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VR映像から負傷者をトリアージ、医療教育の機会確保まで、KDDI、防衛医科大、Synamonが災害医療分野における実証実験

 KDDIと防衛医科大学校、VR技術のベンチャー企業のSynamon(シナモン)は29日、埼玉県所沢市の防衛医科大学校において、5GとVRシステムを活用した災害医療対応支援および医療教育における遠隔教育に関する実証実験を行った。

 今回の実験は、災害で倒壊がおきた倉庫内での救助活動における、VRでの医師や本部との連携を確認。そして医療従事者による、爆弾などによる爆傷研究のために爆風を再現する実験装置「ブラストチューブ」をVRで見学という内容で行われた。

 実験の仕組みとしては、災害現場を想定した倉庫内、および「ブラストチューブ」見学会場に28GHz帯の5Gエリアを構築。合計3台の360度カメラの映像を遠隔を想定した会場まで伝送した。

VR上でのコミュニケーションにはアバターを使用

 VR空間上でのコミュニケーションには、Synamonの「NEUTRAN BIZ」が用いられた。会議などビジネスのために設計されたシステムで、参加者はVR空間上にアバターとして表示される。臨場感を感じられないビデオ会議に比べて実際に参加者がそこにいるかのような感覚でコミュニケーションを取ることができ、デスクトップシェアリングや画像の表示、「3D PEN」の機能を用いてVR空間の空中に文字を書けるなどの機能がある。

Synamon 代表取締役社長 武樋恒氏

災害時のスムーズな連携、医療教育の機会確保に

 災害時に多数の負傷者を治療するには、傷病者の緊急度、重症度などに応じて、治療の優先順位を決定(トリアージ)し、処置などに当たる必要がある。

清住哲郎氏

 そうした場においての問題点は「後方の病院においては、現場の状況がなかなかわからない」ことだと防衛医科大学校 医学教育部 防衛医学講座 教授の清住哲郎氏は指摘する。

 災害時には、現場に指揮所や本部を設置し、情報を集約するが病院からあちこちに人を出すことは現実的に難しく、情報が錯綜する危険性もある。そこで、5GとVRを使うことで現場の状況把握や関係機関との連携を行うことができないかと考えたことが、今回の実験の発想だという。

 また、医療教育の現場においても5GやVRの活用が期待されている。大規模災害が発生した場合、海上自衛隊の大型艦の上で自衛隊と民間の医療チームが共同で医療活動を行う構想があり、訓練を行っている。

 民間の医療従事者には慣れない艦の上で初めて顔を合わせるチーム同士での訓練は難しく、事前研修などを行う必要がある。しかし、平時ではチームは全国に散らばっており、艦も海の上にいる。そこで、5GやVRを用いてバーチャルに艦の上に集まり、研修を行うことで、機会確保につなげたいという。

まるでその場にいるかのような臨場感

 実証実験は「ブラストチューブ」見学の次に災害医療支援対応の順に行われた。

 「ブラストチューブ見学」の実験時には、VRでの参加者はそれぞれ東京、大阪、福岡から参加している想定で行われた。参加者はVR上の会議室で、爆傷研究に関する説明を受けた後に、360度カメラが設置されている「ブラストチューブ」設置へ移動した。

遠隔地からの参加を想定した参加者ら
会場で説明する齋藤氏。右横にVR参加者のアバターが見える

 実際に見学会場にいる防衛医科大学校 防衛医学研究センター 外傷研究部門 教授の齋藤大蔵氏から装置に関する説明を受けたのち、VR会議室に再度戻り終了という流れ。

 動作に遅延などはなく、VR空間内で行われた動画再生などもスムーズで、参加者たちも実際にその場で集まっているかのような自然なコミュニケーションをとっていた。

 災害現場での連携の実験の際には、埼玉西部消防局の協力のもと、医師、消防(指揮統制)、消防(情報支援)という役割に分かれた。現場の隊員からの報告、またVR映像に基づき災害現場の状況把握、被災者のトリアージが行われた。医師のみ実験の途中から参加したが、すでに参加している消防とのコミュニケーションは滞りなく、スムーズに被災地、救助活動の状況を把握することができていた。

 途中、現場の隊員から被災地に「液体の入った容器」があり、中身が漏れ出ているという報告がなされるという場面があった。これに対して、消防の情報支援担当は迅速に映像から容器の表示を読み取り、「マドラク酸化合物」の情報をVR上に流し、医師からのアドバイスを現場に伝えることに成功した。

VRによる遠隔コミュニケーションは期待できるシステム

 実験終了後、清住氏は今回の5GとVRを使ったシステムについて「使えると思う。通常難しい場所に集まり、360度映像で現場の状況を確認しコミュニケーションがとれるというのは、今回の実験以外の場所でもさまざまなところで応用できるのではないか」と期待感を語った。

渡里雅史氏

 また、KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 基盤開発グループリーダーの渡里雅史氏は、遮蔽物に影響を受けやすい28GHz帯を使って実験を行ったことについて「あえて難しい周波数を使った。厳しい条件で実験をすることで(成功が)見えてきた。より低い周波数でのエリア構築がしやすくなるのではないか」とした。

 また、「今回の実験環境はまだ試作機を使っているので大型の機器も多かったが、今後はコンパクト化が進んでいく。災害の現場においてはいち早く現場入りした人からの映像を頼りにこのような場面での活用ができるようにすすめていく」と今後の展開への意欲を見せた。