「Optimus bright L-07C」担当者インタビュー

高輝度液晶にきせかえカバー、Android 2.3スマートフォンの特徴


 NTTドコモの夏モデルとして登場する「Optimus bright L-07C」は、LG製のAndroid 2.3搭載スマートフォンだ。700カンデラという高輝度の液晶ディスプレイを採用し、屋内外での視認性を高めたほか、薄さ9.5mmに112gというボディに、複数のカラーを用意した「きせかえカバー」を同梱する。

 4月にグローバルで発売されたモデル「Optimus Black」をベースに、細かな点をカスタマイズして、日本市場に向けた「Optimus bright」の特徴について、LGエレクトロニクス・ジャパンモバイルコミュニケーションプロダクトグループの富澤美玲氏と、LGエレクトロニクス・ジャパンラボ主任研究員の陳晶桓(ジン・ジョンファン)氏に聞いた。

 

高輝度液晶と薄型ボディ

――高輝度液晶が大きな特徴の1つですが、そうした特徴を持たせた狙いは?

富澤氏
 では、まず「なぜ明るいほうがいいのか」という基本からお話しましょう。ある調査によると、日本やアジアの天候は、年間の6~7割が晴天とのことで、明るい日が多いということがあります。また、最近はいたるところでスマートフォンを見かけるようになりましたが、やはりスマートフォンは、いつでもどこでも利用されるものです。そうした背景からすると、“明るい日差しの下でも見やすくする”というのがタッチディスプレイの基本です。明るい屋外で、携帯電話の画面を見ようとすると見えづらくなって、手をかざして日差しを遮ることがありますよね? フィーチャーフォン(従来型の携帯電話)であれば画面を手である程度覆っても、テンキーで操作できますが、フルタッチパネルのスマートフォンでそういった持ち方は使いづらさに繋がりますので、画面を手で覆う必要がない充分な輝度が必要です。こうした考えで、700カンデラという高輝度ディスプレイを採用しました。

LGの陳氏(左)と富澤氏(右)

 どうやって輝度を高めているかという点ですが、液晶ディスプレイの構造を単純化してみると、下からバックライト(光源)、液晶、カラーフィルターという部材が重なり合っています。このとき、バックライトの光を遮る率を減らすことで、明るさを向上させています。有機ELと比べても、風景など自然物のグラデーションの美しさは、今回搭載するIPS液晶のほうが上回っていると思います。

――なるほど。Optimus brightは中位機種に位置付けられると思いますが、ディスプレイのスペックは妥協していないようですね。

富澤氏
 ディスプレイはユーザーとの接点が一番大きな部分ですし、競争の軸になっていますから、そこは特に注力しました。特に日本メーカーと比較して、日本独自のワンセグなどの機能がないことは、逆にOptimus brightは、その分軽快にしたり、スリムに作れたりするといった点に繋げ、“引き算の良さ”として仕上げました。特に重さについては、112gとなっていますが、スマートフォンは手にする時間が長い製品ですから、軽さという基本は重視すべきです。この点は、スマートフォンやフルスクリーンのフィーチャーフォンの経験を多く持つグローバルメーカーならでは見方かもしれません。

――ディスプレイは4インチという大きさで、最近のスマートフォンの中では大きすぎず、小さすぎずといったところですが、ボディサイズからすると必然だった、ということでしょうか。
富澤氏
 そうですね。最近では、スマートフォンを求めるユーザー層が変化してきており、いわゆるアーリーアダプターから中間層まで広がってきています。店頭で手にとったとき、大きすぎたり持ちにくかったりすると、タッチパネルの操作が基本となる、スマートフォンを使用した経験が少ない方は違和感を持たれることも少なくありません。そこで「Optimus bright」のボディは、側面や四隅の部分まで角を取って丸くしていますし、背面からディスプレイ面に向けて、台形のような、少しすぼまった形状にしています。角張ったボディと比べて握っても痛くありませんし、持ちやすさは大幅に向上し、画面の端のほうまでタッチしやすくなっています。

上部も含め、すぼまった形状に持ちやすさを追求した形状

 世界最薄を目指していた開発当初は、まるでF1のように、極限まで薄さを追求すべきかという話もありましたが、使いやすさや持ちやすさを追求した上での薄型化をはかることになりました。多くのスマートフォン、フィーチャーフォンをグローバルで開発してきた中でのラインナップの1つとして、「Optimus bright」はこういう路線を採用したということになります。

陳氏
 薄型化する上では、やはり空間を効率よく活用する、実装的な工夫を多く採用しています。また、チップセットとして、インテル製ベースバンドチップと、テキサス・インスツルメンツ(TI)製アプリケーションチップの2つを搭載しています。

――薄型化ということであれば、強度対策は?

