メーカー各社の携帯事業を2009年度決算から俯瞰する


 国内電機大手から2009年度の連結業績が出揃った。主要各社の携帯電話事業の状況はどうなのだろうか。決算数字のなかから携帯電話事業を追ってみた。

シャープは大幅な成長見込む

 国内最大シェアを誇るシャープは、2009年度の携帯電話の出荷台数が前年比6.3%増の1054万台、販売金額は3.9%増の4544億円。

 シャープの片山幹雄社長は、「高画質CCDカメラの搭載や、ソーラーパネルを搭載した独自性のある製品が受け入れられ、日本や中国で販売拡大とシェア拡大を図ることができた」とする。中国市場向けの販売を本格化したことも販売台数の増加に繋がっていると言えよう。

 この好調ぶりを背景に2010年度の計画は29.9%増の1370万台、販売金額は11.1%増の5050億円を大幅な成長を見込んでいる。

 片山氏は「国内の市場ニーズは付加価値型と普及価格の製品に二極化していくだろう。スマートフォン分野においては、高機能型の新製品を投入し、普及価格帯の製品でもラインアップの強化を図る。中国市場においては、3G端末のラインアップ強化のほか、1級都市への販売に限定していたものを、主要都市にまで拡大し、販売プラットフォームの拡大に取り組む」とした。

マイクロソフトの「KIN」はシャープ製

 2010年度は、先頃、マイクロソフトが発表したスマートフォン「KIN」の販売拡大も追い風となりそうだ。

 同氏「KINは、シャープの携帯端末や液晶の技術と、マイクロソフトが持つクラウドサービス、ソフトウェア技術の融合によって誕生したもの。欧米向けの戦略製品の第1弾になる」として、グローバル展開の足がかりにする考えだ。

 一方、液晶事業は、2009年度の実績は前年比15.9%減の8872億円だったが、2010年度は16.1%増の1兆300億円を見込む。「中小型液晶はゲーム機向けの販売が減少し、パネル価格の下落も影響した。コモディティ化が加速しており、コスト構造の抜本的な改革が必要。タッチパネル付き3D液晶など、高付加価値事業の強化を図り、ゲーム、デジカメ、スマートフォン、電子書籍端末向けの出荷を強化する。2010年度は3D化の波や、スマートフォンの需要拡大が見込まれ、当社の高精細、高い透過率の技術が、相当注目を集めるはずだ」などとした。

富士通は価格競争にらむ

 富士通は、2009年度の携帯電話の出荷実績が前年比10.2%増の518万台、2010年度の計画は0.4%増の520万台とほぼ横ばいを見込んでいる。

 携帯電話とパソコンなどをあわせたユビキタスプロダクトソリューション事業の売上高は前年比3.2%減の9187億円、営業利益は90億円減少の229億円。2010年度は売上高で9.7%減の8300億円、営業利益は12.9%減の200億円と減収減益を見込む。

 「2009年度における携帯電話の出荷台数は当初計画を上回る販売台数となっているが、NTTドコモのSTYLEシリーズ向け製品の販売数量が増加するなど、低価格機種の構成比が増加したことで減収となっている」(富士通の加藤和彦執行役員専務)としたほか、「携帯電話の買い換えサイクルの長期化により、修理のなどの売り上げが増加した」という。

 2010年度は、携帯電話およびパソコンの価格競争の激化を見込んでいるほか、新機種開発に向けた開発費の負担増の影響や、低価格市場の拡大に伴う採算性の悪化により減益になると見込んでいる。

NECは黒字、事業統合で大幅成長目指す

 今年6月にNECカシオモバイルコミュニケーションズとカシオ日立モバイルコミュニケーションズとの事業統合を行うNECは、携帯電話を含むパーソナルソリューション事業の売上高が13.0%減の7379億円、営業利益は325億円改善し、193億円の黒字。そのうちモバイルターミナル事業が前年比18.9%減の2825億円。携帯電話の出荷台数は前年比29.4%減の360万台と大幅な減少となった。

 国内市場の縮小による競争激化のなか、発売機種数の減少などに伴う販売不振によって出荷台数が減少したという。だが、固定費の削減や開発効率化により、黒字を確保している。

