MCPC award 2010グランプリは岡山県警察本部の捜査支援システム


受賞者および審査員の皆さん

 モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は3月19日、「MCPC award 2010」の表彰式を開催した。当日は、グランプリ候補者らによる最終プレゼンテーションが行われ、審査の結果、岡山県警察本部の「警察統合情報システム(PITシステム)」が選出された。

容疑者の写真も即座に共有可能

グランプリ受賞の挨拶をする岡山県警察本部 平田豊氏

 MCPC award 2010は、モバイルコンピューティングの普及促進を目指し、業務効率化、業績向上、顧客満足度向上、社会貢献推進などが達成された先進事例を募集。審査の上で優秀例を顕彰している。8回目となる今回は、自薦・他薦あわせて25事例が集まった。

 3月19日には、審査を通過した5事例の担当者が最終プレゼンテーションを行った。その模様を踏まえて即時審査され、グランプリには岡山県警察本部の「警察統合情報システム(PITシステム)」が選ばれた。あわせて総務大臣賞も贈られている。

 PITシステムは、捜査活動の円滑化や人員配置の効率化など目的に導入された大規模システムで、携帯電話型の専用端末約2400台を現場警察官や防犯ボランティアらに配布し、運用されている。

 携帯端末にはGPS機能が搭載されており、警察官の居場所、巡回ルートなどを指令本部の専用端末から確認できる。各携帯端末からは自転車の所有者情報データベースにもアクセスでき、職務質問の際などに利用されている。

 これまで、現場と指令本部間の連絡手法は無線による通話が中心だったが、PITシステムの導入によって、画像・音声の送受信が可能になった。犯行現場の凶器や防犯カメラ画像を端末で撮影、指令本部に送信して即座に捜査員間で共有するケースも実際にあるという。

 運用上のセキュリティについても配慮されており、Bluetoothで無線接続された小型キーと携帯端末本体が10m以上離れると、全データが消去される仕組み。通信についても、電話番号や端末IDによるアクセス制限、二重の暗号化などを施している。

 最終プレゼンを行い、グランプリの賞状を受け取った岡山県警察本部の平田豊氏(警務部 情報管理課 電算企画・開発室課長補佐 警部)は「(グランプリの栄誉は)治安維持に対する期待の現れだと感じる。警察にとってモバイルは今後欠かせないものになるはずであり、治安の維持に役立てていきたい」と喜びの言葉を語っている。


PITシステムのモバイル端末では、Bluetoothを使ったセキュリティ機能も搭載済み約2400台の端末が運用されている

 最終プレゼンを行った5事例には、各賞がそれぞれ贈呈された。通信モジュール内蔵型の自動車整備端末を開発・運用するロータス九州にはモバイル中小企業賞および審査員特別賞、緊急災害時などに飲料の無料提供を行う「地域貢献型自販機」を展開する日本コカ・コーラにはモバイルパブリック賞が贈られた。

 このほか、貨物列車向けの運転サポート端末を発表した日本貨物鉄道はモバイルビジネス賞に、専用PHSモジュールを活用したモバイルPC向け遠隔データ消去システムの富士通はモバイルテクノロジー賞に選出。事前に公表されていた特別賞4事例、奨励賞8事例の担当者らとともに表彰された。


ロータス九州の自動車整備用端末。車内のカプラーと接続し、自己診断データをダウンロード。さらにサーバーで照合して整備に役立てることが可能だ日本コカ・コーラの地域貢献型自販機。平常時は電光掲示板による情報配信、緊急時には飲料の無料提供などを行う

日本貨物鉄道の運転支援システム。音声による注意喚起のほか、最新運行データを携帯電話網でも配信するPHS通信モジュールを内蔵させることで実現した、富士通の遠隔データ消去システム

特別講演~本人認証は原始共同体時代から?!

情報セキュリティ大学院大学 教授の板倉征男氏

 表彰式では、情報セキュリティ大学院大学 教授の板倉征男氏による特別講演「ネット社会と本人認証~モバイルの新しい役割~」も行われ、個人認証の歴史的変遷を紹介した。

 ネット犯罪の増加によってその重要性が高まっている本人認証だが、その起源は人類の歴史そのものだと板倉氏は指摘。原始共同体時代では姿や声、匂いなどの「生体情報」をもとに人を見分けていたが、文明の発達後には署名や証明書、印鑑などの「所持情報」で判別するようになったと解説する。

 そして現代では、パスワードを知っているか否かといった「知識情報」も利用されるようになった。板倉氏は「これまでなら対象者と検証者の間だけで認証が成り立っていたが、ネット時代では顔を合わせずにお互いを認証する必要がある。そのためには第三者的存在である認証機関が欠かせない」とその変遷を語った。

 ここで板垣氏は「個人識別」と「本人認証」は似て非なるものだとも指摘。群衆の中にある1個人を特定するのが「個人識別」であり、それが客観的事実であることを証明するのが「本人認証」だという。具体的として戸籍登録を挙げ、新生児の氏名や生年月日を登録するのが“識別”、出生届に医師や助産師がサインする行為が“認証”にあたり、この2段階のプロセスを踏まえることで、はじめて本人確認が実現されるとした。

 一方、携帯電話を契約するには厳密な本人認証が必須となっているため、「携帯電話自体をその他の本人認証に応用することも十分可能では」と板倉氏は展望。生体認証機能付き携帯電話や暗号機能を併用すれば実印としての用途にも耐えると説明した。



(森田 秀一)

2010/3/23 06:00