「HT-03A」開発者インタビュー

“ケータイするGoogle”、国内初のAndroidケータイ


 7月10日、NTTドコモより「HT-03A」が発売された。「HT-03A」は、Googleを中心としたOHA(Open Handset Alliance)が開発した携帯電話プラットフォーム「Android」を採用したスマートフォンだ。今回は、端末を供給するHTCのビジネス・ストラテジ&マーケティング本部のディレクター 田中義昭氏に製品の詳細について聞いた。

 

HTCの田中氏
HT-03A

――それではまず、「HT-03A」の製品概要について教えてください。

 「HT-03A」は、Androidを搭載し、モバイルインターネットを追求した1つの形です。我々はWindows Mobileも展開していますが、今回は端末に「Google」の刻印があるように、Googleの各サービスがとことん使いやすくなっています。日本で“ケータイするGoogle”が登場したことは、非常に喜ばしいことだと思います。

 「HT-03A」の特徴は大きく5つあります。1つはGoogleのサービスがアイコン化されていて一発で使えるということ、2つめは、非常にさくさく動作するブラウザです。3つめは幅55mmと片手操作しやすい手頃なサイズです。昨年登場したDiamondもそうですが、HTCは片手操作に非常にこだわって開発しています。

 HTCは、世界の60~70カ国に端末を投入しており、あらゆる国のレギュレーションや通信方式にマッチしたものを展開できます。4つめはその結果となりますが、無線LANやBluetooth、UMTS/HSDPA/GSMと多様な通信環境に対応している点です。

 そして最後に、タッチパネルです。HTCではこれまでもタッチパネル端末を投入してきましたが、「HT-03A」は初めて静電式のタッチパネルを採用しました。静電式のタッチパネルだけではどうしても使いにくい面があるため、トラックボールも搭載して使いやすさを向上させました。

 「HT-03A」は、Googleのサービスとモバイルインターネットのサービスがあり、それを支える使いやすさをハードウェアで実現しているといったイメージです。

――海外でHTCが発売しているT-MobileのAndroid端末「G1」はハードウェアキーが搭載されています。ところが、海外ではMagic、日本では「HT-03A」の名前で売られているこの商品にはハードウェアキーが搭載されていません。これは片手操作へのこだわりということなんでしょうか?

 HTCでは、多くの端末において、派生モデルとしてキーボードタイプとタッチタイプを提供しています。我々はどちらが優れているか決めつけずに提供することにしています。今回はガンガン仕事するよりも、気軽にモバイルインターネットを楽しんで欲しいという思いからタッチパネルの薄さや手軽さのある端末を投入しました。

――「HT-03A」のターゲットを教えてください。

 これは、NTTドコモさんのPROシリーズのターゲットと似ています。端末のターゲットとしては、25歳~40代前半ぐらいのどちらかといえば男性を想定したものです。プライマリーなターゲットは、Windows Mobileのターゲットと変わらず、ガジェット好き、新しもの好きとコアの部分で差はないと考えています。

 ただ、現状のWindows Mobileの端末は、個人でもビジネス寄りな方向に向かっています。今回の「HT-03A」は、ITリテラシーの高いユーザーという意味では同じですが、ビジネスではなく、コンシューマーのプライベートな方向に向かっていると思います。たとえば、4~5人の会社であれば、Exchange Serverを構築するまでもなく、Googleのアカウントを取得してカレンダーを使うこともあるでしょう。しかし、基本的にはプライベート利用になると考えています。

 これまでのWindows Mobileとは少し違ったターゲット層としては、パソコンでGoogleのサービスを使い倒している方々ですね。モバイルでも非常に便利に感じていただけるのではないでしょうか。クラウド系のサービスを利用されている方はモバイルでより利便性を感じていただけると思います。

――ターゲットとされているユーザーはWindows Mobileというよりも、iPhoneのユーザーと重なる部分がある印象です。

 そうですね、かぶる部分があるかと思います。ただ、AndroidとiPhoneを比較する向きもありますが、我々としてはあまり意識していないというのが正直なところです。トヨタが好きな人もいれば、日産が好きな人もいるように、アップルやWindows、Androidも好みやブランドに近いようなものかなと思います。根本的な思想はクラウドでやってきたGoogleと、パソコン中心、iTunes中心にエコシステムを構築しているアップルでは違うと思いますが、ユーザーはそういった視点とは少し違ったところで選ばれているように思います。

――そもそもHTCは、どうしてAndroidを採用したのでしょうか。

 HTCとしては、Windows MobileとAndroidを明確に使い分けているわけではありません。端末開発の際にターゲットを想定する中で決めていきますが、今後Windows Mobileがバージョンアップすることで、OS間の境目がなくなっていくと考えられますが、その時々で適切なものを採用していきたいと思います。

――AndroidとWindows Mobileの開発面での違いはありますか?

