インタビュー
春商戦は前年比2倍以上売れた、“1980円”のY!mobile寺尾氏に聞く
iPhone 5sの販売、SIMフリースマホとのセット、その舞台裏は
2016年6月22日 12:00
ソフトバンク傘下となって早2年、この春にはiPhone 5sを売り出し、さらには1年間1000円を割り引いて月額1980円というプランを提供するなど、次々と話題をふりまくのがワイモバイル(Y!mobile)だ。
ソフトバンクでワイモバイルの事業を牽引するキーパーソン、Y!mobile事業推進本部の寺尾洋幸本部長は、今後、ヤフーとの連携を強めていくフェーズと意気込む。
まずは料金で訴求
2014年にヤフーとの提携、そして2015年にソフトバンクのモバイル事業として合併し、今はソフトバンクのブランドのひとつとしてサービスを提供するワイモバイル。
かつてはITリテラシーの高い男性ユーザーが多かったが、2014年7月に打ち出した料金プラン(※関連記事)では、「スマホプランS/M/L」の3種類に絞った。その結果、まずは50代~60代の男性が増加。このユーザー層はYahoo! JAPANユーザーであり、まずワイモバイルの情報に接したから、と分析しているそうで、その後は徐々に女性ユーザーも増加。かつて男性のほうが多かったワイモバイルユーザーは、男女比で見ると五分五分にまできたのだという。
スマートフォンの販売数を見ると、2016年3月には前年比で2.6倍、4月には2.8倍も増えた。この春商戦、ワイモバイルはぐっと手応えを感じる結果を残した。
ワンキュッパで仕掛ける
2016年の春商戦に向けて、ワイモバイルが仕掛けたのは「1980(ワンキュッパ)」だ。2月~5月、学割として提供されたキャンペーン、1年間、利用料が1000円割引になり、たとえばスマホプランSであれば月額1980円で利用できる。6月からは学生に限らず、適用可能なキャンペーンとして提供されている。
割安を印象付けるキャンペーンを実施した背景とは何か。寺尾氏は帰省時、同級生に会うとフィーチャーフォンのユーザーがまだまだ多いなかで、ワイモバイルの存在感がないことをあらためて思い知らされたのだという。そうした自身の経験のみならず、市場調査を実施しても、認知度は「4人に1人、ワイモバイルの名前を知っている程度」(寺尾氏)だった。かつてのイー・モバイル、ウィルコムからワイモバイルへと生まれ変わって2年、いろいろとやってみたがまだまだだったと振り返る。
そこで強いインパクトを打ち出すために実施したのがワンキュッパ割。とはいえ、企業として持ち出しを増やしたのではない。これまでもMNP転入で1万円キャッシュバックなどを実施しており、その金額感は同等レベルにしつつ、「(一度の還元ではなく1カ月あたりと)横に倒しただけ」(寺尾氏)と見せ方を変えただけだという。
iPhone 5sはたまたま
2016年3月、ワイモバイルは「iPhone 5s」の販売を開始した。2013年の機種をあえて投入してきたことに、競合他社からは驚きの声も挙がった(※関連記事)。
これに寺尾氏は「もともと出すか出さないか、という話はいろいろあったが、扱えるようになったので扱っただけ」と飄々と答える。とはいえ「2年も前のiPhoneを出して(ユーザーがどう反応するか)正直自信はなかった」(寺尾氏)のだという。
そんな寺尾氏が、iPhone 5sの投入で唯一、獲得できるであろうと目算をつけていたのが“新高校生”となる層。iPhoneをひとつのブランドとして支持する10代と、懐具合を睨みつつ子供向けのスマートフォンを検討する保護者――そんな両者の綱引きに、割安な価格で提供する料金プランとiPhone 5sはぴったりハマるという読み。これが当たり、この春、ワイモバイルはこれまで手薄だった学生ユーザーを数多く獲得した。これも、前年より大きくスマートフォン販売数を伸ばした3月~4月の実績に結びついた。
ヤフーのサービスとの連携
料金プランで訴求する一方、ワイモバイルが地道に仕組み作りを整えてきたのがヤフーのサービスとの連携だ。
寺尾氏
「2年前、ヤフーと一緒にやっていく方針としたが、実際に始めてみると意外と大変だった。Yahoo! のサービスを使いやすくしようとログインひとつとっても難しい。ログインの手順など、わかっている人にとっては簡単だが、そうではない方にとってはちょっとでもわからないことがあれば先に進んでいただけない。この2年、連携の仕掛けをブラッシュアップし続けてきた」
