第471回:バイオ電池とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「バイオ電池」とは、燃料電池の一種で、ブドウ糖などの糖類を燃料として発電する装置です。「バイオ燃料電池」「微生物燃料電池」とも呼ばれます。

 バイオ電池の燃料として最もよく研究されている「ブドウ糖」は、“グルコース”とも呼ばれ、その名前の通り、ぶどうなどの果実やはちみつに多く含まれる、自然界にもっとも多く存在する単糖類です。

 物質としては水に溶けやすく、砂糖に比べさわやかな甘味で、医薬用や、菓子、甘味料、清涼飲料水にも多く使われています。(ダイエットとうたうものを除く)コーラなどの原材料欄を見ると「果糖ブドウ糖液糖」というようにブドウ糖を含む材料が記載されているのがわかるでしょう。

 また、ブドウ糖、生物にとっては必須のエネルギー源で、人の血液中にも、血糖として平均1リットルあたり約1gのブドウ糖が含まれています。ご飯やパンなどに含まれているでんぷんや麦芽糖なども、人間が食べると、アミラーゼという唾液に含まれる酵素や、マルターゼという小腸から分泌される酵素の働きによってブドウ糖に分解されます。そして、血液によって運ばれ、体の各所でエネルギーとして使われたり、あるいはそこからグリコーゲンになり、筋肉や肝臓に蓄えられたりします。

 「バイオ電池」は、次世代の燃料電池として、いくつかの機関で研究が進められています。というのも、現在商品化が薦められてい燃料電池にはメリットも多いのですが、デメリットも多く存在します。バイオ電池はこれをカバーしてくれる新しい技術となる可能性があるからです。

 たとえば、最も基本的な燃料電池で利用される燃料である「水素」は、非常に爆発しやすい物質で、取り扱いに注意が必要です。もし取り扱いを誤ると非常に大きな爆発を起こす恐れがあるというリスクが存在します。また、現在もっとも実用化に近いとされる燃料電池で使われる、エタノールやメタノールも非常に燃えやすい物質で、利用にはある程度の注意が必要とされます。

 一方、バイオ燃料電池で使う糖類は、取り扱いに危険を伴いません。それどころか、糖類は先に述べたように食物や清涼飲料水など身近なものにも多く含まれているため、人のいるところどこにでも既に存在しているといえます。

 そこで、ブドウ糖が多くふくまれる飲料、たとえば、ジュースを注入すると発電するバイオ電池のコンセプトモデルが作られたりしています。実用化はまだまだまだ先の話でしょうが、応用分野としてジュースを入れて動かすという携帯電話のコンセプトモデルが提案されたこともありました。2007年にはソニーがバイオ電池を試作し、ウォークマンで音楽再生したと発表、その後も開発を続けています。

 あるいは、体の中に埋め込む機械、たとえば、ペースメーカーの電池として使うことなども研究されています。いつでも血液中の糖分を撮ることができるので、生きている生物の体内であれば電源の心配をしなくて済むわけです。ただし、これらが実用化されるには、必要な電力を取り出せる効率のよい発電を行うなど、装置の研究や改良がまだまだ必要となるでしょう。

発電の原理は、酵素の「バイオエレクトロカタリシス」

 一般に、燃料電池は水素と酸素の結合によって、水を作る酸化還元反応など、電気化学反応を利用して電気を作り出す、つまり発電することになります。

 バイオ電池の場合、微生物の「バイオエレクトロカタリシス」と呼ばれる酸化還元反応と酵素触媒反応の組み合わせによって発電します。

 ブドウ糖と酸素を、「酸素と水素イオン」それに「水素イオンから分かれた電子」に、そして「二酸化炭素」と「水素イオン」と「電子」を水に換える過程で電力を作り出します。

 電子の放出と結合のプロセスの間に電極を用意し、間に電気回路を組み込むことで、この過程を発電装置とすることができるわけです。いわば、バイオ電池とは、微生物を初めとした生き物が、食物からエネルギーを取りだすシステムを応用した燃料電池であると言えます。

 電極と酵素の間で電子を移動させるには、酵素が直接電極と接触して行う方法、あるいは「メディエータ」と呼ばれる仲介役物質に行わせるといった方法があります。バイオ電池の発電効率向上には、メディエータや触媒、燃料の組み合わせなどが重要になります。

 

(大和 哲)

2010/6/15 12:03