シャープ、au向け端末開発者インタビュー

安心して選べる端末を目指した個性豊かな3機種のラインナップ


左からIS15SH、IS17SH、ISW16SH

 シャープはau向けの夏モデルとして3機種のAndroid搭載スマートフォンを投入する。いずれもAndroid 4.0を搭載し、ソフトウェアには共通点も多いが、シャープ初のWiMAX対応となるハイエンドモデルの「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」、IS13SHのソフトウェアリファインモデルになるメモリ液晶搭載の「AQUOS PHONE CL IS17SH」、さらにテンキー付きの「AQUOS PHONE SL IS15SH」と、個性豊かなラインナップとなっている。

 今回はそれら3機種の特徴や狙いについて、シャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第三事業部 商品企画部の後藤正典部長と同部 北川友美氏、通信システム事業本部 グローバル商品開発センター プロダクト企画部の福山享弘氏に話を伺った。

――まずは今夏のau向けラインナップ概要のご紹介をお願いいたします。

シャープの後藤氏

後藤氏
 au向けの夏モデルは3機種をご提供いたします。スマートフォンが国内で普及し始めて、既に2~3年が経過します。フィーチャーフォンから買い換える方もいらっしゃいますが、スマートフォンからスマートフォンへの買い換える方もいらっしゃいますし、いろいろな乗り換え買い換えのニーズがあります。そういったタイミングで、バリエーション感を出していろいろなニーズに応えたい、それぞれのニーズで、安心してシャープの端末を選んでもらえるようにしたい、ということを一つの目標というか、キーワードに据えています。

 たとえば将来を見越した機能を搭載したハイスペックモデルであれば、長く使っていただけると考えます。フィーチャーフォンから初めてスマートフォンに乗り換える人には、テンキーやサブディスプレイといった要素を搭載したモデルを用意しています。このように、いろいろなお客様のニーズに対し、安心して使ってもらえるラインナップをご用意しました。

 それぞれの機種の概要をご説明しますと、まずAQUOS PHONE SERIE ISW16SH、こちらは夏のハイエンドフルスペックモデルになります。シャープとしては初めて、「+WiMAX」にも対応しました。将来を見越した機能としては、ケータイとしては初めて、FeliCaとNFCの両方に対応しています。

 AQUOS PHONE CL IS17SH、こちらは去年の秋冬のIS13SHの後継機種となります。ハードウェアはほぼIS13SHと同じで、ソフトウェアを最新のAndroid 4.0に載せ替えつつ、シャープとして夏モデルで打ち出している「Feel UX」を搭載しました。通常の液晶とメモリ液晶を組み合わせた一体型のコンビネーション液晶を採用する3機種目になります。メモリ液晶はスリープ中もサブディスプレイとして使えますので、この部分で既存のフィーチャーフォンに近い使い勝手を実現しました。

 AQUOS PHONE SL IS15SHは、シャープが継続的に発売しているスライダーモデルの最新機種になります。auでは3号機になりますが、1号機、2号機などでご要望をもらったところに対応しよう、ということで、キー付きのUIに関しては、かなり作り込みをかけました。ほぼフィーチャーフォンに近い操作感で触っていただけると思います。さらに今回は、Android 4.0ということで進化もしています。

AQUOS PHONE SERIE ISW16SH

ISW16SH。カラーは1色で展開

――まずはハイエンドモデルのISW16SHからご紹介をお願いします。

福山氏
 AQUOS PHONE SERIE ISW16SHの「SERIE」はイタリア語で「シリーズ」を意味します。最高峰のシリーズと言うことで、KDDIのハイエンドモデルに付ける名前になっています。今回のハイエンドモデルは、フィーチャーフォンから乗り換える方、スマートフォンから乗り換える方の両方に安心して使ってもらえるスペックとしました。

 まずディスプレイには4.6インチHD解像度(720×1280ドット)のCGシリコン液晶とSVエンジン3を搭載しています。画面が大きくなり、のぞき見されるリスクも増えているので、ベールビューも搭載しています。また、狭額縁の液晶となっているので、「画面そのものを手に持っている」ような印象を与えるデザインとしました。

 今回、シャープのスマートフォンとしては初めてWiMAXに対応しています。WiMAX対応ということでテザリングもサポートするので、通知エリアでテザリングのオン/オフ切り替えをすぐにできるようにしました。

