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遠隔操作で建機を操縦、センサーで作業員の安全確保、北海道のトンネル建設で5G実証試験、WCPなど3社

 Wireless City Planning(WCP)、ソフトバンク、大成建設の3社は、北海道余市郡で建設中のトンネルにおいて、2019年12月に5Gの実証試験を行った。

 同試験は、WCPが総務省から委託を受けた「令和元年度5G総合実証試験」の「多数の端末からの同時接続要求を処理可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討の請負」の一環。

赤字がWCPの担当

 実験が行われたのは、北海道余市郡で建設中の北海道新幹線 後志(しりべし)トンネル(落合工区)。トンネル工事における作業員の安全管理を目的に工事の現場にICTテクノロジーを活用する「i-Construction」の実現を目指して行われた。今回の実験の内容は、「ガスセンサーや環境センサー、ウェアラブルセンサーによるトンネル工事現場の安全監視」、「災害時の初期安全確認を想定した建設機械の遠隔操作」、「スライシング機能の確認」の3つ。

 今回は山が多いという日本特有の事情から数多く存在するトンネルをテーマとした。日本にあるトンネルのうち、中には築40~50年と老朽化したトンネルも多く、それらの維持は急務となっている。また、トンネル工事は危険が多く、近年の例を見ても落盤や漏れ出たガスによる酸欠、火災など作業員の命に関わる事故が多い。加えて、生産年齢人口の減少により、作業の効率化の需要も高まっている。

 i-Constructionにより、作業中の現場の状況を確かめることができれば、事故を減らしまた万が一事故が起きた際にも遠隔操作による無人での安全確認などが実現できるとして期待が高まっている。

おでかけ5Gでエリア構築

 トンネルは一直線ではなくカーブがあり、通路脇に資材やトラックなどが駐車してある状態でそれを避けながらトンネルという環境で5Gの性能を測定した。1400m程度に渡って5Gエリア化に成功した。

仮設ヤードに建機操作室を設置。トンネルは開通していないため斜坑から入る

 実験では、5Gエリアを迅速に構築できるソフトバンクの「おでかけ5G」を使用、4.8GHz帯の基地局1基と端末4基という条件で測定を行った。トンネル内部にはコンクリートを敷設する「セントル」という機材があり、そういった場所ではスループットが落ち込むものの、全体としてはおおむね屋外と変わらない結果が得られたという。

測定環境。中央付近でカーブしている

 遠隔操作の建機には、車幅を確認するためのカメラとバケットの上下の位置を確認するカメラ合計4台に加えて、映像だけでは分かりづらい奥行きを図るためにレーザーを照射して対象との距離などを測定する「LiDAR」も装備した。

人間を検知するとこのように警告

 このほか、建機の近くに人がいる際にはカメラ映像でオペレーターに警告するための人感センサーも備えられていた。

操縦席。ディスプレイは縦に湾曲しておりオペレーターが確認しやすいよう配慮されている

 公開された実験映像では、作業員(人形)を避け、荷物を指定の位置に置くという作業が行われていた。地面はコンクリートの上に一部鉄板が敷かれており、オペレーターにとっては操縦が難しい状況が作り出されていたが、スムースな動作で作業をこなしていた。

スライシングやエッジコンピューティングも

 トンネル内の環境測定のために用いられたセンサーは、酵素、硫化水素、メタン、CO、CO2、温度センサーの6種類。トンネルでの要件に従って、やぐらの上下2カ所に6機ずつ、合計12機を設置。作業員も脈拍とカメラのウェアラブルセンサーを装着した。センサーが危険な値を検知した場合は、作業員に通報される仕組みだという。

 これらのセンサー類については、実験に用いたデバイスは合計3Mbps程度の通信量だったが、さらなる多接続環境を見込み9Mbps分のダミーデータを流し、12Mbpsで通信した。

 今回の実証試験で確認したスライシングネットワークの動作では、人の命に直接的には関わらない気温などを測定する環境センサーやLiDARを低優先度に、建機の遠隔操作を中間、直接作業員の命に関わる心拍数などのウェアラブルセンサーやガス濃度を検知するセンサーを最高優先度として動作を確認した。

 実際にスライシング機能をオフにしてネットワークに高負荷をかけた状態での通信にはデータの途切れなどの現象が見られたが、スライシング機能を有効にすると途切れることなく正常なデータトラフィックを確認できたという。

 また、カメラからの映像やセンサーからのデータの処理はインターネットを介さずにUPFで実行するエッジコンピューティングの形で行われた。東京のデータセンターとの通信では5G回線の認証のみ。現地のネットワークの中だけでデータを処理することで低遅延な処理を実現した。

建設会社の評判は上々

 建設会社では従来、トンネル内ではWi-Fiルーターを設置してネットワークを作っており、通話などはできなかったという。

Wireless City Planning 田島裕輔氏

 Wireless City Planning 先端技術研究部 5G試験課 課長の田島裕輔氏は、今回の実験について「従来の環境ではギリギリでテキストメッセージを用いたコミュニケーションができるくらいの状態だった。環境測定も定期的に実施するというものだったが、今回の実験でのネットワークは建設会社に評価されており、ウェアラブルなどは今すぐにでも使えるのではないか」と建設会社からの反応が上々だったことを語った。

 また、今回は総務省から委託された実証試験という形だったが田島氏は実験で終わらずに具体的な検討はまだしていないとしつつも、商品化のアイデアがあることを語った。