iモード版「ドコモマーケット」担当者インタビュー
目指したのはスピードとオープン性、イノベーション
12月6日、iモード端末から利用できる「ドコモマーケット」がオープンする。法人のみならず、個人が開発したiアプリのほか、レコチョクとの提携による楽曲販売、出版社と協力して展開する電子書籍が用意される。
ドコモが公開している、開発者向けサービスガイドラインには、細かな点まで「iモード版ドコモマーケット」で提供できるアプリについて記されている。そこに掲載されている特徴は以下のようなものとなる。
- 提供アプリに対してエンドユーザーがレビューを投稿できる
- 従来公式コンテンツのみ利用できた、iアプリDXの一部機能(GPSなど)が利用できる
- mixiやリクルート、ヤフーなど一部WebサービスのAPIが利用可能
- 掲載レギュレーションの明示
- エンドユーザーがケータイ払い、ドコモポイントで決済できる
- ドコモが開発者から得る手数料は、コンテンツ価格の20%、およびドコモマーケット利用料(年額2500円、ただし2011年1月末までの登録は初年度無料)
- 配布アプリ内で広告掲載可能
これまでもiメニュー上で、さまざまな公式コンテンツが提供されてきたが、今回「ドコモマーケット」がオープンしたのはなぜか。NTTドコモコンシューマサービス部 ネットサービス企画担当部長の前田義晃氏、ネットサービス企画担当課長の渡辺英樹氏、ネットサービス企画サービス戦略担当課長の山田和宏氏に話を聞いた。
■目指すはiモードの活性化
――まず最初にiモード向け「ドコモマーケット」を提供するきっかけ、背景から教えてください。
ドコモの前田氏 |
前田氏
通信事業者であるドコモの基本的なスタンスとして、ARPU向上を目指すということがあります。そのために利用機会を増やさなければならず、私たちにとっては、ライトユーザー層、ミドルユーザー層のコンテンツ利用促進が取り組みの対象となります。一方、市場が成熟化しているのも事実です。その中でコンテンツ市場の拡大を実現しなければならないわけです。
これまでのiモードも、既存ユーザーにとっては慣れ親しんだものであり、特段不便というわけではないのですが、11年以上提供しており、さまざまなコンテンツプロバイダさん、コンテンツが存在しており、数で言えば2万サイト以上が存在します。こういう中で、ライト/ミドル層の利用に繋がるマーケットが必要だろうと考えました。
理由のもう1つは、スマートフォン市場の動向です。iPhoneにおけるApp Storeのような流れがあり、それを標準機(一般的な携帯電話、iモード端末のこと)側に持ち込むことで、利用拡大に繋げれば、コンテンツプロバイダさんにとってもプラスになる。そうしたスマートフォン向けアプリ市場は、「公式サイト」という枠組みと比べ、オープンになっていることも特徴です。当社の取り組みを“遅い”と指摘される声があるでしょうし、そういった面もあると思いますが、さまざまなコンテンツプロバイダを取り込み、利用の裾野が拡がるのは良いということで、個人開発者も参加できるようにしました。今回の「iモード版ドコモマーケット」により、多数のユーザーが存在するiモードの活性化をはかりたいのです。
――ライト/ミドル層向け、ということであれば、スマートフォン向けに登場した「ドコモマーケット」と同じ名称にしたのは、なぜでしょうか?
