「眠れる都市鉱山」発掘を目指す経産省
「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」の裏側
現在、経済産業省では期間限定で使用済み携帯電話の回収・リサイクル促進のために「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」という事業を展開している。使用済みの携帯電話(PHS、通信データカード含む)を回収実施店舗に持ち込むと抽選で15万8800名に商品券をプレゼントするというものだ。
経産省がこのような事業に取り組む理由は何なのか。同省商務情報政策局情報通信機器課 環境リサイクル室長の河本健一氏に話を聞いた。
■リサイクルの意義
――そもそも、経産省がこのような事業を行うのにはどのような理由があるのでしょうか。
河本氏
携帯電話に金、銀、銅、パラジウムと言ったレアメタルが高い割合で含まれています。業界で自主回収を平成13年度から展開していますが、年間1300万台から最近では600万台といったように右肩下がりになってしまっています。
経産省環境リサイクル室長の河本氏 |
レアメタルという消費者の家に眠っている金属を掘り起こして、回収して、IT製品や電化製品に再利用する狙いで始めました。
これらの金属は日本国内で調達するのは難しく、現状は輸入に頼らざるを得ない状況です。そのため、輸入だけに依存するのではなく、都市鉱山と言われるレアメタルを確保する必要があります。
レアメタルは携帯電話だけに含まれているものではありませんが、象徴的な存在であることは間違いありません。携帯電話は国内の出荷台数が年間3000~4000万台と、デジカメの1000万台に比べても多いです。新しい機種を買うと古い機種を捨てることになる。携帯電話はそれだけレアメタル回収のチャンスがあります。回収台数を増やすための意識啓発という意味あいが大きいです。
――実際、「都市鉱山」にはどれくらい金属が眠っていると見られているのでしょうか。
なかなか数えられないのが現状です。しかし、出荷されたものから、回収されたり、捨てられたものを引くと、多くて3億台、少なくて1億台、その間をとって2億とも言われていますが、推測なので実体は把握できていません。
捨てるに捨てられない電話機や、目覚ましやカメラとして第二の人生を送っている携帯電話もあり、それらを否定するわけではありません。
しかし、捨てるタイミングを逸したものなどをきちんと回収できれば、リサイクルで有効的に再利用ができます。海外から輸入量が減れば、金属を掘り出すために山を削る必要がないといったエコにもつながります。
――仮に2億台が眠っているとすると、どれくらいの金額になるのでしょうか。
端末の重さによって異なりますが、1台あたり金で40mg、銀で140mg、銅が10gとパラジウムが4mgで、1台あたり100円くらいと想定できます。仮に2億台とすると200億円という都市鉱山ということになります。実際はリサイクルにもコストがかかりますが、それだけの価値はあるということです。
■「人生オワタ」の意味は知っていた
――今回、使用済み携帯電話を持ち込むと、抽選で商品券が当たるという仕組みになっています。このようなシステムにしたのはなぜでしょう?
「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」の啓発ポスター |
アンケートを実施した際、「特典があれば協力する」という意見がそれなりの数ありました。しかし、1台あたり100円を渡してしまうと、さらにコストがかかっていますので赤字になってしまう。とはいえ、コストを考慮し、20~30円を渡しても、回収台数の期待はできない。そこで、費用対効果を考慮したとき、クジというやり方があるのではないか、ということになりました。何人かに1人が当たれば、インセンティブになるのではないか。それを実験的にやったのが今回の試みです。
――「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」のようにタイトルに顔文字を使ったり、テーマソングに初音ミクが使われています。かなり親しみやすいような仕掛けをしているようですが、なぜでしょうか
やはり、みなさんに知っていただいて参加していただくのが大前提にあります。もともとこの事業は「平成21年度使用済み携帯電話の回収促進実証事業」という名称でしたが、それでは誰も参加してくれないだろうということになったので、親しみやすさに配慮しました。
顔文字はネット上では「人生オワタ」という意味で、そんな指摘も知っていましたが、ケータイの人生も一回終わってリサイクルするという意味もあり、話題になればいいかなぁというのもあり採用しました。