 Windows Mobileがライセンスビジネスなのに対して、Androidはオープンなものです。どちらも開発には苦労があるのでなかなか言いにくいところです。ただ、Windows Mobileにはこれまでの豊富な経験が活かされています。

 OHAからAndroidが発表されてから2年たちましたが、未だに他のメーカーの端末は市場に投入されていません。我々は先日発表された「Hero」でAndroid端末は3台目となりました。3台開発すると、Windows Mobileと同様に経験が蓄積され、HeroではAndroid OSにHTCの独自インターフェイスを採用しました。今後、他社からAndroid端末が登場する際にもこうした経験がアドバンテージになると思います。

――海外で販売されているMagicの市場の反応はいかでしょうか。

 Magicは5月から販売が開始され、現時点ではデータがそろっていない状況です。G1は昨年9月から販売されているため、そのデータから言えば、米国では100万台以上が出荷されています。今年に入ってからはアジア圏での販売が開始されており、150~200万台近い数が出ているのではないでしょうか。海外の動向を見る限り、アプリを40~50ダウンロードしており、一般的なユーザーよりもパケットを使うユーザーが目立っています。

――「HT-03A」への期待について、現状ではWindows Mobileのユーザー層、それともGoogleのユーザー層、どちらの期待が高いと感じてますか?

 現在のところ、Windows Mobileのユーザー層かなと思います。これはHTC、Google、ドコモの今後の課題ですが、これまでもGoogleのサービスが使えるケータイがたくさんあったわけで、しかしその一方で、Googleのサービスが単に使えると言ってきただけでした。Googleには検索やメールだけでなく、カレンダーやPicasaのWebアルバムなどさまざまな便利なサービスがあります。そしてそれらのサービスは、ユーザーのライフスタイルなどによって利便性が異なるため、それぞれの人がそれぞれの価値を見いだせるようなアプローチをしていく必要があると思います。

――スマートフォン系の端末では、ユーザーブログなどで便利な使い方が確認できますが、より統一された情報が得られるようなポータルのようなものを提供される予定はありますか。

 ユーザーの口コミサイトを作ったり、店頭ツールを工夫したりといったことは検討しています。ネットと店頭での情報提供が非常に大事だと考えています。ブログでは良い情報が掲載されているのですが、それをアグリゲートして翻訳するようなものが必要ではないかと考えています。そして、その翻訳した情報を店頭スタッフに伝えることで、これまでよりも売りやすい端末になるのではないかと考えています。

――最後にHTCのスマートフォンの取り組みについて教えてください。

 HTCのキーワードは5つあります。1つはイノベーションです、2つ目はWindows Mobileにしろ、Androidにしろ、スマートフォンにしろ、過去12年間、市場に1番最初に製品を投入してきた点です。3つめはモバイルインターネットの追及、4つめはカスタマーUIなど使い勝手よいものの提供です。そして最後は、それらをもとにチャレンジしていくということです。我々は今後もスマートフォンの世界に確固たるポジションを築いていきたいと思います。

 スマートフォン市場は、世界的にみると欧州中心からアジアにも拡大しています。長らく日本ではスマートフォンは市場の1%程度と低迷している状況です。今回のAndroidなどをきっかけとして、国内のスマートフォンの市場が5%、500万台市場にまで拡大すればいいなと考えています。iPhoneやBlackBerryも含めて、スマートフォン市場全体が盛り上がっていくといいですよね。HTCとしてもどんどん貢献していきたいです。理想としては、ガラパゴスの日本市場に新しい空気を入れたいですね。そうした動きを事業者さんといっしょにやっていければと思います。

――お忙しい中、ありがとうございました。




(津田 啓夢)

2009/7/17 14:15