結月ゆかりはVOCALOID3でもスゴかった
■結月ゆかりはVOCALOID3でもスゴかった
先週掲載のスタパトロニクス「久々に喋る系ソフト触ってビックリ!!」では、テキスト読み上げソフトの「VOICEROID+ 結月ゆかり」について書いた。非常に自然かつ魅力的な声で文章を読み上げてくれるソフトですな。この「結月ゆかり」、歌ってもスゴいんであった。すなわちAHSの「VOCALOID3 結月ゆかり」である。
AHSの「VOCALOID3 結月ゆかり」。最新のVOCALOIDであるVOCALOID3用の「結月ゆかりの歌声のデータ(ライブラリ)」パッケージだ。AHSストア価格は1万1800円 | 「VOCALOID3 結月ゆかり」に付属するTiny VOCALOID3 Editorの表示例。ここに音符(音階)と歌詞を入力すれば、即、パソコンに歌を歌わせることができるのだ | 高機能なVOCALOID2/3用音楽製作ソフト、ヤマハの「VOCALOID3 Editor」。ライブラリとは別売で、VOCALOID STORE価格は8820円(2012年4月2日まで)なり |
俺的結論から言っちゃうと、最新のVOCALOIDである「VOCALOID3 結月ゆかり」は、労せずキレイに歌ってくれてグレイト。恐らくほかのライブラリ(歌声データ)もキレイに歌ってくれると思うが、「VOCALOID3 結月ゆかり」は、上記リンクに書いた「アダルトで少しセクシーでもある声」で「スムーズかつ自然に歌ってくれる」のである。
俺の場合、初代VOCALOIDから使い始め、もちろんVOCALOID2の「初音ミク」なんかも使い、そして最新のVOCALOID3も使い始めたわけだが、率直なところ、VOCALOID3の扱いやすさはナニ? いっきなり自然に歌ってくれちまうんですけど、こんなのアリ? みたいな印象。誰でも労せずコンピュータ詠唱を楽しめるソフトウェアだと感じる。
てなわけで以降、「VOCALOID3 Editor」の使用感も含め、最新VOCALOIDである「VOCALOID3 結月ゆかり」の楽しさなどをレポートしてみたい。
■VOCALOID3はこういうモノ
まずVOCALOID3とはどーゆーソフトウェアなのかについて少々。既に「だいたいわかってる」という方は、この章を飛ばして、次章にて結月ゆかりの歌唱力などをお楽しみいただければと思う。
VOCALOID2の初音ミクが超有名なので「音符と歌詞を入れれば歌ってくれるソフト」というあたりはご存知かと思う。VOCALOID3もそれは同じ。ただし、2と3では根本的な「歌声の自然さ」が異なる。この歌声の差については藤本健氏の「Digital Audio Laboratory 第480回 人の声に近づいたVOCALOID3をチェック」でわかりやすく説明されている。
VOCALOID2と3のいちばんの差は歌唱力だが、ほかにもイロイロと異なる部分がある。ちょっと混乱しがちな部分なので、最初にそこを整理しておきたい。
VOCALOID2の場合、たとえば「初音ミク」というパッケージを買ってくれば、フル機能で歌わせることができた。このパッケージには、音符と歌詞を入力/編集するための「VOCALOID 2 Editorソフトウェア」、歌声データである「初音ミクVOCALOID2ライブラリ」、初音ミクをほかのDAW上の楽器として歌わせることができる「VSTインストゥルメント(VSTi)プラグイン」が含まれているのだ。
が、VOCALOID3の場合はチト違う。たとえば「VOCALOID3 結月ゆかり」のパッケージには、「Tiny VOCALOID3 Editorソフトウェア」と「結月ゆかりVOCALOID2ライブラリ」が含まれている。ので、パッケージを買えば歌わせることができるが、VOCALOID3のフル機能を発揮させられるとは言いにくい。
というのは、VOCALOID3から「フル機能版のVOCALOID Editorソフトウェアが別売になった」からだ。フル機能のVOCALOID3 Editorと、歌声ライブラリに付属するTiny VOCALOID3 Editorの差は以下のとおり。
VOCALOID3 Editor | Tiny VOCALOID3 Editor (歌声ライブラリに付属) | |
編集・再生可能な トラック数 | 16 | 1 |
最大小節数 | 999 | 17 |
エフェクト | V3Comp・V3Reverb. VSTホスト機能によりエフェクトを追加 | リバーブのみ(固定) |
VOCALOID Job Plugin 機能 | あり | なし |
