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mineoの新サービスの狙いは「生き残るため」
2017年5月31日 20:23
ユーザー数は68万人、MVNOでのシェアは4位に達し、2台目ではなくメインのスマートフォンとして使う人が増えてきている――関西を拠点とするケイ・オプティコムの携帯電話サービス「mineo」は2017年度内の100万契約を目指し、この夏、新たな取り組みを発表した。
生き残りのための「土台作り」
MVNOの拡がりに伴い、事業者同士の競争の結果、MVNOサービスから撤退し始める企業も出てきた。
そんな状況でどう太刀打ちするのか、ケイ・オプティコム取締役執行役員の橘俊郎氏は、生き残りのためには顧客満足、特にサポートサービスが鍵であり、安さだけではなく安心感をもたらすことが重要と指摘。2017年度は、今後の飛躍に向けた土台作りの時期と位置付ける。
mineoの“いま”を示す数字たち
ケイ・オプティコムでモバイル事業戦略グループを率いる上田晃穂氏によれば、mineoの契約者数は68万件(2017年5月時点)。このうち、NTTドコモ回線を利用するDプランは6割、au回線を使うAプランが4割を占める。ただ、最近の単月では、Aプランが若干安いことや、au回線のMVNOサービスを提供する企業が少ないこともあって、Aプランの加入数が2/3となっているという。
サービス開始から3周年を迎えたmineoだが、先の冬(2014年6月~2017年1月19日)までは、音声通話も利用できる「デュアルプラン」の利用者は、全体の60.2%だった。ところが、この4カ月(2017年1月20日~5月9日)のデータを見ると、デュアルプランのユーザーは全体の78.1%を占めるまでになった。この背景として上田氏は、メイン端末として利用されるようになった、との推測を示す。
ユーザー層も、この冬までは女性が26.3%だったが、この春商戦に限ると、女性ユーザーは36.9%を占めることになった。こうした状況にITリテラシーの高い層から最近はマジョリティ層に広がってきていると実感しているよう。
関西では、FTTHサービスでNTT西日本とつばぜり合いを繰り広げる規模でユーザーを獲得しているケイ・オプティコム。mineoのサービス開始当初も関西での認知度が高かったが、2017年に入ってから実施したテレビCMの効果などで全国的に認知度が上昇。特に中部地方では、2016年4月と2017年4月でのユーザー獲得の動向が、2.8倍と大幅に伸びた。
テレビCMは、これまでと違うユーザー層に知ってもらえる効果のほか、既存ユーザーが口コミで伝える際にも「あのCMのmineoだよ」と伝えやすくなる。ただ、CMを展開すればするほどコストにはね返ってくるため、「やり過ぎは禁物。コストのバランスを見ながら、適切にやっていく」(上田氏)と考えているという。
ファンとともに成長目指す
堅調に成長を続けるmineoだが、MVNO市場は淘汰が始まり、厳しい競争に晒され続けている。
「サービスはそこそこで価格は安いというところからスタートしたのがMVNO。一方、大手キャリアはサービスが充実し店舗も多く価格は高いというもの。しかし、最近は両者が似通ってきている。価格だけではなく、mineoにしかないサービスがあるから加入したとオンリーワンの存在を目指したい」(上田氏)という現状分析から、mineoでは「Fun with Fans!」と名付けたブランドステートメントを掲げる。
「Fun with Fans!」の具体的な取り組みのひとつは共創戦略。つまりユーザーとともにサービス改善を図り、新たな機能を開発するといった取り組みを続け、ユーザーの満足度などを向上することを目指している。共創戦略に基づく独自の取り組みのひとつは「マイネ王」と名付けられたユーザー向けサイトで、現在のマイネ王ユーザー数は21万人とのことで「兵庫県宝塚市の人口(22万人)とほぼ同じ」(上田)という規模まで育ってきた。
マイネ王を利用するユーザーはマニアックな人もいるが、マニアだけのコミュニティというわけではなく、初心者からの質問があればスピーディかつ的確に返答してくれるような、熱心なユーザーが多いと上田氏は語る。
ファン∞とくの狙い
6月から始まる「ファン∞とく」「大容量コース」などは、ユーザーからの要望を踏まえ、新たに産みだされた“共創”サービスと位置付けられる。
このうち長期ユーザー向け「ファン∞とく」は、ユーザーを囲い込む施策のひとつ。
