モバイルマルチメディア放送「MediaFLO」、「iPad」で視聴デモ


 携帯端末向けマルチメディア放送に向けて準備を進めているメディアフロージャパン企画と、同社親会社のKDDIは3日、6月7日の免許申請締切前に、海外動向を含めた現状報告を行う記者会見を開催した。プレゼンテーションの途中では、アップルの「iPad」とWi-Fi対応のコンテンツ蓄積型MediaFLO受信端末を使って、iPadでMediaFLOの番組などを利用できる実機デモが披露された。

「iPad」でMediaFLO

iPadと“Pocket FLO”
「ようこそ原口さん」とユーザー名を示してコンテンツを表示

 「MediaFLO」は、米クアルコムが主導するモバイル向け放送規格。米国ではVerizon WirelessとAT&Tが導入しており、AT&T向けチャンネルの1つであるESPNでは今夏のワールドカップ全試合をMediaFLOで放送する。

 現在、米国では番組表通りに映像が放送されるリアルタイムのストリーミング放送が提供されているが、規格上は受信端末側でコンテンツを残しておける蓄積型サービス「クリップキャスト」、天気予報や株価などに代表されるテキストデータを一斉同報で提供できる「IPデータキャスティング」といった機能が実装されている。米国でもこれらのサービスが近日中に導入される見込み。

 今回の会見では、今春発売されたアップルのタブレット型端末「iPad」上で、MediaFLOのコンテンツを楽しめる環境が紹介された。これは、手のひらサイズの端末(会見では“Pocket FLO”と呼ばれていた)でMediaFLOの放送波を受信し、Wi-Fi経由でiPad上で映像や電子書籍を楽しめるようにしたもの。ヤッパと共同開発したという専用アプリは、ストリーミング放送のほか、蓄積された番組、配信されてきた電子書籍を利用でき、番組表や予約一覧など、マルチメディアコンテンツを一通り楽しめる形に仕上げられている。実際に試したところ、動作はスムーズで、すぐにでも商用化が期待できそうな印象を受けた。

 デモを披露した、メディアフロージャパン企画取締役 兼 クアルコムジャパン代表取締役会長兼社長の山田純氏は「iPadのような大画面のタブレット端末は、MediaFLOに最適なデバイス」と表現。映像コンテンツや電子書籍は、通信経由でも配信できるものの、数千アクセスでサーバーなど配信側のインフラが窮迫してしまうのに対し、MediaFLOは放送技術のため、一斉同報でコンテンツを配信でき、より多くのユーザーが楽しめる。国内外でモバイル環境下でのインターネット利用が広がる中、これまでの放送とは違った形で、コンテンツの利用促進に役立つとした。

 また受信デバイス側では、ワンセグとMediaFLOのどちらもサポートできているとして、ワンセグとMediaFLOは親和性が高いなどとも語っていた。

アプリのアイコン番組表とコンテンツ番組表番組表から録画や視聴の予約
書籍も予約リストPocket FLO内のコンテンツをダウンロードして見ることも横長にすると全画面表示で映像再生。超解像技術で映像品質を上げている

 

“委託事業”の新会社設立

 3日午前には、新会社「メディアフロー放送サービス企画」の設立が発表された。代表取締役社長には、KDDIでコンテンツ関連事業に携わり、現在はグループ戦略部部長を務める神山隆氏が兼任する。5月26日付けで設立されており、資本金は5000万円。出資比率は、KDDIが82%、テレビ朝日が10%、スペースシャワーネットワーク・ADK・電通・博報堂が計8%となる。

 これまでMediaFLO関連では、KDDIが80%、クアルコムが20%出資するメディアフロージャパン企画が2005年12月に設立されているが、両社の違いは一見するとわかりづらい。これは総務省が進める携帯端末向けマルチメディア放送の制度が背景にある。

新会社社長の神山氏

 そもそも携帯端末向けマルチメディア放送とは、地上デジタル放送の完全移行後に、これまでアナログテレビ放送が使っていた電波が空くことから、国内での導入が検討されてきた。2007年夏頃から有識者による議論が進められ、アナログテレビ放送跡地のうち、VHF帯ハイバンドと呼ばれる周波数帯は、携帯端末を対象にした“マルチメディア放送”に免許を付与し、ワンセグとはひと味違う形のサービスの実現を目指す。

