ケータイ用語の基礎知識

第730回:SeeQVault とは

 「SeeQVault」(シーキューボルト)とは、microSDなどを含むSDメモリカードや、ハードディスクといったデータ記録媒体向けのコンテンツ保護技術です。「SQV」と略されることもあります。

 日本のパナソニック、ソニー、東芝、それに韓国のサムスン電子の4社により設立されたNSM(Next generation Secure Memory) Initiatives LLCが、各社にライセンスを提供しており、2015年10月現在、複数のメーカーから、SeeQVault対応のmicroSDカードやメモリカードリーダー、ハードディスク(HDD)、Blu-rayレコーダーなどが販売されています。

ソニーの「MRW-BS1」

 SeeQVault対応のBlu-rayレコーダーとテレビ、microSDカード、それにカードリーダーを使うとどうなるのでしょうか。たとえば、居間のBlu-rayレコーダーに録画した番組をmicroSDカードにダビングして、専用カードリーダーとセットでスマートフォンに装着すると、外出先で録画した番組を視聴できます。

 ちなみに、SeeQVault対応microSDカードには、テレビで放送されているHD画質のコンテンツをほぼ無劣化で(放送で使われているMPEG-2 TSからH.264への変換を行うため若干の劣化はあります)そのまま持ち運びできます。テレビでもスマートフォンでも同じように高画質で番組視聴が可能であることも特徴です。

HD画質のコンテンツの持ち運びが手軽に

 これまでも、フルセグTV放送の録画番組をスマートフォンで視聴する方法はいくつかありましたが、SeeQVaultは、特にHD画質のコンテンツの視聴に関しては便利な技術であると言えるでしょう。

 これまでもスマートフォンでフルセグ番組を楽しめるようにした機器はありました。でも、そうした機器では、宅内LANかインターネット経由で転送したり、転送時にメモリカードへ保存できず本体メモリだけしか使えない、といった制約が一般的です。

 一方、SeeQVault対応microSDカードでは、映像データは外部のメモリカードに記録するので、何枚でも容量を増やせますから、好きなだけデータを記録しておけます。またダビングする際もカードリーダーなどでレコーダーからメモリカードへダイレクトに繋ぐ形となり、HD画質の大容量な番組データをダビングする場合、僚誌「AV Watch」でのレビューによれば1時間番組で20分程度、とされています(※関連記事)。

プロテクトは「機器縛り」から「媒体縛り」へ

 これまでは、あるテレビに接続したHDDに番組を録画した場合、そのHDDを他のテレビに繋げても再生できませんでした。

 microSDメモリーカードの場合も同じで、フルセグ対応スマートフォンで録画し、そのデータをmicroSDカードに記録していた場合、たとえ同じ機種であっても、別のスマートフォンでは再生できません。

 これは、いわゆる「機器縛り」と呼ばれる制限です。機器縛りがあると、もしスマートフォンやテレビが故障してしまうと、同一製品でも機器交換を行うとそれまで録画した全ての番組が見られなることになります。

 しかし、SeeQVaultでは、記録した映像データは「機器縛り」ではなく、いわば「媒体縛り」となっています。HDDに録画した番組を、A社のテレビからB社のテレビにつなぎ替えても再生できます。同じように、スマートフォンのmicroSDカードを他のスマートフォンに装着しても同じように再生できる、というわけです。

 このように、SeeQVaultに互換性のあるメディア・レコーダーであれば、機器に縛られずに利用できるのは、SeeQVaultの大きな特徴です。

より高度なコンテンツ保護機構

 コンテンツ保護技術として、SeeQVault以前には、たとえば書き換え可能なDVDで採用されている「CPRM」という方式があります。これは、簡単に言うと、媒体一枚ごとに異なる「メディアID」という識別情報を利用して、コピープロテクトをかけるという方法です。この仕組みは、「DVD一枚ごとに異なるIDを持っている」という前提があれば有効なのですが、不正にメディアを複製してしまうと、複製したメディアの間でコンテンツのコピーが可能となってしまいます。またSDメモリカードの場合、カードの製造者がフラッシュメモリとコントローラICを購入してカードを作成するときにIDを設定しているため、カードメーカーがその気になれば、全く同じIDを持つ「クローンカード」を作ることさえ可能となっていました。

 SeeQVaultでは、SDカード内部のフラッシュメモリとコントローラそれぞれにIDがあらかじめ格納され、その両方を使った「拡張メディアID」を使用するという仕組みになっています。たとえば東芝やサムスンなど、供給元が非常に限られているID内蔵フラッシュメモリの製造メーカーが協力しないと、クローンメモリカードを作成できません。つまり、SeeQVault対応のmicroSDカードはクローンを作ることが技術的に難しく、さらにSeeQVaultを推進する企業の信用力もコピープロテクトの担保にしていると言えます。

 ちなみに、CPRMでは56bit長の共通鍵暗号方式でしたが、SeeQVaultでは、128bit鍵長のAES共通鍵暗号方式に強化されました。コンテンツの復号鍵など重要なデータには暗号化に使用する公開鍵と復号用の秘密鍵を対にして用いる公開鍵暗号基盤(PKI)を採用することで保護機構自体の強化も行っています。

 このような新しい強固なプロテクト技術を使うことで、SeeQVault対応のSDカードは、ホームネットワーク向け著作権保護技術DTCPの管理を行っている団体「DTLA(Digital Transmission Licensing Administrator)」、地上デジタル/BDデジタルを使ったテレビ放送の送信/ 受信規格を策定している「Dpa(一般社団法人デジタル放送推進協会)」から、記録メディアとして認可を受けることができました。これまでの記録媒体より、より便利にHD映像を楽しむことができるようになったのです。

互換性には注意

 先述したように、A社製テレビにHDDを繋ぎ、テレビ番組を録画していた場合、もしテレビが壊れてしまったら同じA社製であっても別のテレビでは録画したものが再生できません。しかしSeeQVaultに対応していれば、繋ぎ直すだけで視聴できる、というのが特徴の1つです。A社製テレビに繋いで使っていたHDDを、B社のテレビに繋いだ場合、SeeQVaultとしては利用できるはず……ですが、バッファローやエレコム、ロジテックといったSeeQVault対応HDDを提供する企業は「SeeQVault対応であっても異なるメーカーの機器に繋ぐと利用できない」「同一メーカーのテレビ、レコーダーに繋いだ場合のみ利用できる」と案内しています。

 これは、レコーダーに接続するHDDのファイルフォーマットが、メーカーによって異なる可能性があるためです。このためA社製テレビで使っていたHDDをB社製テレビに繋ぐと認識されない、といったことが現在は起こり得ます。

 一方、SDカードでは、ファイルフォーマットの規格がWindows標準のフォーマット(FAT16/32、exFATなど)に準ずると規定があるため、そうしたことはまず起こらないはずです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)