 一方で、2010年度は大幅な成長を目指す。2010年度の出荷計画は、前年比2倍以上となる750万台。国内は500万台、海外は250万台を見込む。

 国内市場は市場全体で微減という引き続き厳しい状況を見込むものの、携帯電話事業の統合効果により増収を見込む。モバイルターミナル事業の売上高は前年比35.2%増の3820億円を計画している。

 「現状2位である国内の携帯電話市場において、2012年度は国内シェアナンバーワンを目指し、事業基盤の強化を継続する」(NECの遠藤信博社長)としたほか、「海外事業にももう一度挑戦する。海外事業の展開に向けて、確実な立ち上げを実施していく」とした。

NECが開発する携帯向けRFIDリーダーライター

 また、同社ではモバイルクラウドサービスに関して、KDDIとの共同開発により、法人向け携帯電話をモノをかざすだけでさまざまな業務アプリケーションを実現する商品を2010年中に投入。RFID機能をSDカード化し、携帯電話に内蔵する端末と、RFIDマルチリーダー製品との組み合わせにより、保守点検用途や営業マン向け、店舗従業員向けなどに利用するという。さらに、「ボイスだけでなく、データ通信を含めたオープンOSを搭載した新端末を開発しており、下期の発売を予定している」(遠藤氏)という。

 なお、日立製作所は、携帯電話事業を含むデジタルメディア・民生機器事業の2009年度の売上高が16%減の9292億円、営業損失は72億円の赤字。携帯電話事業の販売は減少しているとコメントした。

ソニー・エリクソンは大幅減

 ソニーは、携帯電話事業を全世界で展開する持分法適用会社であるソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの業績を発表。2009年4月~2010年3月の業績は、売上高が前年比37.2%減の64億5700万ユーロ(約7418億円)、営業損失は2100万ユーロ悪化して、6億4000万ユーロ(約735億円)の損失となった。販売台数は、前年比40%減の5300万台と大幅に減少した。

 全地域において厳しい市場縮小が続いたことが販売台数の大幅な減少につながったものの、研究開発費、販売費、一般管理費が減少したことで、営業損益は若干の悪化に留まったとしている。

 なお、ソニーでは、ソニー・エリクソンの2010年度の携帯電話の販売目標については公表していない。

東芝の携帯事業は赤字、今年度は転換図る

 東芝は、携帯電話を含むデジタルプロダクツ部門の売上高が4%減の2兆3636億円、営業利益が275億円増加の133億円。「携帯電話事業は、景気後退や価格下落の影響を受けて減収。携帯電話は通期では赤字となったが、前年から大幅に改善としている」(東芝の村岡富美雄副社長)という。

 2010年度のデジタルプロダクツ部門の売上高は11%増の2兆6300億円、営業利益は167億円増加の300億円。村岡氏は「パソコンと携帯電話の収益改善を見込んでいる」とした。

 同社では、「日野工場で行っていた携帯電話の製造を2009年度に終息し、海外へ生産を移管。固定費の改善に取り組んできた」(東芝・佐々木則夫社長)としている。

パナソニックは減益減収

 パナソニックは、携帯電話事業を担当するパナソニックモバイルコミュニケーションズの売上高が前年比21%減の3074億円、営業利益は54%減の109億円。2010年度の計画は売上高が9%減の2805億円、営業利益が63%減の40億円と減収減益の計画だ。

 パナソニックが主要製品のセグメント別として公表している移動体通信では、2009年度の実績は前年比16%減の667億円となった。

アップルのiPhone、世界市場で拡大続く

 一方で、米アップルが発表した2010年1月~3月のiPhoneの販売台数は、875万台。これを日本の大手電機の年度決算である2009年4月~2010年3月で集計すると、4月~6月が520万台、7~9月が740万台、10~12月が870万台となり、1月~3月を足すと、合計で3005万台の出荷規模となる。この数字からもiPhoneの世界的な広がりが実感できよう。

 このように国内電機各社の携帯電話事業に関する業績はまだら模様となった。

 そして、国内市場においては引き続き厳しい見通しが支配的となる一方、海外での事業拡大に活路を見いだすメーカーもみられる。国内では付加価値型中心から普及モデルの開発、販売強化が鍵になる一方、海外事業の拡大を目論むメーカーにとっては、グローバルに戦うことができる経営体質への転換が注目されることになりそうだ。

 

(大河原 克行)

2010/5/14 19:23