スリムに、パワフルに、楽しく進化を遂げた「iPad 2」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


iPad 2
背面部

 今年3月3日に発表されたアップルの「iPad 2」。米国では3月11日の発売以来、従来のiPadの勢いにも増して、数週間待ちのバックオーダー(繰越注文)を掛けるほどの大人気を得ているが、いよいよ国内向けにも販売が開始されることになった。今回は国内向けモデルをいち早く試用することができたので、そのファーストインプレッションをお送りしよう。

iPadを超える「iPad 2」

 昨年、もっとも広くユーザーに受け入れられた新製品と言えば、やはり、アップルのiPadをおいて、他にはないだろう。近年のデジタル製品の中でもiPhoneと並び、傑出したヒット作であり、エポックメイクな製品であることは間違いない。

 iPadが登場するまでにもスレート端末やタブレットパソコンと呼ばれる類の製品は、さまざまなプラットフォームを採用したものが登場してきた。しかし、その多くは法人向けなど、特定のニーズに満たされることはあったものの、私たちのような一般コンシューマーにとって、魅力的な製品、使ってみたい製品というものはなかなか存在しなかった。

 今から約1年前、iPadは見事にその壁を打ち破り、パソコンでもスマートフォンでもない「ポストPCデバイス」という新しいジャンルの製品として、世界中で成功を収めた。パソコンやiPhoneなどにも慣れ親しんだユーザーはもちろん、それまでデジタル製品を敬遠していたような人たちからも興味を持たれ、これまでの製品では考えられなかったほど、幅広いユーザーに支持された。それを裏付けるように、iPadは約1年間で約1900万台という驚異的な販売台数を記録し、史上もっとも急成長した製品のひとつとして、高い評価を受けている。

 通常、新たに発売された製品がこれだけ好調な売れ行きを記録すると、次期モデルではわずかなリファインを加えたり、バリエーションを追加するケースが多いが、アップルはその期待をいい意味で裏切ってくれた。それが今回の新モデル「iPad 2」だ。ネーミング上は「iPad」から「iPad 2」となるため、初代モデルに続く、二代目モデルという印象を持つが、その内容を見てみると、デザイン、ハードウェア、ユーザビリティ、アプリケーションなどを含め、まったく新たに設計し直し、iPadよりも格段に魅力的な製品に仕上げている。「iPadを超えるのはiPad 2だけ」と言わんばかりの高い完成度の製品となっている。


iPad 2(左)とiPad(右)

スリムに美しく仕上げられたボディデザイン

薄く軽くなったiPad 2
iPad 2(左)の洗練された曲線

 「iPad 2」を手に取り、まず最初に驚かされるのは、そのボディの薄さと軽さだ。昨年、発売されたiPadは、それまでのスレート端末やタブレットパソコンと違い、自宅やオフィスだけでなく、カバンに入れて、外出先にも持っていくことができるモバイル端末として、仕上げられていた。なかでも自宅のソファに横になり、テレビを流しながらiPadを使ったり、オフィスや取引先などで資料を見せたりするときには、非常に快適に使うことができたが、外出先などで腕に抱えるようにして操作していると、時間が経つにつれ、徐々に腕に疲れを感じるような印象もあった。

 これに対し、今回の「iPad 2」は手にしてみると、従来よりもグッと軽くなり、「手にしやすくなった」「持ち歩きやすくなった」という印象だ。具体的には、Wi-Fiモデルで680gから601gで79gの軽量化、3G+Wi-Fiモデルでは730gから613gで117gの軽量化に成功している。単純な数値としては、100g前後の軽量化と捉えてしまいそうだが、それぞれのモデルが10%以上の軽量化をしており、実際に手にしたときの印象は、数値以上に「軽いな」と実感できるレベルだ。

 手に持つデバイスという意味で、「iPad 2」でもうひとつ評価すべき点は「薄さ」だろう。従来のiPadも十分にスリムなボディに仕上げられ、ノートパソコンなどを持ち歩くことを考えると、格段に快適なモバイルツールを手に入れたというイメージだったが、今回の「iPad 2」は従来のiPadの13.4mmから33%薄い8.8mmにまでスリム化され、ボディの軽量化とも相まって、誰にでも持ちやすいサイズ感のモバイルツールにまとめられたという印象だ。

