進化したWindows Live徹底研究
ガラパゴスではなく特色~日本の発想を世界に広げるWindows Live
大幅なリニューアルを遂げ、ケータイでの使い勝手が向上したWindows Live。グローバルな企業であるマイクロソフトが、日本のケータイに注力する意義はどこにあるのか。また、Windows Liveの開発陣は日本というマーケットをどのように捉えているのか。マイクロソフト ディベロップメントのWindows Live開発統括部 統括部長の安達理氏に、狙いを聞いた。
マイクロソフト ディベロップメント Windows Live開発統括部 統括部長の安達理氏 |
――Windows Liveのケータイ版が大幅にリニューアルされました。まず、その経緯や狙いを教えてください。
安達氏
経緯としては、まず去年の3月にWindows Liveの専任開発チームを立ち上げました。それまでも、日本ではインターナショナライゼーションの一環として、色々な製品を開発していましたが、やはりWindows Liveを快適に使っていただくためには日本に根ざしたチームが必要ということで、私たちからもプロポーザルをレドモンド(マイクロソフトの本拠地)に上げました。レドモンドでも、その必要性を感じていたということもあり、両方の合意が取れました。それが、このプロジェクトの始まりです。
――この取り組みは“日本専用”と考えてよろしいのでしょうか。
安達氏
ある意味、日本スペシャルです。ただ、日本単独というよりは、日本をパイロットケースにしようという取り組みです。弊社の場合、ワールドワイドな展開をするサービス、製品を出していますので、あまりアメリカ中心にならず、ほかのマーケットのことも真剣に考えます。それはアメリカで考えるだけでなく、マーケットごとに専任でものを考える人が必要です。私たちの場合は、日本をパイロットにしようというところからスタートしました。それには、日本のマーケットの大きさも影響しています。
――確かにマイクロソフトが日本で持つマーケットは大きいと思います。それ以外にも、何か理由があれば教えてください。
安達氏
やはり、非常に特徴的なマーケットだと思うんですね。アメリカで世界のことだけを考えている人たちにはない発想があります。「ガラパゴスケータイ」という言葉がありますが、自虐的な言葉なので、私は使わないようにしています。むしろ、ガラパゴスというより、それが特色であり、ワールドワイドに展開する際の発想の素にならないかと考えています。大きさがあって面白いですし、特徴もはっきりしているというマーケットだと思います。
ですから、ケータイ版のサービス開発と同時に、Hotmailのデータセンターも日本に移しました。やはりこういうことは、総合的にユーザーエクスペリエンスを上げるために、色々な方策を取らなければいけません。
――データセンターを移したメリットはどこにあるのでしょう。
安達氏
まずデータの読み込み速度が上がります。PC上では30%ぐらいアップしています。ケータイ上では環境にもよるところが大きいのではっきりとした数値は出せませんが、レスポンスが大幅に向上しています。また、日本にサーバーを置き、電気通信事業者としての届出も出しているので、その辺りの安心感を出せるのではと思います。
――日本のケータイサイトは、技術的、デザイン的にもやや特殊なところがあると言われています。この辺りで苦労された点などはありましたか。
安達氏
元々、インターナショナライゼーションの一環として出していたケータイ版のHotmailも存在しました。ただ、それはある意味で、アメリカにあるものをそのまま持ってきただけで、文字が中心で“色気”もありませんでした。確かに、メールを見るという機能は満たしていたましたが、それではどこか物足りません。そこの解析から入っていきました。
