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月面目指す「au×HAKUTO」、ローバーのデザインが決定
2016年8月29日 18:17
KDDIと、ispaceが運営する月面探査チーム「HAKUTO」は、月面を走行するローバー フライトモデルのデザインを発表した。
9月26日~10月1日には鳥取砂丘でのフィールド走行試験が実施される。12月末~2017年1月にはローバー フライトモデルの製造が完了し、2017年中には月面へ打ち上げる。
冒頭、挨拶をしたKDDI代表取締役社長の田中孝司氏は「来年いよいよ打ち上げだ。壮大なチャレンジになる。今回は1g減らすのに相当な努力をされたと思う。一人でも多くの皆さんに応援していただきたい」と語った。
HAKUTOが挑む「Google Lunar XPRIZE」
HAKUTOは、米グーグルが主催する民間企業による月面ロボット探査コンテスト「Google Lunar XPRIZE(グーグルルナエックスプライズ)」にチャレンジするチーム。XPRIZEでは、民間が開発したロボットを月面へ送り込むこと、着陸地点から500m以上移動すること、高解像度の動画や静止画データを地球へ送信することという3つのミッションが課されており、最初にクリアしたチームには賞金が贈呈される。
打ち上げ費用は「1kg/1.2億円」
ローバー開発時には、重さに比例する性能面の追求と、コスト面を踏まえた重さの追求という2つの側面から検討を重ねた。当初は10kg程度のものだったが、その一方で検討中には極限まで軽くした2輪モデルのアイデアも挙がった。ちなみにこの2輪モデルは、漫画「宇宙兄弟」にも登場したものだ。
こうした重さの追求は、宇宙開発に向けた障壁として最も大きな部分を占める“コスト面”に関わる。今回HAKUTOが利用する予定の打ち上げロケットでは、月面へ送るには、1kgあたり約1.2億円かかる。つまり10kgとなれば12億円かかる。ではとことん軽くしたものにすると、搭載できる機材が少なくなり、能力が限られてしまう。
ミッションを確実にクリアするには、2輪よりも4輪タイプにしたほうが良いと方針を固め、いくつかの試作を経て、4kgのものに決定した。
放熱、軽量化対策
宇宙や月面は一体どんな環境なのか。大きな特徴として真空であること、そのため放熱が難しくなること、大量の放射線が降り注ぐこと、そしてレゴリス(堆積層のこと。ここでは月表面の砂礫を指す)の上で活動することが挙げられる。
たとえば放熱対策として、ボディ表面は銀テフロンという素材が蒸着技術でメッキされている。鏡と言えるほど光を反射するよう仕上げられており、これにより赤外線を反射して、内部に熱が入らないようにしている。4つの車輪はULTEM(ウルテム)という素材で作られた。これは眼鏡のフレームにも用いられる樹脂素材で、軽さと強度を兼ね備えている。アルミと比べて熱の伝導率は1/100程度とのことで、月表面からの熱をボディ内に伝えないという役割も果たす。月面での-40度~100度という環境でも、電子回路に適した-25度~60度に保たれる。
ボディ素材では炭素繊維強化プラスチック(CFRP)も採用しており、軽量化を図った。
タイヤにある刃は、当初1個あたり23枚だったが、15枚に減らした。重さと走行性能のもっとも効率的なバランスを検証してはじき出された。4つのホイールそれぞれにモーターが備わっており、レゴリスはもちろん、片方が岩など障害物に乗り上げても安定する。
また通信機能では、短距離で高速に通信できる2.4GHz帯と、長距離に届く900MHz帯に対応したアンテナを装備する。パケットロスや遅延なども考慮している。検討時には、バックアップ用に他の周波数への対応も考えたが、軽量化のため見送られた。
ローバーが走るのは月の北緯45度周辺とのこと。その周辺でもっとも効率的に太陽光を受けられるよう、側面には太陽光パネルが70度の角度で設置されている。
ローバーには、360度の視界を実現するため、前後左右に4台、カメラを設置している。360度で撮影することがXPRIZEの要件のひとつであり、そのためにも4台のカメラが搭載されたのだという。
セガ・サターンのチップでモーターを制御
HAKUTOは、ローバーの設計にあたって、コストと重量、そして民生品を活用することを選んでいる。たとえば宇宙での使用実績があるモーターよりも、民生品を使えば、テストの手間はかかるものの、コストを抑え、納期を短縮できる。
今回は耐放射線性能などのテストをクリアした、スマートフォンや自動車で利用される電子機器などを採用。ローバーの部品点数のうち70%が民生品だという。そうした民生品の多くは産業用や自動車用など、物理的あるいは化学的に厳しい環境下で利用されるものを転用した。たとえば民生用のモーターを用いる場合も、真空空間に対応したグリスを用いている。
担当者によれば、モーター制御用のチップにはセガ・サターンのチップが利用されている。世代としては古いものだが、最新の集積回路では放射線が当たったときの負荷が大きくなるが、プロセスルールが古い32bitのセガ・サターンのチップは、ある程度の計算力が求められつつ、過酷な環境でも安定して動くことから採用されることになった。
新たなアンバサダーに神田沙也加
HAKUTOをサポートするパートナー企業として、眼鏡チェーンの「Zoff」を展開する株式会社インターメスティック代表取締役会長兼社長の上野照博氏、日本航空(JAL)代表取締役社長の植木義晴氏らが登壇した。インターメスティックの上野氏は、ローバーの素材にも用いられているウルテムを使った同社の眼鏡の売上が300万本に達していることを紹介する。
JALの植木社長も炭素繊維が航空機に用いられており技術面で協力できることをアピール。
同じくパートナー企業のセメダイン代表取締役社長の岩切浩氏は、同社の「スーパーX」という商品は世界の電子部品設計において定番と言えるほど利用されているとして、接着技術でも月面ローバーの設計を支えると意気込む。
会場には、アンバサダーとしてHAKUTOを応援する篠原ともえに加えて今回より新たなアンバサダーになる神田沙也加が登場。さらにCMに出演するサカナクションの山口一郎も姿を見せて、篠原ともえと神田沙也加が“宇宙姉妹”としてユニットを組み、その2人に山口が楽曲提供を約束する、という場面もあった。