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“まるごと実験都市”福山でKDDIが5G実証実験、ドローンの映像をリアルタイム伝送

11月3日は一般向けにも公開

 KDDIは、11月3日に広島県福山市でドローンで空撮した4K映像を5G経由でリアルタイム伝送し、半球型のスクリーンに投影することで、ドローンに乗っているような体験サービスを一般向けに公開するが、一足早くその模様が報道関係者向けに公開された。

半球型スクリーンにドローンからの映像が投影される

 今回の取り組みは、ふくやま美術館前広場で開催される「備後フィッシュフェス」の一環として提供されるもの。東京大学大学院情報学環中尾研究室、プロドローン、サムスン電子、WONDER VISION TECHNO LABORATORYの協力の下で行われる実証実験となる。

 KDDIでは、ふくやま美術館の屋上に5Gのアンテナを設置。プロドローン製のドローンに4Kカメラと映像処理用のノートパソコン、5G通信用のサムスン製5G対応タブレットを積み、そこからの映像をリアルタイムに伝送する。周波数としては28GHz帯が使用されている。

ドーム型の体験ブース。半日で設置できる可搬型
実証実験で使用されるドローン
サムスン製のタブレットで5G通信している
飛行するドローンと屋上に設置された5Gのアンテナ
車載の5G基地局設備を使用
事前撮影の4K映像を受信するダウンリンク用の端末設備

 ドーム型の体験ブース内にはWONDER VISION製の半球型スクリーン「Sphere 5.2」が設置され、ドローンから伝送された4K映像が映し出される。従来、こうした映像体験にはVRゴーグルが活用されることが多かったが、スクリーンに映し出すことで、視力に影響があるとしてVRゴーグルの使用が制限される子ども向けにも体験サービスを提供できるようにした。

 ドローンからの映像のほか、鞆の浦など福山市内の観光名所を飛行体験できる映像も用意され、こちらではアクチュエーター付きの動くシートでよりリアルな飛行体験を実現している。シートの動きはプログラミングされたものとなるが、将来的にはドローンに搭載されたセンサーのデータをリアルタイムに取得し、シートの動きに反映させることも検討しているという。こちらの映像配信にも5Gが活用されており、ドローンからの映像伝送でアップリンク側、事前撮影映像でダウンリンク側のテストを行っている。

動くシート
事前撮影映像の体験はさらにリアル
シートの動きをプログラミングする機材

 一般体験は事前予約無しでも行えるが、今回のドローンが飛行できる時間が10分程度で、バッテリー交換が必要なため、リアルタイム映像を体験できる人数には限りがある。KDDIでは、整理券を配布して対応する予定。

“まるごと実験都市”として福山を5Gの発信地に

KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏

 KDDIと福山市は、地域活性化を目的に5GをはじめとするICTを活用していくことで協定を結んでおり、今回の取り組みも、その一環となる。

 2日に行われた説明会では、KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏が今回の実証実験の内容を解説した。同氏は、KDDIのライフデザイン戦略の中核になるのが5Gで、「公共団体、地方自治体、産業、ユーザーなど、いろいろなパートナーとサービスを共創していくということが、4Gまでとの違い」と語る。

 大容量、多接続、低遅延の3つの特徴がある5Gだが、「必ずしも3つの特徴が同時に生かされなくてもいい。サービス、アプリケーションによって必要な要件が異なってくる。オペレーターとして、どういうネットワークを作ったらいいのかを、いろんなパートナーと一緒に考えていく必要ある」(松永氏)という。

 松永氏は、「5Gで何をしたいのかというと、お客様にワクワクする体験をお届けするとともに、地方の課題の解決や活性化につなげたいと考えている」とした上で、福山市においてこれまでもさまざまな取り組みを行ってきたことを紹介。景観に配慮しなければいけない場所に基地局を設置する際、街灯の中に4Gの基地局機能を内蔵する取り組みを行ってきたほか、外国人観光客向けの翻訳サービスをトライアルしてきたことなどが説明された。

 今回の実証実験については、「4Kの映像をリアルタイムでドローンから伝送するには非常に高いビットレートが必要で、現状の4Gでは実現できなかった。5Gを使うことで、それが可能になった。機材を軽量化するなど、技術のブレイクスルーがあって初めて実現できるようになった。VRのゴーグルをかけることなく、臨場感や没入感がある体験もできる。小さなお子様でも楽しめるところが新しい」とその意義を強調した。

 福山市 経済環境局長の塚本裕之氏は「2020年に築城400年を迎える福山城を普段見られないような角度から見られる」と今回の実証実験の魅力を語る。同市 経済環境局 経済部 経済総務課長の松岡潔氏も「5GやICTを観光振興や防犯や安心・安全といった分野に応用できることに期待している」と、KDDIとの協定を歓迎する意向を示した。

福山市長の枝廣直幹氏

 福山市長の枝廣直幹氏は「福山は“まるごと実験都市”を標榜し、ありとあらゆる実験が行われている。その成果が標準化され、日本全国に広がっていく。そんな都市になれば」とKDDIとの協定への期待を述べた。

 その後、枝廣氏はKDDI 執行役員常務 技術統括本部 技術企画本部長の赤木篤志氏とともに飛行体験を行った。リアルな飛行体験を終えた同氏は、「福山の素晴らしさを5Gや4Kという先端技術が私たちに届けてくれるということを実感できる大変貴重な機会になった。5Gこそ新しい時代を切り開いていく先端技術の手段になる。5Gを使った新たな街づくり、教育面にも活用できるかもしれない。さまざまな分野に5Gがどう展開していくのか、その発信地に福山がなっていけるようKDDIと連携していきたい」と、やや興奮気味に語った。

市長も体験
KDDI 執行役員常務 技術統括本部 技術企画本部長の赤木篤志氏(左)と福山市長の枝廣直幹氏(右)