世界中で毎日18億回鳴る、世界一有名な着メロとは?

 KDDI総研 沖賢太郎
KDDI総研 調査1部 海外市場・政策G。海外のモバイルサービス動向を調査・分析。奇しくも9月にフィンランドへ出張することになった。携帯投げ大会が9月にずれ込んだ場合は「オリジナル」部門で参加し入賞を目指す。


ウィーンの街角(執筆者撮影)

 2009年のノキアの年間端末出荷台数は約4億3000万台(世界1位)であり、2位以下を大きく突き放す(2位サムスンは約2億3000万台、3位LGは約1億1000万台)。圧倒的な端末市場シェアを誇るこのノキア端末には、ある着信メロディがプリセットされている。世界で最も有名であり最も利用者が多いと思われるこのメロディは「ノキア・チューン(Nokia Tune)」と呼ばれる。ノキア端末では、通常このノキア・チューンがデフォルトの着信音として出荷時に設定されている。

 このメロディはもともと、1902年、スペインのクラシックギタリストであり作曲家でもあったフランシスコ・タレガ(Francisco Tarrega)によって作られた「大ワルツ(Grande Valse)」という曲の1フレーズであり、1993年、Anssi Vanjoki(現ノキア副社長)とLauri Kivinen(現ノキア・シーメンス・ネットワークスHead of Corporate Affairs)により、このメロディを同社携帯端末の着信音としてプリセットすることが決定された。

 最初にノキア・チューンが搭載された機種は1994年に発売されたノキア2100シリーズである。本シリーズは、40万台という同社の販売台数目標とは裏腹に、世界中で2000万台を売り上げる大ヒット商品となった。端末のヒットと共に、デフォルト着信音であったノキア・チューンが人々の生活の中で奏でられる頻度も増していった。「ブランドとサウンド」、「ビジネスとサウンド」の研究を専門とする英サウンドエージェンシー社のジュリアン・トレジャーによると、現在、一日に世界中の携帯電話がこのメロディを奏でる回数はなんと18億回(!)にも上るとのこと。これは1秒当たり2万回という計算になる。世界において一日当たりの鳴動回数が最も多い着メロであると同時に、最も再生回数の多い音楽ということにもなるかも知れない。

アムステルダムの街角(執筆者撮影)

 ノキア・チューンは映画の中でも頻繁に聞くことができる。ヒュー・グラントやキーラ・ナイトレイが出演するクリスマスのロンドンを舞台にした「ラブ・アクチュアリー」(2003年)、アンソニー・ホプキンス主演のサスペンスアクション「9デイズ」(2002年)、劇場版11作目となった「スター・トレック」(2009年)などなど。

 ノキア端末のシェアが低い日本において、ノキア・チューンを耳にすることはめったにないが、海外(ヨーロッパ、アジア、オセアニア等、ノキアの端末シェアが高い国々)へ行くと、このメロディを耳にしない日はない。今年の2月、GSMA Mobile World Congress 2010に参加するためにバルセロナを訪れた際も、至る所でこのノキア・チューンを耳にした。イベント会場ではセミナー参加者達の胸元のポケットから、休日にはサグラダ・ファミリア教会へ入場するために並んでいる観光客達のポーチの中から、夜にはバール(レストランバー)でワインとタパスを楽しむ若者の手元の携帯からもノキア・チューンが鳴る。ヨーロッパの人々の生活の中に浸透しきったこのメロディからは、どこか安心感さえ覚える。それ故に使い続けられるのかもしれない。

 ロンドン在住の同僚の話によると、以前と比べてノキア・チューンを着信音として使っている人はこれでも減ってきている方で、若者の間では、日本同様、自分の好きな曲をダウンロードして設定する人の方が多いとのこと。それでもやはり、まだまだ職場や日常生活の中でこのメロディを耳にする頻度は高いようだ。

 ノキア・チューンは日本の携帯でも一般サイトから入手可能なので是非試してみては。

2010/4/23 18:05