インタビュー

auから「Mi 10 Lite 5G」発売、シャオミのスティーブン・ワン氏が語る「学んだこと」とは

 auから9月4日、シャオミのAndroidスマートフォン「Mi 10 Lite 5G」が発売される。4万2740円(税込、以下同)という価格で、残価設定型の購入プログラムである「かえトクプログラム」を利用すると実質負担額は2万9900円という、auでは最も安い5Gスマートフォンだ。

 そのMi 10 Lite 5Gを開発したシャオミで、日本市場を担当する東アジア担当ゼネラル マネージャーであるスティーブン・ワン(Steven Wang)氏に開発の経緯を聞いた。

 ワン氏は、設立10周年を迎えたシャオミの一員として、会社設立時と同じ、スタートアップの気持ちで、日本市場で力を注ぎたいと語る。

10年前のシャオミがどうやって成長したのか

ワン氏
 まずは、シャオミが創立10周年を迎えたことからご紹介させてください。

ワン氏

 現在、弊社はグローバルでもシェア上位のスマホメーカーとなりました。ウェアラブルデバイスや家電製品、IoT製品を提供することも知っていただいている方は増えてきたかと思います。

 10年前を振り返ると、当初、シャオミはスマートフォン開発から始めました。当時の課題は「サプライチェーン」です。

 その当時、グローバルで最大規模のメーカーといえば、たとえば、サムスンさんやモトローラさん、ノキアさんなどがいらっしゃいました。

 彼らのような存在は、部品を調達するのも、そのボリュームがとても多いものです。しかし10年前のシャオミはそうはいきません。部品をスケジュール通りに調達することがとても難しかったんです。

 ではどうやったのか。

 その前に、ひとつ、弊社の理念・哲学のひとつをご紹介したいです。それは「集中すること」です。

 製品開発で「集中する」ために、極端なこともしました。他社より10%~20%程度優れることを目指すのではなく、50%、60%、70%優れることを目指したんです。

 シャオミ最初のフラッグシップは「Mi 1」という機種でした。まだまだフィーチャーフォンユーザーが多い時代です。

 そんな時期にMi 1は、Snapdragonを採用し、最新のカメラセンサーを搭載しながら、3万円という価格でした。部品調達のボリュームは最低限でも30万という形でしたが、3年後には700~800万台を売り切ることができたのです。

Mi 10 Lite 5Gで目指すこと

ワン氏

 このタイミングでもうひとつお伝えしたいのが「Mi 10 Lite 5G」の発売です。

 この機種では、「日本におけるシャオミの方向性を示せる」ことを重要視していました。

 またシャオミにとって、日本で初めて携帯電話会社さんと一緒に展開する機種でもあります。そして日本の携帯電話会社で扱われる5Gスマホのなかで最も安価です。

 日本のユーザーの皆さんからの要求はとても高いレベルにあります。私たちは、世界でもベストと呼ばれる品質を担保しようと取り組みました。

 Snapdragon 765を採用し、サムスン製のAMOLEDディスプレイやコーニングの強化ガラスを採用しています。KDDIさん、クアルコムさんと協力して、接続性試験ももちろんクリアしました。ソフトウェア面でも、日本の品質を満たすように取り組んだのです。

ミッドレンジだからこその挑戦

――Mi 10シリーズには複数のラインアップが用意されています。シャオミとしても他の機種をラインアップしています。なぜau向け機種が「Mi 10 Lite 5G」になったのでしょうか。

ワン氏
 まず背景として、私は日本での事業を担当していますが、同時に本社では5Gの製品企画の一部も担当していることをご紹介させてください。したがって、実際にはこれらの商品の全てに携わっていたことになります。

 その上で、まず考え方の部分なのですが、一般的に、フラッグシップの機種を開発するということは、ある意味、シンプルと言えます。それは最高のディスプレイ、最高のプロセッサ、最高のコンポーネントを揃え、そしてそれを1つのデバイスにまとめ、高品質で優れたソフトウェアとともに組み上げるという形です。