その甲斐あって、現在、ワイモバイルのスマートフォンユーザーのうち、今や8割がYahoo! IDでログイン。さらにそこで活きてくるのが、Yahoo!ショッピング。ヤフーでは2013年10月に出店料などを無料化しており、Yahoo! ショッピングは店舗数や販売アイテム数が増加。手数料の関係で、他よりも安価な価格になることもあると寺尾氏は説明しており、価格でワイモバイルを知ったユーザーにショッピングまで体験してもらえれば、という狙いがあるのだという。
2014年の新プラン提供以降、同社のスマートフォンユーザーのうち約半数は「ワイモバイルが初めてのスマートフォン」だった。価格をきっかけに初めてスマートフォンに触れつつ、Yahoo! のサービスも活用しはじめるようになれば、さらに次のステージを目指せるというのが寺尾氏の描く未来のひとつだ。
「楽しんでますよ」
さまざまな料金プランでにぎわいを見せるMVNO(格安SIM)市場では、最近、イオンや楽天が積極的に展開している。そうした事業者が存在するなか、ワイモバイルの強みのひとつは全国に1000店舗あるワイモバイルショップになると寺尾氏。
店舗での対面サポート対応は、大手キャリアにも共通する部分だが、その大手キャリアとは価格面で差をつける。そして他のMVNOとは店舗の存在で違いを見せつける格好だ。
ただ寺尾氏は、それでも価格だけでは大手にやがてキャッチアップされ、競争に生き残れないと指摘する。ライバルとしては意識しないが、FREETELや楽天といった企業はこれまでにないアイデアを提案してきて勉強になる、と語る同氏は「同じところに留まっていると、必ず大手が進出してくる。他社を意識するよりも、常に新しいネタを探している。24時間365日ずっとそのことばかり。今年の正月の初夢は何か新しいものができた! というものでしたよ。夢だから何もないんだけど」と笑う。
これはDDIポケット、ウィルコムと長くモバイル市場に関わってきた同氏だからこその視点。2015年の暮れにかけて総務省で議論され、その後、実質0円廃止の提言などに繋がったタスクフォースの影響についても「楽しんでますよ」と力強い。
寺尾氏
「結局、知恵を使えということ。たまたま僕らは今、安いポジションにいるけど、(多額のキャッシュバックなど)お金はとても強力だから僕らの思考が止まっていたのではないか。むしろガッチガチに縛られて、いろんな制約があったほうが人は考える。新しいビジネスを作るチャンスをいただけたのだと前向きに捉えている」
SIMフリー端末との関係は?
初めてスマホに触れるユーザーを取り込むワイモバイルは今春、家電量販店の店頭で、ワイモバイルの販売スペースが急拡大、SIMロックフリーのスマートフォンとセットで購入すると割引が適用されるなど、“格安スマホ”らしさを前面に打ち出した。
これに寺尾氏は、料金プランや端末の販売など、ワイモバイルはSIMフリースマホの取り扱いを前提に設計している、と前置きしつつも、現在はまだITリテラシーの高いユーザー層を主なターゲットとした取り組みだと説明。たとえばAPNの設定などは、ある程度知識が要求されることから、幅広いユーザー層に向けたアピールというよりも、自分自身で課題をクリアできる力を持つユーザー層向けとする。
寺尾氏は「たとえば私自身、家族の回線をシェアプランで利用しており、PHS数回線の料金をあわせて、月額1万円もかかっていない。子供向けにSIMフリー版のiPhoneを購入したため初期費用はかかったが、ワイモバイルのプランをきちんと使いこなしていただければ、毎月の支払いはぐっと安くできる」と語る。
主力はあくまでワイモバイルブランドの端末、SIMフリースマホを手がけるメーカーは敵でも味方でもない。リテラシーの高い人とそうではない人の間で二極化が進んでおり、ユーザーからサポートへの問いあわせで一番多いのは「使い方」、機種数が増えるとサポートにかかるコストも難しくなる……と寺尾氏はSIMフリーとの微妙な距離感を表現する。
それではワイモバイルの独自機種についてはどうなるのか、という問いに「なぜこんなことをするのか、という意外なところでいきたい。乞うご期待です」と詳細は避けつつ、期待を持たせるコメントを残した。