第543回:DTCP-IP とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「DTCP-IP」とは、著作権保護技術の1つです。IPネットワーク内でコンテンツが配信される「経路」での不正流失を防止する技術で、特によく家庭内LANなどでの映像配信などに利用されます。DTCP-IPの“DTCP”は、デジタル伝送コンテンツ保護を意味する英語「Digital Transmission Content Protection」から来ています。

 1998年、日立・インテル・パナソニック・ソニー・東芝(5C)によって、i.LINK(IEEE 1394)という高速通信ネットワーク向けに「DTCP」という規格が作られました。これは、i.LINKでつなげた機器同士で映像をやり取りする際に暗号化して、他の機器から読み取られても、映像としては認識できないようにする、いわば“盗聴防止技術”です。

 この「DTCP」の一部を強化し、IPネットワークに適用したのが「DTCP-IP」です。「DTCP-IP」では、「DTCP」から、盗聴された場合でも解読が困難となるように暗号化方法を強化し、それまでの鍵の長さ(56bitのM6)をさらに強化(鍵の長さ128bitのAES)することなどで、LAN(無線LAN)にも対応できるようになりました。

 その後、このDTCP-IPが、デジタル放送の「家庭内LANによる共有のための著作権保護技術」として利用可能であると、社団法人電波産業会(ARIB)が認可したことで、i.LINKだけではなく、家庭内でのコンテンツ配信規格「DLNA」でも活用されることになりました。

 DTCP-IP対応のHDDレコーダーにテレビ番組を録画し、その番組を他のテレビやパソコンで見る、という機能を備える製品がありますが、こうしたデジタル放送の家庭内LAN共有機能を持つビデオレコーダーやパソコンのすべてで、DTCP-IPが利用されています。ただし「DTCP-IP」「DLNA」という用語が一般ユーザーには馴染みにくいためか、各メーカーによって、「お部屋ジャンプリンク」(パナソニック)、「ソニールームリンク」(ソニー)、「家の中でどこでも地デジ」(アイ・オー・データ機器)などの愛称がつけられています。

 これらのメーカーのAV機器は、それぞれ独自のDRM技術で録画コンテンツを暗号化して持っていますが、DTCP-IPネットワークへ配信する際に、DTCP-IPで暗号化して配信します。これにより、DTCP-IP機器では、異なるメーカー同士の機器でも、互換性のあるデータとしてやり取りできますし、なおかつ、外部からの“盗聴”などは防げるのです。

スマートフォンやタブレットでHDDレコーダーの映像を観る

 最近の携帯電話、特にスマートフォンやタブレットでは、このDTCP-IP/DLNAに対応する機種が増えてきました。

 DTCP-IPおよびDLNAは、サーバーからクライアントへ映像を配信する、という方式ですが、以前はスマートフォンやタブレット内の画像をテレビで観る、というようにサーバー側の機能を備えていたものはありましたが、最近はクライアント側の機能を備えるスマートフォン、タブレットが増えてきたのです(正確には、DTCP-IPでは、サーバー側機器をSource Device、クライアント側機器をSink Deviceと呼びます)。

 たとえばNTTドコモの「AQUOS PHONE SH-01D」「REGZA Phone T-01D」「ARROWS X LTE F-05D」が、auの「AQUOS PHONE IS12SH」などの端末がDTCP-IPに対応しています。本誌のニュース記事などで、対応機能として「DLNA(DTCP-IP対応)」などと記されています。

 これらのDTCP-IPクライアント対応機器で、家庭内LANに接続することで、レコーダーが離れた場所にあっても、また、それが他社製の製品であっても、録画した番組を再生することができます。たとえば、DLNA/DTCP-IP対応機種の1つである「Arrows Tab LTE F-01D」の場合、家庭内の無線LANに接続した状態で、標準でインストールされている「DiXiM Player」を起動すると、DTCP-IPクライアントになれます。ここでサーバーの一覧から、見たい動画が収録されているDTCP-IPサーバーへアクセスすれば、録画番組を再生できます。

 ちなみに、「DLNA(DTCP-IP対応)」機種では、著作権保護のかけられたテレビ番組の録画、有料チャンネルの録画番組などでも視聴することができます。逆に「DLNA対応」でありながら、「DTCP-IP非対応」という機種では、著作権保護のかかっていない映像、たとえば、自分でムービーで撮影した画像や、かつてアナログ放送を録画したものなどは視聴できても、著作権保護がかけられた番組は視聴できません。同じ「DLNA対応」であっても、「DTCP-IP」に対応しているかどうかで、見られるコンテンツに違いがあるわけです。また、本稿では何度か「家庭内LAN」、つまり1カ所のネットワークで、とご紹介しましたが、DLNA/DTCP-IP対応では自宅の1階にあるHDDレコーダーの映像を、防水タブレットでお風呂に入りながら視聴することはできます。一方、外出先で視聴できるよう、録画機器からスマートフォンへ転送(ダビング)できる機器も登場はしていますが、2011年冬時点では、まだまだ少ないのが現状です。

(大和 哲)

2011/12/6 12:28