「N-04B」開発者インタビュー

アークラインなのにWi-Fi+DLNA+HD動画に対応できた理由


N-04B

 ドコモの夏モデル、NEC製の「N-04B」は、まさに何でも入りのハイエンドモデルだ。1220万画素カメラはHD動画撮影が可能で、内蔵する無線LAN機能でインターネットにつながるだけでなく、N-04B自身がアクセスポイントになる機能も搭載されている。

 今回はこのN-04Bについて、NECカシオモバイルコミュニケーションズのNTTドコモ事業部 商品企画グループ マネージャーの黒田正洋氏と同グループの石塚由香利氏、同社の第一商品開発本部 マネージャーの岩田慎一郎氏、第一ソフトウェア開発本部 主任の田中秀明氏に話を伺った。

――まずはN-04Bの開発コンセプトを教えてください。

石塚氏
 20代後半をメインに、その前後の年代の方々に使ってもらいたいと企画しました。注力したポイントとしては、デザイン的にブラッシュアップしたことや、無線LAN機能などがあります。また、そういった大きな機能だけでなく、弊社のモバイルサイト「みんなNらんど」でお客さまからいただいたコメント、社内の開発チーム・企画チームが出したポイントなど、細かい部分にも手を入れて改善しました。

 まずデザインのポイントは、前モデルであるN-02Bに比べるとオーソドックスなカラーを用意し、多くの人に手にとってもらえるようにデザインしました。赤と白と黒の3種類ですが、その中でも変化感をつけるよう、グラデーションを施しています。

 形状の面では、開いたときに液晶側とキー側が一体となるような「アークラインデザイン」になっています。開いて使っているときも美しくなるよう、意識してデザインしました。

N-04Bの3つのカラバリ背面パネルはグラデーション仕様。一見すると2軸ヒンジとは思えないデザイン
スリムでシンプルなヒンジ構造
決定キーはアナログスティックのニューロポインター

岩田氏
 ヒンジは薄型のものを新規で設計しました。ヒンジだけではなく、ほかの部分も薄型化しています。これにはただ小さい部品を使うのではなく、商品として成り立たせるために、当然、強度や発熱などにも配慮しています。

 N-06Aでも無線LANを搭載しましたが、どうしてもサイズが大きくなってしまいました。そこで、今回は薄型化に思い入れを込めて取り組んでいます。

 最終的には、2軸と気づかれないようなデザインを実現できたのが1つの成果だと考えています。搭載機能や位置付けはN-02Bに近いのですが、技術的には薄型でニューロポインターを搭載したN-01Bもベースにしています。

 2軸ヒンジ構造にタッチパネル液晶、ニューロポインター、そして無線LANと、すべてを入れ込んだ上でコンパクトなものを目指しました。大きな技術を使ったのではなく、1つ1つ細かい改善・見直しの積み重ねです。

 また、N-02Bに比べると、薄型化のために電池も薄いものを使っています。その分、若干容量は少なくなっていますが、当然それで良しとするのではなく、容量が減っていても実用性は確保できるよう、省電力化にも取り組んでいます。

――省電力性能、電池の持ちというと、Wi-Fiなど電池のもちに影響しそうな機能が多い中、NECさんは強いというのがここ数年のイメージですが、今回も努力されていると。

背面。電池部分がスリムになっている

岩田氏
 電池の持ちに対する改善の要望は強いです。その中で、カタログスペックには書かれないような、たとえばブラウジングをしたりメールを書いたりといった、実際の利用シーンでの電池の持ちについても計測し、他社とも比較し、目標値を定めて対策を講じています。こうしたことで、電池容量の減少分をカバーしています。

無線LANルーターにもなるN-04B

――特徴のひとつである無線LAN機能についてはいかがでしょうか。

石塚氏

石塚氏
 無線LANは従来から搭載していますが、使い方が難しいという声を頂戴していました。そこで、どうやったら使ってもらえるかということを考え、かなり手を加えています。

 まずUIの仕様でわかりづらいところを1つ1つ洗い出しました。たとえば一般的な利用で設定する必要のない項目は、通常時に表示させないようにして項目をメニューの上位階層に配置し、導線をスムーズにしています。ガイダンス機能も充実させました。

――無線LANを使い、N-04Bがアクセスポイントになる機能が搭載されています。タイミング的にはちょうどiPadが登場し、注目を集めていそうな機能ですが。

石塚氏
 率直に言ってしまうと、そういった商品が登場したことで、アクセスポイント機能に関する問い合わせが増えました。興味を持たれている方が多いと実感しています。

黒田氏

黒田氏
 アクセスポイントモードは、「ケータイに搭載されることで何ができるのか」ということが、伝わりづらいところもありました。しかしiPadのような商品が出ることで、アクセスポイントモードの便利さが、皆様の間で共有されたかな、と感じています。思った以上に反響がありました。

――N-02Bに比べて、無線LAN機能向上ポイントは?