 非接触IC機能としては、世界で初めて、NFCとFeliCaをダブル搭載しています。auさんはNFCにも力を入れているので、今回搭載しています。ISW16SHにはauさんと開発したペアリングのアプリをプリインストールしているため、たとえばこのNFCを使い、Bluetoothのペアリングをするといったこともできます。

 UIとしては、シャープ独自開発の「Feel UX」を搭載しています。発表会でプレスの方にご覧いただいたバージョンからさらに進化しておりまして、テーマ設定を4倍の12種類に増やしたほか、セパレーターのあるところでスクロールが止まるような設定を追加しました。メニューも一番上までスクロールさせる感じでしたが、背景の長押しでもメニューを表示させられるようになっています。

 「エコ技」機能も引き続き搭載しています。ご好評もいただいている機能ですが、まだ認知度が低い状況なので、夏モデルではより多くの方に使ってもらう工夫として、デザインを変更したり、節約した電力を待受時間換算で表示したり、あとは機能ごとのバッテリーの消費量を表示できるようになりました。状況に応じ、エコ技に切り替えるかどうかをレコメンドする機能も搭載しています。

シャープの福山氏

――今までシャープのau向けモデルというと、他キャリア向けモデルに比べると、ややスペックに見劣りする印象がありました。一部、ディスプレイが異なるなどの違いはありますが、今回はデュアルコア搭載などフルスペックです。このスペックを決めるにあたってこだわったポイントは?

福山氏
 まずはハイエンド機ということで、多くの機能を盛り込もう、と考えました。もちろん、なんでも詰め込んで大きくなる、ということはありません。フィーチャーフォンから移行した人は、いきなり大きな端末では敬遠されてしまいます。全部入れてもサイズ感を抑え、使いやすくしよう、ということで機能を選んでいます。

――auは年内にLTEを開始しますが、このタイミングでWiMAXに対応した狙いは?

後藤氏
 高速通信へのニーズは高く、また業界では、オフロードも課題の一つです。LTEの話もありますが、夏の段階でWiMAX端末を出すことで、高速通信とオフロードを進める、というところに対応したいと考えました。

――ユーザーからもWiMAXへの要望というのは強かったのでしょうか。

後藤氏
 昨年の秋冬モデルであるIS13SHは、好評をいただきましたが、+WiMAX非対応ということで、実際のユーザーさんやショップ店員さんからは「WiMAXに対応して欲しかった」という声もいただきました。そこで、夏モデルのハイスペックモデルではこうしたお声にお応えしたいと考えました。テザリングに対する要望も大きいですね。

エコ技の設定画面。電池消費がわかるようになっている

――今回、NFCとFeliCaの両方に対応していますが、技術的には困難なものなのでしょうか。

後藤氏
 やはり電波特性などのチューニングが難しいですね。仕組みとしては、それぞれ別々のチップを搭載しつつ、アンテナは兼用になっています。ここで両者の特性を出すためのチューニングに苦労しました。アンテナはFeliCaだけの端末に比べると少し大きくなっています。

――今回、卓上ホルダー対応で同梱もされます。auのスマートフォンの多くは卓上ホルダーに対応していませんでしたが、今夏、一気に変わった印象です。この理由は?

後藤氏
 お客様の声、に尽きます。とくに防水モデルでは卓上ホルダーは重要です。キャリアさんも弊社もお客様の声を真摯に受け止めた結果、この夏のタイミングで卓上ホルダーに対応させよう、ということになりました。

――ISW16SHとIS15SHはともに無線LANで5GHz帯のIEEE802.11a規格にも対応されています。これはシャープのスマートフォンとしては初めてかと思いますが、その狙いとは?

福山氏
 KDDIさんの方で無線LANアクセスポイントや公衆無線LANで5GHz帯に力を入れていらっしゃっていて、快適さもアピールされているので、この2モデルでは対応させています。

――一方でmicroSDXC規格はISW16SHのみの対応ですね。

後藤氏
 ハイスペックモデルではニーズも高いので対応していますが、あとの2モデルについては、優先順位やサイズへの影響を考え、非対応としています。

メモリ液晶搭載のIS17SHとテンキー付きスライダーモデルIS15SH

IS17SH(モックアップ)

――AQUOS PHONE CL IS17SHはどのような端末でしょうか。

福山氏
 スマートフォンからスマートフォンに乗り換えるお客様のみならず、フィーチャーフォンから移行されるお客様にも配慮し、サブ液晶として好評のメモリ液晶を搭載しました。メモリ液晶により、ロックを解除しないでも時刻、新着通知を見られるようになっていて、情報へアクセスしやすい端末です。ソフトウェアやUI面でいうと、Feel UXやエコ技などはISW16SHと共通となっていて、気軽に手にとってもらえる端末になったかと思います。

――昨シーズンのIS13SHとの違いは?

