「K009」「簡単ケータイ K010」開発者インタビュー

フィーチャーフォンとしての良さを追求する2モデル


「K009」(左)と「簡単ケータイ K010」(右)

 京セラは今夏、au向けに2機種のフィーチャーフォンを発売する。「K009」は金属の背面パネルを採用するスリムなスタンダードモデルで、「簡単ケータイ K010」はその名の通り、簡単ケータイシリーズの最新モデルだ。市場ではスマートフォンに注目が集まっているが、着実に存在するフィーチャーフォンへのニーズに答える、堅実な作りで進化を続けている。

 今回はこれら2機種について、K009の開発を担当した京セラ 通信機器関連事業本部 マーケティング部 国内第1マーケティング部 商品企画1課 PM1係責任者の田中宏幸氏と同本部 デザインセンター デザイン3課 デザイン係責任者の播磨隆太氏、K010の開発を担当した同本部 マーケティング部 国内第1マーケティング部 商品企画1課 PM3係責任者の大西克明氏と同本部 デザインセンター デザイン3課 デザイン推進係の久保寺孝之氏に聞いた。

ビジネスマンをターゲットにしたスリムフィーチャーフォン「K009」

K009

――まずはK009の機能やデザインのコンセプトからお聞かせください。

田中氏
 30~40代の物にこだわる男性がメインターゲットではありますが、フィーチャーフォンに使い慣れた、つまり今までのケータイの使い勝手を必要とする、幅広い年代の方々に使っていただくことを想定しています。

 主なセールスポイントとしては、本物の金属を使ったボディデザイン、Snapdragon搭載とWIN HIGH SPEED対応でサクサクと利用できることなどがあります。細かいところでは、京セラオリジナルの機能である「すぐ文字」がブログアップやつぶやき投稿に対応したり、フォントの切り替えに対応するなど、細かい部分での機能追加が行われています。また、よく使う機能を登録できる「セルフメニュー」にも対応しております。

 そのほかの機能面では、K007に引き続き、プライバシーフォルダに対応しました。ビジネスマンにもお使いいただくことを想定し、名刺リーダーやPCドキュメントビューアも搭載しました。また、旧三洋ブランドで好評だった時短検索やオープンシャッフル、ブラインドスクリーンといった機能も搭載しています。

ステンレスの背面パネル

播磨氏
 デザインは、「最先端の技術が詰まった金属の塊」をイメージしました。まずは背面にはステンレスパネルを採用しています。この背面パネルは、ただの平面的なパネルではなく、ヒンジ近くに曲面があります。この曲面、端末サイズを小さくするために、必然性から生まれたデザインでもあるのですが、そこに集まる光の陰影、またそこに浮かび上がるヘアラインが、金属ならではの美しさを最大限にひきあげています。

 京セラとしてはこれまでも金属を使った端末を作ってきましたが、今回は初めて、微細穴加工という特殊な加工を施しました。背面パネルにはサブディスプレイとして5×17=85個のLEDが搭載されているのですが、その光を透過するために、30ミクロンくらいの穴を全部で数千個、レーザーで開けています。ぱっと見ではわからないかと思いますが、ステンレスパネルでありながら、光が浮かび上がるようになっています。

 また、このLEDは時計や着信情報等の情報表示に加え、折り畳み時にはアニメーション表示をするという楽しさも盛りん込んでおります。このアニメーションは全30パターンあり、ランダムも選んでいただけます。

――金属パネルを使うと、見た目以外にも影響がありそうですが。

背面パネルを透過するイルミディスプレイ

播磨氏
 ケータイの通信性能に影響を与えてはいけないので、そのあたりはしっかりとデザインしています。いろいろな制約がありますが、そこは京セラが積み重ねてきたノウハウでクリアしました。金属パネルは0.4mmくらいの厚さなのですが、金属にすることでプラスチックよりも薄くなるというメリットもあります。

――穴が開いているということですが、防水への影響は?

播磨氏
 穴は開けっ放しというわけではなく、樹脂を充填するなど、しっかりと防水してありますので安心してお使いいただけます。

――キーなど、デザインからの使い勝手へのこだわりは?