Mi 10シリーズ

 一方、より挑戦的で、よりインパクトがあり、やりがいがあるのは、ハイエンドユーザーのニーズにも合うミッドレンジの製品を作ることだと思います。

――なるほど。

ワン氏
 年初の5Gスマートフォン市場の状況を見ると、その後、多くのチャネルで、ハイエンド機種のラインアップが登場することが判明していました。つまり消費者の方々にとっては、もうたくさんのハイエンド機種の選択肢が用意されている状況でした。

 そこで、さまざまなパートナーと話をしました。その段階で、私たちはクアルコムさんの5G対応チップセットであるSnapdragon 765を最初に調達するメーカーの1社でした。同時に、その調達量も最大規模という立場です。

 そしてSnapdragon 765を使えば、差別化された製品を開発する助けになると考えましたし、ハイエンド製品よりも多くの人にインパクトを与えることができる製品を開発できるのでは、とも考えたのです。

――マーケットの状況と、そのときのアドバンテージを踏まえたと。

ワン氏
 はい。そして「Mi 10 Lite 5G」にした、もうひとつ理由があります。それは、スマートフォン市場のトレンドが、ハイエンドな高価格帯の製品から、ミッドレンジの中~低価格帯の製品に変わってきているという点です。

 スマートフォン向けの技術は成熟してきましたので、コストの最適化という段階を迎えています。

 たとえば3年前であれば、いわゆるミッドレンジのものでは満足できない人はそれなりにいらっしゃったと思います。でも今や、人口の80%のニーズにマッチする性能をミッドレンジで開発できるようになってきている、というわけです。

いつau向けの供給が決まった?

――au向けに端末を提供すると決まったのはいつごろですか?

ワン氏
 シャオミが日本に進出することを決めてから、数カ月間、KDDIさんと話し合ってきましたが、決まったのは、今年3月、正式に発表される直前です。

――他社からの打診はありましたか?

ワン氏
 auさん以外からの話については、公開できません。でも、各社とは友好的、協力的な関係になっています。

auとの協力について

――「Mi 10 Lite 5G」の発売に向けて、auとともに動くことになった、最も大きな理由は何でしょうか。

ワン氏
 そうですね、大きな理由は、私たちが非常に足並みを揃えていたことだと思います。

 両社は、企業の価値観や戦略の観点から、5Gを推進したいと考えています。そして、よりコスト効率の良い製品を5G向けに提供する必要があると考えている、という信念を持っています。

 5Gは確かに新しい規格です。だからといって、ユーザーの皆さんが新規格にお金を払う必要はありません。4Gと同じコストで提供されるべきだと思うのです。

――auと一緒に仕事を進める中で、初めて体験したことはありましたか? 製品開発自体は同じかもしれませんが、たとえば販促活動ですとか。

ワン氏
 そうですね、プロモーションの面では大きな違いがありました。

 今回、KDDIさんのような大きなキャリアと組むことで、日本全国のauショップで、大きな存在感を発揮することができると思います。つまり、全国のauショップで私たちの商品を提供できるということです。

 チラシなどの販促物もショップには置かれることになります。これはシャオミにとって、日本全国での認知度の向上に繋がると思います。

 SIMフリー製品の場合、販売後のアフターサービスなどを全て弊社が担います。

 一方、auさんと協力することで、auショップを通じたアフターサービスが提供されることになります。それは、ユーザーの皆さんにとって、オフラインでのサービスが改善されることになると思います。

「高い品質水準を学んだ」

ワン氏
 ほかにもauさんとのお仕事でたくさんの初めて体験したことがありました。

 日本の通信キャリアさんは、世界のほぼ全てのキャリアの中でも、最高の水準だとよく知られています。

 auさんとの協力関係のなかで、多く学びがありました。たとえば、アンテナのチューニングや試験など、技術的な学びも多く、シャオミ自身のレベルアップに繋がりました。技術的なプロセスから見ても、とても勉強になりました。

 販売後についても学びがあると思います。今後を楽しみにしています。

――認知度とアフターサービスの面での体験、ということですね。販売数への期待感はどうでしょう?