また、ケータイは世界で様々なデバイスが出ていますし、それらは1つ1つがかなり違っています。その中で日本では何が特徴なのかを考えていきました。よく言われるのが、iモードの旧ブラウザ(CookieやJavaScriptに非対応のブラウザで、2009年5月に発表された夏モデル以降はこのブラウザを搭載する機種は減っている)で、Cookieがなかったり、CSSに制限があります。こういったところは、やはり検討の対象になりました。現実を押さえないと、お客さまが使っていて気持ちのいいものになりません。マジョリティーなデバイスをサポートしないと、無意味になってしまいますからね。
――一方で、iPhoneアプリでWindows Liveが使えるようになりました。ケータイとスマートフォンの棲み分けのようなことは、どう考えているのでしょうか。
安達氏
ケータイの場合は、ブラウザが中心です。一方で、iPhoneはアプリという形のクライアントが中心です。ですから、iPhoneでは、「Windows Live Messenger」というアプリを通してアクセスしていただく形にしています。もちろん、それ以外の機能を使いたい場合は、ブラウザ(Safari)からアクセスする仕様です。
――機能面でも若干違いがあります。今後、これはスマートフォン版に近づいていくと考えてよろしいのでしょうか。例えば、ケータイ版だとOfficeのファイルが見られませんよね。
安達氏
そうですね。Officeに関しては見られませんが、私たちの発想はちょっと違います。つまり、スマートフォンに近づけるというより、まず日本にはケータイがあり、それがマーケットの中心です。そこで培ったインスピレーションがスマートフォンの方に流れていくという形だと思います。
これが、アメリカの場合は全く逆なんですね。アメリカにはスマートフォン以前にPCがあって、そのサブセットがスマートフォンです。そのスマートフォンのさらにサブセットがケータイです。そのため、いつでもケータイが末端に来てしまいます。ところが、日本のお客さまでそういう考え方を持たれている方は、あまり多くありません。もちろん、PCを元に色々なことをされている方もいますが、ケータイを中心にものを考えている方が多いのが実態だと思います。ですから、ケータイでまずまともにできるようにしよう、その上でお客さまの経験を最適化しようとなります。そのお客さまが、スマートフォンに移行したときに同じような経験ができるようにしようと、ケータイからの発想で仕事をしています。このアメリカと日本の発想を融合させることによって、製品全体を高めていこうとしています。
――ケータイ版にしかない機能もあるのでしょうか。
安達氏
今はありますね。例えば、写真をシェアする場合、ケータイだとカメラがついているので、撮った写真を簡単にアップできます。カメラで撮ったものは皆さんメールで送りますよね? ですから、特定のアドレスにメールで送るだけでアップできるようにしています。これは、PCでもできなくはないですが、滑らかに流れるシナリオを考えると、ケータイが中心と言えます。また、Windows Liveのユーザーではない方と写真をシェアするのも、メールで簡単できます。
開発にあたっては、いかに、日常生活に自然に入るこめるかのシナリオを考えているので、そうすると自然にディテールも決まってきます。
――逆に残念ながら、Hotmailが絵文字に対応していません。
安達氏
確かに、それは私たちの課題ですね。絵文字そのものはないので、検討課題として考えています。
――日本のケータイ版から、PCのWindows Liveの利用を促進していこうという考えはあるのでしょうか。
安達氏
元々はPCのサービスなので、そこは否定しません。ただ、その考え方にプラスして、ケータイのお客さまに合ったものを付け加えたと考えていただければと思います。そういう意味では、ケータイとPCの両方があればベストですね。実際にデバイスの制限はありますから、写真を大きく見たい場合はPCを使うというように、つながりもあります。
――ケータイに注力されてから、何か変化はありましたか?
