ケータイ用語の基礎知識

第801回:メモリー とは

 スマートフォンなどのスペックを紹介する記事に「メモリー」という言葉が含まれています。これは、記憶を意味する「memory」から来ているもので、コンピューターには必須の部品です。

 スマートフォンは、通信機能と計算機能を組み合わせたような作りです。たとえば、スマートフォンでオンラインチャットをしているときには、計算機がチャットアプリを動かし、アプリに必要なデータを通信機能でクラウドから取り出しているわけです。

 計算機能をざっくり見ると、スマートフォンもサーバーもスーパーコンピューターも、基本の原理は同じ作りです。その中核にある「プロセッサー」が「プログラム」に従って、足し算や、引き算、論理演算、条件判断といった計算を進めていく、という方式になっているのです。この「プログラム」と計算される数値や結果、つまり「データ」が置かれている場所が「メモリー」、つまり一時的に、プログラムとデータを置く場所です。

 ちなみに本連載の第628回で紹介した「ストレージ」とは、データを長期間、保管するための装置です。ストレージという言葉は、もともと貯蔵や保管を意味する英単語「storage」から来ていて、外部記憶装置や補助記憶装置ともいいます。今回紹介する「メモリー」とは対になる用語と言えるでしょう。

メモリーとストレージの関係

 スマートフォンでは、メーカーによって同じものを「メモリー」と呼んだり「ストレージ」と呼んだりして表現にゆらぎがあります。つまり、スペックを調べる際に、多少の注意が必要なのです。

 たとえば、ASUSの「ZenFone 3」の製品サイトに記されているスペック表を抜粋して抜粋です。

ZenFone 3(ZE520KL)のスペック
対応メモリー搭載容量:3GB LPDDR3
Capacity内蔵ストレージ:eMCP 32GB
microSDmicroSD(SDXC)最大2TB

 これは、本稿で紹介する「メモリー」、つまりアプリを一時的に置く場所が3GBという容量である、という意味です。そして、永続的に保管しておく場所(ストレージ)は32GBの容量があり、脱着可能なmicroSDカードは2TBまで利用できるということを示しています。ちなみにLPDDR3、eMCPというのはそれぞれメモリー、内蔵ストレージに使われている部品(デバイス)の種類です。

 一方、ソニーの製品情報を見てみると、「外部メモリー」「内蔵メモリー」「RAM」「ROM」という表現が使われています。になっています。

Xperia XZ(SO-01J)
外部メモリーmicroSD、microSDHC、microSDXC
(2GB、32GB、256GB)
内蔵メモリーRAM3GB
ROM32GB

 この場合、本コーナーでご紹介する「メモリー」「ストレージ」の用法では、「メモリー:3GB」「蔵ストレージ:32GB」が搭載されているということになります。それに加えて、脱着できるmicroSDカードが最大256GBまで利用できるという意味です。

 同じ部材を指しているのですが、「メモリー」「ストレージ」が示す範囲は、少々混乱していると言えます。

 さらにいえばiPhoneの場合、たとえばiPhone 7であれば、カタログには「容量:32GB、128GB、256GB」としか書かれていません。

 これは内蔵ストレージが32GB、128GB、256GBという3つのバリエーションがあるよ、という意味です。メモリーについてはカタログには何も書かれていません。

 先述のように計算機には、プロセッサーから一時的にプログラムやデータが置かれる「メモリー」、年単位といった長い単位で保管できる「ストレージ」がありますが、もともと計算機用語が作られた40~70年前とは現在のスマートフォンとは部品の構成などがかなり変わってしまっています。そのために、そのため言葉の意味がかなり揺らいでしまっているのです。

使用しているデバイスの混乱がカタログ表記の混乱を生んだ

 現在、スマートフォンに搭載されているメモリー、ストレージは、かつてのコンピューターの「メモリー」技術から進展したモノが使われています。かつてのコンピューターでは、メモリー、ストレージにはまったく原理の異なる装置を使うことが多かったという背景がありました。

 1960年代ごろからコンピューターにトランジスターという電子部品が使われるようになりました。トランジスターと抵抗、コンデンサーを組み合わせた回路を使えば、それまでの電磁石や真空管を使った回路に比べて非常に故障しにくく、従って計算が正確で、速いコンピューターが作れることがわかったからです。

 しかし、トランジスターは、非常に高価でした。そのうえ、当時標準的なメモリーの設計では、1ビットのメモリー、つまり0か1かそれだけ憶えておくのに6つも必要としました。そのため、計算そのものを行う「プロセッサー」部分と最低限のプログラムとデータを置くための「メモリー」部分にだけトランジスターを使った回路を作り、コンピューター本体としたのです。一方、ストレージはデータをたくさん記録しておきたいので、もっと安価な部品を使うという発想になりました。

 メモリーとして、トランジスター回路でデータを書いたり消したり、自由に書き換えられるランダムアクセスメモリー、「RAM」が誕生しました。また、もっとデータ単価の安い装置として、磁気ディスクなどの原理を使った「ストレージ」も作られました。

 またさらに、「メモリーも一時的に記録するだけじゃなく、毎回同じデータだけ出力するように回路を固めてしまえばトランジスターは少なく安く作れるのでは?」というアイデアも生まれました。これで同じデータを出すだけの「リードオンリーメモリー」、つまりROMが作られたのです。

 以前はこの内容を書き換えるのにも時間がかかっていました。数十秒~分単位かけないと完全に以前の中身を消して書き込めないというものも一般的だったのです。そしてそこに、画期的な消去・書き換え可能なROMのバリエーションが登場しました。秒単位の時間すらかからずに、一瞬でぱっと内容を消せる、つまり「フラッシュ」できるタイプのROMです。これが「フラッシュメモリー」です。

 これだけ速ければ、容量を増やしてデータあたりの単価を安くすると、磁気ディスクより速く、静かで、小さいストレージとして使えてしまいます。現在は、プロセッサー、メモリー、内蔵ストレージ、外部ストレージという構成を引き継ぎながら、内蔵ストレージに「フラッシュメモリー」やそのバリエーションを採用することがほとんどとなりました。

 これがメーカーによって、「ストレージ」と書かれたり「ROM」「内部メモリー」などと書かれたりする背景と言えるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)