後藤氏
 基本的には中身のソフトウェアを新しくしました。Android 4.0となり、Feel UXに置き換えています。あとはシステムメモリの量を512MBから1GBにまで拡張しました。

――ハードウェアやボディは同じなのですか?

後藤氏
 外観は変わっていません。背面カバーもバッテリーも同じで、液晶サイズも同じなので、液晶保護シートは同じものが使えます。

――ハードウェアが同じということですが、待受時間も同じですか?

後藤氏
 最終的なカタログスペックはまだ出ていませんが、それほど差はないはずです。OSの違いで大きく変わる、ということはなく、エコ技を設定した方が効果があります。

IS15SH。カラーは3色で展開

――AQUOS PHONE SL IS15SHはテンキー付きのスライダーモデルということで、やはりフィーチャーフォンからの買い換えをターゲットとされているのでしょうか。

北川氏
 フィーチャーフォンからスマートフォンに買い換える20代から40代女性をターゲットとして考えています。au向けスライドスマートフォンの1機種目であるIS11SHでは、ユーザーの6割が女性でした。キー付き、キーの押しやすさといったところを高く評価いただいた結果です。

 さらに当社が3月にユーザー調査をしたところ、フィーチャーフォンからの移行を考えている3割の人がキー付きのスマートフォンを選びたい、と回答しました。このような背景から、キー付きスマートフォンには今後も一定の需要があると考えています。

――IS15SHのポイントやテンキー付きの前モデル(IS14SH)からの改善点は?

北川氏
 テンキー搭載で防水防塵、フィーチャーフォン風のメニュー操作など、ケータイ感覚で使えることにこだわった端末となっています。

 au向けのテンキー付きスマートフォンとしては3機種目になります。1機種目のIS11SHで市場からいただいた要望を2機種目のIS14SHに反映させましたが、3機種目のIS15SHはさらにケータイ感覚を追求するべく、改善を施しています。

 具体的には、まずハード的に押しやすいキー形状に改善しています。また、従来モデルにあった、「キー配置がケータイと違う」、「終話キーでアプリが終了しない」、「ホーム画面の遷移がケータイに比べて複雑」、といったところも改善しました。

 バッテリーの持ちに関しては、容量を1.4倍にアップするとともに、「エコ技」機能にも対応し、安心してお使いいただけるようにしています。デザイン面では、ラウンドフォルムやスライド量の調節で持ちやすさやバランスを改善しました。

IS15SHのキー

――キーは具体的にはどのように変わったのでしょうか。

北川氏
 IS14SHと同じく、立体形状のクリートラインキーになっていますが、IS14SHでは一体型のシートキーだったところを、IS15SHではキートップとキーベースを別構造として、押したときの感触を向上させました。さらにセンターキーの凸量を増やし終話キーと発信キーは出っ張りの位置を変えることで指で触っただけでわかるようにしました。キーの大きさ自体も大きくしています。

 キーの配列や割り当てをフィーチャーフォンに近づけました。メール、ブラウザ、着信履歴を専用キーで一発起動できるのはもちろん、終話キーでアプリを終了させたり、バックキーとデリートキーを統合し、フィーチャーフォンと同様の操作ができるようにしました。また、ホーム画面上で、「#」キーの長押しでマナーモード、「*」キー長押しでベールビューの切り替えができるようにもなっています。

 ソフトキー(機能割り当てが随時変わるカーソルキー右上と左上のキー)についても、ガイダンスを改善しています。これらのキーについては、待受画面での長押しと短押しにそれぞれユーザーが好きな機能を割り当てられるようにしました。このほかのキーについても、合計20カ所に好きなショートカットを割り当てできます。

