エリクソン、LTEとHSPAのロードマップを解説


日本エリクソン 代表取締役社長のフレドリック・アラタロ氏

 エリクソンは、2月にスペインで開催されたMobile World Congress 2010で同社が発表した内容を中心に、都内で記者向けに説明会を開催した。LTEやHSPAなど、今後数年の通信方式のロードマップや、ネットワークベンダーとしての新たな取り組みが紹介された。

 日本エリクソン 代表取締役社長のフレドリック・アラタロ氏は、通信業界にIP技術やクラウドコンピューティングといった新しい技術が登場し、またアジア地域で急速にブロードバンドが発展している様子に触れながら、「ブロードバンドがすべての分野に入り、効率が上がる。世界的には初期段階だが、今後はすべての産業で導入され、新たな方向で使われることになる」と述べ、家庭やオフィスだけでなく、将来的には医療や防災、警察、建築現場など、さまざまな分野でブロードバンドが利用されるとした。

 世界的にモバイルブロードバンドの契約者数が急速に伸びていることや、通信事業者の収入においても音声通話に比べてデータ通信が大きく伸びているデータを示した同氏は、世界的にHSPAが普及して成功しているとし、133カ国で315の商用ネットワークが存在し、4億5000万の加入者、214社のメーカーから2137種類の端末が提供されていると紹介した。また、今後はHSPAを進化させ、理論値で下り最大42Mbps、84Mbps、468Mbpsと発展していくロードマップを示し、規格の策定が進めば今後も進化していくという将来性も示した。同氏は「42Mbpsは、2010年に日本と世界で同時に登場するだろう」と述べ、日本国内においても展開される見通しを明らかにした。

モバイルブロードバンドの拡大HSPAが世界中に普及しているとした

 一方で、新たな通信方式となるLTEについても今後の展開を示した。2009年は理論値で最大50Mbps、実効値で下り5~30Mbps、上り1~10Mbpsでサービスが提供され、2010年は理論値で最大150Mbps、実効値で下り10~100Mbps、上り5~50Mbpsになるとした。2014年には、理論値で1Gbpsにまで高速化される見込みになっている。なお、LTEは北欧の通信事業者、テリアソネラが2009年末からストックホルムで商用サービスを開始している。

 世界のキャリアにおけるLTEへの取り組みは、北米を中心に大手通信キャリアが名乗りを上げており、ベライゾン、AT&T、NTTドコモなどがエリクソンを基地局ベンダーに選定している。KDDIはLTEの導入を表明しているが、基地局ベンダーにエリクソンは選ばれていない。これについてアラタロ氏は、「まだ何も無いが、KDDIと事業をできないかと考えている」とコメントし、KDDIにアプローチしていく姿勢を明らかにした。

 同氏は日本市場での展開において、NECや富士通などと競合するとしながらも、大規模なサービスを提供できる組織力が強みとし、また機器の面では「エリクソンの機器なら、いつアップグレードするかを選べる。好きな時期にLTEを開始できる」と柔軟性の高い基地局ソリューションについてもアピールした。

 同氏はこのほか、低消費電力性・CO2削減に注力した鉄塔型基地局「Tower Tube」の開発や、太陽光発電による電力供給といった取り組みを紹介し、3Gなど新しい通信方式とそれに対応する最新の設備が普及することで、消費電力が削減できている様子を示した。

 エリクソン自体の業績や、各国での調査でダウンロード速度の向上に貢献できているとする調査結果を明らかにした同氏は、同社の従業員数の増加に触れ、通信事業者向けの運用・管理サービスを受託することによるものと説明。通信事業者から従業員が数千人単位で移籍する事例が北米を中心に拡大しており、同サービスの拡大が新たな収益源になっているとした。

LTE 今後の発展の見通しLTE導入予定キャリアと契約者数
日本の通信事業者のロードマップ

 

