「スマートブース」がパリの街に出現

KDDI総研 服部まや
KDDI総研 調査1部海外市場・政策グループ。海外の情報通信に関する制度・政策および市場動向についての調査を担当。最近のレポートは「欧米のFMCサービスの動向」(KDDI総研R&A誌2009年2月号)、「France Telecomのアフリカ進出動向」(同2009年11月号)。近頃、凝っているのは手作りのパンやパスタ。焼きたてのパンと打ち立ての生パスタのおいしさにはまっているが、ついつい食べ過ぎてしまい、自己管理の必要性を痛感している。


 スマートフォン的な機能を備えた新型の公衆電話がフランスで登場した。機能からすれば、マルチメディア公衆電話という趣だが、ここでは勝手に「スマートブース」と呼ぼう。

 フランス・テレコム(ブランド名:Orange)が2010年4月から半年の予定でパリ市内に実験的に設置したもので、シャンゼリゼ、エッフェル塔などの観光スポットやサンジェルマンなどの学生街、モンパルナスなどの商業地区など、パリ市内の12カ所に置かれている。全国的な展開についてはパリでの実験結果を見てから決定されるということだ。

 携帯電話の普及に伴って公衆電話の利用が年々減っているのはフランスでも同様で、公衆電話の設置台数、トラヒック、売上ともに大幅に減少している。フランス・テレコムはユニバーサルサービス事業者として公衆電話を提供しているが、新型ブースの投入で、こうした減少傾向を少しでも食い止めたいという狙いがあるようだ。

 このスマートブースは、ADSL回線に接続されており、17インチのタッチパネルディスプレイを備えている。外見もスマートで、公衆電話というよりも街角情報端末といった感がある。IP電話として普通の公衆電話と同じように通話ができ、電話番号案内サービスにもワンタッチでつながる。さらにインターネットにアクセスして情報検索やメールチェックをすることもできる。携帯電話の電池が切れても、通話やちょっとした検索ならスマートブースでできるというわけだ。インターネットの利用は無料だが、接続時間は10分間までとなっており、当面、アクセスできるサイトが限定されている。また有害サイトへのアクセスも制限されている。

画面イメージ

 通話料金は通常の公衆電話と同じで、国内は3分0.49ユーロ(携帯電話宛は0.99ユーロ)。通話料金の支払いは当面テレホンカードでしかできないが、今後、現金やカルトブルーといってフランスで最も普及しているクレジットカード機能も持った共通の銀行ICカード、さらにはPayPalも使えるようになる予定だという。

 また、各ブースの位置情報を利用してローカルな情報が検索できるのも特徴の1つとなっている。タッチパネルにはパリの地図が表示され、画面上のガイダンスに従ってタッチしていくだけで、そのブース近辺のレストランや映画館、薬局、銀行、ホテル、地下鉄の駅、Velib(パリ市のレンタル自転車サービス)のステーション情報などを検索することができる。

 ところで、フランスの電話番号検索やオンライン情報サービスというと、「ミニテル(Minitel)」を思い出す人もいるかもしれない。ミニテルとはフランスのビデオテックス・サービス「テレテル(Teletel)」の専用端末で、1980年代半ば、紙の電話帳代わりに各家庭に無料で配られた。ミニテルを利用して電話番号の検索だけでなく、各種の予約・支払いなども行える。

 ミニテルで採用された情報料を電話料金と合わせて代行徴収するビジネスモデル(「キオスク(kiosque)」)は、携帯電話やインターネットでも応用されている。そのうち街角のスマートブースから、ネットショッピングやチケット予約ができるようになるかもしれない。

(服部まや)

2010/5/27 15:45