3GとWi-Fiで品質改善、KDDIの取り組みとは


KDDIの大内氏(左)と西山氏(右)

 KDDIは5日、都内で同社が進めるネットワーク戦略を紹介する説明会を開催した。内容は、auの第3世代携帯電話(3G)のネットワークでの対策と、公衆無線LANやユーザーの自宅などにおけるWi-Fiでの対策で、今年12月開始というLTEサービスについては触れられなかった。

 3Gでは、今夏完了する800MHz帯における周波数再編、2GHz帯と800MHz帯を用いたサービスエリアの作り方、そしてユーザーの日々の生活で繋がりやすくするための取り組みという3つのポイントで紹介された。

 一方、Wi-Fiについては、5GHz帯の活用、通信品質を改善するシステム、公衆無線LANで干渉を防ぐ取り組み、同じく公衆無線LANで人通りの多い通り全体をWi-Fiのサービスエリアにする取り組みが紹介された。

 このうち、これまでの機種でも対策され、今夏モデルでさらに使い勝手の改善が図られる公衆無線LANでの取り組みについては質疑応答や囲み取材で多くの質問が投げかけられた。

3G関連の取り組みの概要Wi-Fi関連の取り組みの概要

接続時間やバッテリー、Wi-Fiの不満を解消

 スマートフォンの普及にあわせ、利用拡大が図られているのがWi-Fi(無線LAN)だ。通信事業者にとっては、従来の携帯電話の10倍とされるトラフィック(通信量)を生み出すスマートフォンが3Gだけで通信しつづけると、処理しきれなくなる。そのため自宅や街角でユーザーがWi-Fi経由で通信してくれれば、そうした懸念は減り、ユーザーもよりスピーディな通信が可能になる。

KDDIが示したユーザーのWi-Fiに対する不満点

 ただ、Wi-Fiは、使いづらいと感じる点が少なくない。説明を行ったKDDI技術統括本部 モバイル技術企画部通話品質グループリーダー兼コンシューマ事業企画本部Wi-Fi推進室担当部長の大内良久氏は、「ユーザーがWi-Fiを使わない理由を聞いた」と、ユーザーの不満の声を紹介。最も多かったのは「電池持ち」で、次いで「3GとWi-Fiの設定」「設定が面倒くさい」「Wi-Fiへの切替時間がかかる」といった設定・接続関連、そして通信品質への不安、最近急増したというセキュリティへの懸念が挙げられている。

 Wi-FiをONにしたとき、周囲にアクセスポイントがないか、スマートフォン側でサーチする。これがバッテリーを消費する大きな原因、とする大内氏は、5月以降、待受中のWi-Fi信号の受信間隔を調整し、最適化することで、バッテリーの持ちを従来の約2倍に向上させることを明らかにした。3Gだけで待ち受けする機種が250時間弱のバッテリーの持ちになる場合、現在はWi-FiをONにすると100時間程度しかバッテリーが持たない。しかし5月以降、順次提供されるアプリの最新版によってWi-FiをONにした状態での待ち時間が倍増し、約200時間まで持つようになるという。iPhoneやWindows Phoneでどうなるか、近日中に案内される見込み。

Wi-Fi ON時のバッテリー駆動を改善接続にかかる時間を短縮

 接続関連でも5月以降、3GとWi-Fiの切り替えにかかる時間を半分以下に短縮する。切り替えのときには接続先と携帯電話が事前に通信を行って、接続の手続きを行うことになるが、この部分の最適化や接続用アプリの改善で時間短縮を図る。