また、テーマソングを作ってネットでの配布も行っています。たまたまクリプトン・フューチャー・メディア社の社長と経産省の職員とのコネクションがあり、お願いしたら快く承諾してもらえました。
■地域差も出た回収実績
――利用者の反響、また予想外のことなどはありましたか。
家電量販店やブログでの反響をみるとまずまずだと思います。1台でも多く集めたいというのが願いですので、最後まで回収作業に励んでいきたいです。
我々が期待していた通りの行動をしてくれた人がいた一方で「クジでは電話機を出さない」という人もいます。それは価値観の違いであるので、仕方ないと思っています。1台あたり100円の価値ですので、お金の問題もあれば、一方で、「ボイスメモ機能に亡くなったお父さんの声が入っていて他に移せない。捨てるに捨てられない」という声もありました。それらがネックになっているのは理解できます。
また、クジで商品券が当たるというのではなく、新製品を購入する際に下取りして値引きして欲しい、という声もありました。このあたりは下取りする機種が比較的新しいものであれば可能かも知れません。
――実際、回収された携帯電話にはどのような傾向があるのでしょうか。
すべてをチェックしているわけではありませんが、実は2つのコースがあって、2500円以上の機種変更をした際に申し込めるゴールドコースと、2500円以下の機種変更もしくは購入せずに使用済みの携帯電話を持ち込むシルバーコースがあります。
シルバーコースの割合が想定よりも多く、8割近い台数となっています。2500円以下の機種変更もあるので、一概には言えませんが、古い機種が集まっている傾向が強いようです。
店舗には、携帯電話を物理的に壊すため、基板を貫く道具を用意 | 携帯を挟み込み…… |
レバーを押すと基板を貫く | これらの携帯電話はデモのため、いくつも穴が開けられているが、実際には3カ所、穴を空ける |
――先日、回収の途中経過が発表されました。それによると、人口比率の割には近畿地方の回収率が高いようですね。
関西の人はノリがいいかも知れません。人口比率からすると割合はかなり高いようです。
――実際、回収した携帯電話はどのようにリサイクルされるのでしょうか。
基本的にはリサイクル工場に行きます。家電量販店から直接リサイクル工場に行く場合と、その前に手分解するケースの2つがあります。ビックカメラやヤマダ電機などは、すでにこの事業が始まる前からリサイクルを行っており、そういったところでは、すでに元々あるルートを活用しています。
最終的には粉砕し、溶かして、金属を抽出して、種類ごとに分類していきます。金属の商社を通して、再利用するメーカーの工場に運ばれていきます。リサイクルによる売り上げはプラントに入り、事務局の収益にはなりません。
――今回のプロジェクトを展開するに当たり、新たなリサイクルのルートができたわけですが、今後、キャンペーンが終わった後に、既存のリサイクルのルートと一本化することなどはあり得るのでしょうか。
まず一本化はあり得えません。もともと、家電やパソコンのリサイクルは民間で処理をするのが大前提にあります。リサイクル自体がビジネスとして回らないことには長続きはしないと思っています。
■事業規模は5億
――今回のプロジェクトは、どれくらいの予算が組まれていたのでしょう?
2009年4月に決まった平成21年度の第一次補正予算を使っています。全体で5億円程度で、景品だけでも結構な額となっています。
――どのような結果になれば、効果があったと見ているのですか。
インセンティブと集まった端末の量との比較になりますが、今回を契機にして、携帯電話に希少な金属があって、リサイクルすることが大事なんだという意識を認識してもらえればいいと思っています。なかなか目には見えてきませんが、事業終了後も、回収に協力してもらいたいと思っています。
――前年度は他の省庁と連携したように思います。今回は経産省の単独事業なのでしょうか。
今回は経産省で予算を取ったというのが大きいです。名前を出しているのは経産省ですが、もちろん他の省庁とも連携しており、決して仲が悪いというわけではありません。
環境省は廃棄物行政、処理法を所管しており、携帯電話を回収する際に、廃棄物処理法に違反にならない仕組みを考えなくてはいけません。
携帯電話サービス自体は総務省の所管になるので、総務省とも相談します。
――今回の事業が終了した後も、継続してプロジェクトが行われたりはするのでしょうか。
平成21年度の補正予算として決まった事業なので、今後の予定はありません。事務経費を含めて5億の税金を投じていますが、今後も税金をどんどん投入しても、リサイクルは長続きしません。そのため、今年度限りの事業となります。
来年度の予算も審議されていますが、このような予算は検討されていません。2月いっぱいのみとなりますので、是非、このチャンスを活用してもらいたいです。
――ありがとうございました。
2010/1/25 09:07