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ビョークの衝撃的なPVを最先端のVR動画で堪能「Bjork Digital」

お台場の日本科学未来館で7月18日まで限定で展示

 東京・お台場の日本科学未来館では、6月29日から7月18日までの18日間限定で、アーティスト・ビョークのVR動画で制作されたプロモーションビデオを最先端の機材とともに展示する「Bjork Digital―音楽のVR・18日間の実験」が開催されている。会場は日本科学未来館の7階、イノベーションホールほか。入場料は2500円(税込)で、火曜日は休館。

 「Bjork Digital―音楽のVR・18日間の実験」は、ビョークが世界各地で開催する、VRでの音楽体験を提供するイベント。サムスン電子の「Gear VR」を利用したVRのプロモーションビデオを体験できるコーナーが2種類(2曲)と、HTCの「HTC Vive」を利用した最新のVRプロモーションビデオ(日本初公開)を体験できるコーナーが1つ(1曲)用意されている。視聴時間は、3つのVR展示の合計で45~60分程度になる。

 展示ではまた、ビョークがソロデビューから制作・発表してきたプロモーションビデオ29作品を、本展示のために7.1chでリマスターし、2時間におよぶ映像として映画用の設備で上映する展示も用意されている。

 このほか、5年前に制作され、北欧では教育機関でも採用されているという音楽に関する教育アプリも展示され、体験できる。

 ビョーク本人が音にこだわっていることから、VRの展示、アプリの展示では、すべての機材でBowers & Wilkins(B&W)の高級ヘッドホン(P5とP7)が使用されている。

 ビョークが進める展示会の全貌は明らかにされていないが、すでにシドニーで開催され、1国1都市を基本に、日本の次は秋に開催が予定されているという。

体験してみた

 「Gear VR」を使って体験するのは、「Stonemilker VR」と「Mouthmantrar VR」の2つ。どちらもスマートフォン用のVRアプリなどですでに配信されている作品だ。「HTC Vive」が使用される「Not Get VR」はシドニーに続く展示で、日本初公開となる。

「Stonemilker VR」

 「Stonemilker VR」はアイスランドの海岸で撮影された映像で、ビョークのPVとしては、比較的ストレートな映像として仕上げられている。楽曲はアルバム「Vulnicura」に収録されている「Stonemilker」。固定された360度撮影のカメラの回りをビョークが歌いながら歩きまわるという映像で、ステレオヘッドホンの音もビョークがいる方向に追従する。

 曲の後半には、ワープしたかのようにほかの海岸に場所が変わり、ビョーク本人の映像にもちょっとした仕掛けが用意されているが、基本的には、ビョークが歌っている様子を間近でじっくりと見られるという、いわばVR映像の入門編とでもいうべきもの。海岸に“視聴者とビョークだけ”という映像にするため、実際の撮影時にはカメラを設置した後、スタッフは見えない場所まで退避したとか。

「Stonemilker VR」 (C)Andrew Thomas Huang

「Mouthmantrar VR」

 「Mouthmantrar VR」は、「Stonemilker VR」のストレートで平和な仕上がりから一転、ビョークの口の中を360度撮影のカメラで撮影、視聴者は歌っているビョークの口の中から外を見るという衝撃的な作品に仕上がっている。まるで内視鏡で内臓を見ているかのような(実際に内臓のようなものだが)うねうねと動く口内の映像は、舌の動きや歯の裏側も見られるほか、上唇や鼻の穴が大写しになるカットもあり、さらに独特の加工や効果で、インパクトの強い映像として仕上げられている。倒錯したビョークファンにはたまらない映像かもしれないが、VRの相乗効果で衝撃度は非常に高い。ノーマルな人が視聴する際は万全の体調で臨みたいと感じた。

 楽曲はアルバム「Vulnicura」に収録されている「Mouth Mantra」。映像監督はJesse Kanda。制作秘話としては、すべてのカットをビョーク本人の口内で撮影することが困難だったため、一部はビョークの口内を再現した3Dモデルになっているという。ただし、どこが3Dモデルの映像かは、まず分からないとか。もっとも、体験した筆者からすると、本物かどうかはすでに問題ではなかったのだが……。

「Mouthmantrar VR」 (C)Jesse Kanda

「Not Get VR」

 3つのVR展示の最後は、現在市販されている最先端のシステムである「HTC Vive」を利用した「Not Get VR」。同システムは体験者自身の移動を捕捉できるルームスケールVRということもあり、「Not Get VR」でもある程度ユーザー自身が動くことで、VR映像内の視点も移動できる。ただし展示会場は広くないので、一歩動いて場所を調整するといった程度。映像自体も、ユーザーが何歩も動く必要は感じなかった。

 楽曲が始まると、目の前には銅像のような、泥のような、暗い表面テクスチャーの女性が現れる。ビョーク本人の動きをキャプチャーしたか、映像を変換したものと思われ、歌いながら、生々しく動いている。表面は光りの粒で、顔の周辺には電飾のような光る飾りが施されている。既存の作品同様にアート志向の強い映像だが、特筆すべきは「HTC Vive」により、立体視が可能なコンピューター・グラフィックス(CG)として描かれている点。奥行き、立体感、厚みといったものを両の目でしっかりと捉えることができ、360度の動画よりも一段踏み込んだ“実在感”に驚く。「等身大だとするなら、ビョークってけっこう背が低いのかな?」などとリアルさゆえの余計な感想も抱いた。

 曲が後半に入ると、ビョーク(と思われるCGの人)が光りはじめ、顔も光る仮面に彩られていく。人体を透明にしたかのような輪郭のみが分かるモデルに変身し、生々しく動きながら、太ももやお腹の向こう側の輪郭まで透けて見える描写に、自然とドキドキしていく。また変身後は、身長が2mを超えたのではというサイズにまでどんどん大きくなっていく。手を振ると火花を散らすような効果もあり、一体目の前で何が起こっているのか、次はどうなるのか、と夢中にさせられる作品になっていた。

 「Not Get VR」の映像は、担当者いわく完成したと思っているが、ビョーク本人は完成していないと考えているとか。(ビョークにとって)展示企画自体も進行中とのことで、今後も改良や変更が行われるのかもしれない。

「Not Get VR」 (C)JREWIND VR

VRは「もっとロジカルで親密なパワーを秘めている」

 ビョークは展示にあたって、VRについて「ライブでもCDでも実現できなかった、自分と鑑賞者を親密につなぐツール。新しい音楽体験をもたらすシアターだと考えている」との考えを表明している。特にCDのような、視聴者がひとりで聞く音楽の体験を、大きく拡張するものとして捉えているようだ。

 展示会場で来場者向けに記されたコメントでも、「ヴァーチャル・リアリティは、いわばプライベートに楽しむサーカス。単にミュージックビデオが進化したものではなく、もっとロジカルで親密なパワーを秘めている。テクノロジーの助けを借りて、もっともあなたと一体になれる作品を選んだ」と、VRが映像だけでなく人の内面に訴える力があること、それがアーティストと鑑賞者の新たな関係に繋がることを示唆している。