Wi-Fiと3Gの切り替えをスムーズに

 既に対応済の取り組みとしては、アプリの形で、3GとWi-Fiの電波環境を自動的に認識して、スムーズに切り替える技術がスマートフォンへ導入されているという。これにより、Wi-Fiの電波が弱く、3Gにも切り替わらない“どっちつかずの状態”でも、すぐ3Gへ切り替わる。これはAndroidスマートフォンで利用できるもので、同社では「スマート切替技術」と呼んでいる。また、設定の面倒さを解消する既存の取り組みとして「au Wi-Fi接続ツール」というアプリでSSIDやパスワードを入力する手間をなくし、公衆無線LANのau Wi-Fi SPOTと、家庭向けに提供するWi-Fiルーター「Wi-Fi HOME SPOT」へすぐ繋がるようにしている。またセキュリティについても、Wi-Fiのなかでは最も高いセキュリティ方式であるWPA2、最高レベルの暗号化技術であるAESを用いており、盗聴やなりすまし、不正アクセスを防ぐとした。

設定の手間を省くツールセキュリティにも配慮

“先読み”でWi-Fiの通信品質を向上

 急増するWi-Fiスポットの影響として、機器が増えすぎることで、互いに干渉しあい、接続先は見つかるのに繋がらなかったり、あるいは繋がっているのに通信できなかったりすることがある。

 これは、多くのWi-Fi機器、あるいは無線通信機器が2.4GHz帯という電波帯域を使うためだが、auでは2.4GHz帯に加えて5GHz帯もサポートしている。Wi-Fi用の5GHz帯はまだ対応機器が少なく、auでもスマートフォン2機種(RAZRとGALAXY S II)、タブレット(XOOM)のみ。とはいえ、利用できるチャンネルが2.4GHz帯よりも多く、干渉が少ない。KDDIでは、今後投入するスマートフォンにおいて5GHz帯の対応を本腰を入れて促進するとのこと。

5GHz帯活用へ品質情報解析システムで先読み

 さらに同社では「品質情報解析システム」により、必要な場所でWi-Fiスポットの拡充を図る。同システムは、3Gが混み合っているエリア、通信が繋がりにくい(呼出の切断、接続の失敗など)のデータの分析、実地に走行して測定したデータ、ユーザーからの要望という4つの要素を分析するもの。多くのユーザーが使う場所でありながら、携帯電話の3Gネットワークが繋がりにくい、といった地点を割り出し、ユーザーからクレームが来る前にWi-Fiスポットを設置して、通信環境を整えるのだという。

 また店内に設置されるようなWi-Fiスポットでは「ビームフォーミング」技術で、繋がりやすい環境を整える。これは、電波をたばねて、ユーザーがいる方向に向かって発射する、というもの。こうした技術を採用していないWi-Fiスポットでは、周辺の数mだけに電波が届き、店内全てをカバーしづらいが、ビームフォーミングによって、店内の隅々まで、Wi-Fiを利用するユーザーがいれば、そちらに向かって電波を発射して通信しやすい状態にする。

ビームフォーミングで店内環境を改善人の多い通り全体をWi-Fiのエリアに

 さらに大内氏は「ストリートセル構想」という取り組みも紹介する。人の多い通り全体を1つのWi-Fiのサービスエリア(セル)にするという取り組みで、東京の竹下通り、八重洲商店街、名古屋市セントラルパーク地下街といった場所では既に導入されており、歩きながらWi-Fiで通信し続けることができる。たとえば竹下通りには、最大150mほどのエリアをカバーできるイスラエル製のWi-Fiアクセスポイントが3台設置されている。1つの機器がカバーするエリアから、別の機器のサービスエリアに移動しても、IPアドレスを引き継ぎ、携帯電話のようにハンドオーバーして通信し続けられるのだという。