グリッド型のメニュー

――ホーム画面から1つ入ったメニューは、3×4で、やはりフィーチャーフォンのようになっていますね。

北川氏
 ここもケータイ感覚というところでは重要なポイントです。待受画面からセンターキーを押すと、ケータイでおなじみのグリッドメニューが表示され、そこからセンターキーや数字キーでそれぞれの項目のアプリ一覧画面に遷移します。よく使うアプリは番号を覚えておくと数字を押していくだけですぐに起動できます。

 この3×4のグリッドメニューは、アプリケーション画面のそれぞれのページへのショートカット、というようになっているのですが、通常のAndroid端末のように使うのであれば、オフに設定することもできます。このグリッドメニューは、各項目名を変えたり、ギャラリーの画像をアイコンに貼り付けて、オリジナルのトップメニューも作れます。このほかにも、テーマ変更やリスト表示、配列数を変えることもできます。

シャープの北川氏

――デザイン面でいうと、幅が小さいこともありますが、手に持ったときにしっくりきますね。

北川氏
 女性がメインターゲットということで、フォルムにこだわりました。持ったときのフィット感が重要だと考え、ラウンドを付けています。また、スライド長を57mmに増やすことで、持ったときのバランス感にもこだわりました。

 カラーバリエーションとしては、柔らかで正面からも映えるカラーを選んでいます。ミントブルーやカシスピンクは女性に人気のカラーです。一方ダリアブラックは、男性にも手にとっていただけるような色になっています。

――側面にシャッターキーも付いています。

北川氏
 スマートフォンというと、カメラ起動まで画面遷移が多かったりしますが、女性はカメラの利用頻度も高いので、IS15SHではどのアプリを使っていても、シャッターキーでカメラを起動できるようにしました。

 カメラ機能としては、さまざまなシーン設定モードや画像レタッチなどの機能も押さえています。新機能としては、720pのビデオ撮影や微速度撮影も可能です。

――こちらはFeel UXは搭載されていないのですね。

後藤氏
 IS15SHはテンキー操作に特化しているので、Feel UXは搭載していません。

――キーで操作するならば、Feel UXよりグリッドメニューの方が便利そうです。ただ、ここまでキー操作を作り込んだUIにするのは、かなりの作り込みが大変そうですね。

北川氏
 そうですね。メニュー以外にもキー操作に対応させるのが大変でした。たとえばバックキーとデリートキーの統合では、ソフトウェア上でそのときの操作内容を判断して、機能を切り替えています。具体的には、文字入力中はデリートキーとして動作して、それ以外のときはバックキーとして動作するようになっています。

IS14SH(左)とIS15SHのキー構造の違い

――au向けのテンキー付きスマートフォンとしては、初めて防水に対応されています。3機種目にして初めて、というのは、何か技術的に難しいところがあるのでしょうか。

後藤氏
 Android特有の問題ではありませんが、スライダー形状で防水は難しい、というところがあります。あとは防水にすると大きくなるので、本体サイズとのせめぎ合いもあります。今回はサイズ的に抑えることができたので、防水仕様としました。

――折りたたみ形状やスイベル(2軸)形状のテンキー付きスマートフォンという選択肢は?

後藤氏
 画面の大きさが課題になります。キー付きとはいっても、基本はスマートフォンです。それを考えると、ある程度の画面の大きさを確保しないと、スマートフォンとしての使い勝手・操作性に影響が出てしまいます。キー付きにこだわっても、お客さまは「スマートフォン」を買われるので、スマートフォンにふさわしく、いままでより画面を大きく、と考えています。フィーチャーフォンは3.4インチまで出ていたので、その上のサイズを考えると、折りたたみやスイベルでは大きくなってしまいます。そこであえて、スライダー形状から入りました。この思想はずっと変わっていません。テンキー付きはスライダーがベストだと考えています。

――テンキー付きスマートフォンのニーズは今後も続くとお考えでしょうか。

後藤氏
 IS15SHは、フィーチャーフォンユーザーの使い方を意識しています。こういったものへのニーズがどうかというのは、いろいろな考えがあるかと思いますが、実際にアンケートをとってみると、年配の方も20代も含めて、「テンキー付きがあるならばテンキー付きを買いたい」というニーズが根強くあることがわかります。そこを意識すると、テンキー付きへの需要は残るのではないか、と思っています。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。




(白根 雅彦)

2012/6/20 16:41