法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

AIクアッドカメラと曲面有機ELディスプレイでミッドレンジ市場を狙う「TCL 10 Pro」

 昨年10月の電気通信事業法改正により、徐々にオープン市場への注目が集まる中、国内市場に対し、積極的にアプローチをかけようとする海外メーカーが増えてきている。そんな中、スマートフォンのケースなどを手がけるFOXが中国のTCLコミュニケーション製「TCL 10 Pro」を発売した。筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。

AlcatelやBlackBerryを手がけてきたTCL

 今年3月、国内の主要3社が5Gサービスを開始し、第4のキャリアとなる楽天モバイルも4月から正式サービスへ移行した。しかし、国内市場は昨年10月の電気通信事業法改正により、各携帯電話事業者の端末販売の割引が制限されることになったため、SIMフリースマートフォンなどを中心とするオープン市場との価格差が少なくなり、消費者の注目度も高まっている。こうした状況に対し、日本市場へ積極的なアプローチをかける海外メーカーの動きが活発化している。

 今回紹介する「TCL」は中国の家電メーカーで、米国などではスマートフォンよりもテレビのブランドとして、広く知られている総合家電メーカーになる。スマートフォンについては、ここ数年、フランスのAlcatelやカナダのBlackBerryからブランドを承継した端末を製造し、さまざまな国と地域のほか、国内市場にもいくつかの製品を投入してきた実績を持つ。今年1月に開催されたCES 2020では北米市場向けの5Gスマートフォンも発表しており、その際、同時に発表されたモデルが今回、紹介する「TCL 10 Pro」になる。国内市場向けには、スマートフォンのアクセサリーなども手がける「FOX」が販売代理店として発売し、同社のオンラインストア「FOX ONLINE STORE」を通じて、販売される。

 ちなみに、FOXはTCLと端末アクセサリーの開発のパートナーシップを締結し、TCL製端末のアクセサリーのラインアップ強化を図ることも合わせて、発表されており、すでにTCL 10 Pro用にも多彩なブランドのケースなどが販売されている。

 端末の販売価格は4万9280円(税込)で、価格帯としてはミッドレンジからミッドハイに近いところに位置する。国内のオープン市場では3万円前後の端末が活況を見せているが、TCLがテレビや他ブランド端末の開発や製造で培った技術を活かし、FOXが提供する豊富なアクセサリー類と共に挑んでいこうという構えだ。

6.47インチ曲面有機ELディスプレイ搭載

 まず、外観からチェックしてみよう。本体はディスプレイと背面共に、ラウンドした形状で仕上げられており、両側面がスリムな持ちやすくなっている。背面はすりガラスのようなマットな仕上げで、独特の手触りとなっている。

FOX/TCLコミュニケーション「TCL 10 Pro」、約158.5mm(高さ)×72.4mm(幅)×9mm(厚さ)、約177g(重量)、Forest Mist Green(写真)、Ember Grayをラインアップ
右側面にはシーソー式の音量キー、電源ボタンを備える
左側面に備えられたスマートキーはシングルプレス、ダブルプレス、長押しで、さまざまな機能を起動できる
背面も両側面へ向けてラウンドした形状を採用。すりガラスのようなマットな質感の仕上げが美しい
下部にはUSB Type-C外部接続端子、ピンで取り出すタイプのSIMカードトレイを備える
パッケージには本体のほかに、USBケーブル、18W対応のACアダプタ、クリアケースなどが同梱される

 ディスプレイは2340×1080ドット表示が可能な6.47インチのフルHD+対応有機ELディスプレイを搭載する。ディスプレイは両側面へ向かって、ラウンドした曲面仕上げとなっており、10万:1の高コントラスト、100%のDCI-P3の色域を実現し、ガラスはコーニング社製Gorilla Glass 5を採用する。前述のように、TCLは家庭用テレビを手がけてきた実績があり、そのノウハウを活かした「NXTVISION」と呼ばれる技術により、高品質な表示を可能にしている。表示するコンテンツによって、リアルタイムに映像の最適化を図り、正確な色調の再現をはじめ、鮮やかさや彩度、コントラストの向上、SDRコンテンツのHDR表示へのアップコンバートなどの機能を実現している。NetflixのHDR10認定も取得しており、HDR10対応コンテンツを最適な状態で再生することができる。

TCLの家庭用テレビで培われた「NXTVISION」と呼ばれる技術を採用し、写真や動画、ゲームなどを表示するとき、自動的に最適な表示に調整

 このほかにもディスプレイにはブルーライト軽減、アイケアモードや読書モード、ダークテーマなど、ユーザーの目の負担を軽減する機能が搭載されている。有機ELディスプレイの特徴を活かした「待機画面ディスプレイ」(Always On Display)も利用できる。

