選りすぐりのスマートフォンを軸にしたドコモの夏モデル

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


2011年夏モデル

 5月16日、NTTドコモは2011年夏モデルとして、スマートフォンを中心とした24機種のラインアップを発表した。昨年の2010~2011冬春モデルから本格的にスマートフォンのラインアップを展開し始めたNTTドコモだが、今年の夏商戦は今回発表された夏モデル9機種に、春モデルの3機種を加え、「選りすぐりのスマートフォン」12機種で戦う構えだ。サービスについてもスマートフォンでiチャネルなどの提供を開始するなど、いよいよ本格的にiモードとの融合を図ろうとしている。発表会の詳細については、本誌のレポート記事を参考にしていただきたいが、ここでは今回の発表内容の捉え方やタッチ&トライで試用した端末の印象について、解説しよう。

見えてきたiモードの本格的なマイグレーション

 NTTドコモにとって、もっとも重要なサービスであり、ラインアップの中心を担っていたのは、言うまでもなく、「iモード」だ。1999年のサービス開始以来、モバイルインターネットに革命的な進化をもたらし、国内の携帯電話市場において、圧倒的な成功を収めてきた。海外戦略については市場性の違いなどもあり、あまり芳しい結果を残せなかったが、それでも世界の携帯電話事業者、通信事業者のビジネスモデルに与えた影響は大きく、「日本市場に学んだ」と公言する企業も多い。

 国内市場においては、NTTドコモはiモードを中心に据えたビジネスを展開し、おサイフケータイ、iチャネル、iコンシェルをはじめとしたサービスをヒットさせることにより、「ケータイ市場」での圧倒的な強さを確立し、業界をリードしてきた。しかし、モバイルインターネットにオープンなインターネットやスマートフォンという新しい流れが押し寄せてきたことで、ここに一つのジレンマが生まれてくる。ユーザーはiモードを使っているが、市場ではスマートフォンを求める声が多く、MNPではiPhoneをはじめとした他社のスマートフォンに乗り換えてしまっているという動きだ。NTTドコモとして、スマートフォンのラインアップを拡充したいが、自らのサービスの中核である「iモード」がある限り、これに長く親しんだユーザーに対してはなかなか移行を促すことができず、本当の意味でのスマートフォン時代にシフトできないというわけだ。

 今回、NTTドコモは2011年夏モデルとして、全24機種を発表した。なかでもスマートフォンは9機種を揃え、2011年春モデルとして発表されたNECカシオ製「MEDIAS N-04C」、ソニー・エリクソン製「Xperia arc SO-01C」、LGエレクトロニクス製「Optimus chat L-06C」の3機種を加え、12機種を「選りすぐりのスマートフォン」と位置付け、積極的にアピールしていく構えだ。

iモードのマイグレーション

 そして、もう一つの注目すべき点は、いよいよiモードのマイグレーションに着手し始めたことだ。iモードに関連するサービスには、さまざまなものがあるが、最初に対応するのは情報配信サービスの「iチャネル」で、Android採用端末にウィジェットとして、提供される。これに加え、「メロディコール」「Gガイド番組表」もAndroid版が提供される。また、今回の震災で注目を集めることになった緊急地震速報(エリアメール)についても今夏からスマートフォンでもCBS方式でサポートし、既存機種もソフトウェアのダウンロードで利用可能にする。ETWS方式については、2011年冬モデルのXi(クロッシィ)から対応し、来年以降、対応機種を拡大する方向だ。

 これらに加え、2011年冬モデルの段階ではiコンシェルの対応に加え、いよいよiモードの本丸とも言えるiモードのコンテンツ課金・認証、マイメニューについてもスマートフォンに対応することが明らかにされた。どのコンテンツがどのような形で利用できるのかはまだわからないが、既存のiモードサイトのコンテンツが利用できる道筋が明らかにされたことは、ユーザーだけでなく、コンテンツプロバイダー各社にとっても一つのターニングポイントになりそうだ。