前田氏
現在のドコモでは、コンテンツ流通基盤を整理しきれていないところがあります。もちろんどんどん整備しなければいけませんし、既存の流通基盤もやっていかなければいけません。ただ、ユーザーからすると「スマートフォン」も「標準機」も本質的に違いはありません。コンテンツプロバイダさんからすると、スマートフォンと標準機が両立している状況というのは、縦割り行政のような断絶感を抱いてしまうと思います。しかしドコモとしては決して、別々のものとしているわけではないのです。
――同じ名称にすることで、ドコモとしてまとめて取り組んでいる、統一感をアピールする、ということでしょうか。iモード公式コンテンツが多数存在し、ライト/ミドル層での利用を促進する、といった点には、いつから取り組んでいたのでしょうか。
前田氏
iPhone向けにApp Storeがスタートしたときから、ああいうマーケットがどの程度活性化するか、動向を見ていました。そうしたスマートフォン向けのアプリ市場で得たヒントをもとに改善できれば、iモードでも(マーケットサービスが)行けそうだなと感じました。そう思ったのは昨年末くらいです。実際にユーザーがアプリ市場を利用してるんだなと強烈に感じた時期ですね。できる限り早く対応しないと、というモチベーションになったのが昨年末で、実際に開発を模索しはじめ、この12月にサービスできると思ったのは、昨年度末くらいですね。
――目処を得てから9カ月ほどで立ち上げるというのは、早い展開のように思えます。
前田氏
確かに当社の中では異例だと思います(笑)。ですから、システム構築の全てを内部で手がけているわけではなく、外部のリソースもうまく使っています。
■Androidとの連携もにらむ
――今までの話からすると、Android向けのドコモマーケットとは、iモード版と分割することはないと思えますが、実際の体制はどうなのでしょうか。
前田氏
組織としては分かれていますが、互いに補完しあいながらやっていこうと言ってます。まだ完璧ではないですが、今回、「ドコモマーケット」向けに提供する開発ツールはAndroidのDalvik(Javaの仮想マシン、アプリの実行環境)をサポートできる機能を入れていますが、その辺の意味が強いんですね。
ユーザー数の多さを市場価値と見なすならば、iモードのほうが多いですからコンテンツもiモード向けに提供してもらえるのでしょう。しかし、iモード側とDalvik側へ“出力する労力”を共通化できる環境を我々が実現できるのであれば、iモード向けにも提供しながらAndroid向けにも、という形にしてもらえるのではないかと思っています。もちろん細かなチューニングなどを踏まえると、まったく同じもの、というわけにはいきませんが……。
山田氏 |
山田氏
完全に移植するというのは、アプリによって形態が異なりますので開発としてはコストがかかりますが、今回は、例としてVisual Basicのような仕組みで、ビジネスアプリ、それに類したコンシューマアプリの開発サポートを主眼においています。多くのベンダーさんは、画面遷移を設計しますが、その画面遷移がそのままアプリにできますし、iアプリを出力するときに、Dalvik用Androidアプリも出力できます。出力されたDalvik用アプリの骨組みのなかに、Android固有のコードを埋め込んでいき完成度を高めるという形です。
■コンテンツとの接点を増やす
――スマートフォンの動向も影響したとのことですが、スマートフォン向けコンテンツで株式上場を果たした企業、という話はあまり耳にしません。このあたりの動向は影響したのでしょうか?
前田氏
大きく影響していますね。ケータイコンテンツに関わっている方々から見ると、「(スマートフォン向けアプリ市場は)なぜこんなにあっさりしているの?」と思われるのではないでしょうか。コンテンツが売れる場にする、という機能面はまだ完璧ではないでしょう。リコメンドの切り口はさほど多くなく、検索機能もアプリ名称にピシャリと当てはまらなければ、見つからないこともある。このあたりへの対策は、通販サイトと考え方が同じだと思うのです。
そして重要な点は課金ですね。公式メニューでやってきたのと同じように月額課金に対応します。また決済面では、コンテンツの利用促進とiモード活性化、という観点から、ドコモポイントも利用できるようにしました。
――では、今回配慮したポイントとは、具体的に何でしょうか。
渡辺氏 |
渡辺氏
1つはユーザーインターフェイスの単純化です。ライトユーザー向けということで、2クリック、3クリックで購入できるということを目指しました。リコメンド的な、サイト来訪者への提案が、まだキャリアとしてできていない部分がありますので、そのあたりは細かく手を入れています。たとえば、リコメンドのロジックを変更できますので、ランキングロジックや有料/無料、ページビューなど、コンテンツの中に埋もれないようにしています。そこはかなり重要かなと思います。
前田氏
いろいろなリコメンド、切り口を持たなければいけないというのは、携帯コンテンツでサイトを作る上では常識的な話です。「いろんな特集ができるようにしよう」「いろんなランキングを出せるようにしよう」という形ですね。利用者数のみのランキングですと固定化してしまいますから。自動化できるのは、ユーザーの利用履歴のような“強調フィルタリング”といったあたりですが、そうした工夫でどれだけコンテンツの接触履歴をいかに増やすかが重要です。