藤岡氏がLTE、HSPAのロードマップを解説

日本エリクソン 北東アジア最高技術責任者の藤岡雅宣氏

 日本エリクソン 北東アジア最高技術責任者の藤岡雅宣氏からは、MWC 2010でのデモンストレーションや展示内容が紹介され、技術的な観点から今後の見通しが解説された。

 藤岡氏はまず、ストックホルムで商用サービスが開始されたLTEのデータ通信速度を実測値で紹介。FDD、2.6GHz帯で10MHz幅という同サービスは、多くの場所で下り30~40Mbpsを記録しており、安定して高速な通信ができている現状を示した。

 同社では日本のドコモをはじめ、アメリカのAT&T、メトロPCS、ベライゾンなどのネットワーク構築に参加しており、RBS 6201という小型の基地局をコンテナに収納しMWC 2010の会場でも実機でデモを実施している。

 MWCの会場での下り1GbpsというLTEのデモに関連し、同氏はLTEの今後のロードマップを解説した。それによれば、最新のLTE Release 9が3月末に策定される見込み。その後のRelease 10では、キャリアアグリゲーション、高度なマルチアンテナ技術、アップリンクのマルチアンテナ技術、リレーイング(Relaying)といった新たな技術が検討されている。

 藤岡氏からはLTEの音声通話についても言及された。音声通話は、データ通信だけの進化ではないLTEの特徴ともいえる部分だが、GSMAが「One Voice Initiative」として合意した「Voice over LTE」(VoLTE)を発表しており、2011年の第1四半期を目標に策定が進められている。40社以上が参加し、日本からはドコモ、KDDIも参加しており、LTEにおける音声通話の国際標準になる見込みという。

ストックホルムで商用化されているLTEの実測値LTEの今後の技術的進化の方向性
音声通話は「VoLTE」が実質的な国際標準になると見られている

 W-CDMAのデータ通信ネットワークを発展させるHSPAの今後については、すでにイー・モバイルで下り最大21Mbpsのサービスが提供されている点に触れたほか、3GPP Release 8のDC-HSDPAなどで42Mbps、Release 9で84Mbps、策定中のRelease 10で168Mbpsにまで拡張されるとした。

 同氏からはこのほか、ブレードシステムの基地局で柔軟性が向上している点や、前の車の急ブレーキと連携した車載の警告システム、家庭の電力を監視・操作できるシステム、通信事業者向けのアプリケーションストアシステム、家庭のマルチメディア機器を一元的に操作できるコントローラーといった、新たな分野への取り組みも紹介された。

HSPAの直近の拡張予定。国内ではイー・モバイルやソフトバンクモバイルが関わってくるものと思われるHSPA技術は理論値で100Mbpsオーバーを目指す
「ESTORE」はアプリストアのシステムを白紙の状態で提供するもの。エンドユーザーにエリクソンの名前は示されないこちらはMWCにおいてもデモが行われたIPTVリモート端末。テレビを操作でき、この端末をセカンドテレビとしても利用できるというコンセプト

 

「LTEとHSPAは競合するだろう」

 質疑応答の時間で、進化するHSPAと初期のLTEをどう棲み分けていくのかについて問われると、アラタロ氏は「多くの通信事業者が自問している問題で、HSPAとLTEは競合するだろう」と認めた上で、「LTEは新しいプラットフォーム。HSPAは成熟した技術で、端末についてもコストを抑えられる。今後数年でLTEは急速に発展するだろうが、変わってくる要素もあるだろう。ひとことでは言えない」として、現在では難しい判断になっている様子を窺わせた。

 また、急速に成長している中国のベンダーとの競争についてアラタロ氏は、「研究開発への投資を増やし、テクノロジーのリーダーを維持する必要があるだろう」と警戒する一方で、「大きな違いはサービスの部分。通信事業者はサービスのアウトソーシングを進めており、これをエリクソンが受託できる点は、中国のベンダーにはない強みになっている」とマネージドサービスなど新たな取り組みに強みがあることを示した。

 



(太田 亮三)

2010/3/15 18:09