ケータイ用語の基礎知識

第789回:Application Performance Class 1(A1)とは

アプリケーションの実行に適したスペックを持つSDカード

 今回紹介する「Application Performance Class 1(アプリケーションパフォーマンスクラス、A1)」とは、microSDカードなどを含むSDカードのひとつです。アプリを入れて実行するときに快適さ、もっさり感に影響する“読み書き性能”が一定の基準に達していれば「A1」と名乗ることを許されます。

 Android 6.0以降、外部ストレージであるmicroSDカードもスマートフォンの内部ストレージと“同一視”して、アプリケーションのインストールや実行などが可能になりました。それまでは内部ストレージか、SDカードへインストールするかを明示的に示さなければならなかったのです。

 ただしmicroSDカードなどの外部ストレージは、その性能によって価格が異なることが多くあります。安価なものでは特にその読み書き性能もより遅くなるのが普通です。Androidでは、内蔵ストレージの25%以下の性能しか出ないようなSDカードを使った場合「システムが遅くなることがあります」という警告が表示されますが、それだけでは、購入するまでそのSDカードが内蔵ストレージ代わりに使ってよいのかどうかわかりにくくなってしまっていました。

 そこでSDカードを購入する際、「内蔵メモリと同じように扱って使える」という目印として導入されたのが、「A1」です。その名の通り、SDカードに“アプリを格納して使う場合の性能”の「クラス1」に達しているものである、という意味になります。この規格の基準を満たすSDカードやそのマニュアルには、「A1」または「A1 APP PERFORMANCE」のサインを印刷して、わかりやすく案内しています。

Application Performance Class White Paper(SDアソシエーションの発行する技術概要書)に記載されているA1のロゴマーク。A1規格に準拠したSDXCカード、microSDXCカード本体やそのパッケージ、マニュアルなどにはこのロゴのどちらかが(あるいは両方)が表示可能となる

 「A1」規格は、SDアソシエーションが定めた標準の中でも、2016年に公開された「SD仕様 5.1」で規定されています。読み書き性能として、読み込みが1500 IOPS、書き込みが500 IOPS、連続データの操作が10MB/秒という性能を最低限クリアするものとされています。ちなみに「IOPS」は、1秒辺りの入出力のアクセス数のことです。

 2017年1月現在、A1のロゴを付けた初めての製品として、サンディスクから「Ultra microSDXC UHS-I」が発売されました。他のメーカーからも今後、A1に準拠したmicroSDカードが登場することでしょう。

AndroidもSD規格に合わせて仕様変更

 「Application Performance Class」という基準は、先述したようにSDカードに、アプリケーション、あるいはアプリケーションデータを格納するために最適なSDカードのデータ読み書きのスピードの基準を定め、クラス分けを行うというものです。「SD仕様 5.1」から定められました。

 A1の連続データの保証レートである10MB/秒という値は、UHSスピードクラスでいうと「UHS-I」と同じ値ですが、UHS-Iと異なるのは、A1は不特定の条件下でのランダムアクセスと持続的なシーケンシャルアクセスのパフォーマンスレベルの組み合わせを定義している、ということです。これらは、単純な大きなファイルアクセス、たとえば動画の記録などよりもアプリケーションやどのデータのアクセスに向いているかどうかを測定するための指標として適しています。

 とはいえ、連続データの書き込み10MB/秒という値は、現行のスマートフォンの内蔵ストレージと比べるとあまり速いとはいえる数字とは言えず、むしろ最低限の数値に近い物です。今はまだ「A1」だけですが、今度のニーズ次第でもっと読み書き速度を向上させた規格が追加される予定もあります。

 なお、SDカードの規格追加によって、2016年秋からレビューされている次期Android向けのプログラムでは、SDカードがスマートフォンでの内蔵ストレージの代わりとして適しているかどうか、「Application Performance Class」のいくつに相当するか示すステータス値と、実際の読み書き性能を比較して確認するように仕様を変更されています。今後、Android 7.0 Nougatのアップデートや、将来的に登場すると思われるバージョンで、Androidの挙動は、A1対応SDカードの仕様に合わせた物になることになります。

 なお、仕様変更以降でも、A1対応SDカードをスマートフォンに入れた場合に「このメモリカードによって速度低下することがある」という警告が表示されることがあります。

 これは、SDカードそのものが速くても、スマートフォン内部の回路とSDカードをつなぐインターフェイスに遅く、そこがボトルネックとなる……といったことが要因で結果的にSDカードの読み書きが遅いケースがあるためです。

 逆にスマートフォン側で高速なインターフェイスをサポートする場合、「A1対応SDカードが効果的に利用できます」といった表示があればわかりやすいかもしれませんが、残念ながらAndroidの規定としてもそのようなものはなく、スマートフォンがSDカードをどの程度の速度でハンドルできるかというような指標をカタログに載せているメーカーもないようです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)