法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「LG V60 ThinQ 5G」はLGデュアルスクリーンで5G端末らしさをアピール
2020年6月15日 12:40
今年3月末に各社がスタートした5Gサービス。緊急事態宣言の影響などもあり、静かなスタートとなったが、5月に入り、第2弾の端末も相次いで発売されている。5月に発売されたLGエレクトロニクス製5G対応スマートフォン「LG V60 ThinQ 5G」を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
模索されてきた「5Gならでは~」
今年3月末、NTTドコモ、au、ソフトバンクの主要3社は、相次いで5Gサービスの提供を開始した。ここ数年、モバイル業界にとって、最大のトピックのひとつだった「5G」は、「社会を大きく変える」と期待を寄せられていたものの、新型コロナウイルス対策のため、サービス開始イベントなども見送られ、静かなスタートを切ることになった。
サービス開始時の第1陣端末としては、シャープが主要3社に「AQUOS R5G」、サムスンがNTTドコモとauに「Galaxy S20 5G」、ZTEがソフトバンク向けに「AXON 10 Pro 5G」をそれぞれ供給し、各社が販売をスタートさせた。しかし、サービス開始直後の4月はじめに、政府が緊急事態宣言を発令したため、販売店は営業時間を短縮することになり、5Gサービス開始は一段と静かなものになってしまった。
また、5G対応エリアについても「エリア」というより、「スポット」というレベルの展開しかなかったため、恩恵を受けられるユーザーが非常に限られていて、ユーザーの5Gに対する興味を失わせてしまった感も残る。
とは言うものの、NTTドコモはキャンペーン、auは「auデータMAX Pro」という料金プランという形で、データ通信量の無制限を実現しており、昨今のテレワークでのデータ通信量増に対応するため、5Gへ移行したユーザーも居るようだ。ソフトバンクの「メリハリプラン」はデータ通信量の上限が50GBだが、動画SNS放題と組み合わせているため、ある程度の利用増には対応できそうだ。
そんな静かなスタートになってしまった主要3社の5Gサービスのスタートだが、5月に入り、第2陣の端末として、NTTドコモとソフトバンクからLGエレクトロニクス製「LG V60 ThinQ 5G」が発売された。LGエレクトロニクスは、NTTドコモとソフトバンクが5Gサービス開始前に提供していた「5Gプレサービス」に端末を供給してきた実績があり、5G関連の特許の保有数も業界トップクラスで、5Gサービスの重要なキープレイヤーの一社と言える存在だ。
今回発売された「LG V60 ThinQ 5G」は、昨年、ソフトバンクから発売された「LG G8X ThinQ」の5Gバージョンとも呼べるもので、一般的なスレート状(板状)のボディのほかに、ディスプレイを備えたLGデュアルスクリーン(ディスプレイ付きケース)を同梱し、これを組み合わせることで、手帳型のデュアルディスプレイ対応スマートフォン(実際にはトリプルスクリーンだが……)を実現している。
これまで5Gサービスへ向けて、各キャリアも各メーカーも「5Gならでは~」を模索してきたが、スマートフォンの基本的なレイアウトやユーザビリティは大きく変えることができていないのが実状だ。そんな中、LGエレクトロニクスのデュアルスクリーンの環境は、5G時代のポテンシャルを引き出せそうな新しいカタチを模索したスマートフォンであり、同じようなデザインの端末が多い中、5Gサービスの契約を検討するユーザーにとって、他製品にはない個性がひとつのモチベーションになりそうな端末と言えそうだ。
ちなみに、昨年、ソフトバンクが販売した4G対応の「LG G8X ThinQ」は、ソフトバンクオンラインショップでの販売価格が5万5440円(税込)に設定され、あまりの安さに業界内でもかなり驚きの声が聞かれた。今回の「LG V60 ThinQ 5G」は、やはり、5G対応ということもあり、そんな強烈な安さを実現することはできず、NTTドコモが11万2508円、ソフトバンクが13万9680円に設定している(いずれも両社オンラインショップ価格)。NTTドコモのおかえしプログラム利用時の実質負担額は7万5005円、ソフトバンクのトクするサポート+利用時の実質負担額は6万9840円となっている。元々、ディスプレイ付きケースでコスト高にあることを考慮すれば、ある程度、手が出せるレベルの価格に設定されているとも言えそうだ。
LGデュアルスクリーンで2画面を実現