V2 Library Import Tool | あり | なし |
Undo / Redo | 制限なし | 1回のみ |
インポート機能 | VSQX、VSQ、SMF、WAV | WAVのみ |
WAVトラック | ステレオ / モノラル | ステレオのみ |
これ以外に、VOCALOID2にあったReWire機能やVSTiプラグイン機能は、残念ながらVOCALOID3にはなくなってしまった。ので、VOCALOID3の歌唱力を存分に発揮させるとなると、フル機能を持つVOCALOID3 Editorを使うしか(今のところ)手がない、と言えたりもする。
ちなみに、VOCALOID2の歌声ライブラリは、VOCALOID3用の歌声ライブラリへと変換することができる。変換すれば、VOCALOID3用各Editorで使えるようになる。が、変換ツールである「Library Import Tool」は「VOCALOID3 Editorの付属ツール」となる。
結局、VOCALOID3 Editorを買わないといろいろ残念な状況になってしまう、というわけですな。
ただ、後述するが、VOCALOID3 Editorの機能や使用感は上々。「歌の作成や編集」も非常に行いやすい。DAWで曲(カラオケ)を作ってこれをVOCALOID3 Editorに読み込んでボーカルを加えて仕上げる、という楽しみ方も現実的だ。
■VOCALOID3、ステキステキステキ☆
最新のVOCALOID3と一世代前のVOCALOID2の違いは、聴き比べれば即わかるので、とりあえずそれぞれの歌声を聴いてみて欲しい。
まずは「VOCALOID3 結月ゆかり」を。皆さんご存知「春の小川」をとくに手を加えずにただ打ち込んだ状態と、そこに歌詞を加えたもの、さらに替え歌にしたときの歌声を見てみよう。
【動画】VOCALOID3 Editorに「春の小川」の旋律をただ打ち込んだだけのもの。歌詞は未入力。この場合の歌詞は全て「あ」になる。歌声ライブラリ(歌手)は結月ゆかり。 |
ただ音符を打ち込んだ時点で、既に人間っぽい声の響きがある。そして声の通りや歌詞の滑舌も良好。ネット上にあるMIDIファイルを読み込ませて、いろいろな曲を「あ~」で歌わせてもそれなりにキマるVOCALOID3なのであった。
それでは歌詞を入れて歌わせてみよう。音符と歌詞を入力するだけの、いわばベタ打ちではどの程度歌ってくれるのか?
【動画】さらに「春の小川」の歌詞を入力したもの。歌声のコントロールパラメータは一切調節していない、いわば「ベタ打ち」「未調教」状態の歌声がこれ。 |
スゲっ!! と思いましたマジで。これフツーに「歌わせてそれを聴いて楽しむ」ことができるレベルですな。
ならば、歌詞的にヘンというかあまり使わないような言葉が入っていた場合はどうなるのか? 替え歌を歌わせてみることにしよう。
なお、替え歌の歌詞内容となるテキストは
「ねえこのおなかわ
もふもふするにゃ
ねえこのにゃにゃにゃわ
もふもふもふふ」
である。
【動画】替え歌を作って歌わせてみた。「ニャ」とか「モフモフ」とかいった歌詞をちゃんと歌ってくれるのだろうか? |
案外イイ!! 楽しい!! ベタ打ちでしかも歌詞がヘンでもここまで歌う!! 実際に使ってみると、VOCALOID2より各段に人間に近づいたという印象。VOCALOID3用ライブラリ買い漁っちゃおうかな、とか思った次第。
次いで、VOCALOID2の歌声ライブラリと比較してみよう。前述のとおり、VOCALOID3 Editorに付属するLibrary Import Toolを使えば、VOCALOID2用歌声ライブラリをVOCALOID3用歌声ライブラリに変換することができる。つまり、VOCALOID2と3の歌声ライブラリをVOCALOID3 Editor上に混在させて使えるのだ。
ということで、以下、「VOCALOID2 巡音ルカ」「VOCALOID2 初音ミク」「VOCALOID3 結月ゆかり」に同じ歌を歌わせてみよう。歌詞の内容は替え歌の後半の
「ねえこわごろごろ
にゃにゃにゃにゃごろろ
ねえこおまいにち
もふもふにゃにゃにゃ」
としてみた。
【動画】「VOCALOID2 巡音ルカ」の歌唱例。やさしい声ですな。 | 【動画】「VOCALOID2 初音ミク」の歌唱例。よく通る綺麗な声。 | 【動画】「VOCALOID3 結月ゆかり」歌唱例。大した歌唱力だっ!! |
すっご~い。もうヴォーカルというインスツルメントと言い切っちゃってイイんじゃないでしょうかVOCALOID3。繰り返すが、以上の歌声は全て「調教していないベタ打ち」。歌声の細かなニュアンスなどを調節できるコントロールパラメータをイジって「歌声を突き詰めて」いけば……ん~楽し過ぎるに違いないッ♪
