【OGC 2011】
コンテンツビジネスを大胆予想、夏野教授が基調講演


夏野氏。会場で配布されていたRed Bullを片手に「大塚製薬はチャンスを逃した」と語る

 このほか、「OGC2011」では、基調講演として慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏が講演を行った。「スマートフォン時代におけるコンテンツビジネス」と題した同氏の講演は、大学教授らしく自由闊達なものとなった。

 夏野氏は、国内と海外とではスマートフォンのブームが異なるとした。スマートフォンの先駆けになったのは海外で2007年に登場したiPhoneであるとした。また、ノキアがスマートフォンと定義するものについて説明する中で、250ドル以上で高機能なインターネットブラウザを搭載したものがスマートフォンであるとし、「その定義では日本の携帯電話は全てスマートフォン」と述べた。

 夏野氏によれば、スマートフォンの登場によって業界構造が変化し、通信業界主導のビジネスから、インターネット業界主導にシフトしつつあるとした。これまで国内の携帯電話は、メーカーが差別化要素を付けた端末に、キャリアが垂直統合型のサービスを付与する形で展開してきた。しかし、アップルやGoogleによる垂直統合型のビジネスモデルが台頭する中で、国内ではキャリアが主導権をあえて手放している状況という。夏野氏は、海外から垂直統合型のビジネスモデルが生まれている中で、「総務省の役人が水平分業と言いだした」などと語り、行政の舵取りを批判した。

 通信業界のプレイヤーではない、アップルやGoogleが台頭したことで、これまでとは異なる進化のスピードが携帯業界にもたらされたと夏野氏は話す。キャリアがサービスを展開する場合、常に回線速度やトラフィックを計算したサービスが提供されるとし、同氏は「進化のスピードとしてはコントロールされたもの」と説明した。iモードのブラウザがフルブラウザでない点も、通信速度が遅く回線が細かったためだとした。さらに、たとえ無線通信の速度が上がったとしても、1つの基地局を何人で利用しているかの方がインパクトが大きいとした。

 夏野氏は、スマートフォンの前提となる回線は3Gではなく、Wi-Fiであり、これはスマートフォンがパソコンの延長線上にある端末であるためで、主要な機能が音声通話でなくネット接続機能であるのもパソコンの延長だから、と説明した。スマートフォン登場以前の海外では、音声通話とSMSが主流であり、その当時日本では携帯電話を使ったメールやインターネットが広く普及拡大していた。夏野氏は日本と韓国以外の国では、実質モバイルのインターネットが広がりにくい状況にあったとする。

 また、汎用OSを採用すればスマートフォンかといえば、夏野氏はこれも違うと話す。仮に汎用OSがスマートフォンであれば、アップルのiPhoneはフィーチャーフォンになってしまう。夏野氏は国内のスマートフォンについて「形を見てもiPhoneのパクり」と一蹴する一方で、コンピューターメーカーであるアップルやHTCがケータイを開発できるようになったことは大きいと話す。また、国内メーカーのスマートフォンは「ガラスマ」などと呼ばれ、ワンセグやおサイフケータイなどが搭載されている状況を紹介し、かつて、こうした日本独自機能が搭載されていては世界で売れないなどと「総務省の役人」に指摘されたことを話した。

 夏野氏は、通信事業者が主導するマーケットではなくなったことで、回線容量を気にしないさまざまなサービスが生まれるとともに、進化のスピードが加速する良い面があるとした。その一方で、ネガティブな要因を指摘し、回線容量が逼迫する状況とコンテンツマーケットが小さい点を説明した。

 iPhoneのコンテンツマーケットは、9000万台の端末に対して1790億円市場。一方、同氏がかつて手がけていたiモードのマーケットは国内市場のみで2600億円規模と大きく、コンテンツ市場が小さい点に懸念を示した。また、パソコンやネットの延長線上にあるスマートフォンでは広告モデルにも期待されるが、画面の小ささが表現できる内容を制限するとした。夏野氏は、スマートフォンが必ずしも万能なわけではないと話した。

 このほか、キャリアのビジネスは通信収入を最大化するためのビジネスであるとし、iモードの公式サービスでモバイルバンキングなどをアピールしたのは、アダルトコンテンツや出会い系コンテンツの可能性に気づかせるためであったとした。iモードの通信トラフィックの6割は非公式サイトによるものという。

 さらに、Googleの目的はAndroidの普及ではなく、Googleの各サービスの利用者を拡大するための手段でしかないとした。Googleが無料でOSを提供したことで割を食ったのがマイクロソフトのWindows Phoneとであるとし、夏野氏は、「マイクロソフトに可能性はない。OSを売りたくても無料のAndroidには勝てない」などと述べた。

 夏野氏は、HTML5などの台頭でスマートフォンの主役がアプリからブラウザに移るとしたほか、キャリア間の差が薄くなることで通信事業者の「土管化」が進むこと、ネットが進化することで閉鎖的な通信業界が進化することなどを次々と話した。さらに、ネットに強くパソコンの延長にあるスマートフォンの台頭によって、米シリコンバレーが世界の中心になるとした。

 こうした中にあって日本のメーカーは現時点ではリードしているモバイルの経験値を活かせるかどうかが生き残りにかかっているとする。夏野氏の予測では、2020年までに日本の端末メーカーは、生き残れないという。規模が小さく、意志決定の遅い日本のメーカーはすでにチャンスを逃しており、より一層の再編が必要と指摘した。



 




(津田 啓夢)

2011/5/31 20:57