Twonky Mobile Specialdocomo Palette UI

 また、スマートフォン向けでは、iモード関連以外のサービス拡充にも積極的だ。2010年冬モデルでは、Evernoteのプレミアサービスを1年間、無償で提供することが発表され、話題となったが、今回はDLNA機器との接続を可能にするアプリ「Twonky Mobile Special」が無償で提供されることになった。スマートフォンやタブレットのDLNA機能についてはNASなどに保存された音楽や写真、映像を再生したり、端末に保存された写真や映像をDLNA対応の薄型テレビに映し出すことができるため、関心を持つユーザーが多いが、Twonky Mobileはもっとも実績があると言われるDLNAアプリの一つであり、これが無償で利用できるのはうれしいところだろう。

 もう一つの取り組みは、「docomo Palette UI」と呼ばれるユーザーインターフェイスアプリの提供だ。より多くのユーザーに戸惑うことなく、使ってもらおうという考えで、ホーム画面やアプリケーション一覧画面を見やすく使いやすくデザインした独自のものがプリインストールされる。NTTドコモでは今年2月発売のOptimus chat L-04Cで「ドコモメニュー」と呼ばれる独自のユーザーインターフェイスを採用していたが、今回のdocomo Palette UIはその進化バージョンとも呼べるものだ。ただ、各メーカーはホーム画面のユーザーインターフェイス(いわゆるホームアプリ)に、各社ごとのこだわりがあるため、今回は出荷時に設定されていない機種もある。確かに、ユーザーインターフェイスの統一は使い勝手の面で、効果があるのだろうが、裏を返せば、各メーカーのオリジナリティもスポイルされるため、今後、どのように受け入れられていくのかが気になるところだ。

 ただ、こうした直接的なユーザーインターフェイスを統一することも重要だろうが、むしろ、以前、連載で指摘した「無線LANの簡易登録」「公衆無線LANの自動ログイン」「フィーチャーフォン宛のメール添付を考慮した画像編集」など、実際の利用シーンでユーザーが困ったり、使いにくく感じてしまう部分の改良の方が重要ではないだろうか。docomo Palette UIの出来が悪いわけではないのだが、もっと他に手を掛けるべきところがあるというのが筆者の見方だ。

「選べる、使える、楽しめるスマートフォン」を中心に展開

囲み取材に応える山田氏

 さて、端末のバリエーションだが、今回はスマートフォンが9機種、STYLEシリーズが5機種、PRIMEシリーズが4機種、SMARTシリーズが2機種、その他が1機種という構成だ。

 NTTドコモは2008年の秋冬モデルの発表以降、端末のラインアップを「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」という4つのシリーズに分け、これに「らくらくホン」シリーズを加えた5シリーズを展開してきた。今回も形の上ではこの区分を継承した格好だが、これだけスマートフォンが増え、PROシリーズのモデルが発表されなかったを考慮すると、このシリーズ区分の意味合いが薄れてきたような印象すらある。

 そんなこともあってか、NTTドコモの山田隆持社長は発表会後の囲み取材において、「冬モデルの段階で、スマートフォンを含め、シリーズの再構築を検討している」という旨のコメントを残している。これはスマートフォンは差別化が難しいのではないかという問いに対しての答えだが、iモードサービスの一部が使えるようになり、フィーチャーフォンとの差が少なくなってくるのであれば、スマートフォンだけを区別するのではなく、スマートフォンもフィーチャーフォンもひっくるめたラインアップ全体で、「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」のようなシリーズ区分を当てはめたいという考えのようだ。これまでの4つのシリーズの分け方が成功かどうかは疑問だが、スマートフォンの個性化を促すことを考えるのであれば、シリーズ分けも一つの面白い取り組みかもしれない。

注目はスマートフォン

 それぞれのシリーズについては後述するが、やはり、注目すべきはスマートフォン、なかでもAndroid採用端末の充実ぶりだろう。2010年冬モデル発表の段階ではひと足早く発表されたGALAXY S SC-02BとGALAXY Tab SC-01Cを含め、合計5機種のAndroid採用端末がラインアップされていたが、今回は8機種がラインアップされ、春モデルの3機種を加えると、11機種のAndroid採用端末がラインアップされることになる。特に、今回はNTTドコモのラインアップを長く支えてきたパナソニックもAndroid採用端末を開発し、富士通東芝モバイルもFシリーズとして、はじめてAndroid採用端末を提供する。