■VOCALOID3 Editorの使い勝手など
最後にVOCALOID3 Editorの使用感などを少々。VOCALOID3の機能や、VOCALOID2とVOCALOID3の併用といった観点から考えると、別売のVOCALOID3 Editorは「VOCALOIDを活用するには必須のソフト」だと言える。穿った見方をすれば、VOCALOID3からは「VOCALOID3 Editor縛り」が出た、という気がしなくもない。
ともあれこのVOCALOID3 Editorの使用感はどうなのか? 率直なところ、非常に使いやすいと感じる。以前のEditorからイロイロな部分で機能UPしているが、それらの多くが「歌唱部分の作り込みを行いやすくした機能UP」だと感じる。
たとえば各種トラックとパートの存在。音符と歌詞を置く歌唱のためのトラックが最大16トラック使えて、このほかにWAV形式音声を置けるステレオとモノラルのトラックがそれぞれ1つずつ使える。
トラックは、たとえば1トラックは初音ミク、2トラックは結月ゆかり……などと歌手毎に使うなど、歌唱データを置くために自由に使える。16トラックまで使えるので、この使い方の場合なら最大16人の合唱ができたりするわけですな。
それからWAVトラック。ステレオとモノラルがあるが、ステレオトラックに曲のカラオケを、モノラルトラックに効果音を入れたりして使える。たとえば「VOCALOID3 結月ゆかり」には、結月ゆかりの声の音声素材「exVOICE」が含まれていて、そこにはブレス(歌唱の間の息継ぎ)なども多々収録されているので、そういった効果音を歌唱中に挟めばよりリアルな歌声となるだろう。
それとパートだが、たとえばメロディ1、メロディ2、サビなどの歌唱をパートとして扱えば、思いつくままにパートを組み替えてアレンジするようなことも容易だ。パートはトラック間の移動ができたり、パート毎に歌手を指定したりできる。ので、同じトラックに(時間軸で重ならなければ)複数の歌手を混在させるようなこともできる。
こういった編集機能の追加により、VOCALOID3 EditorはよりDAWに近いソフトへと進化したという印象がある。歌声を作ったり編集したりするにおいて、率直に言って非常に使いやすソフトウェアだとも感じる。
機能的にちょいとイイのがVOCALOID3 Job Plugin。これはVOCALOID3 Editorの編集機能自体を追加できるプラグイン機能で、一例を挙げれば入力した歌詞・音符に対して一連のマクロ的な処理を施すことができる───たとえば「Staccato(スタッカート)」というVOCALOID3 Job Pluginを使えば、自動的に歌唱を一音符ずつに切り離せる。「ね~こお~どり~」という歌唱を「ねっ、こ、おっ、ど、りっ」というふうに変換できる。
VOCALOID3 Job Pluginの使用例。歌唱部分は普通の長さ。これにスタッカートをかけてみよう | VOCALOID3 Job Pluginの「Staccato」を選ぶだけ。プラグインは自由に追加することができる | 「Staccato」プラグインを適用した結果。一瞬にして、歌唱部分が一音符ずつに短く刻まれた |
なお、VOCALOID3 Job PluginはVOCALOID STORE内のJob Plugin STOREから入手できる。Job Plugin開発キット(SDK)も配布されているので自作も可能だ。
ほか、VOCALOID3 EditorはVSTホスト機能を備えるので、市販の各種VSTプラグインを利用できる。VSTプラグインは、あらかじめコンプレッサー(V3Comp)とリバーブ(V3Reverb)が入っている。16ch+WAV2ch+マスターという構成の本格的なミキサー機能も使える。もちろんミキサー上でVSTプラグインエフェクトに対して音をセンド/リターンできる。
てな感じで一通り見てきたが、細かいコト抜きにVOCALOID3はオモシロいですな。これまでも音符と歌詞を入力すれば歌ってくれるVOCALOIDだったが、VOCALOID3からは「音符と歌詞を入力する程度で非常にリアルな歌声で歌ってくれる」と、言っちゃえるクオリティになったと思う。
まあ、ロボっぽい声とか合成っぽい声が好きな人にとっては微妙に残念とも言えるのだが、多くの人にとっては「えっ、ボクのPC、こんなに上手に歌えるの!!」「私のパソコンの歌声ステキ~♪」な体験になると思う。ので、ぜひ一度VOCALOID3を使ってみてほしい。
2012/3/5 06:00