富澤氏
 対策の1つはコーニング製強化ガラスである「ゴリラガラス」の採用です。もう1つが端末中央にマグネシウム合金とプラスチック樹脂をあわせた素材を用いたことです。このパーツは、液晶ディスプレイを覆うような形状になっています。

陳氏
 無線のチューニングを行っていますが、マグネシウムを携帯電話で用いることは経験もありますので、さほど難しいことではありません。

カバーは日本向けの取り組み

――バッテリーカバーのカラーバリエーションが同梱されるそうですね。

富澤氏
 3枚のバリエーションを同梱しています。これは日本だけの取り組みです。日本のユーザーは、もともとデザインへのこだわりが強く、携帯電話のカラーバリエーションも豊富です。しかしスマートフォンはこれまで黒や白といったカラーがほとんどでしたので、差別化ポイントとして取り組みました。

3枚のカバーが同梱される

――色の選択は、日本で行われたのでしょうか。

富澤氏
 はい、日本のデザイナーとともに。数百の色から、数十の色まで絞った上で市場調査を行いました。スタイリッシュなブラック・マゼンタ・ブルー、優しいホワイト・ライトピンク・ライトブルーと2系統を用意することで、「欲しい色がない」という不満感を解消できるような組み合わせにしました。

――スマートフォンユーザーはカバー、ケースを購入することが多いようですが……。

富澤氏
 ケースを使うことで、先ほど述べた形状への工夫が活かされないのは惜しいと考えました。またそうした周辺機器は数百円~2000円くらいかかり、出費もバカになりません。2年使うという点も重要で、長期間使うと携帯電話は傷ついてきます。Optimus brightのカバーは側面まで回り込んでいる形状ですから、着せ替え感覚でカバーを取り換えられます。

――側面もあわせたカバーという点は、グローバルモデルも同じでしょうか。

富澤氏
 はい、持ちやすさを追求したデザインになった結果、こうしたカバーを採用したのです。それが日本市場へ展開する際、メリットになりました。そうしたことを、日本にいる我々が見出して、付加価値を付けていますが、グローバル製品をそのまま日本市場へ持ってくるだけではない、という取り組みの1つです。これはLGだけではなく、他のグローバルメーカーさんも同じでしょう。

 ただ、この取り組みを実現させるのは大変でした。極端な例ですが、年間1機種で1色で何百万台も売れるほうが……。

――量産効果が最も高いですね。

富澤氏
 はい、ですが、(市場競争を勝ち抜くには)付加価値を付けて差別化していく必要があります。このバッテリーカバーのバリエーションについても、市場調査して、裏付けを取って、本社と意識を共有してチャレンジしよう、ということになったわけです。

――日本市場の独特な点、というのは一体何なのでしょう。海外のユーザーも、こだわりを持つということは大いにあると思うのですが……。

富澤氏
 これは個人的な意見ですが、海外ではブランド製品はセレブだけ持つところですが、日本はそのあたりの“ヒエラルキー”が崩れており、学生でも高級品を使うことがありますから、“目が肥えている”レベルが高くなる要因の1つではないでしょうか。そういったあたりが日本市場の特殊性かもしれません。

ユーザーインターフェイスも一工夫

――ジェスチャーUIという操作法を取り入れているそうですが、どういった機能でしょうか。

富澤氏
 加速度センサーを利用した機能ですが、たとえば電話がかかってきたとき、側面の“G”マークが付いたボタンを押しながら端末を振ると、通話状態になります。スマートフォンは、両手で操作することが多いですが、できるだけ片手で操作できることを目指して開発してきました。このほかにも、動画再生中、あるいはアラーム鳴動中など、端末から音が鳴っているときに、端末を裏返すと消音されます。写真を表示しているときに、端末の側面を叩くと、次の写真へ切り替わります。画面に触れてスライドさせるという使い方が多いですが、そうすると指が邪魔ですから。

