スマホ普及でどうなる? ドコモが目指す新たな通販の姿


オークローン社長のヒル氏

 NTTドコモ子会社で、テレビ通販事業を展開するオークローンマーケティングは、同社代表取締役社長のハリー・A・ヒル氏が、米国に拠点を置く国際的な通信業界の団体「ERA(Electronic Retailing Association)」の理事長に就任すると発表した。理事長職の期間は1年間。

 同社では5日、都内で会見を開催した。ヒル氏および、ドコモのフロンティアサービス部長でオークローンの副社長も務める中山俊樹氏から説明が行われた。今回の会見は、ERA理事長就任の話が中心となり、ドコモとオークローンの今後の取り組みについては、方針は示されつつも、具体的な内容は明らかにされていない。

ERA理事長就任、ドコモは「米国の先端事例を学ぶ」

 テレビ通販市場は、日本では2011年度に5兆900億円に達し、初めて5兆円を突破した。一方、米国市場はその約30倍、1兆9605億ドル(約153兆円)に達する。主に米国の国土の広さが通販市場を支えているのでは、とヒル社長は説明しつつ、日本の経済力からすれば、まだ通販市場には伸びる余地があると説明する。また米国では総広告費の55%が通販広告ながら、日本ではまだ20%に留まっているという。

1991年設立のERAグーグルなどが会員
ERAのミッションヒル氏は模造品対策などを行っていく

 その米国で、1991年に設立されたERAは、当時急成長したテレビ通販(インフォマーシャルと呼ばれる)への懸念を払拭すべく、会員企業に法規制の遵守などを求め、ユーザーからの信頼を得て通販業界の発展を目指している。現在はグーグルやebayなどが会員とのことで、今回、米国外に在住する人物として初めてERA理事長へ就任することになったヒル氏は、「世界基準の確立」「世界規模の模造品対策」などを新たに目指し、日本の品質基準、おもてなしの精神などを世界に広めたいと意気込む。

 ドコモ側としても、ヒル氏の理事長就任を契機に、通販分野をはじめ、米国の最新状況を学んでいく。またドコモとオークローンの今後の展開として、中山氏は、海外のスマートフォンやタブレットの活用事例をいち早く取り入れること、国内のモバイル通販成功モデルをアジア中心に展開していくことを挙げた。ただし海外展開については、開始時期やサービス内容など具体的なスケジュールは示されていない。なお、オークローンでは2013年1月より、タイやフィリピンなどで「ショップジャパン」ブランドでの通販事業を展開する予定も明らかにされたが、その段階で両社による何らかの展開は予定されていないという。

ドコモとオークローンでは海外事例の取り込みを図るアジアに向けた展開も

ドコモの物販事業はどうなる?

 ドコモでは現在、通信以外の分野へ積極的に展開し、“総合サービス企業”への進化を目指している。今夏の本誌インタビューでドコモの加藤薫社長は、「(総合サービス企業としての展開には)物販も含まれる」とコメントするなど、通販事業へ意欲を見せている。

 一方、1993年に設立され、名古屋市に本社を置くオークローンは、主にテレビを通じた通販事業を展開する。現社長のヒル氏は英語を教える助手として来日し、2000年より2代目の同社社長を務めている。これまで、キッチン向けツールなどを販売する「ショップジャパン」、ダイエット食品を主に扱う「ヒルズコレクション」、ダイエット用のDVDなどを販売する「エクサボディ」という3つのブランドがあり、たとえばエクサボディでは、かつては「ビリーズ・ブートキャンプ」「コアリズム」、最近では「TRF イージー・ドゥ・ダンササイズ」がヒット商品とのこと。同社を利用する主な顧客は、20代後半以降という。オークローン全体の売上高(2011年度)は540億円で、そのうちテレビ通販は352億円。テレビ通販だけに限ると、業界4位になる。

3つのブランドを持つオークローン年々、売上高が増加
国内の通販業界は5兆円を突破オークローンはテレビ通販業界4位

 ドコモとオークローンは、2009年4月に資本提携した。これまでドコモユーザーへのプロモーション、dメニューでのオークローンの商品紹介、動画による使い方の説明など、両社の特徴を活かした取り組みが行われてきたが、ドコモが目指す“総合サービス企業”の展開において、オークローンとどう協力していくのか。

ドコモの中山氏

 ドコモの中山氏は、今回の会見で、新サービスの発表など、具体的な取り組みの説明は行わなかった。その一方で、今後については、「オークローンとの協力で基本になるのは、モバイルキャリアであり、IT屋であり、といったドコモらしさをどう活かすかという点。プレミアクラブといった会員組織、オークローンでの購入とドコモポイントの割当、あるいは今後登場するNFCなどおサイフケータイ的な要素と、ドコモの資産を活かしていく」と説明する。

 「現在はスマートフォンの広がりで、よりリッチなコンテンツが増えてきた。ドコモとしては、モバイルサービスがもっとユーザーの生活に役立って欲しい」と語る中山氏は、ドコモが進める通販分野において、オークローンには中核的な役割を期待するとコメント。オークローンの商品は、ダイエット用のツールなど、購入後にユーザーが活用して効果を発揮するものが多いとのことで、モバイルを通じて「動画で使い方を説明するなど、モバイルとの組み合わせで新しいショッピングができる。また購入のタイミングであるテレビでの通販番組は見る機会が限られるが、スマートフォンであればユーザーの好きな時間に視聴できる」とした。

スマートフォン普及、新たな展開にらむオークローン

 スマートフォンの普及がテレビ通販、あるいはオークローンの事業へどう影響しているか、会見後の囲み取材で問われたヒル氏は、「テレビからスマートフォンへユーザーが移行するという形よりも、テレビを視聴しながらスマートフォンを利用する、といった使い方が増えている。当社への発注も固定電話ではなく携帯から、という形が増えている」と説明する。

 また、ドコモと提携した2009年と比べると、スマートフォンが大きく普及したことについては、「2009年の当時は、スマートフォンはまったくなく、当時はiモードでの展開が想定されていた。しかしその後、半年、1年も経たないうちにスマートフォンの普及が予想される状況となり、大きく環境が変化した。スマートフォンはどちらかと言えば、携帯電話よりもパソコンに近いデバイス。ちょっと取り組みが遅れたかなと思うが、伸びている分野で今後やっていきたい。販売した商品の使い方を説明する、つまりユーザーの行動を支援していけば、『ユーザーが次のステップで必要な商品』に繋げることができると、そういう点が明確になりつつある。来年、再来年になると、より具体的な事例が紹介できるだろう」と述べ、徐々にドコモと挑戦的な取り組みを進めていくことを示唆した。




(関口 聖)

2012/9/5 18:19