第534回:AXGP とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「AXGP」とは、モバイルブロードバンド通信の規格の1つで、下り最大110Mbps、上り最大15Mbps(ベストエフォート)を誇る高速通信方式です。

 ウィルコムが開発した次世代通信規格「XGP」の一部を変更、高度化したものとされ、その名称は“高度化XGP”を意味する「Advanced eXtended Global Platform」を略した物です。

101SI

 ウィルコムからXGP事業を継承した、ソフトバンクグループのWireless City Planning(WCP)が2011年11月1日より東京・大阪・福岡の一部地域でサービスを開始する予定です。

 WCPは、いわゆるMNO、つまり基地局などのインフラを整える通信事業者となる一方、自社でインフラを持たないMVNO(仮想移動体通信事業者)に向けて、サービスを提供する予定となっています。2011年9月末時点において、MVNOとしては、ソフトバンクモバイルが名乗りを上げており、「SoftBank 4G」というブランドで、一般ユーザーに高速データ通信サービスが提供される予定です。対応機種としては、セイコーインスツル(SII)製のモバイルWi-Fiルーター「101SI」が対応製品第1弾として発表されています。

 

PHSから離れ、TD-LTEと非常に近い規格に

 「AXGP」は、歴史的経緯としてはXGPを「高度化」したものです。「XGP」は国産の簡易型携帯電話「PHS」のTDD(時分割多重通信)、マイクロセル方式対応といったコンセプトを引き継ぎながらOFDMA技術の採用、MIMOといった新技術を利用することによって高速なデータ通信を利用可能としたもので、日本で開発された、日本独自の通信方式でした。PHSは日本だけでなく、台湾、タイ、中国などで利用されていることもあり、こうした地域への展開も構想にあったようです。

 もともとXGPは、「次世代PHS(neXt Generation PHS)」と呼ばれていたこともありましたが、規格上、互換性はありません。PHSと基地局側のアンテナを共用する目的で、上り下りの時分割に関するパラメーターなどは、PHSに合わせられていましたが、異なる通信技術を使っています。たとえばXGPで通信できなくなった場合、PHS側と連携する、といったことは規定されていませんでした。現行のPHSと多少の共通点はあっても、互換性自体はない通信規格であったのです。

 そのXGPを発展させた「AXGP」は、総務省の発表資料によれば、2011年6月、通信速度の高速化、効率的なエリア整備などが行えるよう、ワイヤレスブロードバンドシステムの高度化に関して制度が整備されたことから、WCPが技術方式の変更を行いました。これ以降のXGPは、「AXGP」と呼ばれています。

 この際、規格としては、上り下りの時分割に関するパラメータなども修正されました。これにより、PHS用設備を共に利用する、といったことはできなくなります。一方で「TD-LTE方式」との共通点を持つものなりました。

 WCPでは、AXGPは次世代通信方式の1つである「TD-LTE」と、高い互換性を持つとしており、グローバルでのTD-LTEのエコシステム、つまりTD-LTEの基地局や端末などをAXGPでも共用できるだろうとの見方を示しています。

 なお、TD-LTEとは、過去の本連載で解説したように、3GPPで標準化されている次世代通信方式「LTE」の一種と言える通信規格です。時間帯によって上り下りの通信を分けるTDD(時分割多重)方式を採用したLTEで、中国の最大手携帯電話事業者、中国移動通信(チャイナモバイル)など、いくつかの国の事業者がすでに採用し、サービスを開始しています。

 




(大和 哲)

2011/10/4 06:00