左側面に備えられたスマートキーでさまざまな機能を起動することができる
設定画面内の「スマートマネージャ」では本体の動作状況を確認できる
他のスマートフォンから移行するための「スイッチフォン」のメニューが用意されている

 生体認証はディスプレイに内蔵された指紋センサーによる指紋認証に対応する。指紋認証のレスポンスはあまり早くないが、登録をやり直せば、少し状況が改善される。「フェイスキー」と呼ばれる顔認証にも対応し、画面がオンになったとき、顔認証ですぐにロックを解除する設定もできる。ただし、セキュアに利用するのであれば、指紋認証がおすすめだ。

画面内指紋センサーによる指紋認証に対応
画面内指紋認証センサーのほかに、「フェイスキー」と呼ばれる顔認証を採用
バッテリーの設定画面では前回のフル充電や使用状況などを確認できるほか、アプリケーションの最適化を図り、連続稼働時間を延ばすことができる

 バッテリーは4500mAhのものを搭載し、約2時間でフルにチャージできるQuickCharge 3.0準拠の急速充電に対応するほか、本体内蔵のバッテリーから他の機器に充電可能な5V 1.5Aのリバースチャージも利用できる。パッケージには18WのACアダプターが同梱される。

SIMカードトレイは表側にnanoSIMカードを1枚、裏側にmicroSDメモリーカードを装着可能。SIMカードを取り出すためのピンは通常より少し長いものが必要

 チップセットは米クアルコム製Snapdragon 675を採用し、6GB RAMと128GB ROMを搭載する。最大256GBまでのmicroSDメモリーカードを装着することも可能だ。SIMカードはnanoSIMカードを採用し、NTTドコモ、au、ソフトバンクのSIMカードが利用可能だ。楽天モバイル(MNO)のSIMカードは、残念ながら、認識しなかった。

出荷時に設定されてるNTTドコモ網のAPN。主要MVNOは登録済みだが、OCNモバイルONEは旧プランが登録されている
出荷時に設定されてるau網のAPN。UQ mobileやIIJmio、mineoも登録済み
出荷時に設定されてるソフトバンク網のAPN。ワイモバイルは登録されているが、LINEモバイルやMVNO各社は登録されていない

 VoLTEについてはNTTドコモ、au、ソフトバンクで動作が確認されているという。国内市場向けの発表時、SIMカードの仕様がデュアルSIM」とアナウンスされていたが、実際には「シングルSIMで出荷されており、現在はFOXの製品情報ページもシングルSIMと明記されている。このクラスであれば、デュアルSIM/デュアルVoLTE対応が欲しいところだ。

通知パネルは少し独特の表現も残っているが、わかりやすい。通知には天気予報も表示される
本体を裏返してミュートにしたり、三本指でスクリーンショットを撮れるなど、ジェスチャー操作を利用できる

 プラットフォームはAndroid 10を搭載し、原稿執筆時点では2020年3月1日版のセキュリティパッチが適用されていた。ホームアプリは標準的な「ランチャー」のほかに、初心者やシニアユーザーの利用にも適した「シンプルランチャー」が用意されている。

ホーム画面は標準的なレイアウト
ホームアプリとして、「シンプルランチャー」を設定すると、アイコン表示や文字表示が大きくなる

 ユーザーインターフェイスはAndroid 10標準のジェスチャー、従来から広く利用されているナビゲーションキーのどちらも利用でき、3つのボタンの配列のカスタマイズなども利用できる。全体的に見て、あまりクセもなく、はじめてのユーザーでも使いやすいユーザーインターフェイスと言えるだろう。

従来からAndroidで採用されてきたナビゲーションキーも設定が可能。ボタンのレイアウトも選ぶことができる
ホーム画面で上方向にスワイプすると、アプリ一覧画面が表示される。出荷時はアプリのカテゴリ別に表示されているが、名前順、ラベル別、使い方別、インストール順、アイコンカラー別などで並べ替えが可能
ホーム画面の右側面に表示されている細いバーをスワイプすると、「Edge Bar」が表示される
Edge Barにアプリを登録し、すぐに起動できるように設定することが可能。連絡先のタブも用意されている
Edge Barのルーラー(定規)画面。センチメートルとインチ表示を切り替えられる