 また、Androidのバージョンについても注目される。2010年冬モデルの段階では、NTTドコモやauはAndroid 2.1とAndroid 2.2が混在するような状況だったのに対し、ソフトバンクがAndroid 2.2で統一して発表し、注目を集めたが、今回のNTTドコモのAndroid採用端末は全機種がAndroid 2.3に統一されている。すでに、Xperia arc SO-01Cをはじめ、国内外でもAndroid 2.3採用端末が登場していることを考えれば、当然のことと考えそうだが、携帯電話事業者が販売するスマートフォンという視点で捉えると、もう一つ別の意味合いがありそうだ。

 というのも今後提供されるNTTドコモのスマートフォン向けサービスは、Android 2.3が前提条件になるかもしれないからだ。たとえば、すでに2010年冬モデルを購入し、実際に使っている場合、その機種がAndroid 2.3へのバージョンアップが実施されなければ、新たに夏モデルで提供されるiチャネルなどのサービスが利用できないかもしれないわけだ。Android採用端末のバージョンというと、パフォーマンスのことばかりが話題になるが、各携帯電話事業者が販売するスマートフォンについては、各社のサービスの対応状況にも影響が出るということを気にするべきかもしれない。

ドコモ初のEXILIMケータイ

 一方、フィーチャーフォンについては12機種がラインアップされており、2010年冬モデルの18機種、2010年夏モデルの17機種に比べると、スマートフォンが増えた分、減ってしまった印象だ。機能面ではかなり成熟していることもあり、あまり目新しいものはないが、3D対応モデルが3機種、50MB iモーション対応モデルが9機種、それぞれラインアップされている。

 注目すべきはメーカーで、NTTドコモ向けとしては初のカシオブランドの「EXILIMケータイ CA-01C」が登場することになった。これは言うまでもなく、NECとカシオ計算機、日立製作所の携帯電話事業統合によって生まれたNECカシオの成果ということになるわけだが、数年前からNTTドコモがauで人気のカシオブランドを欲していたという業界内の噂もあり、それがようやく実現した格好だ。

 その他のモデルでは、昨年人気を得ていた「F-06B」のスライドヨコモーションを継承する「F-09C」、光学手ブレ補正を搭載した「LUMIX Phone P-05C」、1610万画素CCDカメラに3D液晶を組み合わせた「AQUOS SHOT SH-10C」など、従来の人気モデルを進化させた機種が多いが、3 Color×4 Toneによる12色バリエーションを実現した「P-06C」のように、あまり今までNTTドコモが取り組んでこなかったような上手にボリュームゾーンのニーズに応えるモデルもラインアップされており、機種数が少ない割に内容は充実しているという印象だ。

 ただ、発表会後のタッチ&トライでの存在感という意味においては、筆者自身も含め、注目は圧倒的にスマートフォンに集まってしまっていて、残念ながらフィーチャーフォンのコーナーはいつもに比べ、かなり空いていたという印象だ。これがメディア関係者ならではの偏った反応であって、実際の店頭ではフィーチャーフォンにもユーザーの目が向いてくれればいいのだが、少なくとも今回のNTTドコモのアピールぶりを見る限り、昨年秋以降のフィーチャーフォンの苦戦ぶり以上に、さらに売れ筋が限られることになるかもしれない。スマートフォンが好調な売れ行きを記録しているとは言え、2011年の計画でもNTTドコモの販売数の2/3はフィーチャーフォンが占めているわけで、そのことを考慮すると、もう少し積極的かつ丁寧なアピールをするべきではないだろうか。

多彩なスマートフォン&充実のフィーチャーフォンのラインアップ

 さて、ここからはいつものように、発表会後のタッチ&トライコーナーで試用した各モデルの印象や捉え方などについて、説明しよう。前述のように、今回は試用時間がスマートフォンに偏ってしまっているうえ、モデル数も全24機種と多いため、十分に触ることができなかったことをお断りしておく。また、いずれの端末も開発中のモデルであるため、発売された製品とは差異があるかもしれない点もご了承いただきたい。各機種の詳しい仕様などについては、本誌のレポート記事を参照して欲しい。