自宅でのオフロード効果は40%

 ユーザーが自宅に設置するWi-Fiルーター「HOME SPOT CUBE」は、設置台数が35万台に達したことが明らかにされた。これは計画通りの推移とのこと。「HOME SPOT CUBE」を設置した宅内での日中におけるデータオフロード(3Gからの負荷分散)は約40%になったとのこと。23時台など、在宅率が高いと見られる夜間は、そのオフロード率はさらに向上するとの見方も示された。一方、公衆無線LANスポットはまだ利用率が高くないため、公表できる数値はないという。

 au Wi-Fi SPOTでは、アクセスポイント以降の回線としてWiMAXを活用するケースが少なくない。大内氏は「まずは展開速度を重視してWiMAXで設置したが、通信量が多い場所ではWiMAXではなく光回線で接続する場所もある。光回線は敷設まで一定の時間がどうしてもかかる。auではマルチデバイス(パソコンもau IDがあればau Wi-Fi SPOTが利用できる)に対応しているが、パソコンのトラフィックはスマートフォンより格段に多い。個人的には2012年度の後半以降、光回線に繋がるWi-Fiスポットが本格的になると見ている」と説明した。

 公衆無線LANスポットは今後も拡充する方針を明らかにした大内氏は、auのアクセスポイントが他社や、一般ユーザーのWi-Fi機器への干渉原因になっていないか、と問われると「auは他社より後から設置しているが、オートチャンネルセレクトと言う機能で、Wi-Fiアクセスポイントが一度周囲をスキャンして、干渉を避けるチャンネルを利用するようにしている。総務省の『無線LANビジネス研究会』では、アクセスポイントの設置数もそうだが、どちらかと言えば、2.4GHz帯を用いる自動ドアや街中の監視カメラといった機器への影響について問題視されている。街中にWi-Fi機器を持ったユーザーが多く行き来するようになり、そこはキャリアでコントロールできず、ユーザーもそういった知識はないため今後啓発活動が必要だろう」と説明した。

新800MHz帯でエリア拡大、繋がりやすさ向上も

 3Gの取り組みについては、KDDI執行役員で技術統括本部副統括本部長の西山治男氏が紹介した。

 KDDIでは、2006年度から“周波数の再編”に取り組んできた。これはKDDIに割り当てられていた800MHz帯が細切れになっていたり、海外と異なる使い方になっていたりしたためで、別の800MHz帯がKDDIに割り当てられ、それまで使っていた“旧800MHz帯”は2012年7月に停波する。2006年度から徐々にエリアを拡充してきた新800MHz帯で、エリアを一層充実させるべく、KDDIでは数多くの基地局を展開。新800MHz帯の基地局は、旧800MHz帯の基地局と比べ、全国で約2.6倍、東京23区では約4倍も多くなり、和歌山県の那智の滝、秋田県の八望台など、旧800MHz帯では圏外だった場所で利用できるようになり、サービスエリアは新800MHz帯のほうが20%広がった。

周波数再編の概要新800MHz帯と2GHz帯でエリアを整備
従来より20%エリアを拡大観光スポットなどで利用できるようになった

 一方、単に基地局数を増やしただけでは繋がりやすいエリアにはならない、と語る西山氏は、都市部は特にビルの陰は電波が届きにくい場所になりがち、と指摘。かつてと比べ、現在はエリアシミュレーションソフトが大幅に進化しており、最近ではビルの高さや形状を反映させた3Dマップでシミュレーションを行えるようになったとする。シミュレーションの進化は、路地裏で電波が届きにくい場所を見つけやすくなり、そうした場所に対して効果的に基地局を展開できるようになった。

 さらに、2年ほど前から導入した品質情報解析システムによって、通信しづらい場所を見つけ出し、Wi-Fiでの対策と同様に、ユーザーからのクレームが来る前に、電波環境を改善するようになった。Webサイトでは、ユーザーから“電波がイマイチな場所”の申告を受け付けており、KDDI側の動き、ユーザーからの動きを組み合わせて、より効果的なエリア整備が可能になった。2GHz帯と800MHz帯という、やや電波の特性が異なる2つの周波数帯でエリアを整備してきたなか、西山氏は「2GHz帯は都心部では飛ばないと言われるが、郊外では遠くまで届き、遠く離れた基地局の微弱な電波で携帯電話が接続されることもある」と技術的な課題が多くあり、1つ1つクリアしてきた、と紹介した。

