ケータイ用語の基礎知識

第745回:クラリファイテクノロジーとは

圧縮音源データを高音質に

 「クラリファイテクノロジー」(Clari-Fi)は、非可逆圧縮によって圧縮された音源の音を、より高音質にして再生する技術です。米Harmanによって開発され、スピーカーやアンプ、そして最近では一部のスマートフォンにも搭載されています。

 たとえばALCATEL(TCLコミュニケーションテクノロジー)のSIMロックフリースマートフォン「ALCATEL ONETOUCH IDOL 3」や、ファーウェイのAndroidタブレット「Media Pad m2 8.0」といった機種で採用されています。少しさかのぼると、ソフトバンクの「AQUOS CRYSTAL」にも搭載されていました。これらの機種でクラリファイテクノロジーをONにすると、MP3やAACといった圧縮音源データ、特にビットレートの低い圧縮データを再生する際に、よりCD音源に近いクオリティで再生することができます。

圧縮音源データに欠ける情報

 デジタル音源データは、マイクなどで拾った音をデジタルに変換し、データとして保管しますが、その際、単純にデジタル化しただけでは非常にデータサイズが大きくなってしまい、扱いにくいものになります。最近では、大容量で高音質の“ハイレゾ”音源の利用も広がっていますが、データサイズを小さくするため、楽曲データを「圧縮」することもよくあります。この圧縮方法には「可逆圧縮」「非可逆圧縮」の2種類があります。

 可逆圧縮は、圧縮して小さくしていても、もともとのデータに戻せるような手法のことです。「zip」といった形式は、可逆タイプの圧縮です。

 これに対し、「MP3」や「AAC」などは、圧縮したデータを、解凍、つまり再生する際には録音されたそのままのデータが再生されるわけではありません。人間の耳には同じように音量を出しても聞こえやすい音、聞こえにくい音が存在します。そこで聞こえにくい音の成分に関する情報はカットして、聞こえやすい音の成分のみを抽出して、データ化するのです。具体的には、ある程度高い周波数や低い周波数の音をカットするのです。

 ただ、聞こえにくい音とはいっても、実際には耳に届いているはずの音がカットされるわけですから、もともとの音楽と聴き比べると、圧縮された音楽との違いがわかるような加工になってしまうことがあります。

 MP3データの場合、ビットレートが256kbpsの場合22.0KHz以上、128kbpsの場合で15.2KHz以上の音情報をカットして省きます。ちなみにCD音源は22.0KHzまで記録可能です。人間の耳が感じることができる周波数は、年齢や個人差にもよりますが、だいたい20KHzですので、この数KHz分にない情報によって「なんだかこもった音に聞こえる」「音質が悪い」と人は感じてしまうわけです。

「欠けている音情報」を推測する

 クラリファイテクノロジーは、不可逆圧縮で欠けてしまった音の情報を、再生しようとする楽曲データから推測して補おうとします。同技術では、低ビットレートの音源データも、ほぼCD音源と同程度まで回復できるようになっているとのことで、たとえば128kbpsのMP3データであれば、カットされている15.2KHz~22.0KHzの音成分情報を補完し、付け加えて再生するのです。

 そのために、クラリファイテクノロジーでは、再生しようとする音情報をリアルタイムで分析します。データがどのような種類で、どの程度のビットレートであるか、そしてどの程度の情報がカットされているかを推測し、音楽データを再構築します。

 ひとつの楽器が音を出すときに、そこにはひとつの周波数成分ではなく、基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音「倍音」が含まれています。さらに「3倍音」「4倍音」というような音成分も含まれています。しかし、これらの倍音もある程度以上の周波数の音はビットレートによっては、カットされているわけです。

 クラリファイテクノロジーでは、このような音を再生する際に、残っている音情報から、欠けているであろう情報を推測して、再生音に追加します。ただし、再生しようとするデータがもともと高品質な場合、無理にデータが追加されることはありません。

 MP3やAACといった圧縮を行うと、なめらかに音が変化する場面を一気にカットしてしまうことがあります。人間の耳には「ブツッ」という音に聞こえることになりますが、同技術では、こうした成分やひずみを取り除きつつ、ステレオ感の補完なども行い、キンキン・シャカシャカという音になりがちなデジタル音源をナチュラルな感じに再生することができます。

 クラリファイテクノロジーのような技術は、他社からも提供されています。たとえばソニーの「DSEE HX」もそのひとつ。最近では「Xperia Z5」「Xperia Z5 Compact」などに搭載されています。「DSEE HX」ではは、圧縮音源データをハイレゾ相当の高解像度にアップスケーリングしたうえで、失われた音成分を補完し、楽器やボーカルの生々しさや空気感、臨場感も再現するというものです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)