京セラの播磨氏

播磨氏
 フィーチャーフォンの良さは「使い勝手」だと考え、キーの押しやすさや開閉のしやすさに配慮してデザインしました。

 テンキー部分は、シートキーになっていますが、キートップとベース部分で表面テクスチャを変え、触感でキーの位置がわかるようにしました。また、本体サイズは小さいのですが、この大きさで押しやすいキーレイアウトを追求しています。もちろんキー自体にはふくらみがあり、より触感で識別しやすくなっています。

 本体を開けるときに指がかかりやすいよう、側面部分が凹んだデザインになっています。長く使っていただくことを考慮して、使いやすくデザインしました。

田中氏
 金属感のあるデザインにより、物にこだわる方に選んでいただけることを重視しました。薄さについては、従来モデルにはもっと薄いものがありますが、今回はSnapdragon搭載機として最薄を実現しています。

――Snapdragon搭載は、京セラとしては初めてになります。他社に比べて少し遅れましたが、なぜこのタイミングでSnapdragonを採用されたのでしょうか。

Snapdragon搭載ながら薄いデザイン

田中氏
 商品性を鑑みて、ということになります。Snapdragonにすると、やはり消費電力も増え、それに従い電池も大きなものが必要となり、サイズ感に影響が出てしまいます。デザインや薄さを重視されるお客さまを意識して、たとえばK007は女性向けのコンパクトサイズを重視し、Snapdragon採用を見送りました。しかし今回は、Webやメールをスマートに使うユーザーをターゲットして想定し、重たい処理もサクサク動くことをポイントと考えたので、Snapdragonを初めて搭載しました。

――今後、プロセッサも高速化を実現していくとなると、そこで消費電力が大きくなってしまいます。そうなると薄さへの影響はどうなるのでしょうか。

田中氏
 そうですね。そういった流れの中で、電池の持ちを長くすることを優先するか、サイズを優先するかで議論があるかと思います。今後はそういった新しいプロセッサの登場により、選択肢は増えると考えています。

――今夏はスマートフォンのラインナップがかなり増えました。その中でフィーチャーフォンであるK009がどう勝負されるのでしょうか。

京セラの田中氏

田中氏
 市場ではスマートフォンに注目が集まっていますが、実際には皆さん全員がスマートフォンを選ぶというというわけではなく、現状ではフィーチャーフォンを選ばれる方もまだまだ多いです。スマートフォンの店頭価格が安くなっていますが、ランニングコストも考え、フィーチャーフォンを選ぶ人は多いと考えています。その中で、2年以上、長く使っていただくことを考え、高級感や操作のサクサク感といったところを重視してK009を企画しました。

――今後を含めてですが、御社はどのようなテーマを持ってフィーチャーフォンに取り組まれていくのでしょうか。

田中氏
 フィーチャーフォンにとって、使い慣れたいままでのケータイと同じ使い勝手というところは、重要な要素です。キーの使いやすさとか、普通に使っているときに使いやすいと思われるところを大事にしていきたいと考えています。機能面では、アンケート調査などで、フィーチャーフォンを買っている人がどのような機能を求めているか、ということを踏まえて検討していきたいと思っています。

――K009はSnapdragonを搭載していますが、カメラまわりなどを見ると、必ずしも最上位のハイエンドモデルではありませんね。

田中氏
 幅広い層をターゲットとして考えました。ハイスペックモデルというより、K009はスマートにお使いいただくということで、サイズ感や手に取りやすい価格などをトータルで目指しました。

デザイン・使い勝手ともに着実に進化する「簡単ケータイ」

簡単ケータイ K010

――続いてK010のご紹介をお願いします。

大西氏
 K010は、簡単ケータイシリーズの最新モデルになります。ターゲットはこれまで同様に年配の方をはじめとした、ケータイ初心者に向けたモデルとなっています。特長として、簡単ケータイシリーズでは初の5メガカメラを搭載し、従来機種からの薄型化に加え防水・防塵対応、さらに「簡単」と「安心」を充実させました。

――基本的にターゲット層は変わらないのでしょうか。

大西氏
 簡単ケータイの購入者層としては、機種変更の方が非常に増えています。その中で、簡単ケータイからの機種変更が半数を占めていることから、K010はこれまでの簡単ケータイをベースに、簡単ケータイで利用率の高いワンタッチキーやメール、カメラを中心にブラッシュアップしました。

