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ドコモがモバイル空間統計を実用化、商圏調査でも利用可能に
(2013/9/6 18:47)
NTTドコモは、携帯電話ネットワークを利用し、地域ごとに、時間、年齢、性別、居住エリア別の人口分布を推計できる人口統計「モバイル空間統計」を実用化し、10月より提供を開始する。これまで共同で検証が行われてきた公共・学術分野に加えて、産業分野にも提供する。ドコモの子会社であるドコモ・インサイトマーケティングを通じたリサーチ事業として展開し、調査依頼に基づいてデータを提供する。提供価格はデータの規模により異なり、数百万~数千万円になる見込み。今後5年間で、数十億円単位の売上を目指す。
ドコモが提供する「モバイル空間統計」は、携帯電話ネットワークの基地局が利用する運用データを活用するもの。運用データから個人情報を除去した上で、ドコモユーザー以外も含む特定エリアの「人口分布」を推計し、国勢調査などこれまでの人口統計にはない時間や年齢、性別、居住エリアといった項目で分析できる統計情報が実現されている。また、同社の携帯電話サービスのエリアである全国すべての市区町村を対象にできるなど、大規模な調査も可能になっているのも特徴。
例えば、東京・秋葉原では男性が多く、原宿では若年層の女性が多いといった情報について、モバイル空間統計のデータで裏付けが可能になるほか、繁華街の昼間人口の分析や、首都圏から都心への流入人口などといった項目を詳細に分析できる。
調査の精度は、携帯電話端末と位置情報をやりとりする基地局の密度に依存するが、都市部など高密度に基地局が設置されている場所では、500mメッシュで分析が可能。郊外では基地局がカバーする数kmメッシュが分析の単位になる。時間は1時間単位で、24時間365日の任意のデータを取得できる。性別に加えて、15~79歳の人口分布を調査可能。これら推計されたモバイル空間統計のデータは年間でペタバイトクラスのデータ量になるとしている。
一方、基地局の密度を超える空間解像度は実現できないほか、運用データが扱わない、一ユーザーの長期間にわたる位置情報(移動経路)や、国際ローミングなど海外ネットワークでのデータも、調査の対象外になっている。
6日には記者向けに説明会が開催され、これまで開発や検証を続けてきた背景や、「モバイル空間統計」の特徴、実用化にあたって新たに提供できる産業分野での利用イメージなどが紹介された。
NTTドコモ 先進技術研究所 ネットワークシステム研究グループ主幹研究員の岡島一郎氏からは、基本的な携帯電話ネットワークの仕組みから、モバイル空間統計が扱うデータの種類、プライバシーに配慮した個人情報を除去する仕組みや秘匿処理まで、背景から実用化にあたって新たに取り組んだ内容まで説明された。
特にプライバシー保護関連では対応を整え、ユーザー向けに、問い合わせ用の窓口(フリーダイヤル)や、モバイル空間統計にデータを反映させないよう申告できる仕組みも用意する。なお、「モバイル空間統計」での集計および推計では、個人情報保護法の対象になる個人情報は利用されていない。
NTTドコモ スマートライフ推進部 ビジネス基盤推進室 ビジネス戦略担当部長の江藤俊弘氏からは、実用化にあたって新たに提供できるようになる産業分野において、「商圏調査がメインの活用法になるのではないか」と具体的な利用イメージが紹介されたほか、実際にデータを分析し提供するドコモ・インサイトマーケティングについては「リサーチのスペシャリストを揃えた調査会社になっている」と、顧客のさまざまなニーズに応える体制になっていることをアピールした。
なお、モバイル空間統計のデータは有償にて提供されるもので、無償での公開は予定されていない。一方、データは「公序良俗に反していないのであれば、利用目的を聞いた上で、誰にでも提供する」としており、「(仮に)通信レイヤーの競合でも、基本的には提供する」と方針が示されている。