サービス開始から3年目を迎えたmineoには、大手キャリアから移行する人が8割を占めるものの、他のMVNO、あるいはワイモバイルといったサービスから乗り換える人もいる。mineoにとっても他社へユーザーが乗り換える自体は、想定できるため、ユーザーに使い続けてもらうために「ファン∞とく」といったサービスを今回、提供することにした。
ユーザーのうち3割が紹介で加入しており、その流れを分析すると、「ITに詳しいお父さんが加入すると、その後、お母さんを誘う。その後、お母さんはからは子供、知人、祖父母を誘う。お父さんは職場の同僚などは誘わないということがわかってきた。口コミが起きやすいようにするにはどうしたらいいか」(上田氏)という考え方で、mineoではキャンペーンを組み立てるようになってきた。「ファン∞とく」の手数料無料コードは、ユーザー自身で複数回線を契約しやすくするというよりも、口コミで加入しやすくするための施策だ。
夏の新機種はあと3つ
「Fun with Fans!」で、共創戦略と並び立つもうひとつの戦略は「安心戦略」だ。これはサポートサービスなどの充実が挙げられ、その一環がSIMロックフリースマートフォンをmineo自身が取り扱うことも含まれる。
今回は、「すごい売れてると聞いたので、mineoでも入れたいなと思って」(上田氏)という理由で、ファーウェイの「nova lite」が取り扱われることになった。
ただ、新機種はnova liteだけではなく、6万円前後のプレミアム機種(Dプラン専用)を6月中旬、3万円前後でA/Dプラン両対応のメイン(主力)機種が2機種、投入されることがあわせて明らかにされた。
ドコモからのMNP、どうして数分で完了できるの?
6月1日から、mineoの顧客システムと、NTTドコモの顧客システムがオンラインで接続され、最短数分でMNPによる転入受付が完了するようになる。
これまでは、契約時にユーザーが記入した用紙を見ながら、ドコモのシステムである「アラジン」に手入力する端末を操作していた。その入力結果が戻ってくるのを待って、mineo側で再び処理する、という手順であり、時間がかかる形だった。
今回は、ドコモが用意したAPIを使い、オンラインで直接システム同士を接続し、人の手を介さず処理できるようになった。ここまでは他のMVNOでも同じような仕組みを採り入れているが、上田氏は「おそらく我々がトライしたのは、全国各地からたくさんのリクエストがあっても、短い時間で処理できることを担保したかった、ということ。検証して、たくさんリクエストが発生しても、きちっとレスポンスがあるものを実現できていると思う」と自信を見せた。
接続料が下落しても……
MVNOは、大手キャリアから回線を調達し、その上で独自の価格を設定してユーザーへ提供している。この回線調達にかかる費用は「接続料」と呼ばれる。いわゆる“原価”のひとつだ。
接続料は、国の方針もあって、年々下落しているが、その分、MVNOの値下げに繋がるかと言えばそうではない、と上田氏は語る。これは、ユーザーの通信量が増えているためで、接続料が下がって調達のための原価が減るように思えても、通信量増加→快適な通信品質を確保するため、さらに多くの回線を調達する→原価が増え、接続料単価の下落と相殺されているためだという。
UQ、ワイモバイルは公平?
UQ mobile、あるいはワイモバイルと、MVNOのようなサービスを大手キャリアがサブブランドとして提供し、過去の総務省の有識者会合で、ケイ・オプティコムはMVNOと公平な競争をしているか、警鐘を鳴らしていた。
31日午前には、通信サービスに関する有識者会合が総務省で開催されたとのことだが、上田氏は「今はまだ中間段階とのことで、我々としては健全な市場になるにはどうしたらいいか、総務省と相談していくことになる」とコメント。
大手キャリアと同等の通信速度、品質を実現するには、どの程度の費用がかかるか、MVNOという立場だからこそわかる。「原価はこのくらいになるはずだけど、MVNO事業として本当にちゃんとやっていけているのかな、という率直な疑問はある」と上田氏は述べていた。
ちなみに、他社からmineoに移転するユーザーの中には、「他のサブブランドには2年目には料金が上がるものがあり、そういうものがイヤだという方もいる」(上田氏)という。
日経電子版とセット回線の動向は?
今春、日経電子版とセットにした通信サービスを開始したケイ・オプティコム。ユーザー数は目標に届いていないとのことだが、加入する人はmineoと全く違う、と上田氏。
上田氏によれば加入者の9割は男性で、20代、30代の男性ユーザーも多い。ただ、既に日経電子版を使っていた人かどうかはわからないという。6月からはまたキャンペーンを実施して、訴求力を高めていく方針。