「GALAXY S II」韓国開発陣に聞く

グローバルモデルをベースに日本の高い要求に応える


サムスン電子本社

 サムスン電子は今夏、NTTドコモに最新のフラッグシップモデル「GALAXY S II」を投入する。GALAXY S IIは、1.2GHzのデュアルコアCPUや4.3インチの有機ELを搭載するなど、多数のスマートフォンが登場する今夏の中でも、とくにハイスペックなモデルのひとつだ。一方で日本版GALAXY S IIにはワンセグが搭載されるなど、日本向けカスタマイズもされている。そのGALAXY S II、グローバルでの発表自体は2月だったが、韓国で5月に発売されたばかりで、6月23日の日本発売は、グローバルとのタイムラグが非常に小さい。

 どのようにして、この早いタイミングで日本版GALAXY S IIを投入できたのか。GALAXY SからGALAXY S IIへの進化ポイントも含め、日本版GALAXY S IIの開発を担当したバン・ヨンスク氏、ウォン・ジュンホ氏、リ・スクキョン氏、ジョ・チョルホ氏、そして東アジア担当のSenior Vice Presidentのチョウ・ホンシク氏に、韓国ソウルにあるサムスン電子本社にてグループインタビューをする機会が得られたので、その模様をお伝えする。

――まずGALAXY SとGALAXY S IIの違いをお伺いしたいのですが、ユーザーエクスペリエンス(UX)面ではどのような違いがあるのでしょうか。

サムスンのウォン氏、リ氏、バク氏

ウォン・ジュンホ氏
 サムスン独自の「Touch WIZ UI」としての流れを受け継ぎながら、GALAXY S IIではいくつかのポイントが進化しました。まず「ライブパネル」です。ホーム画面のオリジナルウィジェットは、その大きさを調整できるようになりました。さらに本体内の加速度センサーを使ったジェスチャー機能や壁紙が時刻や天気によって変化する機能、ホーム画面のページ切り替えの際の3Dエフェクトのといった機能が追加されています。

――UXの面でグローバル版から日本版など各国版への変更はどのような形式でやられているのでしょうか。

ウォン・ジュンホ氏
 グローバルのUXをベースに、各国のキャリアの考えを反映してカスタマイズしています。欧州やアジアはグローバルの共通仕様で発売していますが、それ以外のアメリカ、中国、日本、韓国はそれぞれカスタマイズモデルとなっています。カスタマイズの内容はケースバイケースで、OSの深い部分にまで手を入れることもあれば、プリインストールアプリを変更するだけのこともあります。

――日本向けカスタマイズはどのように行っているのでしょうか。

ウォン・ジュンホ氏
 日本にデザインセンターがあるので、日本版のGALAXY S IIは、そちらのスタッフと一緒に作りました。

――日本向け製品を作るにあたって気をつけているところなどはありますか?

ジョ・チョルホ氏
 日本市場は独特な面があるので、一生懸命に分析をしています。日本のケータイ市場は品質のレベルも非常に高く、いろいろな機能が安定していて互換性があることが望まれています。

 とくに注意しているものの一つが文字入力です。この部分は日本のユーザーの見る目が厳しいところなので、力をいれました。このように、同じ機能でも、日本人と韓国人で考え方に差がありますが、そこを日本に合わせるべく頑張りました。

韓国版GALAXY S II。韓国版もモバイル向けテレビ放送に対応している

――GALAXY Sからユーザーの要望で変更し、GALAXY S IIに反映したポイントは?

ウォン・ジュンホ氏
 まずはワンセグを追加しています。その他の声としては、プリインストールアプリを整理して欲しい、という声もあったので、ユーザー層に合わせたものにするよう配慮しています。

バン・ヨンスク氏
 グローバルでいうと、GALAXY Sのリアカバーはグロス仕上げで指紋が付きやすいという声があったので、GALAXY S IIでは指紋が付きにくいテクスチャーに変更しました。しかし、日本版GALAXY S IIでは、キャリアからの要請により、グロス(ツヤあり)仕様のパネルになっています。

――GALAXY SからGALAXY S IIに進化するにあたり苦労されたポイントは?