 

【スマートフォン】

AQUOS PHONE SH-12C(シャープ)

 昨年のLYNX 3Dからペットネームを変更し、同社の液晶テレビなどで利用されるブランド名「AQUOS」を冠したスマートフォン。LYNX 3D SH-03Cに比べ、画面サイズが4.2インチとひと回り大きくなったが、両サイドが狭額縁になったため、ボディ幅は64mmと標準的なサイズにまとめられている。3D液晶パネルについては、新しい仕様のものが採用されており、視認性がかなり向上している。3D表示にについては、従来モデルが顔の正面に持ってきて、「このあたりにすると、3Dがよく見えるね」という印象だったのに対し、AQUOS PHONE SH-12Cでは顔の目前に持ってきて、すぐに「お、3D表示だね」と直感できるほどの差がある。背面の800万画素ツインカメラは、3D写真だけでなく、3Dムービーの撮影ができるため、今まで以上の3Dの世界が楽しみやすくなる印象だ。Wi-Fi周りの使い勝手や画像編集など、筆者が連載で指摘したチェックポイントもほぼ完全にクリアしており、初心者にもおすすめできるモデルと言えそうだ。

 

Optimus bright L-07C(LGエレクトロニクス)

 LGエレクトロニクスは2010年冬モデルでフルキーボード搭載のスマートフォンを提供していたが、今回はスタンダードなフルタッチのスマートフォンを提供する。今年の2011 International CESで発表された「Optimus Black」をベースに開発されたモデルだ。最大の特徴は何と言っても明るい世界最高輝度の液晶ディスプレイ。一瞬、プリント写真が貼ってあるのかと勘違いしてしまうほどのクッキリ感で、非常に視認性が高い。ボディは薄さ9.5mmの薄さ、重さ112gにまとめられ、微妙な曲線の背面はが心地良く手にフィットする印象だ。特に、ホワイトのモデルは全体的な質感や仕上がりも美しく、女性ユーザーにも好まれそうだ。ちなみに、背面のボディカバーが3種類、同梱されており、好みに合わせて交換できるのも楽しいところ。残念なのはWi-Fiの簡易設定や公衆無線LANの自動ログインに対応しておらず、Optimus chatで搭載されていた画像編集アプリも省略されている。

 

GALAXY S II SC-02C(サムスン電子)

 昨年、国内でも大ヒットを記録したGALAXY S SC-02Bの後継モデルに位置付けられる。今年2月に開催されたMobile World Congress 2011で発表されたGALAXY S2をベースに下モデルだが、ワンセグを搭載するなど、日本市場向けにカスタマイズされている。グローバルモデルであるにも関わらず、事実上、日本独自のワンセグを搭載してきたのは、サムスン電子の日本市場に対する積極的な姿勢を感じさせる。従来のGALAXY Sも完成度の高いモデルだったが、今回はディスプレイサイズがひと回り大きい4.3インチとなり、パネルも一段とクッキリ感の増したSUPER AMOLED Plusを採用する。有機ELディスプレイは元々、視認性や発色に優れているが、GALAXY SとGALAXY S IIを比べると、薄いカバーが1枚、取れたのかと感じさせるほど、コントラストが異なる印象だ。ディスプレイサイズが大きくなったこともあり、片手持ちでの親指による操作はやや手の大きさを求められる印象だが、それでもボディが8.9mmと一段薄くなったこともあり、比較的持ちやすい。背面部はグローバルモデルとは異なり、光沢仕上げとなっている。Wi-Fiの簡易設定はWPSに対応し、画像編集もアプリが提供されているが、サイズが細かく指定できないようだ。ちなみに、Wi-Fiは通常サイズのスマートフォンでは珍しく、5GHz帯を利用するIEEE802.11aにも対応する。全体的に見て、仕上がりの良さや完成度の高さは、今回発表されたNTTドコモのスマートフォンの中でもトップクラスの一台と言えるだろう。