 免許を獲得できる事業者は、全国各地に放送用インフラを整える「受託放送」と、受託放送事業者へコンテンツを提供する「委託放送」のどちらかになる。受託はハードウェアを受け持ち、委託はソフトウェアを担当することになるが、4年半前から活動してきたメディアフロージャパン企画はハード事業者としての参入を目指す一方、今回設立されたメディアフロー放送サービス企画は、ソフト事業者を目指す。

 ハード側の受託事業者は1社のみになる予定で、6月7日まで申請を受け付ける。早ければ7月中旬にも受託事業者が決まると見られているが、委託事業者の免許付与についてスケジュールは決まっていない。ただ、KDDI側では、2010年度後半にソフト側の委託事業者に関する指針が示され募集が行われると想定しているという。

 神山氏は、EZチャンネルなどの既存サービスは、他キャリアの動画サービスに比べ、利用率が高いことを明らかにし、有料サービスが中心となるため個々人の嗜好にあわせたコンテンツ配信になるとしてターゲッティング広告への期待感を示した。また委託事業者やコンテンツホルダーにとっては、受信端末がどれほどエンドユーザーへ普及するかが最も重要と指摘。海外での実績があるMediaFLOは、国内メーカーにとって海外展開が期待できるほか、受信装置の低廉化が見込めるとして、ライバルとなるISDB-Tmm方式より有利な点があるとして、MediaFLO方式の採用を前提に、今後の準備を進める方針を示した。

会社概要広告面でも期待委託事業者として参入を目指すテレビ朝日やADK・電通・博報堂などが参画

 

透明性を確保した審査を

増田氏

 ハード側を担当する受託放送事業への参入を目指すメディアフロージャパン企画代表取締役社長の増田和彦氏は、MediaFLOの概要や沖縄で行った実証実験の概要などを紹介した。

 同氏は、通信サービスの場合、ユーザー自身の手でコンテンツへアクセスするという能動的なアクションが必要な一方、その能動性がコンテンツ利用の障壁になっている可能性もあるとした。ひるがえって放送サービスでは、ユーザー自身が受け身のままで最新コンテンツを利用できることから、通信サービスよりもコンテンツ市場の拡大が期待できると説明。パケット通信料を気にするユーザーであっても、通信料がかからない放送型サービスであれば積極的にリッチコンテンツが利用できるとした。

 米国をはじめとして海外のMediaFLOでは、UHF帯と呼ばれる周波数帯域を利用することが多いものの、日本では異なる周波数でマルチメディア放送を展開する予定となっている。技術的なノウハウが、海外と日本でも異なることになるが、受信デバイスはそういった差を吸収しており、沖縄での実験を通じてノウハウも得られたという。全国的に同じ周波数を用いる(SFN、Single Frequency Network)ことについても必要なデータが取得できたとした。

 1社のみ選ばれる予定のハードを担当する受託放送事業者は、複数事業者が応募すれば審査が行われる見込みで、総務省が昨年11月、参入希望事業者がどの程度存在するか調査している。増田氏は「実質的に2社から審査されることになるだろう」と述べ、ISDB-Tmm陣営(NTTドコモなどが企画会社を設立)と競合になると予測。ISDB-Tmmは、日本国内で開発、導入された地上デジタル放送の発展版と言える規格だが、増田氏は「ISDB-Tmmは13セグメント受信で、ワンセグと別のデバイスが必要。(総務省側で)国産技術にとらわれず、どうフェアに評価されるか」と主張した。会見後、あらためてその真意を尋ねたところ、増田氏は「比較審査ということになると思うが、その審査の経緯をオープンにして欲しいということ。通信事業では、(2.5GHz帯の免許付与などで)比較審査が行われ、公開ヒアリングなども行われた。一方、放送事業でかつて比較審査が行われたことはないのではないか」と語り、透明性を確保した審査を求める姿勢とした。

想定スケジュール沖縄での実験状況ワンセグとMediaFLO、両対応できるという簡潔受信するMediaFLOは消費電力でも優位とアピール
ISDB-T(ワンセグを含む現行地上デジタル放送の規格)と、マルチメディア放送のISDB-Tmmの違い審査の透明性を求めたICTタスクフォースでの発言は、MediaFLO陣営の姿勢と合致するとした米国で商用となっている端末などがずらり
Chrome OS上で動作Windows Mobile端末でもデモ。Android端末はなかったW64SAでのデモUSB端末を装着

 



(関口 聖)

2010/6/3 15:44