ワンタッチキーに機能を割り当てられるようになった

 まずワンタッチキーについては、連絡先だけでなく、機能も割り当てられるように拡張しました。カメラや電卓、カレンダーなどの機能を設定できます。

 メール関連では、K008で好評だった、メール作成時に単語や文章に合わせて自動的に絵文字を挿入してくれる「ワンタッチ絵文字」を搭載しています。背景の色や文字の大きさも自動でデコレーションすることもできます。

 カメラは、「もっとキレイに撮りたい」という要望をいただいていたので、画素数を5メガにアップしました。より気軽にキレイな写真が撮れるよう、いつでもオートフォーカスにも対応しています。

 写真関連では、撮った写真やプリセットデータ、メールや赤外線通信で受信した写真をすぐに壁紙に設定する、自動で壁紙機能が、お買い上げ時に設定されています。10枚の写真がプリセットされているのですが、開くたびに変わるとか、スライドショー的に写真を切り替えることもできます。

――このほかの機能は?

大西氏
 「毎日歩数通知」という新機能を搭載しました。こちらは、1日1回、歩数計が起動したときや充電したときに、前日の歩数データをメールで自動送信するという機能です。高齢者のみの世帯数が増えているので、離れて住まれているご家族の方などに配慮した機能となります。

 簡単ケータイから簡単ケータイへの機種変更が増えているので、このように、良く使われている機能のブラッシュアップをしました。とくにユーザーが設定したり、意識する必要がなく自動で使えることがポイントになると考えています。たとえば、ワンタッチ絵文字やいつでもオートフォーカス、毎日歩数通知、自動で壁紙機能などがそうです。

滑らかな曲面で構成された背面

――デザイン面で見ると、継ぎ目のない曲面を持った、簡単ケータイとは思えないような形になっていますね。

久保寺氏
 今回はコンセプトとして、「natural existence=自然な存在感」というものを掲げました。穏やかでありながら緊張感があるとか、凜とした存在感といったものを意識しています。それでいて、使いやすく目に見えるデザインとなっています。具体的なデザイン面でのポイントは3つあります。

 まずホールド性を考慮した、シンプルながら存在感のある形状です。ここで第一に考えたのはホールド性です。手になじむラウンドフォルムとしつつ、贅肉は極力落とし、なだらかな曲面で繋ぎ、安心感と存在感のある個性的なフォルムを実現しました。

 続いてキー面ですが、押し間違えないよう、独立キーをメインにしています。簡単ケータイシリーズももう数モデル出させて頂いていますが、実は毎回キー面の改良を重ねています。一見しただけではわかりにくいですが、今回は誤操作のないような範囲でキーは中央に寄せ、指の動きが大きくならないように考慮しています。また、文字のプリントも大きくして、フォントやコントラストも見やすくなるようにしました。

 最後にこだわった部分は、ボディの継ぎ目、割線です。従来モデルでは、側面にパーツとパーツの継ぎ目があり、本体を握ったとき、手に微妙な触感がありました。今回はボディの外装パーツについて、継ぎ目をなるべく折りたたみの内側に入るようにして、握ったときに継ぎ目が手のひらに当たらないように工夫しています。

 こうしたデザイン面での工夫は、品質にも繋がりますし、今後も京セラのケータイを選んでいただく上での信頼になればと思い、あまり見えない部分ではありますが、こだわっています。

――カラーもキレイですね。

ピンクは柄付き

久保寺氏
 シンプルな形状に似合うホワイトを中心にピンクとゴールドを用意しています。ピンクについては、若干青に寄ったものですが、ピンクのみ、表面に柄を入れています。K005でも柄をいれたのですが、これが女性に評判が良く、今回もデザインに入れました。ただしK005では全面に柄をいれたのですが、今回はあくまで上品に、品良くうっすらと、仕上げています。これもだいぶ手間をかけていまして、普通のカラーだと塗装をして終わりですが、これは塗装の途中で印刷をして、最後にクリア塗装を吹く、といった仕上げをしています。

大西氏
 この処理により、印刷がはがれ難く、かつ触ったときにも滑らかになっています。全体的に曲面があるので、光の反射もキレイに見えます。

――今まであまり意識したことはないですが、側面に継ぎ目がないバスタブ形状というのも、珍しいですね。このような構造でデメリットなどはないのでしょうか。

京セラの久保寺氏

久保寺氏
 ほかにない構造ですが、別に防水などに不利なわけではなく、むしろ私個人はこちらのデザインの方が良いと考えています。設計チームには、実績がある側面に継ぎ目がある構造が良い、と言われたのですが、そこを今回は譲ってもらいました。