■決済について
――アプリ価格の20%、システム利用料といったあたりで、開発者からドコモが得る収入がありますが、リコメンド機能を活用して広告を展開することもできそうですね。
前田氏
そのあたりはいずれ手がけようと思っていますが、全てのコーナーでやるわけではありません。広告を掲載する媒体としての価値が今後つくかどうか、まだわかりませんが、コストを負担してでもコンテンツをアピールしたい、という方は存在するでしょうから、そのあたりはD2コミュニケーションズさんとも話はしています。
――さきほど、重要な点として課金機能が挙げられましたが、公式メニューでは「回収代行」であるのに対し、iモード版ドコモマーケットでは、「ケータイ払い」を利用するということですが、何が違うのでしょうか。
前田氏
個人開発者を含め、有料コンテンツを提供する場にしましたので、債権の取り扱いをよく考えなければいけませんでした。つまり、もし有料コンテンツに対して支払わない方が存在する場合、未納分は債権になるわけですが、「ケータイ払い」ですと、ドコモがその債権を保有するのです。「回収代行」ですとコンテンツプロバイダさんが債権を保有しますし、回収のために必要なユーザーの個人情報をコンテンツプロバイダさんへ渡すことになります。しかし、個人開発者が参画する「ドコモマーケット」で、その手法を採っていいのかという課題がありました。そういった点から「ケータイ払い」を用いることにしたのです。
――「ドコモポイント」を利用できるというのも大きな特徴ですね。iモードコンテンツの利用料に充当できる、というのは初めてでしょうか。
前田氏
はい、初めてです。ドコモポイントは、ロイヤリティを高める上で、これまで限定的だった用途を拡大する方向になっています。ARPU向上という観点から、自社内で利用できるようにするというのは、理にかなっているとも言えます。もちろん、他のコンテンツ(ドコモマーケット以外)にも使いたいという要望は重々理解していますが、実際のところ、どの程度使われるかわかりません。まずは状況を見て、今後どの程度拡げていくか考えたいということですね。
■審査期間は2週間以内、機能はオープンに
――iアプリDXの一部機能を開放したり、WebサービスのAPIを利用したりできるようにしていますが、なぜでしょうか。
前田氏
オープンというトレンドを受容するのが大前提です。さまざまなクリエイターを取り込むということで、彼らからのイノベーションをどう喚起するのか。“タガがはめられた中でやってください”というのは、スマートフォンも存在する中では、iモードの魅力が薄くなります。
それにもともとiモードは、インターネットのオープン性という考え方を持っていなかったわけではありません。時代ごとに最適なオープン性を標榜しながらやってきたわけで、時代・環境が変化してきたわけですから、その変化に適合するのは、昔からやってきたことなのです。
――それはよく理解できます。一方で、ターゲット層であるライト層/ミドル層のリテラシーからすると、一定のセキュリティ性を担保する、という考え方もこれまで持っていたように思えます。今回は、そのあたりをどう解決するのでしょうか。
前田氏
まず入口(の審査)ですね。Androidマーケットのように何でもありで、後から、というのはまずいでしょうから、内容的にユーザーへ実害を与えないかどうか、スピーディに審査しようと考えました。またライト層/ミドル層向けではありますが、ヘビーユーザーの方々も利用されるでしょう。個人でレビューしたり通報したりできる仕組みを入れて、安全性を担保できる仕組みにしているつもりです。ただ、それが実際にどうなるか。確かに現状のiモードからすると、緩いのかもしれませんが、ガチガチのままでイノベーションを作り上げることはできません。ある種、そのあたりは一番のリスクかもしれませんが、ライトユーザーでも経験値を積んでいただいて、というのはコンテンツサービス全般の成長で、従来もあったことですし、そういったことを含めて最大限守れるような仕組みにしたと思っています。
――2週間以内に審査すると明言していますね。明示するのは、リスクがあるのではないでしょうか。
前田氏
そこは気合いも必要ですが(笑)、そこが担保されないとやってられないというのがマーケットの声だとすれば、対応しなければいけませんよね。
――レギュレーションの明示も、従来のスマートフォンマーケットとの違いでしょうか。その内容は、従来の公式コンテンツとは違うのでしょうか。
前田氏
いや、それは従来とほぼ同じですね。実害があるかどうか、最低限の審査はしますが、ユーザーからの評価によって、そのアプリの成否が決まるような部分について、我々が立ち入るべきではない、と考えています。ただ、これは良くない、不具合がある、ということであれば、すぐ掲載から下ろすという形になります。一方、公式コンテンツは、ドコモもコンテンツプロバイダさんにとっても「お互いに良いものを作りましょう」と、いわば一蓮托生と言えるモデルです。コンテンツやビジネスの状況は刻々と変化しますが、一緒に作り上げているものに対して、その変化に適合しないからと、ドライに対応するべきではないと思います。
山田氏