 

MEDIAS WP N-06C(NECカシオ)

 今年3月に発売されたMEDIAS N-04Cにベースに、防水性能を追加したモデルだ。MEDIAS N-04C発表時にも予告されていたが、防水性能を追加しながら、ボディの厚みはわずか0.2mmしか増えていないのは非常に驚かされる。外見は本体前面のハードウェアキーがタッチセンサーになり、背面には卓上ホルダのための充電端子が備えられたことなどが異なる。搭載されるアプリも新たにMEDIAS WP用に開発されたものが搭載されている。なかでも最新情報を集めやすい「Topics」、かつてN905iやN-03Aに搭載されていた「ライフヒストリービューア」のように自分の行動履歴を日記のように表現する「Days」は、NECらしい取り組みと言えそうだ。デザイン的にも女性ユーザーを強く意識している印象だ。この違いであれば、最初からMEDIAS WP N-06Cを販売した方が良かったのではないかと感じさせるほどの仕上がりだ。ちなみに、Wi-Fiについてはらくらく無線スタートとWPSによる簡易登録に対応する。画像編集については今のところ、アプリは提供されないようだ。

 

BlackBerry Bold 9780(Research In Motion)

 最新のBlackBerry OS 6.0を搭載したBlackBerryシリーズの最新モデル。昨年のBlackBerry Bold 9700の後継モデルであり、2010年冬モデルのBlackBerry Curve 9300の上位モデルに位置付けられる。外見ではボディ周囲のメタル調のフレームがガンメタリックになったこともあり、グッと落ち着いたイメージにまとまっている。ブラウザがタブブラウザになり、メニューもアイコン表示がなったほか、メモリが倍増し、カメラも500万画素になったことで、全体的なスペックはかなり向上した印象だ。ただ、他のスマートフォンに比べ、タッチパネルに対応しておらず、ディスプレイの解像度もハーフVGAに留まるなど、全体的に手堅い仕様のモデルと言えそうだ。法人向けがメインのターゲットであるため、しかたがない面もあるのだが……。ちなみに、BlackBerryシリーズもspモードを契約することで、iモードと同じメールアドレスが利用することが可能だ。

 

Xperia acro SO-02C(ソニー・エリクソン)

 今年3月に発売されたXperia arc SO-01Cをベースに、ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信といった日本仕様を搭載したモデル。5月6日にグローバル向けに発表されていたが、まずはNTTドコモ向けに供給されることになった。基本的なデザインコンセプトはXperia arcと変わらないが、日本仕様を搭載したことにより、Xperia arc特有の背面の美しい弧を描く形状はほぼフラットに仕上げられている。ワンセグのアンテナは右側面、赤外線通信ポートは背面のカメラ部横に装備されている。ただ、Wi-Fiの簡易設定や画像編集など、日本のスマートフォンに必要とされる機能は実装されていない。Xperia arcに比べると、確かに背面がフラットになったことで、手に持ったときの微妙に薄さを体感させるフィット感がなくなったが、全体的な質感や仕上がりの良さは継承されている。タッチパネルのレスポンスやメニュー周りのサクサク感は、今回発表されたスマートフォンでもトップクラスと言って差し支えないだろう。ソニー・エリクソンのグローバルモデルのセンスと日本仕様をバランスさせた高級感のあるスマートフォンと言えそうだ。

 

F-12C(富士通東芝)

 富士通ブランドとしては初のAndroid採用スマートフォンだ。イギリスの老舗スーツケースブランド「Globe Torotter」とのデザインコラボレーションモデルとなっており、同社のスーツケースの角にデザインされている四隅のパーツが端末本体の四隅にもあしらわれている。らくらくホンを開発してきた富士通らしく、ユニバーサルデザインを意識したユーザーインターフェイスを採用し、メニュー周りのフォントサイズを変更することで、視認性を確保する一方、IPX5/8相当の防水性能も実現する。ボディサイズはコンパクトで、今回のNTTドコモが発表したフルタッチスタイルのスマートフォンでは幅、高さ共に、もっとも小さく、女性の手にもなじみやすいサイズと言えそうだ。ただ、今回試用したモデルはまだ開発中ということもあり、タッチパネルなどのレスポンスは今ひとつ良くなかった。また、他のスマートフォンと違い、ペットネームがないのもちょっと気になるところだ。