――シニア層向け端末で白を中心に据えられるのは珍しい印象がありますね。

大西氏
 もともとK010は、自然な存在感でシンプルなデザインがコンセプトになっています。前機種のK008では直線的なデザインでしたが、K010はフォルムの美しさでデザインが引き立つように、ホワイトがキレイに見えるようなデザインを考えました。余計な肉をそぎつつ、極力薄く、手になじむ形状です。

――機能面で見ると、ワンセグとおサイフケータイは搭載していません。3月の東日本大震災で、停電時や屋外でもテレビを見られるワンセグの必要性が高まりました。そのあたりの声はどうでしょうか。

大西氏
 ワンセグとおサイフケータイは、いつ採用するか検討中です。いまの簡単ケータイのメインターゲットである60~70代ではそこまで要求が高いわけではありませんので、その分重量やサイズを良くしたいと考えています。ただし今回の震災でワンセグが役に立ったという声は聞くので、何らかの配慮を、と考えているところです。

K010

――簡単ケータイへの機種変更が多く、簡単ケータイ以外からの機種変更も約半数ということです。となると、今まで使っていたケータイにあったワンセグなどの機能がなくなることに違和感があるユーザーもいるのでは?

大西氏
 簡単ケータイの機種変更サイクルは3~4年だと考えています。そのくらい前ですと、本モデルのターゲットを考えますと、ワンセグユーザーはあまり多くなかったのでは、と考えています。しかし機能が載っていないこと買いづらい、ということは避けたいので、今後は慎重に見ていきたいと考えています。

――中身のソフトウェア面での特徴は?

大西氏
 ワンタッチキーに各種機能を割り当てられるようになりました。もともとのコンセプトとしては、このキーは「よく連絡する人にワンタッチで連絡する」ということで搭載しました。しかしそれだけではなく、アンケート調査などで、機能のショートカットとして使ってみたい人もいることがわかりました。

 簡単ケータイは機能が少ないとも思われがちですが、使い勝手に特化した機能はいろいろな取り組みで搭載しています。しかしそういった機能も、メニューの奥にあることが障害になり、埋もれていることがあります。そういった部分を拾うためにも、ワンタッチキーの使い方は、ユーザー満足度には重要な要素だと考えました。

――せっかくの機能なのですから、使って便利さを実感してもらいたいですね。

京セラの大西氏

大西氏
 埋もれている機能にどうやって導くかはポイントです。たとえば歩数計については、待受Flashで連携させましたが、壁紙を交換すると歩数が見えなくなります。そこで今回は、歩数計時計という設定を加えました。こちらは壁紙にオーバーレイして表示させる時計に、歩数も同時に表示させられるようになっています。これは買い上げ時のデフォルト設定になっているので、何もしなければ、どのような壁紙を設定しても、歩数が出るようになっています。

 歩数計は2009年夏モデルのK003から搭載しているのですが、初期設定でオフになっていたので、搭載していることに気がついてもらえませんでした。しかし実際に使ってもらうと、満足度が高かったので、前機種のK008からお買い上げ時に歩数が出るようにしています。

――ワンタッチキーは3個だけですが、これは増えないのでしょうか。

大西氏
 3件とも登録している人もいらっしゃいますが、増やして欲しいという声は多くありません。しかしK010では機能が割り当てられるようになったので、増やして欲しいという声が多くなれば、検討していきたいと思っています。

――最近はスマートフォンを中心にタッチパネル端末が普及しています。そうしたタッチパネルを使ったシニア層向けUIについてはどうお考えでしょうか。

大西氏
 ディスプレイと入力キーが分かれているのは、それ自体がメリットにもなっていますが、一方でひとつの課題だと考えています。ディスプレイとキーを別々に見る必要があり、画面とキーを結びつけられにくい部分があります。そういったところで、K003以降の機種では、押すべきキーが光る「光る操作ナビ」を搭載し、直感的に使えるよう配慮しました。しかし、ディスプレイと操作を結びつけるという点では、タッチパネルも方向性のひとつだと考えています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。




(白根 雅彦)

2011/6/17 16:36