3Dマップでシミュレーションができるように路地裏のシミュレーションも可能になり、より細かなエリア対策を実施
品質情報解析システムでクレームになりそうな場所を見つけて先手を打つ

 首都圏の主要駅周辺では、接続率、切断率が改善されたとして、より繋がりやすさ、途切れやすさが従来よりも改善したとアピールした西山氏は、ユーザーの生活シーンに寄り添ったエリア整備の取り組みとして、東名阪で地下鉄の駅間のエリア化(他社と共同での取り組み)を進めるほか、数多くの基地局が存在する繁華街を通過する電車内でも、電車沿線であることに配慮したサービスエリアを設計して、電車に乗りながらWebブラウジングなどがスムーズに行えるよう整備すると語る。

 ここで、山手線や中央線に乗りながら、スマートフォンからYahoo!トップページへアクセスし、全て表示されるまでの時間を計測した資料が披露された。これは、競合他社のスマートフォンとの比較で、プレゼン資料の撮影は禁じられたが、実際にKDDIスタッフが電車に乗って1人が操作しながら、もう1人がトップページ表示までの様子をカメラで撮影する、という形で平日の18時~19時に行われたという。それによれば、品川や池袋など一部のエリアでは、KDDI側の設備が足りず、他社の方がスピーディに表示できたが、中央線(新宿~立川)では、NTTドコモのXiやソフトバンクモバイルのULTRA SPEEDと見られる端末とauのスマートフォンでは、さほど差が出ず、京浜東北線ではドコモのXiと、auのスマートフォンは同等で、ソフトバンクモバイルのほうがやや早い、という結果になった。この比較において、ドコモのXiと思われるサービスは圏外のエリアも調査対象になったと見られるが、実地での調査結果を示すことで、auの3Gサービスが他社と比べ、最高通信速度が一桁低いにも関わらず、実利用時は、スペックほど大きな通信速度の差がない、と主張している。

 西山氏は、「2008年~2009年頃は、旧800MHz帯と新800MHz帯の切り替えを進めたこともあって、通信品質が落ちたと評価されたが、現状は良い方向に進んでいる。それでも高層住宅や戸建て住宅ではまだ改善するところがある。今後も改善を進めたい」と語っていた。

マルチバンドでの展開でノウハウを蓄積繋がりやすさ、途切れやすさが改善
地下鉄のエリア化を推進駅周辺のエリア化も配慮
EV-DO Advancedの概要ユーザーからの申告も受け付ける
フェムトセルで宅内環境を改善

iPhoneの影響、700MHz帯について

 昨年10月に発売したiPhoneの影響について大内氏は、ネットワーク側からすると、AndroidとiPhoneは区別するような違いはない、としつつも、iPhoneのほうがネットワークインフラに優しい作りになっている、と語る。スマートフォンの増加がもたらすトラフィックの急増への対応について、KDDIでは、CDMA2000 1xEV-DOというデータ通信専用の通信方式を用いており、通信を行っていない場合は休止する「ドーマント方式」をW-CDMA方式より先んじて導入していたため、インフラへのダメージが少ないという。また、W-CDMA方式では、ネットワークを制御する際のトラフィックとデータトラフィックは1つのシステムで処理するが、auのCDMA2000方式では制御トラフィックとデータトラフィックを別々のシステムになっており、それぞれの伸びに応じた設備投資が可能で、スマートフォンの急増によるトラフィックには対応できているとした。

 近く割り当てがあると見られる700MHz帯について、大内氏は「エリア整備の観点からすると、これまで扱ってきた800MHz帯と近い周波数特性があり、従来のノウハウが活かしやすいだろう」と説明。また700MHz帯は、スマートフォンのトラフィック処理向けとして、オフロードで利用されるだろうとの見通しが語られた。




(関口 聖)

2012/4/5 18:19