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「AppleはMusic FMの監視強化を」、日本レコード協会などが訴え

 日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽出版社協会、日本音楽制作者連盟および、AWA、KKBOX Japan、LINE MUSIC、楽天は連名で、Appleに対して、違法性の高い無許諾音楽アプリの対策強化について要望書を提出した。

 無許諾音楽アプリとは、サーバーに不正にアップロードされたファイルをダウンロードまたはストリーミングする音楽アプリのこと。要望書の内容は、「アプリが登録、公開される前の審査段階において、無許諾音楽アプリと思われるアプリに対して事前に日本レコード協会と連携するなど事前審査の強化」および「権利者から削除申請がなされた場合の迅速な削除」とされている。

 無許諾音楽アプリは、主に男女問わず10代の若者に人気が高く、音楽業界では以前から問題視されている。

要望書を提出した経緯

削除までの期間が長い

 日本レコード協会 著作権保護・促進センター センター長の末永昌樹氏は「App Storeにおいてのアプリ削除対応は時間がかかることが多い」と語る。権利者などがAppleに対して削除を申請した場合、無許諾音楽アプリの開発者と削除申し立てをした権利者が直接メールでのやり取りを行う。

 メールのやり取りはAppleも確認しており、やり取りの途中で明確なApp Store規約違反を確認できれば、即時削除されることもあるという。しかし、多くの場合は1カ月程度と時間がかかる。また、申請しても必ずしも削除されない場合もあり、日本レコード協会は削除基準が不明なことを問題視している。

 削除のやり取りを行っている間にもユーザーがダウンロードして不正に楽曲を入手している現実もあり、削除対応の迅速化を要望するに至った。

同一のアプリが何度も登録される

 App Storeにおいて、一旦削除されたアプリが再びストアに並んでいることが珍しくない。

 10代の若者の間でもっとも人気があるとされる「Music FM」については、2012年ごろに「Music Box」の名前でストアに登録されたものが初出とされている。日本レコード協会などは2016年ごろから削除依頼をしているが、アイコンや開発者名を変え2019年1月までに14パターンが確認された。

 最近では「Music FM」の人気にあやかり、似たような名前を名乗った「Music FM」の亜種も登場している。

 こうした経緯が重なり、明らかに違法な形でのコンテンツの取得を目的としたアプリはストアに登録される前に審査段階で却下されるよう、厳格な審査を要望したという。

一方のGoogleは?

 Googleもスマートフォン向けアプリケーションのプラットフォーム「Google Play」を提供しており、「Music FM」のようなアプリが登録されることもある。

 しかし、Googleの場合は、削除を申し立てた際に権利者が開発者とやり取りすることはない。Googleの判断で削除が行われるため、Appleに比べて対応が早く、申し立てたのに削除されないということもないという。

無許諾音楽アプリとはなにか、その違法性とは

 日本レコード協会によると、「無許諾音楽アプリ」とは次の2つの定義に当てはまるものだとしている。ひとつは、許諾実績のないサイトにアップロードされた音源をストリーミング、またはダウンロードで配信するアプリ。もうひとつは、YouTubeなどで提供されるAPIの利用規約またはアプリストアの利用規約に違反しているアプリ。

 ひとつめに当てはまるのが「Music FM」などに代表されるアプリで、ふたつめにはYouTubeのリージョンブロックを突破するアプリなどが挙げられる。日本レコード協会では、両方について削除申請を行っている。

 こうしたアプリは、開発者については違法な公衆送信を幇助しており、著作権法違反になる可能性が高く、サーバーへファイルをアップロードしする人については送信可能化権を侵害したと判断される可能性が高いと日本レコード協会。

 ユーザーについては、ストリーミングを利用して刑事罰に問われることはないが、不正にアップロードされているファイルと知りながらダウンロードした場合は違法となる。

 不正に取得された音源を無料で享受することになる無許諾音楽アプリでは、広告収入がある場合、その行き先は無許諾音楽アプリの開発者のみ。楽曲を制作したアーティストやレコード会社などにお金が回らない形になり、ゆくゆくはアーティストが新しいコンテンツを生み出せなくなってしまう。最終的には、日本の音楽産業がなくなってしまう危険性も孕んでいるといえる。

入り口をなくすことで健全化の道が拓ける

 LINE MUSIC 事業開発チーム ゼネラルマネージャーの岡隆資氏は「『Music FM』系統のアプリは全年齢層で使用率が高く、10代は男女ともに使用率は高い」としている。LINEが行った調査によると、10代では全体の31%が「Music FM」系統のアプリを使用していると回答している。

 そうしたアプリは正規のストリーミングサービスでは提供していない楽曲もラインナップしていることがあり、利用者の多さは、ストリーミングサービス普及など日本の音楽産業の成長の阻害要因のひとつとなっているという。

 また、Webサービスではなく、アプリであること特有の問題点もあるという。たとえば一時期、漫画を無料で読めるという触れ込みで問題になった「漫画村」などはWeb上のサービスであり、停止されれば誰も利用できなくなる。

 対して、「Music FM」のようなアプリの場合、ストアから削除されても、アンインストールしなければ継続して使用できるため、ストア上からなくなった後でもユーザーが無料で音楽を取得できてしまう。

 では、ストアから削除しても手遅れか、というとそんなことはない。LINE MUSIC取締役の高橋明彦氏は「通信するサーバーの仕様変更やデバイス側のOSのアップグレードによりサポートされないアプリはいずれ使用できなくなる。入り口となるストアからの削除を行いつつ、正規のストリーミングサービスなどの利用を促進することで、次第に被害は減っていくだろう」と語った。

 一般社団法人 日本レコード協会 常務理事の高杉健二氏は「ストリーミングサービスが伸びていることは歓迎する。しかし、日本は世界一のパッケージ大国でもあり、両方を共存させて多様性を確保したい。パッケージと配信の両方が音楽産業を伸ばす要因となるように取り組んでいきたい」と語った。