AIクアッドカメラを搭載

 今やマルチカメラが当たり前となりつつあるスマートフォンのカメラだが、複数のカメラの構成やレイアウトは、それぞれのメーカーによって、個性がある。

背面に横一列に並ぶAIクアッドカメラ。カメラの下の列には赤外線ポートも備える
フロントカメラはディスプレイの上部の水滴型ノッチに内蔵されている

 TCL 10 Proは背面の上部に4つのカメラを並べるレイアウトを採用しており、デザイン的にも他社とは違った個性を発揮している。背面に備えられたカメラは、背面に向かって、左から順に、6400万画素イメージセンサーとF1.79(ExifではF1.9)のレンズによるメインカメラ、200万画素イメージセンサーとF1.8のレンズによる暗所カメラ、500万画素イメージセンサーとF2.2レンズによるマクロカメラ、1600万画素イメージセンサーとF2.4レンズによる視野角123度の広角カメラが並んでいる。

 撮影モードはカメラを起動して、左右にスワイプすることで切り替えることができ、最適なモードが選べる「自動」、手ぶれ補正に対応した「動画」、背景をぼかした撮影ができる「ポートレイト」、夜間の撮影に適した「スーパーナイト」、細かな設定が可能な「プロ」が用意されている。このほかに、「スローモーション」や「ストップモーション」、「ライトトレース」「パノラマ」「スーパーマクロ」「高解像度(64M)」を選ぶこともできる。

 ディスプレイの上部の水滴型ノッチに内蔵されたフロントカメラについては、2000万画素のイメージセンサーとF2.0レンズを組み合わせたものが搭載されており、ポートレートでの撮影も可能だ。

 撮影した写真を編集する機能も充実しており、ポートレートで撮影した写真の背景のボケを調整したり、水彩やスケッチ、映画などのテーマに基づいたフィルタ、トリミングや色合いの調整などの機能も用意されている。

 写真の仕上がりは作例をご覧いただきたいが、ポートレートの背景のボケ具合や夜景の明るさ、暗い室内での撮影など、このクラスの端末としては十分なレベルの撮影ができている。ただ、カメラ機能の使いやすさやわかりやすさについては、撮影モードや機能が豊富であるがゆえに、やや整理されていない感もあり、はじめてのユーザーは何をどのモードで、どのように撮ればいいのかが今ひとつ理解しにくいかもしれない。

ポートレートを撮影。逆光のシーンだが、顔も明るく撮影できているモデル:るびぃ(ボンボンファミンプロダクション)
夜景を撮影。やや独特の雰囲気に仕上がったが、明るく撮影できている
バーでカクテルを撮影。やや暗めの店内だが、非常にクリアに撮影できている

 マルチカメラを搭載する多くの機種は、望遠や広角など、焦点距離の違いで複数のカメラを搭載しているのに対し、撮影するシーンによって使い分ける構成になっているため、その部分の説明はもう少していねいに取り組んで欲しいところだ。

ポートレートで撮影した写真の編集画面では、リフォーカスで背景のボケ具合を調整できる

価格と性能のバランスをどう見るかがカギ

 昨年10月の電気通信事業法改正により、国内のモバイル市場はSIMフリースマートフォンを中心としたオープン市場に注目が集まっており、そこを狙い、さまざまな海外メーカーが日本市場に本腰を入れようとしている。TCLもそうした日本市場への積極的な展開を狙うメーカーのひとつであり、これまで展開してきたAlcatelやBlackBerryといった『承継ブランド』と違い、自らのブランドの個性を模索した端末として、TCL 10 Proを投入してきた印象だ。

 内容的にもNXTVISIONと呼ばれる同社のテレビで培われた技術を投入したり、トレンドのひとつであるAIマルチカメラを搭載するなど、意欲的に取り組んだ端末と言えそうだ。その一方で、国内市場へ取り組みは、ライバルメーカーもかなり積極的で、TCLとしてはミッドレンジの価格帯で戦える性能を詰め込んだと考えているかもしれないが、チップセットのスペックだけを見ると、さらに安い価格帯で、より性能が高いチップセットを搭載する端末もあり、スペックに厳しい日本のユーザーがどのような判断を下すのかが気になるところだ。

FOXではLANVINなど、有名ブランドのケースを販売している。同社の「FOX ONLINE STORE」で「TCL 10 Pro」を購入すると、同社の「caseplay jam」で利用できる5000円分(税込)のギフトコードが発行される

 TCL 10 Proのもうひとつのアドバンテージとしては、販売代理店であるFOXがLANVINやFILAといった有名ブランドとのコラボレーションによるケース類を数多く展開していることも挙げられる。国内外のメーカー各社は、アフターマーケットのアクセサリーに注力しているものの、全体的に見ると、アップルやシャープ、ソニー、サムスンといった主要メーカー以外は、まだまだバリエーションが不足しており、「気に入ったケースが見つからないから、買い換えられない」といった声も聞かれる。

 その点、TCL 10 Proは有名ブランドとコラボレーションしたケースを選ぶことができるため、新しいユーザー層に受け入れられる可能性があると言えそうだ。