 

P-07C(パナソニック)

 「マイ・ファースト・スマートフォン」をコンセプトに開発されたパナソニック初のAndroid採用スマートフォン。他のスマートフォンがハードウェアのスペックを追求した構成になっているのに対し、使い勝手を含めたソフトウェアを作り込むことで、スマートフォンがはじめてのユーザーでも移行しやすいように仕上げられている。たとえば、ロックを解除するときの弧を描く動作のラインは、右手持ちと左手持ちの両方のラインが用意されており、タッチセレクターと呼ばれるランチャーはロックを解除したときの左手と右手の向きに従って表示されるなど、ユニークな取り組みをしている。また、秀逸なのがフィットキーと呼ばれる文字入力の画面で、テンキー表示のソフトウェアキーのサイズを変更できるようにしたり、テンキー表示のボタン面をデコレーションできるようにするなど、使い勝手と楽しさを両立させるユーザーインターフェイスを実現している。今回試用した製品は開発中ということもあり、タッチパネルのレスポンスはあまり良くなかったが、女性ユーザーを中心に人気が出ることが予想されるスマートフォンと言えそうだ。

 

AQUOS PHONE f SH-13C

 世界初のワイヤレス充電に対応したスマートフォン。今回発表されたNTTドコモのスマートフォンのうち、唯一、モックアップのみで展示されており、実機の動作確認はできていない。ワイヤレス充電については、無接点充電規格「WPC(The Wireless Power Consortium)」に準拠しており、端末をWPC対応の充電パッドに置くだけで、充電することができる。ちなみに、このワイヤレス充電のしくみは、基本的に電池パックに搭載されるため、端末を置いたときだけでなく、電池パックそのものを置いて充電することも可能だ。

 

【STYLEシリーズ】

SH-11C(シャープ)

 トップパネルにマットとグロスの2トーンの仕上げを施したスタンダードな折りたたみデザインの端末。ポジション的には、2010年夏モデルのSH-08Bなどに近い。810万画素カメラに、IPX5/7相当の防水、IP5X相当の防じん性能を実現し、おサイフケータイやワンセグ、オートGPSなど、スペック的に十分な仕様を備える。ディスプレイ全体がスピーカーになる「まるごと音声パネル」も魅力的な機能の一つだ。

 

F-10C(富士通東芝)

 女性ユーザーを強く意識し、宝石のようなクリスタルデザインでまとめられたモデル。ポジション的にはF-02BやF-02Cの流れを継承する。1220万画素カメラ、IPX5/8相当の防水、IP5X相当の防じん性能、オートGPS、3G/GSM対応国際ローミング、ワンセグ、おサイフケータイなど、今回のSTYLEシリーズの中ではもっともハイスペックを実現しており、PRIMEシリーズの1台と扱っても遜色のないレベルだ。

 

P-04C(パナソニック)

 スワロフスキーのエレメントをトップパネルにあしらい、女性ユーザーを強く意識したモデル。二軸回転式ボディを採用しており、2010年夏に登場し、好評を得たP-06Bの後継モデルというイメージに近い。1320万画素カメラで撮影した写真に、付属のタッチペンで手書きのデコレーションができるなどのコンセプトも継承されている。ディスプレイのタッチパネルは感圧式を採用する。

 

P-06C(パナソニック)

 モノトーン系、ピンク系、マゼンタ系という3つの色調に対し、それぞれ4つのカラーバリエーションをラインアップしたモデル。同じピンクでも少しずつ色味を変えており、多様なユーザーの好みに応えられるようにしている。いい意味でNTTドコモらしからぬ取り組みと言えそうだ。ハイスペックではないが、IPX5/7相当の防水性能も実現し、ワンセグやおサイフケータイにも対応する。

 