まず、本体の外観からチェックしてみよう。ボディは後述するディスプレイサイズがひと回り大きくなっていることもあり、従来のLG G8X ThinQよりもわずかに大きく、厚みも増している。とは言うものの、極端に大きいわけではなく、本体のみであれば、一般的な大きめのスマートフォンとして、普通に使うことができる。ちなみに、本体のボディはIPX5/8の防水、IP6Xの防塵にそれぞれ準拠し、MIL-STD-810Gの14項目に対応した耐衝撃性能にも対応する。
ディスプレイは2460×1080ドット表示が可能な6.8インチフルHD+対応有機ELパネルを採用する。ディスプレイの上部には水滴型ノッチが備えられ、インカメラが内蔵される。同梱のLGデュアルスクリーンは、開いた状態の右側に本体を装着する構造で、左側のディスプレイは本体と同じく2460×1080ドット表示が可能な6.8インチフルHD+対応有機ELパネルが内蔵されている。
LGデュアルスクリーンには外部接続端子が備えられていないが、下部に充電端子が備えられており、パッケージに同梱の充電コネクタをUSB Type-CケーブルのACアダプタの先に装着することで、LGデュアルスクリーンを組み付けた状態で本体を充電できる。Qi対応のワイヤレス充電にも対し、本体のみ、もしくはディスプレイ付きケースを装着した状態で充電ができる。ただし、市販のワイヤレス充電器の形状によっては、LGデュアルスクリーンを装着した状態で充電しにくいケースもあるようだ。
LGデュアルスクリーンはバッテリーを内蔵しておらず、本体内蔵のバッテリーからの給電で動作する。そのため、本体のみのときに比べ、電力消費は増えるが、本体に内蔵されたバッテリーは5000mAhと大容量であるうえ、LGデュアルスクリーン装着時は本体を閉じると、ディスプレイが消灯するため、一定の省電力性能を確保している。LGデュアルスクリーンを閉じたときの表面には、サブディスプレイが内蔵されており、閉じた状態でも日時や通知アイコンなどが確認できる。ちなみに、LGデュアルスクリーンを装着した状態で、ケース側のディスプレイを本体の背面側にグルッと360度、回転させることもでき、その場合はケース側のディスプレイは消灯するしくみとなっている。
本体のディスプレイには、画面内指紋センサーが内蔵されており、指紋認証による画面ロック解除、dアカウント認証などが利用できる。
気になるボディサイズは、本体のみでも幅78mm、厚さ9.7mmと、それなりのサイズ感があり、これにLGデュアルスクリーンを装着すると、幅87mm、厚さ15.0mmと、ひと回り大きく、重量も353g(本体のみは218g)と重くなってしまう。男性のジャケットの内ポケットにも入れられるサイズ感だが、これからのシーズン、ワイシャツなどの胸ポケットに入れると、ワイシャツが傾いてしまうのため、カバンなどに入れたり、手に持つなどの携行方法を考える必要がある。ただし、重量もあるため、落下させないように、スマホリングなどの工夫や対策はしておきたい。
おサイフケータイにも対応
チップセットは米クアルコム製Snapdragon 865を採用し、メモリーとストレージは8GB RAMと128GB ROMを搭載し、最大1TB(なぜか、LGエレクトロニクスのWebページでは最大512GBと表記)のmicroSDXCメモリーカードを装着することができる。SIMカードはnanoSIMカードに対応し、おサイフケータイにも対応する。ワンセグやフルセグチューナーは搭載されていないが、ワイドFMラジオを搭載しており、FMラジオの視聴が可能だ。
プラットフォームはAndroid 10を採用しており、今回試用した段階では2020年3月のセキュリティパッチが適用されていた。ユーザーインターフェイスはAndroid 10で主流となりつつあるジェスチャー操作が採用されているが、ホームキーや戻るキーなどのナビゲーションキーを表示したユーザーインターフェイスに切り替えることもできる。日本語入力はオムロンソフトウェアの「iWnn」を搭載しており、日本のユーザーをきちんと考慮した仕様であることは評価したい。
カメラは背面に1/1.7インチの6400万画素イメージセンサーとF1.8のレンズを組み合わせた標準カメラ、1/3.4インチの1300万画素イメージセンサーとF1.9のレンズを組み合わせた広角カメラ(画角117度)を搭載する。NTTドコモやソフトバンク、LGエレクトロニクスのWebサイトには記載がないが、この2つのカメラのほかに、300万画素のイメージセンサーにF1.4のレンズを組み合わせた3D対応ToFカメラも搭載しており、ポートレート撮影などに効果を発揮する。3つのカメラの内、標準カメラはイメージセンサーのサイズも大きく、ビニング(4つの画素を1つにまとめる技術)により、暗いところでも明るく撮影することができる。