 また、背面のボディ周囲は従来のiPad同様、緩やかなカーブが付けられているが、従来のiPadがボディ周囲の側面に数mmの垂直に立った部分があり、そこから背面に向けて、カーブが付けられていたのに対し、「iPad 2」ではディスプレイ面に近い部分から背面へ向けて、カーブが付けられており、一段と薄さを実感できる仕上がりとなっている。

 「iPad 2」はこれだけスリムで美しいボディに仕上げ、持ちやすいサイズに軽量化を実現しながら、iPadと同じ容量の25Whのバッテリーを内蔵し、約10時間のバッテリー駆動を実現している。従来のiPadは筆者も1年近く愛用してきたが、他のモバイル製品のように、常にバッテリー残量を気にしながら使うという感覚ではなく、毎日のように使い、ある程度、バッテリー残量が減り、次の利用時に足りなくなるかもしれないと考えたときに、初めて電源アダプタで充電するという使い方をしてきた。今回の「iPad 2」は、まだ試用した時間がそれほど長くないが、バッテリー駆動時間についてはほとんど変わりない感覚で使うことができている。


曲線の美しさと軽量化を実現

快適な操作感を支えるデュアルコアA5プロセッサ

新プロセッサ「A5」を搭載
Web表示

 スリムに美しく進化を遂げた「iPad 2」だが、外見だけが進化を遂げたわけではない。「一から設計し直した」という言葉に相応しく、ハードウェアも大きく進化を遂げている。なかでも重要なのがiPadの心臓部となるプロセッサだ。

 従来のiPadは「A4」と呼ばれるプロセッサ(SoC)が採用され、その後に登場したiPhone 4にも同じプロセッサが採用されている。iPadだけでなく、iPhone 4を試したことがある人なら、よくお分かりだろうが、このA4プロセッサによって実現される操作環境は、他のスマートフォンやスレート端末、タブレットパソコンなどと比較して、「サクサク動く」快適な環境を実現していた。このA4プロセッサでも十分だったと言えるのだが、iPad 2ではその2倍の性能を持つデュアルコアA5プロセッサを採用している。2つのコアを持つプロセッサを採用したことで、全体的なパフォーマンスがさらに向上しただけでなく、iOS 4.3によって実現されるマルチタスキング環境もよりスムーズに切り替えられるように仕上げられている。

 実際に従来のiPadといっしょに使いながら、操作感を比較して見ると、Webページを見ているときをはじめ、画面を回転させたとき、設定メニューを表示したときの画面切替など、随所に渡って、レスポンスがグッと速くなり、全体的な快適さが大きく向上している。特に、何かの機能を起動するときなどの反応は、iPadで少し待たされていたものが「iPad 2」ではすぐに表示されるようになり、待たされる感覚がほとんどなくなっている。

 そして、速さという意味では、「iPad 2」で大きく向上しているのがグラフィックス性能だ。従来のiPadに比べ、最大9倍のパフォーマンスが得られるとしているが、実際にWebページを閲覧しているとき、グラフィックに凝ったゲームを楽しむときの動作もキビキビしたものになり、全体的な快適性を向上させている。なかでも写真やビデオといった映像コンテンツを扱うときの動作は、従来モデルとの差がハッキリと表われる傾向にあり、後述するiMovieなどを利用したいユーザーにとっては、大きなアドバンテージになると言えそうだ。

楽しさが広がるカメラ&FaceTime

 iPadから「iPad 2」への進化において、本体の動作に関わる部分ではデュアルコアA5プロセッサの採用が大きなステップアップになるが、ユーザーにとって、大きなステップアップとなるのは、フロントカメラの搭載だろう。

 本体前面のカメラはiMacやMacBookをはじめ、一体型パソコンやノートパソコンなどで広く搭載されてきたが、日本のユーザーにとってはケータイに搭載されたフロントカメラがもっとも身近な存在であり、テレビ電話や自分撮りなど、幅広い活用スタイルが広く普及している。

