ケータイ用語の基礎知識

第721回:AllJoyn とは

 地球上の人口72億人に対して、2013年の当時、携帯電話はおよそ68億回線程度があるとされていました。その一方で、これからはさまざまな物がネットに繋がる、いわゆるIoTが進むと言われていますが、そうしたIoT(モノのインターネット)機器は、携帯電話よりも一桁多くなり、2020年までにおよそ400億台、500億台もの機器がネットに繋がる、と予測されています。

 今回紹介する「AllJoyn」(オールジョイン)とは、携帯電話などのチップを手がける米クアルコム(Qualcomm)による、IoT向けの規格です。機器同士を、直接繋いで通信する仕組みを利用したフレームワークとなっています。AllJoynを利用することで、IoT機器を開発する事業者は、メーカーなどの垣根を超えて、システムやサービスをダイレクトに繋ぎ、やり取りできるようになります。

 AllJoynは、2009年から開発が開始され、現在はAllSeen Allianceという非営利団体によって推進されています。オープンソースでフレームワークそのものが公開されています。また、AllJoynに対応したソフトウェア開発キットもオープンソースで提供されており、iOS、Android、Windowsといった主要なプラットフォームで、AllJoynに対応したアプリケーションを作成できます。

 UWP(Universal Windows Platform)がサポートされているバージョンのWindowsでは、「Windows.Devices.AllJoyn」というAPIが定められています。これにより、デスクトップ向けWindows 10や、携帯電話向けのWindows 10 Mobileといった複数の環境で動作するAllJoyn対応アプリケーションを作成することも可能になります。

 安定性を確保し、デバッグがほぼ完了したバージョン(Release 14.02)が提供されているほか、12月にはQualcomm Connected Experiences、Technicolor、マイクロソフトが開発した最初のメジャーバージョンであるRelease14.12が提供される予定になっています。

既存の接続方法を使用して、端末間で直接通信

 AllJoyn自体は、具体的なネットワーク層の規定はなく、Wi-FiやBluetoothといった既存のネットワークを利用して、機器同士の連携を実現します。

 2015年現在、Wi-FiやBluetooth経由で機器同士を繋げることは可能ですが、機器のカテゴリーなどを越えてダイレクトに接続することは、機器ごとに異なったアプリケーションが必要で、まだまだ難しいところがあります。

 AllJoynでは、単一のプロトコルを定義することで、ネットワーク内で機器同士を繋げやすくしています。たとえば、繋がる相手の「発見」、各機器で動作しているサービスの「特定」、機器の「制御」、リモートでの機器の「管理」、情報の「交換」といった動作ができます。セキュリティに関する定義もあり、悪意ある指示に対する保護も行えるようになっています。

 AllJoynでは、これらの通信を「端末間直接通信」方式によって、端末間で情報のやりとりを行います。たとえば、台所にあるコーヒーメーカーでコーヒーを作ったら、居室にあるスピーカーから「コーヒーができました」と音声で通知できます。いったん、スマートフォンやインターネット上のクラウドサーバーを経由することに比べると、より効率的に通信して連携できます。

Thinフレームワーク

 AllJoynのフレームワークでは、AndroidやiOSといったフル機能OS向けの「標準サービスフレームワーク」のほかに、リアルタイムOS向けの「シン(Thin)サービスフレームワーク」も提供されます。

 Thinサービスを利用したアプリでは、標準サービスに比べて非常に軽量なフレームワーク、アプリケーションとなりますが、ネットワーク内にAllJoyn対応ルーターがあることが必須となります。

 AllJoyn対応ゲートウェイのエージェント機器を使用することで、クラウドや外部の管理サービスを接続することも可能です。たとえば、AllJoynアプリをインストールしたスマートフォンから、クラウドを経由して、自宅のAllJoynネットワークに接続しリモートで、エアコンや照明を操作できます。

 ちなみに、AllJoynでは、使用するOSや通信方式自体は問わないような作りとなっているため、独自の組み込み機器などでも、AllJoynのライブラリを移植すれば利用できます。通信方式も、先述したWi-FiやBluetoothだけでなくZigBeeやThreadといった通信方式もサポートされる予定です。このあたりはオープンソースで提供されているフレームワークの強みということになるでしょう。

日本の家電メーカーもプレミアメンバー

 AllJoynは、AllSeen Allianceのメンバー企業・団体によって開発・管理が行われています。

 AllSeen Allianceには2015年7月現在、中心となるプレミアメンバー企業が11、スポンサー企業・団体が24、コミュニティーメンバーに137の企業・団体が加盟しています。IoT機器関係の団体としては、かなり多くのメンバーが集結している団体であると言っていいでしょう。

 プレミアメンバーとしては、クアルコム子会社であるQualcomm Connected Experiencesのほか、家電メーカーであるスウェーデンのエレクトロラックス、中国のハイアール、日本のパナソニックやシャープ、ソニー、それにパソコン向けOSなどを提供するマイクロソフトといった企業が加盟しています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)