石塚氏
 簡単に接続設定するためのものとして、「らくらく無線スタート」と「AOSS」に対応しました。また、同時に接続できる機器も4台までに増えています。

 今回は、ニンテンドーDSと繋がることをキーワードに掲げまして、弊社のWebサイト「NEC mobile」でもニンテンドーDSとの接続方法をご案内しています。

――無線LANも省電力化されているんでしょうか。

石塚氏
 お買い上げの状態ではFOMAだけのシングルモードに設定されています。無線LANを使うときは、カメラキーを長押しして通信モード設定からFOMAとWi-Fiが利用できるデュアルモードに切り替えます。この切り替えのメニュー操作を使いやすくすることで、省電力を意識しています。

岩田氏
 弊社は古くは法人向けのN900iLから無線LAN搭載ケータイに取り組んでいます。ホームUにも最初に対応しました。今回はその長い歴史で培った技術とUIを含め、ある意味、集大成的なものになっています。

 省電力も、基本的にはN-02Bを踏襲していますが、N900iLに比べると、待受時の省電力方式はデバイス側と制御側の両方でブラッシュアップをしました。この省電力は、自信を持って世に出していけるものです。

HD動画撮影に対応したカメラ機能

――今回はカメラが1280×720ドットのHD動画に対応されていますね。

石塚氏
 HD動画機能が、N-04Bの新しいポイントです。デジタルカメラは持ち歩かなくてもケータイを持ち歩く、という人がほとんどだと思いますが、そういった方々に綺麗な動画を撮影していただきたいと考えました。

 機能面では、タッチで使いやすくする改善などを施したほか、N-04Bでは動画撮影中にオートフォーカスが機能するようになりました。

――動画中のオートフォーカスというのは難しいものなのでしょうか?

石塚氏
 従来機種でも、静止画ではコンティニュアスオートフォーカス(常時フォーカスを合わせ続ける機能)がありましたが、動画撮影中、フォーカスは固定になっていました。というのも、動画撮影中にオートフォーカスをすると、フォーカス駆動音が入ってしまうという問題がありました。

 そこで、今回はNECの研究所の方で、カメラの駆動音を打ち消す、といった新たな技術を開発し、それを盛り込むことで、動画撮影中にも少ないノイズでオートフォーカスができるようになりました。

――これはマイクを2個搭載するノイズキャンセリングのようなものなのですか?

岩田氏
N-02B(上)とN-04B(下)のカメラUI

岩田氏
 マイクは1つです。あらかじめフォーカス駆動の特徴音のサンプルを持っていて、それを用いてマイクからの音を処理し、完全に除去できるわけではありませんがフォーカス駆動音だけを抑圧しています。状況に応じてフォーカス駆動音も変わるので、単純に1パターンだけサンプルを入れているわけではありません。このあたりは細かい技術になるのですが、最適なノイズキャンセルが可能になっています。また、フォーカス駆動音だけでなく、周囲雑音なども改善されるように音響チューニングを施しています。

石塚氏
 ちなみに音声はAAC形式なので、綺麗に録音されます。目には見えにくいところですが、映像も音も綺麗にと意識をして開発しています。

――1220万画素のカメラと言うことで、静止画も強化されていますね。

石塚氏
 はい。N-02Bから搭載されているカメラの高速起動と高速撮影の「瞬撮機能」を引き続き搭載しています。ISO感度も高めました。また、UI部分も、クイックショットと通常の静止画撮影の切り替えをわかりやすくしたり、細かい画面遷移の見直し、自動シーン判別のアイコンのカラー化など、使い勝手をよくしています。

黒田氏
 普段使って目にするところを可能な限り改善し、使っている間にストレスを感じないようにと考えました。カタログに書かれるような部分だけでなく、スペックに現れないような細かな改善も重視しています。