 アップルもiPhone 4でフロントカメラを搭載し、Wi-Fi経由でビジュアルコミュニケーションを実現する「FaceTime」を提供しているが、「iPad 2」にも本体中央上にVGAクラスのカメラが搭載され、同じようにFaceTimeを利用できるようにしている。

 FaceTimeという機能そのものはiPhone 4と変わらないが、「iPad 2」で使ってみると、iPhone 4のときとはまた違った楽しみを味わうことができる。というのも「iPad 2」の場合、ディスプレイサイズが9.7インチと大きいため、迫力あるビジュアルコミュニケーションが楽しめるのだ。iPhone 4のFaceTimeは手のひらサイズのボディであるため、どちらかと言えば、1対1でビジュアルコミュニケーションを楽しむようなイメージがあったが、「iPad 2」では画面サイズが大きいため、2~3人程度の人がいっしょにFaceTimeに参加できるという印象だ。

 「iPad 2」のオプションとして販売される「iPad Smart Cover」を装着して折りたたみ、本体のスタンドとして机などに立てれば、リラックスした状態でコミュニケーションを楽しむことが可能だ。FaceTimeはWi-Fi経由での接続なので、自宅のブロードバンド回線経由で接続していれば、通信料を気にすることもないため、FaceTimeでお互いの部屋の様子を映し合いながら、空間を共有するような感覚の新しいビジュアルコミュニケーションを体験することもできる。遠く離れたところにいる友だちや家族と間近にいるような感覚でコミュニケーションが楽しめるわけだ。


iPad Smart Cover
スタンドとして活用できる

Photo BoothとiMovieで写真と映像をさらに楽しく

別売のHDMIケーブル

 「iPad 2」では、フロントカメラを利用したもうひとつの楽しみ方として、新たに「Photo Booth」というアプリケーションが標準で搭載された。Photo Boothはケータイなどで親しまれてきた『自分撮り』に、リアルタイムにエフェクトを加えることで、ユニークな写真を撮ることができるものだ。

 まったくエフェクトのない「標準」のほか、「サーモグラフィー」「ミラー」「X線」「タイル・万華鏡」「光のトンネル」「スクイーズ」「渦巻」「引き延ばし」という8種類のエフェクトが用意されており、9分割された画面から使いたいエフェクトを選び、指でタッチしながらエフェクトに変化を加えて、写真を撮ることができる。ブログやTwitterなどで見かける楽しげな自分撮り写真は、どちらかと言えば、被写体自身が表情を作っていたりするものが多いが、Photo Boothのエフェクトを活用すれば、今までにないユニークな表情(?)の写真を撮ることができ、誰もが手軽にウケを狙うことができる。

 「iPad 2」のカメラは従来モデル同様、背面にも装備されており、静止画だけでなく、720pのHDビデオを撮影することが可能だ。静止画については、iPhoneをはじめとしたスマートフォンやケータイで手軽に撮ることが多いだろうが、「iPad 2」では720pのHDビデオを撮影し、iPad向けのアプリケーション「iMovie」(600円)を使って、編集するという楽しみ方ができる。

 iMovieの編集については、素材が必要なため、ここではちょっとデモができないが、パソコンなどの編集ソフトに比べ、シンプルでわかりやすいユーザーインターフェイスを採用しており、初心者でも手軽にビデオの編集を楽しむことができる。HDビデオの編集となると、パソコンでもハイスペックな環境が必要と考えられがちだが、「iPad 2」でのiMovieは前述のデュアルコアA5プロセッサの効果もあり、ストレスなく、ビデオを扱うことができている。パーティや旅行などに持っていき、「iPad 2」のカメラで撮影したHDビデオをその場でiMovieで編集し、すぐにアップロードして、参加する人たちでいっしょに楽しむといった使い方もできそうだ。