ちなみにオートGPSは非対応ですが、GPSは対応しています。このあたりの差が、セキュリティを担保できるぎりぎりのラインの引き方です。ガイドラインに適合しているかどうか、機械的に確認するのですが、たとえば我々が提供するモジュールを利用せずにGPSを利用しようとすると、掲載NG、という形になります。こういう仕組みは、iアプリDX以外にもBluetoothのAPIで採用しています。
――なるほど、APIへのアクセス手段を管理しているわけですね。いずれ、そのあたりにも要望が出そうですね。ただ、敏感になりがちな位置情報などについて、現状から変化させる考えはあるのでしょうか。
前田氏
iアプリDXで開放している機能は、かなり踏み込んでいるつもりです。仮にオートGPSの開放、ということになると、エンドユーザーが自己防衛できる範囲を超えてしまうかもしれませんね。ただ、時代背景としては、昔に比べるとそのあたりへの理解が得られる状況にはなってきたと感じています。
■音楽と電子書籍について
――アプリ中心に話を伺ってきましたが、楽曲と電子書籍も取り扱われます。なぜこのジャンルを手がけることになったのでしょうか。
前田氏
アプリも音楽も書籍もユーザーに対する導線を構築して利用を促進したい、というのは同じ思いです。競争環境を見ると、コンテンツの提供形態としては、公式メニューでの取り組みを一切否定していないのですが、auさんもそういった取り組みを手がけられてますし、アップルさんもiTunesやiBookといったサービスを提供しています。
そうした多くのプレイヤーが登場する中で、切磋琢磨して品質向上に繋がるのは良いことだと思います。ある種、成熟したマーケットの中では、力のあるプレイヤーと一緒にやることで、市場の活性化、利用率の向上といったアプローチが採れるのではないかと考えました。提携するレコチョクさんからは、着信設定しないことでより多くの楽曲を提供できる、価格としてはフレキシビリティがあると、といった話も出てきました。少なくとも日本の提供形態の中、つまりこれまでの取り組みからすると、イノベーションと言える取り組みができると判断しました。書籍については、電子化というトレンドがありますが、楽曲も書籍も、結局ユーザーがたどり着くコンテンツが同じならば、より特化した取り組みを行っている流通のほうが、イノベーションを起こしやすい。コンテンツホルダーさんからの要請もあり、やらない手はない、と。
――御社と大日本印刷さんが取り組む電子書籍とは別サービスですか。
前田氏
そうです。別にした一番大きな理由は、競争環境上、急がざるを得なかった、ということですね。スマートフォンへのサービス提供について検討を進める中、市場にとっては端末がどの程度出てくるかわからないなかで、コンテンツホルダーさんからすると動きにくいでしょう。まずはiモードでスキームを作った上で、売れる場があれば出版社さんからしても乗りやすいのではないでしょうか。スマートフォンを含め、これから普及する電子書籍に対して、ユーザーの多いiモード向けサービスとして立ち上げれば、「こういう形になるのか」と、共通認識を持ちやすくなります。
――アプリは個人開発者も、という形ですが、楽曲はレコチョク、電子書籍は出版社と組むパートナーが決まっています。
前田氏
レコチョクさんもコンテンツを持って見せていく、という普段の運用があり、電子書籍側もシステム構築としては、社内に基幹システムを作ったり、外部にシステムを構築したりしていますが、いろいろとフレキシブルに対応しなければスピード感が出ませんよね。
――スピードを非常に重要視されてますね。
前田氏
スマートフォン推進を高く掲げる一方、iモードもおろそかにせず、磨いていかねばなりません。iモード側について、「スマートフォンでできること」が遅れてiモード端末で実現したとしても魅力が薄くなりますよね。そういった意味でも、サービスを作る僕らとしては危機感を持っていますし、何であれ急ぎたいと考えています。かなり無理をしてでも動かしていく、というのは、これまでと大きな違いかもしれませんね。
■携帯電話のUIも
――今後についてはいかがでしょうか。
前田氏
細かな話はいろいろありますが、今回で終わりというわけではありません。ユーザーから見て使いやすいマーケットにする、という部分では、まだまだ織り込んでいけると思います。使いやすいものを提案してもらう、売りやすいという面でも機能を充実させたいですね。それから、現状はiメニューやiチャネルといった、既存サービスの中で展開していますが、携帯電話のユーザーインターフェイスの中で、どう最適化できるか、しっかり見ていきたいですし、実際検討しています。
――iモード端末にしろ、スマートフォンにしろ、アプリをダウンロードしてもらうのは難しいという話はずっとありますね。
前田氏
結局、アプリ一覧で表示したほうが到達しやすいんですよね。アプリが一覧で表示されるスマートフォンよりiモード端末のほうがわかりにくいですから、そのあたりも含めて、携帯電話のユーザーインターフェイスの最適化を作っていきたいと思います。
――今後のWebサービスでは、HTML5も1つのトレンドですが……。
前田氏
コンテンツのフォーマットについては、マルチであるべきと思っています。対応するフォーマットを増やすことの必要性という意味では、たとえばアプリだけではなくて電子書籍もそうですし、取り組んでいかなくてはならない課題ではありますね。
――ありがとうございました。
2010/12/6 11:17