ワン氏
 シャオミはまだ日本市場に参入して、まだ1年も経過しておりません。そうした中で、auさんを通した端末を発売すること自体が、すでに大きな進歩を遂げていると思います。

 弊社が今年達成したいと思っていたことの中に、販売数量は主な目標には含んでいないんです。

 まずは基礎作りを重視しています。セールスパートナー、販売チャネルとの協力関係を築くということです。これまでに販売チャネルを拡大してきましたし、auさんと一緒に仕事をすることになりました。

 もうひとつの基礎として、適切な製品を、高品質なサービスを日本で提供するということです。

 パートナーシップを通じて、私たちは基礎を構築し、前進することができると思っています。ですから、最終的には、私たちがきちんとやるべきことを成し遂げられれば、販売台数は必ず伸びると確信しています。

 携帯電話事業者を通じての発売は初めてのことなので、目標を設定するのは非常に難しいですが、今回はベンチマークになると思います。私たちのレベルがどの程度なのか、戦略がどの程度強力なのか、スマートフォン市場の中でどの位置にいるのかを正確に知ることができますので、調整していきたいと思います。

防水防塵がサポートされていない理由

――Mi 10 Lite 5Gでは、たとえば防水防塵がサポートされていませんね。

ワン氏
 確かに防水性能は、日本では標準的に求められる機能ですね。今回は、そこまでの性能ではないのですが、P2iという防水コーティングが施されています。

 製品開発においては、常にトレードオフがあります。全ての機能を盛り込むことはできません。

 今回は、「最善のユーザー体験」かつ「最も手頃な価格の5G端末」を作ることにフォーカスしました。そのため、防水性能は見送られることになりました。

 実際に、「Mi 10 Lite 5G」を使っていただければ、「シャオミは適切な選択をした」と実感していただけると思います。コストや、時間、効率性を含め「最善のユーザー体験」「最も手頃な価格の5G端末」という2つの大きなポイントを本製品で達成できたと思います。

――9月発売になりましたが、これまでの期間、どのような課題がありましたか?

ワン氏
 3月に発表され、当初は7月以降に発売となっていましたが、両社での議論の結果、このタイミングでの発売になりました。

 これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の日本での状況や影響を考慮したからです。

競合他社との戦いについて

――さきほど、auとの取り組みがベンチマークになるという話でしたが、近い将来、新しいiPhoneが登場する見通しです。そんなタイミングで、MNOで初めてシャオミの製品が扱われることになりました。ユーザーはどう受け止めるのか、どんな戦いになると分析していますか?

ワン氏
 率直に言うと、自分たちに対してベンチマークをしようと考えています。私たちが、適切な戦略を進めているかどうか、適切な品質で展開できているかどうかを示すものだということです。それが今後2年間、私たちのビジネスに最も大きな影響を与えることになると思います。

 私たちは自分たちの成長に焦点を当てているので、競合他社に目を向けるというレベルにはまだ達していません。

 グローバルで展開する企業と比較していただけることはとても光栄で、嬉しく思います。とはいえ、私たちは、自分たちを日本市場においてスタートアップとして見ています。自分たちを向上させることだけに集中しているのです。

――日本市場を担当するシャオミのチーム体制はどのような形なのでしょうか? たとえば日本オフィスの規模ですとか。

ワン氏
 具体的な組織体制はお話できないのですが、いま、急速にスタッフを採用中です。(読者に向けて)ぜひ履歴書を送ってください。

 今回の発表会では、将来のためのスマートフォン以外の新製品をいくつか発表しています。スマートフォン以外の製品も充実させたいと考えています。シャオミのビジネスモデルはユニークで、多くのカテゴリーで強みを提供できると思います。

――最後に、米中関係の影響についてどう考えているか、教えてください。お答えは難しいかもしれませんが……。

ワン氏
 シャオミとしては、今の段階で影響はないと思っています。日本はもちろん、参入している各国の市場で、それぞれの地域で定められたプライバシーポリシーや法規制を遵守しています。

 また、私たちのスマートフォンは、グーグルのサービスにも認定されています。

――ユーザーは安心してシャオミの製品を買える、ということですね。

ワン氏
 はい、その通りです。

――ありがとうございました。