側面を叩いて、写真をスライドさせる、という操作も

陳氏
 グローバルモデルとは、採用するジェスチャーは全て同じではありませんが80%程度は同じです。ただグローバルモデルはAndroid 2.2ですので、違いがあります。たとえば、側面を叩いて画像が切り替わる、という機能は、Android 2.2では当社独自の機能でしたが、2.3ではAndroidに同様の機能がサポートされていますので、当社の仕様からは削除しました。仕組みとしては、独自エンジンを搭載して実現しており、設定画面から各種操作のON/OFFの設定が可能です。

富澤氏
 ユニークな機能としては「LG On-Screen Phone」というものがあります。Optimus chat、Optimus Padに続いて3機種目の搭載となりますが、パソコンとOptimus brightをBluetoothで事前にペアリングしておくと、パソコン上の専用ソフトからOptimus brightを操作できるというものです。メールを送ることもできますから、会議中にパソコンを操作して、自分のケータイから家族や恋人にメールすることもできます。スマートフォン単体ではなく、パソコン向けアプリを提供して連携させることで、提供する付加価値を幅広くしようという取り組みです。

日本市場への取り組み

――日本独自の取り組みはあるのでしょうか?

富澤氏
 グローバルモデルである「Optimus Black」を日本向けにするため、ソフトウェア、アプリ、デザインを強化したモデルがOptimus brightです。デザインは、先述したバッテリーカバーのことですね。手ぶらで持ってきたのではなく、これまでLGが日本市場で取り組んできた経験、そこで得た日本市場の難しさ、必要なカスタマイズを入れ込んでいます。

――なるほど。

富澤氏
 そうして注力した部分の1つがコンテンツを提供するサイト「LG World」です。サイト自体は、グローバルで行っていますが、アプリやコンテンツを日本語化して提供しています。これはフィーチャーフォン向けに提供してきたサイトの反省の上に展開するものです。フィーチャーフォン向けサイトは、当時、できうる限りのことを尽くしていましたが、コンテンツが充実したとは言いづらい状態でした。今回は、グローバルでのスケールメリットを活かしながら、ある韓流ドラマでは全話を無料で配信するなど充実化を図っています。

――そういえば、グローバルでは“Black”という名称でしたが、日本向けでは、なぜ“bright”なのでしょうか?

富澤氏
 当初は、黒を基調にしたモデルで、背面も艶がある黒ではなく、マットなブラックにするなど、シックでスタイリッシュなスマートフォンを目指していました。今回、日本向けに開発するにあたり、屋外での利用、バッテリーカバーのカラーバリエーションなどから“黒”ではなく、“明るい”という点を商品のイメージの中心に据えようと判断したわけです。

――現在の日本市場は、スマートフォン普及期とされ、先端層だけではなく、より多くの方がスマートフォンに乗り換えつつあります。こうした状況は予想されていましたか?

富澤氏
 正確に言えば、予想以上にユーザー層が広がってきており、ここまでの状況は読み切ってはいませんでした。このあたりは当社だけではなく、他メーカーさんも同じかもしれません。

――そうした中で、Optimus brightは、液晶・形状・バッテリーカバーといったあたりで特徴付けてきたとのことですが、ユーザーに何を提案しようと考えたのでしょう?

富澤氏
 LGのエンジニア流の考えに「スマートテクノロジー」という言葉があります。たとえば、Optimus brightはさまざまな工夫をしていますが、決して全てが最先端の技術・デバイスで構築されているわけではありません。ユーザーの使い勝手、メリットなどを追求していった結果です。ユーザー全般にとって必須というツールやサービスは、グーグルさんやキャリアさんから提供されることになりますが、メーカーとしては“課題解決ではない視点”も持っています。先述したジェスチャーUIは、必須ではなく、あれば、さらに便利というものです。そうした価値を提供しようということでしょう。

陳氏
 Optimus brightのソフトウェアを見るとAndroid 2.3ですが、これは海外市場よりも早く導入されたものです。外見は、当初発表されたグローバルモデルと同じように見えますが、Android 2.2から2.3には、大きな変更点がいくつかあり、流用できる部分がある一方で新たにデバイスを作り直したところもあります。

 また、設定メニューなどの日本語表記も、データベースを作成して、自然な表記にしています。他社のAndroid 2.3搭載端末と比べ、そのあたりは先んじていると自負しています。

――では、今後登場するかもしれない、Android最新版について、Optimus brightは対応するのでしょうか?

陳氏
 技術的な課題はクリアしています。しかし、そのあたりはキャリアさんと今後検討していくことになるでしょう。

――なるほど。今日はありがとうございました。

 



(関口 聖)

2011/6/8 06:00