安達氏
最初のリリースが今年の4月で、まずiモードのCookieがないブラウザに対応しました。新しいHotmailがオンラインになったのが7月末なので、まだ具体的な声はそれほど上がってきてはいません。ただ、数を見ていると、確実にユーザーは増えています。やはりやることをきちんとやれば、モバイル中心のユーザーにも受け入れられるのだと感じました。
――アカウントがちゃんとケータイから取れるというのも、Windows Liveの大きな特徴ですね。GmailだとPCがないと、そもそもサービスを利用することができません。
安達氏
お客さまにも2つのタイプがあると思います。1つが、本当にケータイだけで使っている方。もう1つが、PCは持っていて、その上でケータイをメインにしている方です。私たちは、できればその両方に対応してきたいですね。ですから、マーケティングとも連動して、色々なところでQRコードを見せたりといった取り組みをしています。QRコードは、見ればケータイ対応だとすぐに分かりますからね。
日本向けのWindows Liveは、調布のチームが開発を進めている |
――こうやって日本で培った経験が、今後、ワールドワイドで生きることもあるのでしょうか。
安達氏
実際、すでに私たちの作ったものはワールドワイドで使われています。その意味では、すでにもう生きていると言えます。Hotmailだけでなく、それ以外も、とある拠点で作ったらそれがグローバルになるというのが、マイクロソフトの方針です。それぞれのデバイスに特徴はあるので、違いも出てきますが、基本的には日本のものと同じ形で表示されます。
――アメリカ本社のチームからは、どのように評価されていますか。何か、意識の変化などはあったのでしょうか。
安達氏
まだ1年半ですが、「そういう発想があったんだ」という声をよく聞きます。やはり、日本の発想が面白いと思ってもらえたのだと思います。ガラパゴスケータイという言葉があまりに広がりすぎると、「日本は特殊すぎるからやめちゃおうよ」という話になってしまいかねません。何も説明しないとそういう発想になりがちですが、一緒に仕事をしていると、Similarity(同一性)とDifference(差異)があることに気づいてもらえます。意外と同じこともあるんですね。違いに関しても、何が違うのかよく分かったとなります。
例えば、日本ではケータイメールで、それ以外の国ではSMSです。これは全く別物だと捉えられていましたが、テキストで短いメッセージを送るという利用の形態は非常に近いんですね。こういった“利用する技術の違い”と“お客さまシナリオの同一性”を、上手く分けてディスカッションできるようになりました。
このチームが発足したときにも、アメリカと日本という対立軸は作りたくなかったんですね。なぜかというと、対立してしまうと、「日本のことはよく分からないから勝手にやってくれ」となってしまう。それはよくありません。ある意味ではガラパゴス化を強調してしまうことにもなります。ですから、Windows Liveという大きな部門の中に、HotmailやMessengerのチームがあり、そこに日本のチームを横並びにくっつけるという形を採用しました。それが上手くいって、アメリカのチームも、私たちのことを同僚と見てくれるようになりました。
――ケータイ以外のデバイスに対応する予定はありますか。
安達氏
基本的には同じサービスを、デバイスのデータベースごとに出し分けていくという考え方を採用しています。デバイスのホームファクターによって、いくつかにサイトデザインを分けています。
――ケータイならではの機能にロケーションベースのサービスがありますが、そちらへの対応状況はいかがでしょう。
安達氏
現在は対応していません。これは、今後の検討課題ですね。
――これを言ってしまうと実も蓋もないと思いますが、Hotmailと聞くと、どうしても過去のイメージに引きづられてしまうユーザーも多いと思います。例えば、迷惑メールが多かったといった悪評も、その1つです。この辺りのイメージは、どう変えていこうと考えているのでしょうか。
安達氏
まず、SPAMに関しては、かなり真剣に仕事をしています。漏れはまだありますが、一時期の無防備な頃に比べれば全く別物になっています。お使いいただければ、違いは分かると思います。SPAMも進化していますが、私たちも進化して先手を打つように頑張っています。
一方で、初期にお使いいただいたお客さまが、そのままのイメージを持たれて敬遠されているのも事実です。ぜひそういう方々にも今改めて使っていただきたいですね。一度そういう経験をされると、よさを分かってもらえるのは難しいのですが、製品やサービスそのものを良くしていく、誠実な仕事をすることで、だんだんに理解していってもらえればと思います。開発の仕事は作った製品そのものが語らなければいけないですし、実際そういったものになっていると考えているので、ぜひもう一度使っていただきたいですね。
――本日はどうもありがとうございました。
2010/10/4 06:00