるいはどのように役立たせるかは見えていない。ただ、人の動きが見えることで、コミュニティバスの整備、高齢者向け施設の設置場所、公園の改良、職住接近などに活用できると見られている。また社会的なニーズが高まれば、出店計画の一助としたり、商圏を分析したりするなどビジネスでの利用も期待できるが、まずは社会全体へ寄与するため、公共分野での有用性について研究が進められる。その成果は、学会などで別途発表される。

社会的有用性はいくつか挙げられるが、今回は公共分野での研究共同研究の概要
今後のフェーズドコモでは社外の有識者による研究会も開催

 



(関口 聖)

2010/9/15 18:10