バン・ヨンスク氏
 薄くなるにつれて、カメラモジュールの入っている部分が出っ張ってきます。この出っ張りを減らすために、ディスプレイの配置とどのように組み合わせて、全体を薄くするかに苦労しました。

――GALAXY S IIではデュアルコアCPUを搭載されていますが、そのパフォーマンスはAndroid 2.3で発揮できるのでしょうか。

ジョ・チョルホ氏
 Androidだけの問題ではなく、ほかの部分にも制限があります。サムスン電子としても初めての採用製品なので、パフォーマンスを100%発揮できたとは言えないかも知れません。これからいろいろな面を加え、進化すると考えています。

――GALAXY Sシリーズはサムスン電子製のCPUを使っています。自社製にこだわりがあるのでしょうか?

ジョ・チョルホ氏
 とくに自社製にこだわっているわけではなく、比較して条件に合っている良いものを選択した結果です。Snapdragonを採用しているモデルもあります。逆にGALAXY Sシリーズで実績を作れれば、半導体部門としても、CPUを売りやすくなるという効果もあります。

――GALAXY S IIとなって画面がさらに大きくなり、手の小さい人には操作しにくくなるのではないでしょうか。

ウォン・ジュンホ氏
 そこは非常に悩んでいる部分でして、たとえばホーム画面のページを移動するとき、画面上のドットをドラッグすることですばやく切り替えられるようにしたりしています。これからもこうした工夫を重ね、改善していきたいと考えています。

こちらは先日発表されたGALAXY Tab 10.1。手に持つと驚くほど軽い。見ての通り一部日本語化も進んでいるので、日本投入にも期待したいところ

――GALAXYシリーズではキー付きのデザインをやらないのでしょうか。

バン・ヨンスク氏
 GALAXY SやGALAXY S IIはディスプレイが大きく、タッチの操作性は良いと考えています。もちろん今後の進化については検討をしているところです。

――Android世界では速いペースで動いていますが、それにどうやって対応されるのでしょうか。

ジョ・チョルホ氏
 Androidにはほかのプラットフォームと違う面があります。その一つは、バージョンアップ速度が速いことです。半年くらいで新しいバージョンが公開されます。さらに、それを製品化するための時間が非常に短くあることが求められます。その短い時間をどれだけ活用できるかが、競争力に繋がっています。

――スピード感のある開発をする上で、Androidの開発元であるGoogleとはどのように連携しているのでしょうか。

ウォン・ジュンホ氏
 最初の頃は情報交換の速度が遅く、対応も時間がかかったりしていましたが、いまでは改善され、リアルタイムで情報交換できるようになりました。

サムスンのジョ氏とチョウ氏

――GALAXY Sは日本市場でもヒット商品となりました。サムスン電子として、これからも日本市場に力を入れて行かれることを期待してよいのでしょうか。

チョウ・ホンシク氏
 私たちの力がある限りやりたいと思います。日本市場は基本的にキャリアの市場です。サムスン電子の力だけで売れたとは思っていません。サービスも販売もキャリアが担当しています。今はドコモさんと非常に良い関係を築けているので、お互いにメリットがあるならば、どこまでもやっていきたいと考えています。そして良い関係を続けられるように、良い製品を投入するなど、私たちも頑張らないといけないかな、とも思っています。

――ほかのGALAXYシリーズ、画面の小さいモデルなどを日本に投入される予定は?

チョウ・ホンシク氏
 そこはドコモさんの考え次第だと思います。たとえばGALAXY AceやGALAXY miniといった画面の小さいモデルもあり、エマージング市場では評判が良いのですが、そういったものはまだドコモさんも導入していません。これはサムスン電子が勝手にやれるものではない、と考えています。

――昨年冬の日本でのGALAXY Sの発売時点では、ライバルとなるAndroid端末も少ない状況でした。しかし今夏の日本には、多数のライバルがいます。その中でサムスン電子はどのように戦われるのでしょう?