メディアスリンク(DLNA)機能で写真や動画を共有

――撮ったHD動画や静止画をどうやって楽しむか、というのも大きなポイントになると思いますが。

DLNAと無線LAN経由でパソコンからN-04Bにアクセスできる

黒田氏
 HD動画へのアプローチとしては、無線LAN経由でパソコンやAV機器と動画や写真を共有する、メディアスリンク(DLNA)機能を搭載しました。

石塚氏
 お客さまに聞くと、ケータイで撮った写真はケータイで見る、という人が多いです。しかし1220万画素のカメラを搭載しているので、やはりケータイの小さな画面ではなく、大きな画面で楽しんでもらいたいと考えています。このケータイの外に写真や動画を出すのを簡単にしたいよね、というところでDLNAに対応しました。

 ほかの視点から言うと、以前から弊社では無線LAN対応機種を出していますが、その無線LANの具体的な利用シーンを提案したいという思いがありました。そこで、写真や動画を簡単に共有できるDLNAに対応することで、ユーザーベネフィットにつなげたい、と考えました。

――これは、N-04Bがサーバーとなり、動画や静止画をパソコンやテレビに出力するという方向と、逆にN-04BがクライアントとなってDLNAサーバーの中身を見られる方向、どちらのアプローチなのでしょうか?

石塚氏
 その両方に対応しています。ケータイの中だけで終わるのではなく、いろいろな機器と連携し、より生活を豊かにしたい、と考えています。その中で、DLNAという規格に対応することで、テレビやNASサーバー、パソコンとつなげられるようになりました。

田中氏

田中氏
 DLNA対応は本当に苦労しました。仕様担当としてメンバーと議論しながら、あまり詳しくないような人に、無線LANとDLNAが使いやすく便利と思ってもらえるように努力しました。

 細かいところでは、端末標準のフォルダをそのままDLNAで共有できるようにするところなど、そういった部分でも苦労しています。標準フォルダとは別に共有フォルダを作るという考え方もあったのですが、使い勝手を重視し、撮影から共有までの流れをより使いやすくしました。

――今回はデータBOXだけではなく、メディアスビューアという動画や写真用のビューアも搭載していますね。

田中氏
 メディアスビューアは日付フィルタリングなどで使いやすくなるように工夫しています。表示処理をひとつひとつ見直しビューア上のデータを表示する速度も改善しています。

――DLNAの接続先というのは?

ソニーのPS3などDLNA対応機器であればほぼ写真くらいは見られる

石塚氏
 Windows 7のWindows Media Player12であればDLNAが利用できるので、幅広く使っていただけるかと考えています。さらに2010年夏モデルのDLNA対応のLaVieもしくはVALUESTARに搭載されている「ホームネットワークプレーヤー powered by DiXiM」および「ホームネットワークサーバー powered by DiXiM」をアップデートすることで、ストリーミングだけでなくダウンロード・アップロードも可能となります。このDLNAソフトは3GPP形式のHD動画を扱える特別版のソフトです。

岩田氏
 静止画は問題ないのですが、動画はフォーマットの関係で対応しないことがあります。ただ、わたしも自宅ではDLNA対応のテレビを使っているのですが、それで簡単に写真が見られるのを体験してみて感動しました。さらに動画のフォーマットが整理されれば、もっと使いやすくなると思っています。

――AV機器のHD動画フォーマットとなると、AVCHDが普及しつつありますが。

岩田氏
 今後はそちらの方向だと思いますが、現状のケータイでは処理能力的につらいところがあります。

――DLNAではなく、ただのファイルサーバーとなって、単純にファイルコピーできても良いのではないかな、とも思うのですが。

黒田氏
 DLNAを使ったのは、標準規格であり、家電やPCなどに採用されているため、PRIMEシリーズのユーザーにも使ってもらえるのではないかと考え、DLNA対応にしました。

――そのほかの改善点は?

石塚氏
 メール機能など、基本的なところを改善しています。弊社のWebサイトでも公開していますが、お客さまからいただいた声を元にさまざまな改善を施しています。たとえばデコメ絵文字の選択・全保存などは、お客さまの声を反映させました。

田中氏
 もちろんユーザーから見えないところも、開発担当と企画担当で話し合い、改善していっています。

黒田氏
 UI回りは大きく変更すると、これまでのユーザーに違和感を与えてしまいます。改善しつつも、その点も意識しながら取り組んでいます。

――今回はあらゆるハイスペック機能を搭載しつつ、タッチパネルなどを実現していますが、まだ今後も機能面で進化するのでしょうか?

岩田氏
 毎回、機能的には打ち止め、と思いながら作っていますが(笑)、一方で終わりはないとも思っています。今後はLTEもありますし、まだまだ通過点です。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2010/6/8 12:41