これまでの同社製端末に搭載されていたAI被写体認識によるAIモードも搭載されている。さらに、8K動画の撮影にも対応しており、動画撮影時は本体に内蔵された4つのマイクにより、周囲の雑音を軽減しながら、録音することが可能だ。
ディスプレイの上部のノッチには、1000万画素のイメージセンサーにF1.9のレンズを組み合わせたインカメラが内蔵されている。セルフィーで撮影するときはLGデュアルスクリーンのディスプレイ(ケース側ディスプレイ)を点灯させ、自撮りをライトアップするレフ板モードも利用できる。
さまざまな活用が可能なLGデュアルスクリーン
LG V60 ThinQ 5Gがもっとも真価を発揮するのは、やはり、LGデュアルスクリーンを組み合わせた2画面の環境だろう。
まず、LGデュアルスクリーンに装着した状態では、本体側にはホーム画面が表示され、LGデュアルスクリーン側(本体のホーム画面の左側)にはホーム画面の拡張画面が表示される。ユーザインターフェイスは前述の通り、ジェスチャー操作が基本だが、2画面のどちらでも同じように操作できる。ただし、画面は基本的に独立しているため、左画面でホームへ戻るジェスチャーをしてもホームに戻るのは左画面のみで、右画面は基本的に変化しない。もちろん、逆のレイアウトでも同じだ。
デュアルスクリーンの操作は、画面の縁に小さく表示されている「デュアルスクリーンツール」から操作する。たとえば、左右の画面を入れ替えたり、片方の表示内容をもう片方の画面に移動することができる。節電のため、LGデュアルスクリーンをオフにしたり、両画面点灯時も片方だけを暗くするといった設定もできる。
具体的なLGデュアルスクリーンを活かした使い方も多岐に渡る。たとえば、動画を見ながら、もう片方の画面でWebサイトの表示や、SNSやチャットでコミュニケーションをするといったことができる。オンラインショッピングのとき、片方でショップのサイト、もう片方で製品情報のサイトを表示したり、レシピサイトも片方で動画や写真、もう片方でレシピの内容を表示するなどの活用が可能だ。
このほかにも移動中に目的地の施設情報を表示しながら、もう片方で地図を表示したり、ゲームをプレイしながら、もう片方で攻略法やゲーム情報を表示するなどの使い方もできる。よく使う組み合わせのアプリをあらかじめ設定しておき、同時に起動して、それぞれの画面に表示ことも可能だ。ブラウザであれば、タブを追加することで、いくつもWebサイトを表示ができるが、LGデュアルスクリーンは複数のアプリを起動できるうえ、同時に2つの画面に表示できることがアドバンテージになる。
また、プリインストールされている「Whaleブラウザ」を使い、Webサイトのリンクをタップして、もう片方の画面に表示したり、LGゲームパッドで片方の画面にゲームパッド、もう片方にゲーム画面といった使い方もできる。さらに、画面のスクリーンショットを撮り、「Qメモ+」と呼ばれるメモアプリに貼り付けたり、写真撮影時にLGデュアルスクリーン側の画面(ケース側のディスプレイ)をファインダーとして利用して、真上からの写真を撮るなど、多彩な使い方ができる。
5Gらしさと実用性を兼ね備えた一台
ここ数年、国内のモバイル業界が取り組んできた5Gサービスがいよいよスタートしたが、スマートフォンそのものの基本的なデザインは大きく変わらず、利用シーンもそれほど変化が起きているわけではない。当面は、料金プランの面でデータ通信が使い放題、もしくはそれに準ずるレベルで使えることをメリットとして活かしていくことになりそうだ。
そんな状況下において、NTTドコモとソフトバンクから発売されたLGエレクトロニクス製「LG V60 ThinQ 5G」は、LGデュアルスクリーンという環境によって、ユーザーの利用シーンを拡げることを目指した端末と言えるだろう。5Gサービス開始前から各社がいろいろな形で「5Gらしさ」を模索してきたが、LG V60 ThinQ 5Gは「5Gサービスでしか体験できない」事例が存在するわけではないものの、LGデュアルスクリーンという個性によって、5Gらしさを主張できるデザインに仕上げられており、ユーザーの工夫次第で、いろいろなシーンで活用できる端末としてまとめられている。
5Gサービスはまだはじまったばかりだが、他のユーザーと違った個性を体験したいユーザー、ゲームなどのエンターテインメントを楽しみたいユーザーには、ぜひ手に取って欲しいモデルと言えるだろう。