チョウ・ホンシク氏
 グローバルモデルをベースに展開することを考えています。日本市場用にカスタマイズしたモデルを出すとなると、Androidのバージョンアップに合わせていくのが難しくなります。簡単にできることには取り組みますが、基本的には、グローバル視点で考えています。一方で、まったく同じというのもありえないので、差別化をどうしていくか、ということも考えています。日本市場の声、グローバル市場の声、どちらかが良い、ではなく、両方の声を聞いていくことが大切だと思っています。

――日本市場におけるサムスン電子の目標やアピールしたいポイントはありますか?

チョウ・ホンシク氏
 日本のメーカーと並んで見てもらえればありがたい、と考えています。サムスン電子は世界で展開していて、世界のトレンドがわかっているので、それがサムスン電子の有利なところです。

――Windows Phone 7についてはどうお考えでしょうか。

チョウ・ホンシク氏
 Windows Phone 7も既存のものは、マイクロソフトも頑張っていて製品としても悪くなかったのですが、結果、市場ではあまり受け入れられませんでした。次のMangoについては、マイクロソフトとも協力しながらやっているので、これからどうなるかは楽しみに見ています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。

充実するGALAXY用アクセサリーも日本へ

d'light内のアクセサリー販売スペース

 さらに今回は、サムスン電子本社にあるショウルーム「d'light」を取材する機会も得られた。d'lightは地上2階、地下1階に渡るショウルームで、1階と2階にはサムスン電子の製品展示や製品を連携させるソリューションの紹介、ライフスタイルの提案、さらには半導体製造の歴史など、非常に多岐にわたった展示が行なわれている。そして地下1階には、サムスン電子の製品と、そのアクセサリー製品が販売されている。

 とくにGALAXYシリーズについては、ほかのサムスン電子の製品(テレビやデジカメ、白物家電など)に比べるとアクセサリーが多いため、カバージャケットなど多数の製品が扱われていた。こうしたアクセサリは、サードパーティが勝手に作っているものもあるが、サムスン電子と連携し、サムスン電子公式のアクセサリとなっているものも多い。サムスン電子が出したアイディアを、サードパーティが製品化しているアクセサリもあるとのことだ。

日本でも登場予定のフォルダカバー付きジャケット中央はGALAXY S II用の車載キット。右は横置き台(こちらはソウル市内の販売店で撮影)

 そうしたサムスン電子公式アクセサリーのうち、Anymodeという会社が手掛けているGALAXY S II用アクセサリーが、GALAXY S IIの発売に合わせて日本に上陸する。たとえばフォルダカバー付きのジャケットがGALAXY S IIと同時に発売されるという。この製品、GALAXY S IIの背面のバッテリカバーを交換するタイプのジャケットで、厚みがあまり増えず、それでいてしっかり固定されるようになっている。バッテリカバーのツメ部分は非常に細かく、しかも各国のGALAXY S IIによって微妙にその位置や大きさ異なるので、こうした製品が作れるのも、サムスン電子自身がサードパーティと綿密な連携を取った結果だという。ちなみに販売価格はだいたい4000円弱くらいとのことだ。

 GALAXYシリーズの人気が高い韓国では、GALAXYシリーズのアクセサリーが充実している。逆にサムスン電子も、そうしたアクセサリーメーカーのニーズを、GALAXYのデザインに反映させる、という動きもあるようだ。チョウ・ホンシク氏も、「サムスン電子はアクセサリ専門会社ではないので、あまり力を入れていなかった。しかしこれからはアクセサリに配慮したデザインを考えないといけない。発売前にデザインを伝える、といった話にもなると思うので、そうしたことに対応できるように社内でも検討をしている」と語っている。

 その成果としては、充電やパソコンとの接続に使うmicroUSBポートが、GALAXY Sでは上端にあったが、GALAXY S IIでは下端に移動した。これにより、日本のフィーチャーフォンでも一般的な、卓上ホルダによる充電が可能になっていて、まずはサムスン純正品のGALAXY S II用の卓上ホルダが日本でも発売される。さらに韓国では、給電付きの車内用ホルダ(吸盤でフロントガラスなどに固定できる)も販売されている。こうしたアクセサリーの展開についても注目したいところだ。




(白根 雅彦)

2011/6/22 12:00