L-10C(LGエレクトロニクス)

 シンプルな機能構成でまとめられたコストパフォーマンスの高いモデル。2009年冬モデルとして発表され、2010年3月に発売されたL-03Bの後継モデルに位置付けられる。らくらくホンのような路線ではないが、キートップが非常に大きく、ワンタッチキーをヒンジ部近くに配するなど、使いやすさも考慮されたモデルだ。

 

【PRIMEシリーズ】

SH-10C(シャープ)

 1610万画素CCDカメラ、フルワイドVGA表示の3D液晶を搭載し、AQUOS SHOTのブランドネームを冠したハイスペックモデル。カメラは単眼のため、3D撮影はは一度、シャッターを切った後、横にスライドさせて、3D写真を生成する仕様。二軸回転式のボディを採用し、ディスプレイを反転した状態でのフルタッチ操作にも対応する。

 

F-09C(富士通東芝)

 3.5インチの3D対応液晶ディスプレイを搭載した防水ヨコモーションケータイ。2010年夏モデルとして発売されたF-06Bの後継モデルに位置付けられる。カメラは1610万画素CMOSイメージセンサーを採用するが、今回はコンパクトデジタルカメラなどでも高い評価を得ている裏面照射型の「Exmor R for mobile」を搭載し、暗いところでもクリアな撮影を可能にしている。ボディデザインが角張ったため、F-06Bに比べ、大きく見えるが、15.8mmと薄く仕上げられている。

 

CA-01C(NECカシオ)

 NTTドコモとしては初のEXILIMケータイ。1630万画素CMOSセンサーに、EXILIMエンジン for Mobileを組み合わせたカメラ機能が魅力。au向けのEXILIMケータイと同じボディデザインを継承しており、ヒンジ部近くの「NTT docomo」のロゴを見なければ、気づかない人がいてもおかしくないくらいだ。ディスプレイは480×854ドット表示が可能な3D対応液晶ディスプレイを搭載し、YouTubeなどで公開されているサイドバイサイド方式の3D動画の再生にも対応する。内部のソフトウェア的にはNシリーズのものを継承している。

 

P-05C(パナソニック)

 2010年冬モデルに登場したLUMIX Phone P-03Cに続く第2弾モデル。1320万画素カメラに、光学手ブレ補正を世界ではじめて搭載。一般的なソフトウェアによる手ブレ補正に比べ、画質の劣化を抑えることができる。DLNAにも対応するが、おそらくケータイでは初となる「DTCP-IP」にも対応しており、レコーダーのDIGAで録画した番組の再生を可能にする。カメラだけでなく、AV機能重視するユーザーも要チェックの端末と言えそうだ。

 

【SMARTシリーズ】

F-11C(富士通東芝)

 2010年夏モデルのF-03B、2010年冬モデルのF-03Cの流れを継承する防水対応モデル。従来モデルに比べ、カメラを510万画素(F-03Cは1220万画素)に抑え、インカメラやGPSを省略することで、コストを抑えている。一時期、SMARTシリーズのハイスペック化が進んだが、シリーズ開始当時の標準的なスペックに戻ってきた印象だ。指紋センサーや名刺リーダーなど、ビジネスユーザーに好まれる機能はしっかりサポートされており、スマートフォンなどを求めない30~40代の男性ユーザーを中心に支持されそうな端末だ。

 

N-5C(NECカシオ)

 スライド式ボディを採用し、閉じた状態でのタッチ操作にも対応したモデル。2009年冬モデルのN-04A、2010年夏モデルのN-07Bの流れを継承するが、従来がアークスライドと呼ばれる曲線を描くスライド式を採用していたのに対し、今回は曲線がかなり緩やかになり、一見、ほぼフラットに開いているような印象を受ける。カメラは810万画素だが、裏面照射型CMOSを採用しており、暗いところでの撮影にも強みを発揮する。今回、発表されたスライド式端末の中では、もっともスタンダードなスタイルを採用しており、意外に広いユーザー層に受け入れられそうな端末だ。

 

【その他】

Windows 7ケータイ F-07C(富士通東芝)

