【Embedded Technology 2009】
ドコモ尾上氏、LTEはFOMAの失敗を糧に


 11月18日~20日にかけて、パシフィコ横浜において、組込機器の総合展示会「Embedded Technology 2009」が開催されている。2日目となる19日、NTTドコモの研究開発推進部 執行役員 研究開発推進部長の尾上誠蔵氏が登壇し、基調講演が行われた。

 尾上氏は、「実現が近づく次世代携帯電話 LTEとその後の発展シナリオ」と題して、LTEの現状と今後の展開、そしてNTTドコモのLTEへの取り組みなどについて話した。まず、1Gから2G、そして現在の3Gにいたるまでの携帯電話について説明し、ドコモが中期の目標に掲げる「変革とチャレンジ」をあらためて紹介した。

 11月10日に2009年冬春商戦向けの携帯電話やサービスが発表されたこともあり、尾上氏からはオートGPSやiコンシェル、マイエリアといったの新サービスについても紹介された。同氏は「携帯電話の端末側だけをとってみても、いろいろな機能やサービスが追加されている。ネットワーク側にもさまざまな技術が追加され、携帯電話システムを支えている」などと話した。

良いインフラの提供が充実したサービスに繋がる

 LTEは3Gと4G(IMT-Advanced)の間に位置する、いわば3.9Gの標準化規格で、海外の通信事業者などではLTEを4Gと呼んでいる場合もある。サービスがリッチ化する中で、ユーザー1人あたりのパケット使用量が拡大し、3Gの現在でもパケット使用量は日々増加している状況だ。こうした中、標準化団体である3GPPでは、LTEの必要条件として下り100Mbps、上り50Mbpsのピークデータ速度を定めている。

 尾上氏は、「LTEでどういうサービスが登場するのか?」という疑問に対し、「良いインフラを提供すればユーザーはどんどん使ってくれる。潜在需要があると思っている」と回答。2Gの時代はあるレベルに達すると、1人あたりのパケット通信量はそれ以上は上がらない傾向にあったが、3Gになるとパケット使用量は一気に増えた、インフラが整えばそれに応じたサービスが提供され、ユーザーも使ってくれるというわけだ。

 なお、3Gでも動画サービスの需要が伸びており、これは国内に限らないという。米Veirizonなどの調査データを引用して海外でもパケット使用量が拡大しているとした。

LTEの必要条件、実証実験を展開

 3GPPで定められたLTEの必要条件は、下り100Mbps/上り50Mbpsというピークデータ速度のほか、遅延についても定められている。

 制御遅延は100msec以下、伝送遅延は5msec以下とされており、ユーザーのスループットはRel.6(HSPA)と比較して、下り平均3~4倍、上り平均2~3倍と定められた。ドコモでは2007年7月よりLTEの実験を開始しており、こうした条件をほぼクリアしているという。

 また、尾上氏は、基地局間をまたいで途切れなくスムーズな通信を実現するハンドオーバーも重要な要素とし、LTEではソフトハンドオーバーは使われないと語った。

 基地局が切り替わる際、つなぎ替える新たな基地局の電波を強く吹くことで、データの瞬断やデータロスなくハンドオーバーを実現するという。こうした実験は、山梨県の甲府や北海道の札幌など、複数のエリアで検証しているという。

FOMAの反省を踏まえたインフラ展開

 ドコモでは、2001年に3GサービスにあたるFOMAを開始し、現在で同社の9割以上のユーザーがFOMAを利用しているという。しかし、本格サービス開始から数年はユーザーにほとんど受け入れられることはなかった。尾上氏はFOMA開始当初の不振について、「性能、サービス、料金、エリアなどいろいろな要因があるが、結果として早くやり過ぎたのではないか」と語った。

 実際、海外の事業者が3Gに参入し、ドライブがかかってくるのは2004年中盤以降となり、また先行者のメリットもほとんどえられなかった(尾上氏)。ドコモは3G展開時の反省を踏まえ、LTEについてはワントップではなく、“先頭集団”として参入することを決定している。尾上氏は、海外事業者のLTE参入発表などを紹介する中で、海外と歩調を合わせて展開していくことを強く打ち出していた。

 また、PDC(ドコモの2Gサービス)からFOMAへの移行時期には、「FOMAは繋がらない」などの意見が寄せられていた。一部デュアル方式の端末はあったものの、基本的にはPDC網はPDC端末で、FOMA網はFOMA端末で、と対応が独立していたためだ。当時の反省を踏まえ、LTEではFOMAとオーバーレイされる。LTEのエリア圏外となれば、FOMAに接続されるためエリアの問題は発生しにくいとの味方を示した。

 LTEの基地局展開についても言及し、基地局設備とアンテナ設備(光張り出し子機)のうち、アンテナ部については今秋よりLTE化が進められている状況とした。基地局本体については2010年にLTE化される予定。

IMSベースのVoIP導入、One Voiceとも協調

 また、LTEの音声通話については既存のシステムが継承される。将来的には、IMS(IP Multimedia Subsystem)ベースのVoIP方式を導入し、LTE上で全ての回線交換サービスが提供するようになる予定という。講演では、将来像について多くは語られなかった。

  なお、AT&Tやノキア、サムスンなど12社は、11月4日、「One Voiceイニシアティブ」を結成し、IMSベースのLTE音声方式の仕様書を策定した。この件について、講演後の尾上氏に聞いたところ、ドコモが想定しているLTEの音声システムとOne Voiceの仕様に大きな違いはないと語った。ドコモが「One Voiceイニシアティブ」に参加する予定は現在ないが、将来的にはどこかで協調していくことにはなるだろうと述べた。

 このほか尾上氏は、KDDIや米Verizonなど、3GでCDMA2000を採用している事業者がLTEへの参入を表明しており、モバイル通信技術の主流がLTEにほぼ固まっていることなどを紹介した。

 



(津田 啓夢)

2009/11/19/ 18:59