 これらのカメラ周りの機能を見てみると、「iPad 2」のカメラは「撮る」ことだけを目的にしているのではなく、どうやったら楽しい写真やビデオが撮れるか、撮った写真やビデオをどう使うかといったことがよく考えられている。他のスマートフォンやタブレット端末などではなかなか見ることがない、アップルらしい取り組みのひとつと言えるだろう。

GarageBandアプリ

 ところで、「iPad 2」に適したアプリとして、もうひとつ紹介しておきたいのがアップルの「GarageBand」(600円)だ。GarageBandは元々、Mac OS X向けの統合アプリケーションパッケージ「iLife」に含まれていた音楽制作アプリケーションで、これをiPad向けに開発されたものが利用できる。ドラム、キーボード、ギター、ベースなどの楽器が用意されており、画面上に表示された楽器をタッチしながら演奏を楽しむことができる。

 こう書いてしまうと、「音楽を聞くのはいいけど、楽器を弾くのは難しそう」と躊躇する人がいるかもしれないが、GarageBandにはそんな初心者のために、半自動で演奏ができる「Smart Instruments」という機能が用意されている。筆者は十数年、いや数十年前に楽器を手放して以来、まったく楽器に触れることもなかったが、GarageBandのSmart GuitarやSmart Keyboardsを触り出すと、時間を忘れて遊んでしまうほど、楽しいのだ。

 同じような感覚は本誌でもおなじみのスタパ斎藤氏もお持ちのようで、氏が出演するImpress Watch Video「スタパビジョン」の「#69 Apple GarageBand」では、みのり先生とともにGarageBandを楽しく紹介している。実際の操作の様子などは、そちらも合わせて、ご覧いただけると、イメージがつかみやすいだろう。

 今回発売された「iPad 2」には、すでに発表されたように、3G+Wi-Fiモデル、Wi-Fiモデルがあり、それぞれに16GB/32GB/64Gの容量の違うモデルがラインアップされている。3G+Wi-Fiモデルはソフトバンクの回線を利用することになり、どこでも利用できることがひとつのメリットだが、すでに最近、普及が著しいモバイルWi-Fiルーターを持っていたり、Wi-Fi環境のある自宅やオフィスでの利用が中心のユーザーは、通信事業者との契約が不要なWi-Fiモデルを選ぶのも手だ。特に、最近は公衆無線LANサービスも環境が整備されつつあるので、これらを有効に活用するのも賢い使い方と言えそうだ。

デジタルをもっと身近に、もっと楽しく、もっと笑顔になれる「iPad 2」

ホーム画面
設定画面

 私たちにとって、パソコンをはじめとしたデジタルツールは、ビジネスに欠かすことができない存在であり、プライベートでもさまざまなシチュエーションにおいて役立つツールとなっている。しかし、近年、デジタルツールの主役は、パソコンから他のものに移りつつあるように見える。そのひとつがスマートフォンであり、もうひとつがiPadに代表される新しいモバイルツールだ。

 iPhoneやMacで培われた技術やノウハウを活かしながら開発されたiPadは、今までのパソコンになかったユーザビリティや楽しさを実現した製品として、この1年間、世界中のユーザーに支持されてきた。昨年は電子書籍ばかりがクローズアップされた印象が強かったが、今回の「iPad 2」に搭載された「FaceTime」や「Photo Booth」、アプリとして販売される「iMovie」や「GarageBand」を見てもわかるように、コミュニケーションからエンターテインメント、クリエイティビティに至るまで、幅広いユーザーのニーズを満たしてくれるツールとして、仕上げられている。もちろん、Webやメールなど、インターネットも快適に使うことができ、さらにはAppStoreで公開されている多彩なアプリを使うことにより、ゲームやエデュケーションなどの世界にも可能性を拡げることが可能だ。

 まだ試用した時間はそれほど長くないが、スリムに、パワフルに、楽しく進化を遂げたiPad 2は、ユーザーのワクワク感を刺激する魅力的なデジタルツールとして仕上げられたというのが率直な印象だ。デジタルをもっと身近に、もっと楽しく、もっと気軽に使いこなしたい人に、ぜひとも体験して欲しい。

 





(法林岳之)

2011/4/27 21:35