 Windows 7 Home Premiumが動作するパソコンとiモード端末を1台のボディにまとめたモデル。富士通が販売するモバイルノート「LOOX」のロゴがあしらわれており、どちらかと言えば、LOOXにiモード端末を内蔵したようなイメージに近い。iモード端末の部分は、通常のFシリーズ同様、Symbianを採用しており、microSDカードのみが双方からアクセスできる仕様となっている。Windows 7の動作は、Intel製Atom Z600を採用していることもあり、Atom搭載のネットブックなどと同等か、それよりもやや遅い印象だ。iモード端末が動作するときは、Windows 7はスタンバイとなる。逆に、Windows 7が動作しているときに電話がかかってくると、iモード端末が応答し、Windows 7は、やはり、スタンバイになるという仕様だ。今までにない非常にユニークな製品だが、快適性を求めるなら、正直なところ、個別にノートPCとiモード端末を持った方がいいかもしれない。逆に、1台で済ませたいというのであれば、なかなか面白い選択肢だ。こういう仕様が実現できるのであれば、Windows 7だけでなく、Windows PhoneやAndroidなど、他のプラットフォームと組み合わせる端末も実現可能であることを示唆しているのかもしれない。

 

「選べる、使える、楽しめるスマートフォン」か、iモード端末か

 昨年11月に2010年冬モデルが発表されたとき、NTTドコモがスマートフォンのラインアップを揃え、力を入れる姿勢であることが伝わってきた。あれから約半年が経過したが、このわずか6カ月ほどの間に、国内のモバイル市場は劇的に変化してしまったと言えるほど、急速にスマートフォンが普及することになった。

 今回発表されたNTTドコモの2011年夏モデルは、その劇的に変化する国内のモバイル市場に対応し、ユーザーのスマートフォンに対する要求にしっかりと応えるべく、充実したラインアップを揃えてきたという印象だ。そして、iモードというNTTドコモにとって、もっとも重要なサービスについてもスマートフォンへ取り込むべく準備を進め、2011年冬モデル発表時には今よりも一歩進んだ環境が提供できる方向性を明らかにしている。

 2010年冬モデルの発表会レポートの記事でも同様のことを書いたが、おそらく本誌読者の中にも「そろそろスマートフォンにしようかなぁ」「もうちょっと待つかなぁ」と悩んでいる人も多いだろう。今回の発表を見る限り、2010年冬モデルのときにも増して、魅力的なモデルがラインアップが揃っており、移行しやすい環境が整ってきていると言えるだろう。特に、多くのユーザーが気にするプラットフォームのバージョンについてもAndroid 2.3で揃っており、買いやすいタイミングであることは確かだ。

 ただ、その一方で、本稿でも何カ所かで触れたように、Wi-Fiの簡易設定や公衆無線LANサービスへの自動ログイン、メール添付に適した画像編集など、まだまだ使い勝手の面などで、ユーザーの利用シーンを十分に考慮していない仕様が残されているのも気になるところだ。これらの点については、今後、各メーカーやNTTドコモがマイナーバージョンアップも含め、改良を加えてくれることを期待したい。テザリングなども重要なサービスの一つかもしれないが、それ以前に、ケータイを利用してきたユーザーが困ることなく、きちんと移行できるように、使い勝手の面をもっとブラッシュアップして欲しいところだ。

 また、フィーチャーフォンについては、新しいブランドも登場し、魅力的なモデルがラインアップされたが、発表会の内容を含め、あまりにもスマートフォンに力を込めすぎているためか、今一つフィーチャーフォンの魅力が伝わってこないのも事実だ。多くのユーザーがスマートフォンに関心を持っていることは確かだが、必ずしもすべてのユーザーがスマートフォンを求めているわけではないことをもう少し考えるべきではないだろうか。

 今回発表されたモデルは、今月から順次、販売が開始される予定だ。今後、本誌に掲載される開発者インタビューやレビュー記事などを参考にしながら、読者のみなさんも自分が「使える、楽しめる」と思える1台をぜひ見つけていただきたい。




(法林岳之)

2011/5/18 15:39