KCCSが大学図書館と取り組む電子書籍の配信実験


吉田洋氏と福島剛氏(左から)

 京セラコミュニケーションシステム(KCCS)と京セラ丸善システムインテグレーション(KMSI)は、慶應義塾大学メディアセンター(図書館)と共同で、日本語の学術書をiPadなどのタブレット端末で閲覧できるシステムを構築する実証実験を行っている。

 2010年12月15日から開始されているこの取り組みだが、昨年度末までの第1期の活動を終え、現在は第2期に入っている。第1期の活動で得られたフィードバックを元に順次サービスの追加等を行っているところだという。

 KCCS 事業開発本部 市場開発部長の福島剛氏によれば、同システムでは特定のOSに依存しないHTML5ベースの電子書籍ビューアが用いられている。このため、iPadのほか、Android OS搭載のタブレット端末やパソコンでも広く利用できる。現時点ではiPadが50人ほどの学生に配布され、サービスが利用されているが、近日中にAndroid端末の貸与を開始し、その後、パソコンからも利用できるようにする予定だという。

 実証実験の内容には、単なるビューアの開発にとどまらず、いかに効率的にコストをかけずに紙の書籍をスキャンし、電子化するか、といったテーマも含まれている。KCCS ICT事業統括本部 事業開発本部長の吉田洋氏は、「全文をテキスト化すると際限なくコストがかかるが、一定の精度で検索できればよいということであればコストを抑えられる」と語る。

 また、図書館ならではの「貸出」という概念がそのまま適用されているところも興味深い。複製が容易なデジタルデータでありながらも、著者や出版社側の権利を守る取り組みの一環で、図書館の蔵書として同時に貸出できる部数が制限されている。このため、延滞するユーザーがいた場合、強制的に端末上のデータを削除し、返却させる仕組みも用意されている。

実験環境の構成第1期と第2期の実験内容

 個々の書籍には、範囲を選択してマーカーを引いたり、メモを書き込んだりできる。マーカーやメモについては、サーバー側でユーザー単位で管理され、同じ書籍を別のデバイスで再び読む場合でも再現される。システム運用者側では、学生が書籍のどの部分に注目しているのかわかるようにもなっている。

HTML5ベースで作られているため、AndroidタブレットとiPadで同じように利用できるマーカーを引いたり、メモを書き込んだりできる

 第1期の実証実験に参加した学生からは、自身のレポートに簡単に引用できる機能や手書きでメモを書き込める機能など、追加機能の要望があったという。KCCSによれば、当初から計画にあるSNS連携機能などとあわせ、今後の課題として取り組んでいくとのこと。

 吉田氏は今後の展望について、「まずはBtoA(アカデミック)の図書館システムの分野で事業化を目指す。さらに、書店ビジネス向けのプラットフォームのようなBtoCのマーケットにおいて、電子化を機会にした新たなビジネスモデルをサポートしていきたい」と語る。

 同システムは、7月7日~9日にかけて東京ビッグサイトで開催されるイベント「[国際]電子出版EXPO」の中で披露される予定。

(湯野 康隆)

2011/6/24 10:53